その4:メロディ
今回はI'veサウンドの主役、メロディを検証する。トランスを基本とするI'veサウンドだが、そのメロディを見てみると、実は典型的なポップソングの特徴を持っていることがわかる。その特徴を、2つのポイントから見てみよう。
・メロディの音程の移動
まずひとつめのポイントは音程の移動、つまり音の配列だ。I'veサウンドのメロディは、実に素直でわかりやすい。それは、音程の移動が少ないメロディが多用されているからだ。メロディは2小節、4小節といった単位でひとまとまりになっているが、そのひとつのフレーズ内では、音程が極端に飛ぶような配列はほとんどない。フレーズの中である音程から次の音程に移るとき、その音程差は大きくても5度、ほとんどは3度以内の近い音程なのだ。また2度、つまり隣の音程に移るパターンも多いし、音程が順に上昇または下降するフレーズ、例えばドから上昇して「ドレミ…」となっていたり、逆に「ファミレ…」と下降したりというフレーズも多い。
もちろんすべてのメロディがこのパターンだけで構成されているわけではない。ひとまとまりのフレーズが終わって次のフレーズに行くとき、とくにサビに行く直前などは大きく音程が移動することがあるし、サビに入れば音程の移動も大きくなる。
こういった音の配列の方法は、実はとくに珍しいことではない。あのポップソングメーカーの尾崎亜美もよく使う手法。いわばポップソングの王道なのだ。近い音程に移動することでメロディがスムースに流れるし、必要なところでは大きく移動して変化をつけることができる。その結果、ぱっと聴いてもここがサビだなとわかるほどサビが明確になっているし、サビがより劇的に聴こえるよう演出することができるのだ。
・メロディで使われる音域 もうひとつのポイントは、使われている音域だ。I'veサウンドのどの曲のメロディも、幅広い音域をカバーしているように聴こえるのだが、Aメロやサビといった曲を構成するセクションごとに音域を調べてみると、多くの曲に似たような傾向が見つかる。それは、セクションによって使われている音域が違っているということだ。 ほとんどの曲では、Aメロ(歌い出しの部分)では低めの音域、そしてサビでは高い音域が使われているのだ。たとえばKOTOKOの「Chercher」は、AメロではC(ド)からA(ラ)までの音域が中心だが、サビに移行するとAからその上のCあたりの音域が中心になる。川田まみの「緋色の空」では、Aメロは下のCからGあたり、サビではEから上のC付近の音域が中心として使われている。そのほかの主な曲もほぼ同じような傾向で、サビだけが一段高い音域、それもその他の部分とはあまり重ならない音域を使ってメロディを構成している。 こういった音域の使い方は、もちろんサビを盛り上げるために計算されたものだろう。高い音域を使うと、聴いているほうは自然に盛り上がりを感じるというのが音楽のセオリーだからだ。サビ以外で、サビと同じくらい高い音程が使われることもある。しかしそのほとんどは、サビに行く直前にはさまれる短いBメロがあるような場合だ。サビの直前で高い音域を使うことでサビを予告するような効果があるし、これでサビに向かって気分を盛り上げるという構成になっているわけだ。これも当たり前といえば当たり前だが、いかにもポップソングらしい作りになっているのだ。 トランス主体というイメージのI'veサウンドだが、そのメロディは実はどれも王道的なポップソングであるといえる。だから、明快で聴きやすいメロディとしてリスナーの耳に飛び込んでくるのだろう。そして、シンプルな伴奏を持つI'veサウンドにメリハリをつける意味でもメロディが重要な存在。やはりI'veサウンドの楽曲の主役はメロディだったのだ。 text by 田澤 仁 |