【インタビュー】人間椅子、24thアルバム『まほろば』に止まらぬ進歩と新たな理想郷「我々は光から来て、光に帰っていく」

2025.11.20 18:00

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■そろそろ還暦なので人生を振り返ったりします
■そこで情操が大事だと思うようになりました

──そして和嶋さんの作曲でいうと、「野性上等」「永遠(とわ)の鐘」「感動の坩堝(るつぼ)」など、ストレートな感情を主題とした曲が今回は目立ちます。

和嶋:「野性上等」と「感動の坩堝(るつぼ)」はわりと近い感じですね。人間の野性とか感情を思い出してほしい、みたいな意味合いの曲です。で、「感動の坩堝(るつぼ)」は、ギターやベースがブレイクする感じの曲を作りたかったんです。レッド・ツェッペリンの「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」みたいに“ジャンジャン”っていうブレイクのところで、“感動”のような言葉が乗るといいかなと思って作っていきました。Bメロ部分はカクタスの「イーヴィル」という曲に近くなってしまったんですが。

──“感動”という言葉に人生経験を積まれたからこその説得力があります。

和嶋:自分がそろそろ還暦なので人生を振り返ったりします。誰しも日々を思い出しながら暮らすと思いますが、もっと包括的に、人生を振り返る感覚になったんです。そこで、情操が大事だと思うようになりました。AIをはじめ、今や完全にデジタル社会になり、若い人に情操を育む機会が失われていっていると思うんですが、やっぱり感情が大事。楽しかったり、苦しかったりしたことを成長に繋げられるかどうか。そういう思いからできたのが「感動の坩堝(るつぼ)」という曲ですね。中間部で唐突に“青春の日々”という歌詞が出てくるけど、こうとしか言えなかったんです。つまり、この人は人生を振り返っているんです。1番では恋の楽しさ、2番では旅、3番は人助け。そういうことでも感動は得られるよということを言ってる歌です。

──“坩堝”ですから、よほど感動の価値を伝えたい人なんでしょうね。

和嶋:そういう人なんですよ。命尽きるまで、感情というのはなくならないと思うので、それを大事にしたいよねという感じで曲を締めています。珍しく、ドラムソロ、ベースソロ、ギターソロと、ソロ回しも入れてみました。

──「野性上等」は?

和嶋:人間が四角四面になっても、あまりおもしろくないですよね。本来人間も動物ですから、これを“野性”という言葉で言ってみた、という感じの曲ですね。

──暴走族にも通ずるようなタイトルだと思ったんです。

和嶋:“喧嘩上等”でしょう? 野性が素晴らしいという意味に対して、“上等”という言葉を入れていいのかどうかは微妙ですが。でも、“上等”とは“素晴らしいもの”という意味であることに間違いない。だから、ヤンキーな感じの曲ではないんですよ。たとえば、映画『1984』みたいな世界は嫌ですよね。ああいう超管理社会はどうなんだろう?みたいな。

──なるほど。曲の最後の“パフパフ”というクラクション音もおもしろいです。

和嶋:これは自転車です。野性に目覚めてほしいという意味を込めて、ハッとさせる音を入れたいと思いまして。カウベルを入れたりもしています。

鈴木:そういえば、暴走族も“パフパフ”させてる気がしますね。

ナカジマ:うん、鳴らしてるね。『ゴッドファーザー』のテーマとか。“パパパ パパパパ”みたいな。ちなみに、あの“パフパフ”は5種類買ったんですよ。音も形も材質も意外とたくさんあるんですよ。だから、“パフパフ”のオーディションがあったわけです。

和嶋:それぞれ音が違うんだけど、なかなか理想の“パフパフ”には出会えなかったよね(笑)。1番と2番のカウベルで、まずはみんなビックリするじゃないですか。3番もカウベルが来るのかなと思ったら、“パフパフ”が出てくるのはおもしろいと思うんだけどね。

──最後に「永遠(とわ)の鐘」のことをお訊きしますが、この曲の真っ直ぐさには何か裏があるのでは?と勘ぐってしまうほどでした(笑)。

和嶋:いや、ストレートなウェディングソングを作りたかったんです。真っ直ぐな気持ちで、誰かの結婚を祝いたかった、という素直な心でございます。銅鑼で曲が始まるでしょ。これは船の出航の銅鑼。最初は人生の出発の歌みたいなのを作りたいと思ったんです。

──なぜウェディングソングを?

