【ライブレポート】板歯目、怒りでポジティブに音と人の心を揺さぶる<超親切ツアー>

2ピースオルタナバンド・板歯目(読み:ばんしもく)が、約2年ぶりのツアー<板歯目2025夏~超親切ツアー~>を完遂した。
7月の福岡・LIVE HOUSE Queblickから幕を開けた同ツアーは、大阪・東京をワンマン公演で開催。その他の会場は、2年間というパワーアップ期間のなかで切磋してきた仲間や敬愛するバンド(Suspended 4th、ルサンチマン、ハク。、the dadadadys、JIGDRESS)をゲストに迎えた対バン形式で、全国6か所を駆け巡った。
1ヶ月という短い期間に集約されたツアーではあったものの、その間バキバキに音を仕上げてきた板歯目。ここでは7月31日、ソールドアウトとなった千秋楽、東京・新代田FEVERの模様をレポートする。
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板歯目はいつだって面白い音を鳴らしている。インパクトの強いバンド名は、遥か昔の爬虫類の名前から取ったというが、そのバンド名を凌ぐ音楽が、いまじわじわとライブハウスシーンで注目を集め、共感を呼んでいる。
この日は、彼女たちが6月18日にリリースした1st EP『もんくのひとつもいいたい!』を引っ提げた全国ツアーの最終公演。2年間で膨れ上がった期待が向けられる中、赤く染まるステージへ千乂詞音(Vo, G)と庵原大和(Dr)が大きな拍手で迎え入れられた。
1曲目「ちっちゃいカマキリ」からライブがスタートすると、ドッと沸き上がる歓声。最新EPの編曲にも参加したJunkie Machineのりゅーやをサポートベースに迎え、奏でられたサウンドは、三者三様の音がステージ全面で混ざり合う、病みつきになるものだった。息の合うジャムセッションともひと味違う、キレの良いビード、歪んだギターリフ、強靭なスラップベースでボリュームを加速させ最高潮に達するサウンドは、ひたすらに踊れるガレージロック。3人の鳴らす音が、爆発するかのように入り乱れている様子に自然と歓声が湧き上がり、会場からは一斉に拳が上がった。

力の抜けた千乂の「ツアー、トーキョー、スタート」というゆるい挨拶から、洪水のようなバンドサウンドが押し寄せる「エバー」に入ると、掻き鳴らされた焦燥感、その展開に序盤から度肝を抜かれた。さらに、最新EPから《めんどくせぇ》と繰り返されるフレーズが痛快感を生む「親切」を畳み掛けると、ドラムロールが銃声のように放たれる。疾走するBPMとともに「バカにすんな俺はこんなもんじゃねぇ」という心から湧き上がる千乂の声が響き、フロアもジャンプで応え、爆発させるような楽しい空間を作りあげていった。怒りとは人にとって厄介で、もっとネガティブなものかと思っていたが、何故か板歯目のライブを観ていると、不思議とそんなことはないと思える。健全な怒りというものは、人にとって生きるために必要なエネルギーになるのだとライブを見て痛感した。

後方まで埋め尽くされた場内に向けて、「誰も大和のこと見えてないよね? 私のことも見えてないよね?」(冗談)と会場を笑わせた千乂のMCを挟み、一昨年12月にリリースしたシングル「夢の中」を披露すると、これまでとは異なるソウルフルなナンバーをフロアに届けた。ジャジーなイントロから音の渦に飲み込まれていくような独自のグルーヴに身体を揺らしたかと思えば、大和のドラムスティックが刻むカウントを合図に「地獄と地獄」でまたしても中毒性の高い荒削りなロックサウンド、捲し立てるようなラップを投下。会場からは大きなシンガロングが響き渡った。
一辺倒ではない緩急のあるコースターに乗っているようなライブでフロアの熱量を高め、一体感を作り上げていった「超バカ!」では、音楽バカ全開のステージ。箸が転んでもおかしい年頃というのは、なんだか凄く限定された時期のように思うが、このバンドはいつだってそういった感覚を忘れない気概でステージと向き合っている。「全力でみんなが楽しんでくれるように、全力でお願いします」と千乂が声を張り上げると、それらを共有するように「沈む!」、「オリジナルスクープ」と板歯目ワールドを殺烈させた。

