【インタビュー】人間椅子、24thアルバム『まほろば』に止まらぬ進歩と新たな理想郷「我々は光から来て、光に帰っていく」

■亡くなったミュージシャンをどの虫にするか
■我ながらうまく虫にたとえたなと思ってます
──「樹液酒場で乾杯」も強烈なインパクトです。
鈴木:僕は昔、アルバムに2曲ぐらい歌詞を書いてましたけど、今は1曲と決めてるんです。そうなってからずっと地獄シリーズを書いて、途中から生き物シリーズになった。昆虫とか、蛞蝓とかね。いずれも暗〜い、残酷な歌詞でした。ところが和嶋くんから、「今回のアルバムタイトルは『まほろば』にする」と聞いて、“いつも通りの歌詞は書けないな”と思ったので、えらい考えましたね。これまで明るい歌詞はあまり書いてないですから。結局、自分が大好きな昆虫の歌詞にしようと。クワガタやカブトムシやカナブンが、クヌギの木の樹液に集まるシーンが昆虫図鑑に必ず載ってるじゃないですか。それが自分にとっては夢の光景なんですね。「樹液酒場で乾杯」は、亡くなったミュージシャンが昆虫に生まれ変わって、樹液に集まってる歌。ロック好きと虫好きが融合して、このパラダイスができました。
──歌詞にハードロックの偉人たちが次々と出てきます。“新顔のオジー”なんてワードも。
鈴木:ちょうどオジー・オズボーンが亡くなった頃に書いた歌詞なんですよ。今書いたら、エース・フレーリーも出てくるでしょうね。
和嶋:そして、ギターソロが完全にエースになってたね。
鈴木:和嶋くんのギターが小技を効かせて、ベンチャーズみたいな“テケテケテケテケ”が出てくる。あのゴチャゴチャしたのは何だろう?と思ったら、「虫を表現している」と言ってて“あっ、なるほどね”と。虫嫌いの和嶋くんならではの導入部分ですよね。
和嶋:虫はわりと苦手だったんです。最近は自然の中で暮らすようになって、全然抵抗がなくなりましたけど(一同笑)。アシナガバチの巣とか虫の羽音が身近にあるので、曲に入れてみたくなったんです。樹液酒場に集まる虫って、だいたい羽がある虫でしょう? だから、羽を震わせて集まってくる感じです。
鈴木:そういえば、和嶋くんが千葉に住んでいた頃、「水道メーターにスズメバチが巣を作った」って、それを除去するために呼ばれましたよ。
和嶋:あれ? ウチに来たのはそういう理由だっけ?
鈴木:そう。「ハチが巣を作ったから取ってくれ」と言われて。「自分で取ってくれよ」と思ったけど(笑)。
和嶋:今は自分でやってます(笑)。
鈴木:「虫は宇宙人だ」ってずっと言ってたし。
和嶋:人間はそうやって間違いを犯して生きていくんだなぁ……(一同笑)。

──ノブさんも虫が好きでしたよね?
ナカジマ:“樹液酒場”という言葉を知らない人もいるみたいですけど、研ちゃんの言うように、子供の頃見ていた昆虫図鑑に、その絵や写真が絶対にありましたよね。あのシーンがすぐに思い浮かぶ、すごくよくできてる歌詞だと思います。
──“樹液酒場”という用語があるんですか?