和嶋:身近に結婚する若い友達がいるんですけど、その彼がすごく嬉しそうに「和嶋さん、結婚式、来てくださいよ」と言うんです。そうしたら、自分のことのように嬉しくなって。すごく祝福したい気持ちになって。これから結婚しようという人のために曲を作りたいという、お父さんのような気持ちですね。特に、歌詞はそんな感じです。若い時は照れがあるので、こういう曲は作れませんでした。曲が作れたとしても、詞はこういうふうには書けなかった。

──人間椅子としては、かなり異色だと思いました。

和嶋:恥ずかしさがない分、すごく良い歌詞が書けたなとは思っています。曲も、あまりこれまでの僕たちにはないタイプ。ハードロックではないけれども、相応しい曲が作れたかな。

──“人間椅子っぽくないからやめておこうよ”といった意見は、鈴木さんとノブさんからは出てきませんでしたか?

鈴木:歌詞を見て、“和嶋くんって、すごくピュアなんだな”と思いました。人の結婚式を見て感動するっていうのは、自分の中で絶対にないことなんだけど、そういうこともあるんですよね。で、こういう曲調だけど、ライヴに来た人も楽しめると思いますし、こういう曲は大事だと思います。ヘヴィなアルバムの中に1曲、清涼剤みたいなアコースティックなナンバーがあると締まる。和嶋くんのビートルズ的な要素がいっぱい入ってて、音楽的にも聴きどころ満載です。アコースティックギターのソロって、あんまりないじゃないですか。でも、ビックリしますよね、“喜びに包まれた白いチャペル”っていう出だし。なかなか思い切ったなと思いました。

和嶋:歌詞は何回も書き直したけど、出だしが決まったらスラスラと言葉が出てきました。この曲でも結構泣きましたね。

鈴木:その話を聞いたら、またビックリですよ。自分の曲に感動したうえに自分の歌詞で泣くって。泣くっていうことはなかなかないよ。

和嶋:自分の恋愛の美しい思い出も散りばめたので、それで泣いちゃったのかもしれない。ちょっとおかしいよね、自分の歌詞を見て泣くなんて(笑)。

鈴木:いや、人間椅子はもともと趣味のバンドなんだから、何があってもいいんだよ!

和嶋:そう、いいんです。自分がやってることがいいと思わないと、やれないですからね。

──ノブさんはどう感じました?

ナカジマ:歌が乗る前から、人間椅子の1ページとして、全然ありだと思ってました。銅鑼で始まるのもおもしろいし。ただ、研ちゃんと同じで、歌を聴いた時は正直ビックリしました。詞って大半は自分のことを歌うものだと思ってたから、「和嶋くん、結婚するの?」って訊いちゃったんですよ。

和嶋:たぶん誰しもがそう思いますよね。これを歌ってる人は結婚するんだろうなって。

ナカジマ:まあ、驚いたんですけど、何回か聴いてるうちに、俺も人の結婚式でこれを歌いたいなって思いました。今までは絶対に長渕剛の「乾杯」だったんですけど。

和嶋:僕も今後、人の結婚式にお呼ばれしたら歌いたい。最後の“ランランランラ”のところが聴きどころ。で、今回のアルバムの中でもかなりよくできたギターソロだと、自画自賛です。破綻のない、いいソロだなと思ってまして。

鈴木:真ん中あたりに出てくるのはハーモニクスの音?

和嶋:そう。ハーモニクスを入れることで、そこにも鐘のような幸せ感を出したかった。それに、“ランランランラ”っておじさんたちが歌ってるように聴こえるでしょ? これはこれでいいなと思ったんです。お父さん方が結婚式で歌ってる感じが出てて。

ナカジマ:人間椅子の3人が揃って結婚式に呼ばれることがあったらやりたいね。

──さて、『まほろば』収録全曲についてじっくりと語っていただきましたが、振り返っていかがですか?

