「M-SPOT」Vol.048「コンセプトに沿った音楽とアートワークを生むpomodorosa」

音楽が誕生する背景には、何らかの衝動から必然的に生まれることもあれば、ミュージシャン同士のセッションから偶発的にケミストリーが起こることで姿を表す楽曲もある。
作品作りには様々なアプローチがあるが、今回紹介する作品は、頭の中に出来上がっている楽曲のイメージに向かって制作を進めるというスタイルで制作されたであろう楽曲だ。明確なコンセプトがあり、そのコンセプトに沿ってアイディアを練り、ディテールを磨いていく。そんな生まれ方をしたのではないかと思しき楽曲がpomodorosaの「カストロール」だ。
話を繰り広げるコメンテーターはTuneCore Japanの堀巧馬と野邊拓実、菅江美津穂、そして進行役はいつも通り烏丸哲也(BARKS)である。
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──pomodorosa(ポモドローサ)というアーティストの「カストロール」という楽曲を紹介させてください。男性ソロアーティストなんですけど、歌を歌っているのはRosaというボーカリストで、彼の多くの作品でコラボレーションしているシンガーなんですが、ゴリゴリのトラックにふわふわなボーカルを乗せていて、かなり耳を引くサウンドなんです。
──このバックトラックにこのボーカルをマッチさせるという変態性が最高でしょ?
堀巧馬(TuneCore Japan):いやぁ、「カストロール」ってエンジンオイルのメーカーですし、ポモドローサってイタリア語なので、名前だけを見た時は、世界観たっぷりな髭の生えたインディーズバンドかなと思ったんですけど、そことのギャップが凄かった(笑)。
菅江美津穂(TuneCore Japan):この方のウェブサイトを見てみたら、音楽もさることながら本業はイラストレーターの方みたいですね。
──そう、謎な人なんですよ。
堀巧馬(TuneCore Japan):面白いですね。でも、個人的にはベースがすげえ好きです。ゴリゴリに前にいますよね。
──そうなんですよ。このベースラインを作ってこのボーカルを乗せるの?というブチギレたセンス。
野邊拓実(TuneCore Japan):そもそもしっかりとラテンのリズムで、そこに動いているベースを置きながらストリングスとピアノが乗っていますけど、ストリングスの使い方なんか完全に仕事している人ですね。単に和音をバーっと鳴らしているだけじゃなくて、きちんとボーカルに追従するフレーズもあって、使い方も極めてプロっぽい。音の構成だけを聴くとラテンですけど、一般的なラテンミュージックが持つヴィンテージ感みたいなものは全然なく、かなりモダンに聴こえるのは、やっぱりこのベース感とウィスパーっぽい女性ボーカルですね。いい意味でラテンっぽくない。
──かなり個性的ですよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):最初にパッと聴いた時は、初めて相対性理論を聴いたときのような印象だったけど、でもラテンもあるし、ストリングスの使い方にはめちゃくちゃ技巧を感じるし、ピアノの入れ方にも独特なアプローチがあって、いろんなことを考えてやっている感じがする。
──それこそ発声の強いラテン系女性ボーカリストを当てたら全然違う曲になりますよね。マニアックな側面が多分に含まれているのに印象は柔らかくてフェミニンな感じなのは、音楽のみならず、アートワークにも表れている気がします。

