【ライブレポート】ASIAN KUNG-FU GENERATION、<ファン感謝サーキット>完遂「お互いさまだね、“ありがとう”は」
ASIAN KUNG-FU GENERATIONが12月19日、Zepp DiverCity (TOKYO)にて、全国30公演のライブハウスツアー<Tour 2024「ファン感謝サーキット」>のファイナル公演を開催した。同公演のレポートをお届けしたい。
◆ASIAN KUNG-FU GENERATION 画像
「ありがとう。本当にありがとう」
後藤正文はもう一度マイクに向かって言った。ダブルアンコールに応えて、4人が再々登場。場内に流れていた終演のアナウンスとBGMは急遽ストップされ、フロアから出ていこうとしていたお客さんたちがあわてて戻ってくる。
「<ファン感謝サーキット>は終わるけど、別にこれからも唄う時は、普通にみんなには感謝してるから」
笑い声と拍手が起こる。後藤の素直な気持ちなのだろう。
「ありがとう。まあ、どっちが先かじゃなくて、お互いさまだね。“ありがとう”は」
いいこと言うな、と思った。そうしてまた拍手が起こったあとに始まったのは、「出町柳パラレルユニバース」だった。
◆ ◆ ◆
秋から続いていた全30本のツアー<ファン感謝サーキット>のファイナル。その開幕直後に、早々とピークポイントのひとつが訪れた。「リライト」である。
ライヴは、まずはバンドが音を鳴らしていく高揚感に満ちた「センスレス」でスタートした。続いては「振動覚」。2ndアルバム『ソルファ』の1曲目だ。フロア中から拳が上がり、“オイ!オイ!”の声が沸き上がる。そしてその興奮をさらに熱くしたのが同作の2曲目である「リライト」だった。
沸騰するフロア、あちこちで起こる“消してリライトして”の大合唱。ギターロックの最高のエクスタシーを持つこの曲には、よく知られているように中盤にリズムがダブに変わる箇所がある。今回はここで、MCが入った。
「現在、「リライト」の間奏を演奏しております。各所で話題の曲ですが……」
本当に普通に話すような後藤の語りが面白い。そして彼が「各所で話題の曲」と言ったのは、この歌が12月22日(日)に決勝戦が生放送された『M-1グランプリ2024』のプロモーションビデオに起用されていることを指している。
それがこちらの心に食いついてくるような、非常に熱い映像になっているのだ。
人生をかける漫才師たちの情熱がギュッと凝縮されているかのようである。ここでは過去にも日食なつこ、ウルフルズ、宮本浩次といったアーティストとのコラボ映像が作られているが、今回の制作側も相当に気合が入っているのがわかる。特に“君を成す原動力 全身全霊をくれよ”のように、歌詞の表現と『M-1』の世界とが激しく呼応する瞬間が極めて熱い。
「リライト」は初期のアジカンの代表的な曲だ。歌詞からは、自分という存在をどうしていくべきなのか、この生を満たすにはどう生きていけばいいのかという、暗中模索からの絶叫が聞こえてくるかのよう。その心象風景は『M-1』に臨む芸人たちの姿にリンクするところが多分にある。そこには青春の匂いも香る。
ライヴレポートに戻ろう。「リライト」のダブ部分のMCである。浮遊感と、今のアジカンらしいしなやかなヘヴィネスをたたえた音の海の中で、後藤は続けて言った。
「この曲の2番は、みんなのものだからさ。みんな、どうか自由に、唄って、踊ってください」
その言葉には、後藤がこのバンドとファンに対しての気持ちが出ているように僕は感じた。今夜の半ばのあたりでの彼は、「自分たちの曲をカバーしたいという申請がよく来て、それを断ることはない、唄ったりカバーしたりはどんどんやってくれていい」とも言っている。アジカンというバンドは今ステージ上にいる4人から成るものが、その音楽を「みんなのもの」だと、聴く人やファンが心の底から楽しむものであると認めているのだ。そこに彼らの懐の大きさと、さらにはファンとのいい関係性を感じる。
「こうやって(演奏することで)みんなの心に届くものがあって。まあ決して、まったく一緒とは限らないけど、近しいフィーリングを感じられることは、すごく素敵なことだと思う」
「ダイバーシティという、ちょっと綴りが違うけど、多様性みたいなことをもじってるわけでしょ、この場所も。みんなの趣味とか、好きな味噌汁の味噌の色、違うでしょ?……今のはいいたとえじゃなかったけど(笑)、俺たちはいろんな違いを乗り越えていけるんだ、でもどっかで共通項があるんだ、みたいなね。それがアジカンの音楽だったらうれしいです。ありがとう」
こういう感謝の思いをストレートに言えるのは、バンドが長い時間をかけながら活動の方向性を見出してきて、そこでファンたちとどんな関係を築いていけばいいか ということに誠実に向き合ってきたからだろう。それは夏の横浜BUNTAIでの<ファン感謝祭>でも感じたし、今日もまた同じくだ。夢や希望は表明して、形にしようと努力する。だけどカッコつけず、ウソもつかない。そのたびにファンの気持ちと向き合ってきたバンドだと思う。
