「おまえら、面倒を起こすのが面白くってしょうがないってタイプの連中に見えるんだけどな」 At The Drive-In(以下、ATDI)のシンガー、Cedricが、バンドにとって第2の故郷たるロサンゼルスの『Palace』に集まった観客に向かってそんなことを言っているうちに、残りのメンバーが1人またひとりとステージに現れて所定の位置につく。「獣みたいに振る舞うヤツらには我慢ならない。通りの少し先にDMXがいるが、あいつなら喜んでも俺たちはそうじゃないぜ」。名指しされたラッパーとその犬たちは本当に、この会場を出て左へ行ったところで新作のビデオを撮影していた。しかし、Cedricが語りかけている観客が聴きたがっているのはパンクとエモとノイズ、あとは何であれ、お好みでくだらない名称をくっつけてもらって構わないが、とにかく一通り混ぜこぜにしたATDI独自のロックンロールなのだ。 Grand Royalからの最新作『Relationship Of Command』の曲でブッちぎるATDIのステージが、ずば抜けて激しくロックする動物園そのものの様相を呈しているというのは、それゆえに少し皮肉ではある。ドラム台から飛び降り、マイクをブーメランよろしく振り回し、ギタリストのOmarとスラムダンスに励んでいたCedricは、そんな状態で1時間あまりを過ぎたところで、客席にモッシュピットが出現したのを見てとると演奏を中断。そして、態度の悪い一部のファンを退場させてしまった。果たしてこいつは本気なのかと戸惑い顔の観客に、もうひとりのギタリスト、Jimが歩み出て、少しは筋の通った説明をするのだった。「踊れるショウなら他に何百もあるだろ。いいから、ここではやめときな」 要するに、ATDIは“聴く”ことを求めているのである。彼らの音楽を聴いているとCedricのように振る舞いたくなるのだという人は、理性ではなく感情で彼らの音楽とつながっているからで――それはそれで大切だけれども全てではない。「パンクも成長するんだよ」とCedric。「そうさ、ここまでくると俺たちはもはやパンクバンドじゃないんだ」。 ATDIのライヴで音響の嵐にもまれていると、彼の主張が容易に理解できる。飛んだり跳ねたりしているとき(あるいは観客を叱りつけているときも)は別として、そうでないときの彼はほとんどがズラリと並んだエフェクターを相手に、己の声をディストーションをたきつけた詩に変え、吠えるコーラスに転じる作業に費やしているのだ。Jimがギターを肩にかけ、キーボードでメロディを繰り出せば、Omarはギターの音をこれっぽっちの隙間もなしに歪ませてみせる。結果、その入り組んだサウンドは、単純に“パンク”という札を下げてしまうには複雑過ぎるのだが、一方で生々しいエモーションや、Cedricのいささかひとりよがりな佇まいは正にパンクのそれであり、その点はテキサス州エルパソで8年ほど前に始まったATDIの形成期から何も変わっていない。 「(パンクは)俺を救ってくれたんだよ、マジな話」とJimは認める。「落脱者の気分だった俺に居場所を与えてくれたわけ。俺は学校でも授業中に発言できないようなガキでさ……。ビビってたか何かしてたんだろうな。でも、夜になれば400人の前でプレイしてたんだぜ」。エルパソのパンクシーンでJimが見出したものは、彼を勇気づけただけにとどまらず、人生の目的をも与えてくれたのだ。 「(ATDIの)前に別のバンドをエルパソでやってたんだ。ハイスクールの最後の年に、そのバンドで30週間に52本のショウをやった。俺が体得した、それがパンクの流儀さ。Cedricがやってたバンドが解散したとき俺が電話したら、あいつは『ここでやめないで、とにかく何かやろうぜ』と言っていた。その後、一緒に始めたこのバンドで目指していたのは、レコードを1枚出して全米をツアーすること、それだけだったんだ」 その目標は'97年にFlipside Recordsから『Acrobatic Tenement』をリリースした時点で実現してしまった。'98年にFearless Recordsから『In/Casino/Out』をリリースする頃には、すでに全米を何回かツアー済みだったし、その後すぐに、ヨーロッパでもバンで寝起きする日々を経験。バンドの当初の目論見は、やがて変化を見せていく。 「18歳でバンを運転して国中を走り回り、ツアーをブッキングしてツアーマネージャーまでやってたんだぜ。1日5ドルで6人の食事をまかなおうとがんばって、皆で転がり込める家を探して歩いてさ」と振り返るJim。「それを全部自力でやったんだ。けど、24歳になって、いよいよ健康保険も必要になってくると、自分で自分の面倒を見るという要素が絡んでくるんだよ。ピーターパン症候群じゃないが、大人にならなくてもバンドで音楽やって暮らしてけるんだから夢みたいだ、ってのはあるけど、例えばショウの最中に脚をねんざして、金がないから親に電話しなきゃならないなんてのはさえない話だろ。俺はそんなことに親を巻き込みたくない。俺たちはだから、『次のレベルへ進もうぜ』ってことで、ふんどしを締めなおしたのさ」 次なるレベルとはつまり、メジャーからの申し出をついに受け入れるということだった。『In/Casino/Out』がそれなりに成功して以来、ポツポツと話はあったのだが、Jimも言うようにバンドとしては乗り気ではなかった。「(音楽業界は)きっと吸血鬼だろうと考えてたんだ。吸血鬼そのものだって。金と、特定の相手に向けてマーケティングすることにしか関心がない連中だとかね。でも、わかってみれば音楽業界には純然たる音楽ファンも大勢いるんだよな」。ATDIを最も感心させたファンたちが、Beastie BoysのMike D率いるレーベル、Grand Royalにいた。金銭的には最良のオファーではなかったが、同社の上層部との仕事にはある種の安心感があって尊敬できるのだとJimは言う。そして発表された『Relationship Of Command』は、わずか2カ月で『In/Casino/Out』の2倍を売上げ、MTVの常連の座をATDIにもたらした。 「デモは作らないんだ」。Grand Royalとの契約でバンドに認められている自由の、ほんの一部をJimが紹介してくれた。「出来たものを提出すればいいことになってる。今回、彼らは最初はおとなしいレコードを予想してたのか、『きみらはこれで業界のうぶ湯をつかうことになるわけだ。うちとしてはカレッジ・ラジオを攻めようと思ってる』みたいなことを言ってたんだけど、これを出したら、『なんてこった! このレコードは重要だぞ』って、そこから騒ぎが始まって……」 ATDIの一番の関心事は、じっくりと聴かせる音楽を作ること。そのためにメインストリームの音楽業界のシステムを利用する必要があるのなら、それもよし。たまに演奏を中断して観客の注意を引く必要があるのなら、それもまたよしだ。「こんな話をしたんだよ」。Grand Royalとの契約を決める直前にバンドが持ったミーティングについてJimが言う。「皆で『そもそも俺たちはそうしたいのか? Fearlessに残ればいいんじゃないのか?』ってね。でも、何だかすでに改心した人間に説教してるような気がしてきたんだ。キッズがとっくに知ってる話をして聞かせるだけじゃ、俺たちは何を成し遂げることもできない。外へ出ていって、ぼやぼやしてる連中に挑みかかりたい。ときにそれは面倒でも、声に出さなきゃ何も変わらないからな」 このドライヴインでは、彼らのよく通る大声に誰もが耳を傾けているようだ。 |