THE BOSS IS BACK! With The E Street Band!!
本当に久しぶりにこの目の覚めるような1行を見た。世界的かつ記録的セールスを上げた名盤『Born In The U.S.A.』以来18年ぶり……“THE BOSS”ことブルース・スプリングスティーンと、その盟友とも言えるバンド=Eストリート・バンドの完全ジョイント作が、ニューアルバム『THE RISING』である。
私事ながら'85年の初来日公演を代々木第一体育館で観て以来、それまで僕を支えてくれたスプリングスティーンとEストリート・バンドの音楽をより多角的にとらえるために、僕は自らすすんでいろいろな場所に出向くようになった。彼らがよくギグを行なっていたアズベリー・パークのライヴハウス、ストーンポニーでマックス・ウェインバーグ(Eストリート・バンドのドラムス)に会ったり、スプリングスティーンの歌にもなった「アトランティック・シティ」までグレイハウンド(長距離バス)に乗って行ってみたり、来日したクラレンス・クレモンズ(Eストリート・バンドのサックス)に「ブルースと再び演る日は遠いのか?」と訊いてみたり……。スプリングスティーンのライヴ・オン・ステージも'85年の初来日以来、'88年の国際アムネスティ~ヒューマン・ライツ・ナウ・コンサート(@東京ドーム)、'92年のアルバム『Human Touch』『Lucky Town』に連動したツアー(@メドウランド・アリーナ/ニュージャージー)、'97年のソロ・アコースティック・ツアー(@東京国際フォーラム)も体験し、「スプリングスティーンはきっと、バンドで自らの楽曲を演るモティヴェイションを探しているのだろう」と思ってきた。
そして、ついにそのときが来た。直接のモティヴェイションは2001/09/11の事件である。表層的にとらえれば、WTCビル崩壊に対して「立ち上がれ!」とアメリカの軍事行動への賛同とも曲解されかねないアルバムにもなろう。しかしアルバムの性格付けに関して、スプリングスティーンとEストリート・バンドは(18年前の曲解を学習して)、実に丁寧に“曲解なき深み”へと導くよう作り込んでいる。
“傷ついた心をもって どうやって生きていったらいいか 教えてほしい”(「Mary's Place」より)
“みんな そろっている いないのは あなただけ”(「You're Missing」より)
というように、テロで死んでいった者たちへの鎮魂歌ではなく、“残った者たち”への結果的に鎮魂にもなりうる“眼差し”をまず土台にしている。アルバム最終トラック「My City of Ruins」で、“Come On Rise Up!/さあ、立ち上がれ!”と歌われてはいるものの、タイトル・トラック「The Rising」では、「(亡くなった)君の愛と義務の次元まで“上ろう”、君の手を僕の手に」と、Rise UpあるいはRisingの多義性をこのアルバムの主調枠に添わせる形で押さえ込んで表現している。
そして、Eストリート・バンドの音。昔からこのバンドの“組み上げる”のではなく“配置する”ような音遣いに興味を持っていたが、本作ではコンピュータも生音もすべて飲み込んでエネルギッシュかつ端正に配置融合させている感がある。そして、すべての曲を聴き終わると、スプリングスティーンのこの発言を思い出す。
「僕がやろうとしているのは、自分にとって意味があり、コミットメント……情熱のある音楽を歌うことなんだ。歌がリアルで本当の感情がこもっていれば、その歌を聴きたいと思うものは必ずいるはずだ……」
コミットメント、僕の言葉でいえば<言質>ということになる。僕が15歳の時に初めてスプリングスティーンの『Born To Run~明日なき暴走』を聴いて共鳴したのは、彼の歌に、その歌を信ずるにたる言質があったからだと思う。つまり、アメリカ人はもとより、多くの人が本作のスプリングスティーンのコミットメント=言質で“鎮まり”、“高まる”はずだ。音楽の力を最大限に開示した素晴らしい作品だと思う。
文●佐伯 明