2002年、世界の音楽シーンが南米の見知らぬ国から登場したひとりの美女をめぐって大騒ぎとなっている。
彼女の名はシャキーラ。
ブロンドに染めた長い髪、露出度の高い悩殺ファッションという南米のカーニバルから抜け出たような出で立ちに、南米音楽とロックがブレンドした摩訶不思議なサウンドに激烈に濃厚なヨーデル唱法。そんなどこを切っても濃さ炸裂な彼女の大旋風が今もうどうにも止まらない。
かねてから絶大な支持を誇った南米ではもちろん、昨年の暮には初の英語アルバム『Laundry Service』とシングル「Whenever Wherever」が共にトップ10入りを記録する特大ヒット。そしてその噂は今年に入り世界中に飛び火。「Whenever~」はヨーロッパの至る国でNo.1を獲得し、この春日本で発売されたアルバムもこの春の洋楽界において10本の指に入る大ヒットを記録。シャキーラは一夜にして世界を駆け巡る巨大なセレブとなってしまった。
そんな彼女が待望の初来日。今、世界でもっとも注目しなければならないアーティストのひとりである彼女に期待が高まらずにはいられなかった。名目上はプロモーション来日ということでコンベンションの意味合いが強かったが、それでも会場となった赤坂ブリッツは隣の観客の肌と肌が触れあうほどの大入り満員。その熱気は南国出身のシャキーラにはまさにふさわしいものでもあった。
そして、19時30分過ぎ、会場MCの前ふりのあと、ステージにあった巨大な階段のセットから、ベルトなしのピチピチのジーンズに胸元を牛革のトップスで包んだだけの過激なヘソ出しファッションとでシャキーラが降りて来た。そして挨拶もなくシャキーラは美形の男ダンサーと激しくタンゴを踊りだし、会場はその唐突にして濃厚な彼女の行為にただただ唖然となるばかり。そして曲はそのままアルバム『Laundry Service』の冒頭を飾る、ヴェンチャーズとタンゴが絶妙に融合したナンバー「Objection」で幕を開けた。
そして曲がはじまるとシャキーラはがむしゃらに激しく踊り始めた。この強烈さ、待ってました! そして彼女はスタンドマイクをロッド・スチュワートばりに高く持ち上げて振り回すことで、あらためて彼女の音楽ルーツがダンス・ミュージックでなくロックにあることを堂々アピールした。そして、サビの部分でグサッとささるレ~ロレロのヨーデル・ヴォイスもキメのところで最高潮に最大ヴォリュームになる。この迫力、アラニス・モリセットよりは客観的に見て上である。とにかくやることなすことのいちいちが悪く言えば大袈裟、よく言えばスケールがデカい。
そんな彼女であるが、MCになると、そのマライア・キャリーにも、デスチャのビヨンセにもブリトニーにも似ていると言われるキュートな顔をクシャクシャにさせて笑顔で可愛い声で話しはじめる。このギャップも彼女のチャーミングな魅力のひとつだろう。
そして時に激しい腰付きの悩殺ベリー・ダンスを繰り広げながら10人編成によるバンドをバックにロックとも民族音楽ともつかない不思議なアレンジの分厚いアップ・ナンバーで迫り、そしてまたときにアコースティック・ギター1本で感傷的で甘いバラード「Underneath Your Cloths」などを歌い上げ、オーディエンスを熱くした彼女は5曲目にかの大ヒット・シングル「Whenever,Wherever」を一大アンセムとばかりに披露。会場は大合唱となり、ラテンらしい熱いムードがあたり一面から立ち込めてきた。しかし、「さあ、これからが全開なんだろう!」と誰もが思っていたその矢先に、このショウはなんとたった5曲であえなく終了してしまった。
たった5曲である! ワールド・ツアーさながらの階段セットつきの大掛かりな舞台装置を持ち込んだ上に、10人編成という、人件費もバカにならない大所帯で臨んだにもかかわらず、たった5曲である。こんなに短いミニ・ライヴなら、もうちょっと小振りにやっても良かったんじゃないか。僕は率直にそう思いはしたが、まあこれも、どんなに小さいことでもやたらと濃く見せてしまわずにはいられないシャキーラらしいなと思い、なんだか微笑ましくもなってしまった。
今、世界の音楽界を賑わす南国のセレブは、どこまでもチャーミングでかつファニーだ。その誰にも真似出来ない唯一無二の行き過ぎな魅力で、どこまでも突き進んでほしい。
そして、次はフルセットでのライヴを頼む!