堀巧馬(TuneCore Japan):楽曲の説明を見ると「ラテンジャズの情熱的なナンバー。2ストロークバイクの疾走感とカストロールオイルの匂いから連想される自由と青春の衝動と葛藤を歌う。アップテンポでテクニカルなリズムとスリリングなピアノとストリングスのアレンジが聴く者をエモーショナルな旅へと誘う」とあるんです。それを見たうえで聴き直すと、不思議と情景が浮かぶんですよ。
──面白い。
堀巧馬(TuneCore Japan):イントロのベースとギター・プレイはエンジンをかけるところなんですけど、まだ走り出していない。で、ボーカルが入ったところが情景描写なんだろうなみたいな。バイクに乗っている情景といえば「自由」とか「風」といったイメージになりがちですけど、楽曲説明の中に「葛藤」とあって、ここが味噌なのかな。多分ラテン一調子になると情熱的になりすぎちゃうでしょう?
──聴き直してみると、ギターのカッティングがエンジンを掛けるキックに聞こえる。確かにストリングスが入ったところでやっと走り出すイメージですね。それまではアイドリング状態だ。
堀巧馬(TuneCore Japan):で、このボーカルが、バイクに乗って走る喜びとか開放感とかを表すわけじゃなくて、何かネガティブな思いを抱えながらバイクを吹かして、そのまま走り出した感じが最初の30秒ぐらいでイメージできちゃうんですよ。
野邊拓実(TuneCore Japan):僕はネガティブなことを考えているような印象は受けなかったけど、ただ思い悩んでいるというよりは、ふわっと思考がまとまらないまま走らせてるみたいな印象が、このボーカルがすごいマッチしているって思いますね。
──そのあたりの曲が持つイメージや世界観は、ジャケットのアートワークにも表れています。エンジンかけてカストロールのエンジンオイルの匂いが漂いながらも、バイクに跨がったまままだ走り出そうとしていない。
堀巧馬(TuneCore Japan):確かに。ミュージックビデオにするとしたら、走っているところからじゃないですよね。
──そこ。「カストロール」ってタイトルを付けておきながら、「走って風を受けて、明日に向かって飛び出せ」的な青春ソングじゃないという。バイクだからって走ってると思うなよって(笑)。
菅江美津穂(TuneCore Japan):確かに、このジャケットの女の子が走っているこの情景を表現したかったって感じがありますね。
野邊拓実(TuneCore Japan):ベースのゴリゴリサウンドがバイクの機械的な部分だとして、それ以外のところのふわっとした印象というのは、このジャケットの柔らかめな色味を表している気がする。ステレオタイプなバイクのイメージとは、この女の子ってミスマッチといえばミスマッチですからね。
菅江美津穂(TuneCore Japan):歌っているROSAの声質と、このキャラクターをマッチさせたかったのかな。本気で乗る人はこんなショートパンツ履かないじゃん(笑)。

──ゴロゴリのベースプレイに似合うようなバイクならイカツイ絵になりそうですけど、この色使いを見るだけで、コンセプトがはっきりしていることがわかりますね。
野邊拓実(TuneCore Japan):楽曲の中でベースだけが突出して聞こえる作りも、全体的に穏やかな雰囲気の中でバイクの存在が浮き上がっているという点を表しているように感じます。
──全部わかっててやっている…ぽい。
菅江美津穂(TuneCore Japan):やりたいことを本当にやっているって感じが伝わってきます。
野邊拓実(TuneCore Japan):すごいなぁ。本人から話を聞いてみたいですね。踏み込んでみると「いや、実は…」みたいなことがまだまだあるかも。
菅江美津穂(TuneCore Japan):この人のプロフィールを見たら、今はイラストレーターみたいですけど、最初はCM音楽のコンポーザーからキャリアをスタートした方みたいですよ。
野邊拓実(TuneCore Japan):やっぱプロじゃん。職業作家の能力ですね。楽曲のコンセプトがあって、それを忠実に音とジャケットを作り込んでいる作品なんですね。
──コンセプトを、音楽やイラスト作品で表現する才能に長けたアーティストってことだ。
野邊拓実(TuneCore Japan):素敵です。芸術家…表現者ですね。
pomodorosa
pomodorosaは東京を拠点に活動するクリエイター。2000年代からCM音楽のコンポーザー&アレンジャーとしてキャリアをスタート。サントリー「プロテインウォーター」の細マッチョ・ゴリマッチョや、日清「カップヌードル」でジャミロクワイのヴァーチャルインサニティのパロディCMなどを手がける。劇版作家としても「坂道のアポロン」「スペースダンディ」などでキャリアを積む。 2010年代には小説の装画やキービジュアルでイラストレーターとしてのキャリアをスタート。アニメ「リスナーズ」「デカダンス」「ぼくらのよあけ」のキャラ原案、サントリー「ほろよい」、マクドナルド「マックシェイク」のキャラクターデザイン、カルピスのアートワークでも注目を集めた。 2020年代にはクライアントワークとは別にミュージシャンとしてのpomodorosaの活動も活発化。主にヴォーカリスト「Rosa」とのコンビでジャズ、ボッサ、渋谷系シティポップのカテゴリーで世界中にリスナーを獲得。 2025年時点でSpotify月間8万人、300万再生を記録。中でも1stアルバムに収録された「ブルボン」「霹靂」がYoutube、TikTokでバズり、イラストワークとの相乗効果もありZ世代を中心にファン層が拡大中。
https://www.tunecore.co.jp/artists/pomodorosa
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.