クリーンなギターの上に柔らかな声が響いたミドルナンバー「わたしたちのストレージ」では、序盤の熱をクールダウン。これまでとは違う表情を見せる板歯目は、付け焼き刃的な慰めの言葉を並べるのではなく、ただ隣に寄り添ってくれる友達のような存在に近く、本質をついてくる。意外な一面を見たのちに披露された「SPANKY ALIEN」でライブが中盤に差し掛かると、さらにギアをあげ、テクニカルなスラップベースからキレの良いドラムの入りに思わずフロアも唸り声をあげた。
自由な盛り上がりが心地よい形式ばらないライブは、マニアックな音をばら撒き、ナードながらも何故か身体にストンと落ちる。グイグイ引き込まれていく彼女たちのライブは、魂を熱く燃やしながらも、その界隈だけに留まらないキャッチーさとのバランスが小気味良い。最新EPより「誰かのフラストレーション」、リード曲「納得いかない」で弾丸のようにストレートな感情をぶつけてゆく“千乂節”が自由に飛び交う様子も最高にクールだった。
「芸術は大爆発だ!」の歌い出しを堂々と響かせると、フロアからは一気に歓声が湧き起こり、その後の展開に熱気と興奮が押し寄せる。フロアから上がる声が次第に大きくなる中、千乂がギターのネックを天井へ向けステージ中央にあるお立ち台にあがり、金色の髪を振り乱して荒々しいギターを掻き鳴らした。終盤のドラムソロでは大和コールに手拍子、歓声が飛び交う。ギアは常に上がったまま、ライブならではの粋なドラムアレンジが光った「さいごの天地物語」でさらに盛り上がりを見せた。クールな表情で真摯に歌う千乂と怪物のようなサウンドに飲み込まれるような、痺れるステージだった。

後半のMCでは千乂が、「いろいろ変わったわ。ベースが変わったの。次世代って事務所に入ったの」と独特のテンポで近況を報告。続けて、「大和とやってることだけ一緒。でも、それ以外はホントに変わった」と振り返り、「こんな環境に適応できるんだなって」と自身に驚きながらも、周囲への感謝を述べた。そして自身を振り返り、「来年は優しい人間になって、人を生かせる人間になりたいと思います。頑張ろうと思ったし、ライブ出来てなかったら、心が死んでる気がする。ありがとうございます」と前向きな想いを語った。
ライブ終盤ではバンド名を冠したデジタル1stアルバム『板歯目』からリード曲の「まず疑ってかかれ」をドロップ。初期衝動が詰まったアルバムの中でも一際目を引くインパクトがある同曲は、《その覚悟がないのなら》と繰り返される歌が音源で聞く以上にダイレクトに刺さったのが印象的であった。また、その熱に呼応するかのように、客席からサビの大合唱が巻き起こる。続く「ラブソングはいらない」でも、掛け声があがり、最後に披露されたミドルバラード「カプセル」も会場に深く響いていた。

収録曲のすべてが怒りをむき出しにしていた1st EP『もんくのひとつもいいたい!』は、すべての楽曲が大和の作詞作曲によるもの。ストレートな歌詞のセンスと独自なテンポは、ライブで観てもどの曲も千乂の魅力を最大に引き出しているようで、彼のそのコンポーザー的な才能と2人の息のあったコンビネーションを感じずにはいられなかった。
大和は最後に、「千乂さんと僕のやりたいことっていうのは、自分たちにとってカッコ良くて、楽しくて、面白かったり笑えたりするライブをすることです」と話した。そして「そんな僕と千乂さんがそう思ってる板歯目の曲を好きなみなさんは、僕たちと気が合う人たちなんだなと思います」と述べ、「これからも、僕と千乂詞音はやりたいことばかりやると思います」と少し失笑気味に、でも正直に音楽に対する気持ちをステージに添え、自分たちの意思を示した。

新たな環境に身を置きながら、彼女たちが追求するものは変わらない。生きづらさを抱えながらも、その剥き出しの反骨精神が、板歯目のロックをかたどっている。最後のしっとりとしたMCの中、アンコールに選ばれた曲が「アンチョビットマシンガン」だったのも彼女たちらしく、そのセンスが微笑ましかった。ラストはBPMが変則的に変わる試みが面白い「オルゴール」が演奏された。たくさん変わるものがある中で、変わらない大切な楽曲や気が合う者と共有できる“面白さ”を更新していく板歯目。彼女たちの勢いは、きっとここからさらに加速していくだろう。
取材・文◎後藤千尋
撮影◎白石達也
■セットリスト
<板歯目2025夏~超親切ツアー~>2025年7月31日(木)@東京・新代田FEVER
01 ちっちゃいカマキリ
02 エバー
03 親切
04 夢の中
05 地獄と地獄
06 超バカ!
07 沈む!
08 オリジナルスクープ
09 わたしたちのストレージ
10 SPANKY ALIEN
11 誰かのフラストレーション
12 納得いかない
13 芸術は大爆発だ!
14 さいごの天地物語
15 まず疑ってかかれ
16 ラブソングはいらない
17 カプセル
EN1 アンチョビットマシンガン
EN2 オルゴール
関連リンク
◆板歯目 オフィシャルリンク