鈴木:昆虫好きの間では出てくるけど、辞典にはない言葉ですよね。
──レミー(・キルミスター/モーターヘッド)がラムコークを飲んだりするような光景と重なりました。
鈴木:亡くなったミュージシャンをどの虫にするかは、すごく考えたんですよ。一番最初に浮かんだレミーは、絶対カミキリだと思って。カミキリって顔が恐ろしいんですよ。くちばしみたいなアゴで噛まれると、すさまじく痛い。で、“ごっつい”というところで、ボンゾ(ジョン・ボーナム/レッド・ツェッペリン)はカブトムシかな?ぐらいはすぐに浮かんだけど、他はいろいろ考えましたよ。
和嶋:僕はフレディー(・マーキュリー/クイーン)がオオムラサキというのが好きですよ。
鈴木:歌詞にオオムラサキって単語を出したかったんですよ。それぐらい派手で、自分が好きで、亡くなっているミュージシャンっていったら、フレディーが一番でした。
和嶋:プリンスじゃないんだね。紫ときたらプリンスなのかなって。
鈴木:プリンス? 曲、全然知らないよ。
ナカジマ:「パープル・レイン」だね。
鈴木:全然浮かびもしなかったな。
和嶋:そうですよね。ハードロックじゃなかったし。
鈴木:だから結構、聴く人を限定してしまう歌詞ですよね。“フィル”という名前だけでフィル・ライノット(シン・リジィ)って浮かぶ人はなかなかいないかもしれないし、ちょっとマニアックなところも出してしまいましたね。70年代ハードロック好き……これもまたずいぶん限定した音楽の聴き方だけど、そこが好きな僕らと同年代の人はすぐわかると思うんです。
──ちょうどいい顔ぶれです。
鈴木:自分が好きで亡くなったアーティストをノートに書き連ねて、“こいつは出したいな、◯。これはいいや、✕”っていうふうに選んだんですけどね(笑)。我ながら、ミュージシャンをうまく虫にたとえたなと思ってます。なんとなくジミヘンって黄色いバンダナをしてるような気がして、それがスズメバチに見えたり。何がなんでも最初にジミヘンを出したかったんですよ。そうすれば、これは亡くなったミュージシャンが出てくる歌なのかな?ってわかってくれると思ったので。

──そして、ノブさんがメインヴォーカルをとる「恋愛一代男」はアルバムの中盤を彩るハイライトとなっています。
ナカジマ:いや、そんな(照笑)。「恋愛一代男」っていう言葉がここのところすごく好きになっちゃって。実は俺の憧れのスターって松方弘樹さんなんです。私生活もバタバタな人が、銀幕の世界ですごくカッコよく見えてて、憧れてたんですよ。和嶋くんから「恋愛一代男」っていう言葉をもらったような気がして。これからすごく大事に歌っていきたいって、演歌歌手のように思っています。
──これまでのアルバムでノブさんがメインヴォーカルを務めた曲は、元気が前面に出ている印象ですが、「恋愛一代男」には一歩引いたような美学を感じました。
和嶋:ちょっと大人の男の哀愁を入れたいと思ったんですよ。
──昭和の映画俳優の持ち歌のようでカッコいいです。
ナカジマ:深作欣二監督の映画『広島抗争』とか、赤いロゴだったりするじゃないですか。そういう劇画調の文字が似合う曲ですね。個人的に「恋愛一代男」のグッズを作ろうかなと思ってるくらいです(笑)。
和嶋:今回のツアーで、バスドラのヘッドに「恋愛一代男」って書くといいんじゃないですか(笑)。
ナカジマ:それ、すごくいい! ストレートなロックンロールの良さがある曲で、俺らしいし、ライヴで歌うのが楽しみ。“激しい火傷の予感”っていう歌詞もすごく好き。いやー、“激しい火傷”を負いたいですねー。
和嶋:いいでしょう、その歌詞。阿久悠先生テイストを意識したんですよ。歌詞といい、曲といい、歌い方といい、今回のアルバムには昭和歌謡感が漂ってます。
ナカジマ:たしかに、「野性上等」も映画のタイトルみたいだし、「ばかっちょ渡世」とかめちゃめちゃいい。川谷拓三さん主演みたいな感じ(笑)。