今夜も新旧の人気曲とレアな曲をバランス良く取り交ぜたセットリストで、最も新しい曲が3年前にシングルで出した「エンパシー」。ちょっと昔の曲が多いのは、ファンからリクエストされた曲の顔ぶれを勘案し、いろいろな人が楽しめるものを、というところから選んでいるのだろう。なお「エンパシー」は多層的な構成を持つ曲で、4人だけでの演奏では、喜多が足元のエフェクターを駆使しながらカラフルな音色を作り出すことで見事に表現されていた。
また、先ほどの序盤の「振動覚」からの「リライト」(『ソルファ』)、あるいは中盤、オレンジから青へと移っていく照明が美しかった「転がる岩、君に朝が降る」を受けての「或る街の群青」(『ワールド ワールド ワールド』)のように、それぞれのアルバムの流れを想起させる箇所があるのも心憎かった。今までにもアジカンはこうしたアプローチをしているが、今回のツアーではスポットを当てる作品を日替わりで組み込んでいたようである。
楽曲の2連チャン絡みで言えば、最終コーナー前に配置されたメニューでは喜多が2曲続けてリードヴォーカルをとった(この日は「嘘とワンダーランド」と「お祭りのあと」)。そのあと、レア曲に関しての話から、後藤はこんな話をした。
「素敵なことだよね。だって俺たちデビュー20周年なわけだから…(会場に拍手)…ありがとう。21周年だと、二十歳ぐらいの子とか10代の子とかは、俺たちが最初のアルバムを出した時に生まれてないんだぜ。そんなこと、ある? 口にしてみたら衝撃だね(笑)」
2024年は正確に数えればデビュー21周年だからこうした話になっているのだが、たしかにアジカンが世に出てからそれだけの年月は経っている。しかも4人がデビューしたのは20代後半で、あの頃のバンド界隈としては決して早いほうではなかった。だから今年の後藤が年男だというのも納得である。
話の流れで先ほどの「リライト」を例に挙げるなら、この曲だって発売から20年が経過しており、当時、人気アニメ『鋼の錬金術師』の主題歌として触れた人も多いだろう。あの頃はロックバンドがアニメの曲を唄うのは今ほど一般的ではなかったが、アジカンはそれに果敢に挑んでいたのだ。そこから「リライト」はバンド屈指の有名曲になった。そしてあの時代に若くしてアジカンの音楽に触れた人たちも、今や立派に大人の年齢になっているはずだ。だから当たり前のことだが若い子中心だった客席の光景もだんだん変わってきていて、そこにはバンドの今の姿と相まって、4人が積み上げてきたものの厚みを感じる次第である。
ライヴの終盤は「橙」から問答無用の「君という花」、そして締めは「海岸通り」。この一連でもやはりオレンジ色が最高の舞台空間を作る場面が多く、そこにアジカンのリリシズムを強く感じた。
アンコールは最初に後藤が現れ、自身が設立したNPO法人のアップルビネガー音楽支援機構のクラウドファンディングが成功したことを報告。静岡県藤枝市のレコーディングスタジオの建設はこれから具体的な段階に入っていくようだが、寄付はいくらあってもうれしいとのことである。この日もロビーで寄付を募っていたので、僕も少額だが協力をさせてもらって、リターンのステッカーをもらった。話のあとに後藤はひとりでアコースティックギターを弾きながら、まずは「今を生きて」を歌唱。それから次の「ソラニン」は、後半にオアシスの「ワンダーウォール」の最後のリフレインをつなげて唄われる。そういえば夏のBUNTAIの頃はオアシスが再結成した話題で盛り上がっていたのが、今では来日公演のチケットが即完している状況になっている。
続いて、今回も喜多と山田貴洋のユニットのCosmostudioが登場。彼らは終始笑顔で、2曲のうちの1曲では伊地知潔がドラムを叩いたりと、本当に最高の仲間たちである。バンドというものは時間の経過とともにその形を変えていくことが多いが、アジカンは25年以上メンバーチェンジもなく、しかも活動が止まったこともない。気がつけばいつもそこにいてくれるバンドであることは、ファンにとってうれしい存在に違いない。
最後の最後の「出町柳パラレルユニバース」。ダブルアンコールだというのに、“少しずつ影が背を伸ばしても まだまだ終わりじゃないさ 今日”と唄われるのを耳にして、ついグッと来てしまった。そこから曲は極彩色のようなアウトロへの展開を見せていった。
「どうもありがとう」
残響の中、後藤が最後の感謝の言葉を口にした。4人が手を振りながら消えていく。アジカンの物語は続いていく。そして、新曲のリリースも期待したいところだ(2025年2月19日に31枚目のシングル「ライフ イズ ビューティフル」リリース)。ASIAN KUNG-FU GENERATION。これからも、頼むよ。