和嶋:前アルバム『色即是空』とはまた違った24枚目になりました。新しいチャレンジもしているアルバムだと思うんです。「永遠(とわ)の鐘」「光の子供」も新たなチャレンジだし、「ばかっちょ渡世」のような斬新なリズムもある。毎回、進歩してるんだなと思います。還暦近くにして、またチャレンジしたアルバムを作れて本当によかったです。

──アルバムリリース直後からツアー開始となります。

和嶋:アルバム全曲をツアーでうまい具合に散りばめてやりたいと思っています。『まほろば』というアルバムを作ることによって、新しいページが開いた感じですね。次もおもしろいアルバムが作れそうな予感がしております。

──人間椅子はこの先をどのように見据えていますか?

和嶋:たぶん60歳になったら、僕もメンバーもまた違う感じになってると思うんです。音楽に新鮮に取り組めるんじゃないかな。次はもしかしたら、すごくゴリゴリのリフ全開のものになるのかもしれないし、暗いテーマをやるかもしれない。とにかく、これからの活動に繋がるアルバムが作れたなというのが現在の感想です。

──鈴木さんはどんなライヴにしたいですか?

鈴木:アルバムができた直後は、必ず新曲を全部やりたくなるんですけど、そればかりだと辛いライヴになりますよね。定番曲とレアな古い曲と新曲をバランスよく組んでツアーに臨みたいと思います。ライヴに行ってよかったなと思うのって、なんだかんだ言って、セットリストだと思うんですよ。“うーん、このセットリストは素晴らしい”と思わせるようなツアーになるように、これから3人で考えます。

──今後については?

鈴木:その先のことはその先で考えますけど、コロナ禍であまりできなかったアルバム『苦楽』や『色即是空』の曲を混ぜて、来年もライヴをたくさんやるでしょうね。その後、“もう飽きたな”となって、また新譜作りに取り組もうという気になる。僕らは飽きるのが早いんですよ(笑)。今後もきっと、その繰り返しだと思います。

──では、ノブさんはいかがでしょう?

ナカジマ:『まほろば』の新曲たちを大事に丁寧に、皆さんの前で発表できるように、練習をいっぱいします。俺は個人練習もいっぱい入ろうかなと思ってますよ。ふたりが言ったように、来てくれた人が本当に喜んでくれるライヴにしたいですね。それで、来年は3人とも60歳になるんですけど、これからは健康管理も大事。そういうことも少しずつ考えながら、まだ行ったことのないところに行きたいですね。

取材・文◎志村つくね
撮影◎TOYO

 

■24thアルバム『まほろば』
2025年11月19日(水)発売
TKCA-75306 3,000円(税込)
01.まほろば
02.地獄裁判
03.阿修羅大王
04.宇宙誘拐
05.野性上等
06.山神
07.恋愛一代男
08.ばかっちょ渡世
09.永遠の鐘
10.樹液酒場で乾杯
11.感動の坩堝
12.悪魔の楽園
13.光の子供

 

■<人間椅子2025年冬のワンマンツアー『まほろば』ツアー>
11月24日(月/祝) 青森・弘前 KEEP THE BEAT
11月27日(木) 北海道・札幌 PENNY LANE 24
11月29日(土) 青森・青森 Quarter
12月01日(月) 宮城・仙台 Rensa
12月04日(木) 大阪・大阪 心斎橋 BIGCAT
12月08日(月) 福岡・福岡 DRUM Be-1
12月10日(水) 愛知・名古屋 Electric Lady Land
12月13日(土) 香川・高松 OLIVE HALL
12月17日(水) 東京・Zepp Haneda
▼チケット
●Zepp Haneda(Tokyo)以外の8公演
 前売り5,000円 / 当日5,500円(税込/ドリンク代別)
 ※全自由・整理番号順入場・小学生以上チケット必要・未就学児童入場不可
●Zepp Haneda(Tokyo)
 ◯1階 前方スタンディング
 前売り5,500円 / 当日6,000円(税込/ドリンク代別)
 ※スタンディング・整理番号順入場・小学生以上チケット必要・未就学児童入場不可
 ◯2階 指定席
 前売り6,000円 / 当日6,500円(税込/ドリンク代別)
 ※座席指定・小学生以上チケット必要・未就学児童入場不可

 

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