──その「ばかっちょ渡世」は鈴木さん作曲で和嶋さん作詞ですが、キャッチーさがおもしろい。キング・クリムゾンっぽく聴こえる部分もありました。
和嶋:Bメロの変拍子があったからこそ、書くことができた歌詞ですね。確かにそこはクリムゾンの「太陽と戦慄」と同じ弾き方をしてるんです。
鈴木:この曲は、“最初に浮かんでいたBメロのメロディーを曲にしたい”って、ずっと思ってたんです。小さい頃、大相撲の行司の“ノコッタ ノコッタノコッタ”が、僕には“タラッタ、タラッタタラッタ”って5拍子で聴こえてたんですよ。その部分を軸に、Aメロどうしよう? サビどうしよう?って肉付けしていった感じです。だから作った後も“これは絶対歌いづらいだろうな。ドラムに合わせるのは大変だろうな”と思ってて。結果、やっぱり大変で、これから猛練習です(笑)。

──“アイッ!”っていう合いの手もライヴの見せ場になりそうですね。
鈴木:あそこはノブだよね。“ぶきっちょ ぶきっちょなのさ”が僕で、“アイッ!”がノブで、“ばかっちょ ばかっちょ渡世”が和嶋くんで、“アイッ!”がノブ。僕と和嶋くんが交互に歌って、その合間にノブの合いの手が入ってる。
和嶋:ここ難しいよね。
ナカジマ:練習しないといけませんよ、ここは。
──“ばかっちょ”や“すいっちょ”の口ずさみやすさも光ります。
和嶋:促音じゃないと音符にのらないんです。普通の言葉だと間延びしちゃって5拍子のリズムが生かされない。小さい“っ”を使った言葉を入れるしかなくて、歌詞を作るときに大変悩みました。
鈴木:すごくいいなと思ったのが“すいっちょ”ですね。“ばかっちょ”っていうのは、どこかで聞いたことがあるけど、“すいっちょ”って虫の鳴き声じゃないですか。これが浮かんだのはすごい。
和嶋:ウマオイの鳴き声なんですよ。
鈴木:昔、よくカマキリを飼ってたんだけど、生きてるものしか食わないから、毎日原っぱに行って餌となる虫を捕まえるんだけど。ウマオイが一番トロくて、何匹俺に捕まえられたことか(笑)。カマキリのかっこうの餌なんですよ。自分にとって親しみのある虫の鳴き声を歌詞にしてくれたのが嬉しいです。
和嶋:“ぶきっちょ”とか“よこっちょ”とか、そこに入る言葉が限定されるので。あとは“でぶっちょ”とかしかないわけですよ。“すいっちょ”に辿り着けてよかった。
──「山神 (やまがみ)」も掛け合いのコーラスが印象に残る曲ですし、メインリフのダンサブルさが際立っていると思いました。
鈴木:自分が作ったメロディーは、“チャンチャカチャッ チャンチャカチャッ チャンチャカチャッ”っていってただけで、どういう歌詞が乗ってくるか、わからなかったんですけど、オノマトペ(擬音語/擬態語)になったことによって、歌いやすいし覚えやすいし、よかったと思います。
和嶋:平仮名にこだわった感じがありますね。だから「ばかっちょ渡世」に近い。
──オノマトペを効果的に使って、一体感を生み出しているわけですね。
鈴木:そうですね。和嶋くんが「山だから、宮沢賢治だ」と言ったんで、「ああ、なるほどね」って。『風の又三郎』には“どっどどどどうど どどうど どどう”みたいな風の音が出てきたなと。僕らは文字で宮沢賢治の小説を読むわけじゃないですか。そこに、どういうメロディーがついてたかっていうのは、千人いたら千通りの想像をするわけですよね。俺はKISSの「ラヴィン・ユー・ベイビー(I Was Made For Lovin’ You)」の“どぅーどぅーどぅーどぅ どぅーどぅどぅー”しか思い浮かばない。でも、「山神 (やまがみ)」の“どうどうと どうどうと”っていうオノマトペは、いいと思うんですよね。
和嶋:Bメロのメロディーが早口言葉みたいなので、そこに普通の単語を入れちゃうと、発音しづらいし、聴いてる人にもわかりづらい。で、擬音語とか擬態語の連発だと聴き取れるんじゃないかなと思ったんです。