取材・文◎青木 優
撮影◎山川哲矢
■<ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2024「ファン感謝サーキット」>12月19日(木)@東京・Zepp DiverCity(TOKYO) セットリスト
02. 振動覚
03. リライト
04. 夏の日、残像
05. バタフライ
06. エンパシー
07. それでは、また明日
08. 十二進法の夕景
09. 転がる岩、君に朝が降る
10. 或る街の群青
11. ナイトダイビング
12. 嘘とワンダーランド
13. お祭りのあと
14. 荒野を歩け
15. 江ノ島エスカー
16. 橙
17. 君という花
18. 海岸通り
encore
en1. 今を生きて
en2. ソラニン
en3. 雨上がりの希望
en4. 冷蔵庫のろくでもないジョーク
en5. 迷子犬と雨のビート
en6. 遥か彼方
W.encore
en7. 出町柳パラレルユニバース
▼<ファン感謝サーキット>Tour Final セットリストプレイリスト
https://kmu.lnk.to/AKG_Tour2024
■シングル『ライフ イズ ビューティフル』
予約リンク:https://kmu.lnk.to/LiB_CD
【初回生産限定盤 (CD+Blu-ray)】
KSCL-3570〜3571 2,420円 / 2,200円(税抜)
【通常盤 (CD)】
KSCL-3572 1,100円 / 1,000円(税抜)
▼CD収録曲 ※初回 / 通常共通
01. ライフ イズ ビューティフル
02. Beautiful Stars
▼Blu-ray ※初回生産限定盤特典
2023年8月にインドネシアのジャカルタで開催されたワンマン公演より全8曲収録
<ASIAN KUNG-FU GENERATION 2023.8.18 JAKARTA, INDONESIA>
01. センスレス
02. Re:Re:
03. リライト
04. 宿縁
05. ブラッドサーキュレーター
06. N.G.S
07. 遥か彼方
08. 転がる岩、君に朝が降る
▶セットリスト / 2023.8.18 JAKARTA, INDONESIA
https://kmu.lnk.to/AKGSetlist0818
●購入特典
・Amazon.co.jp:メガジャケ (CDジャケットの24cm×24㎝サイズ)
・楽天ブックス:オリジナルアクリルキーホルダー
・TOWER RECORDS全店(オンライン含む/一部店舗除く):オリジナルジャケットサイズカード
※特典は数に限りがありますので、無くなり次第終了となります
※特典絵柄は追って発表します
■TVアニメ『FARMAGIA』
放送開始:2025年1月10日(金)
▼放送局
・TOKYO MX:1月10日(金)より毎週金曜22:30~
・MBS:1月10日(金) より毎週金曜26:53~
・BS11:1月10日(金)より毎週金曜23:00~
▼配信 ※地上波同時配信
ABEMA、Lemino、アニメタイムズ
https://www.marv.jp/special/game/farmagia/
■ASIAN KUNG-FU GENERATION -THE FIRST TAKE- 音源配信
配信リンク:https://bio.to/AKG_TFT
▼「遥か彼方 - From THE FIRST TAKE」
配信URL:https://kmu.lnk.to/HarukaKanata_TFT
▼「転がる岩、君に朝が降る - From THE FIRST TAKE」
配信URL:https://kmu.lnk.to/RMLFY_TFT
▼「ソラニン - From THE FIRST TAKE」
配信URL:https://kmu.lnk.to/Soranin-FromTFT
▼ASIAN KUNG-FU GENERATION(後藤正文) & 世武裕子「エンパシー - From THE FIRST TAKE」
配信URL:https://kmu.lnk.to/Empathy-FromTFT
■<M bit Live #3 ASIAN KUNG-FU GENERATION × Omoinotake>
open17:00 / start18:00
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION / Omoinotake
▼チケット
6,900円(税込)
※ご入場時ドリンク代別途600円※お一人様1公演につき4枚まで
※未就学児童⼊場不可/⼩学⽣以上チケット必要
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