【インタビュー】KAMIJO、ギタリストHIROと語る『VIOLET DAWN』と'90年代の正解「一番のテーマは新しいライヴのスタート」
■「ベースでユニゾン」と言ったのは
■KAMIJOさんですからね(笑)
──「Odyssey」はリフにダークな印象がある曲ですが、これはどんなイメージで書かれたんですか?
KAMIJO:この曲はBメロとサビが『OSCAR』(2022年)の頃にあったんですけど、そのままお蔵入りになっていたんですよ。なぜお蔵入りしていたかというと、サビで長3度の転調をするんですね、4半音。でも、戻れなかったんですよ、転調後に。ところが今回、イントロリフを作ったらサビにいい感じで繋がって、曲として仕上がったんです。最初にHIROさんに「今度、こんなのを弾いてもらおうと思うんです」って聴いていただいたとき、「何かノスタルジーを感じますね」って言ってくださったんですね。だから、そのときの仮タイトルは「ノスタルジー」だったんです(笑)。だったんですけど、最終的に「Odyssey」っていうイメージが湧いてきて。
──長い旅や冒険を意味する言葉です。
KAMIJO:「Odyssey」っていうイメージが湧いた後、ヨーロッパツアーのときに歌詞を書こうと思っていたら、ちょうど初日のパリ公演が6月8日で、ルイ17世の命日だったんですね。意図せずに決まった日程だったんですけど、“これは…”ということで、ライヴ当日の朝からサン・ドニ大聖堂に初めて行ったんですよ。ルイ17世に“物語が出来上がったよ”って報告しつつ、一緒に乾杯するぐらいの気持ちで。ただ、現地に着いてみたら、すごく低いところに彼の心臓のミイラが飾られていたんです。それを目にした瞬間、“僕は何をうぬぼれてたんだろう、失礼なことをした”って思うぐらい衝撃を受けたんです。“誰も信じられない”みたいなメッセージもすごく感じましたし。マリー・アントワネット、ルイ16世といった周りの方々は墓があるんですけど、こうやって実態が見えるのはルイ17世だけなんです。こんな事実を目の前で証明されて。“いくら自分が10年もの間、彼について歌ってきたとはいえ…。何て自分はちっぽけなんだろう”と思って。そのとき、“彼の未来を本当に明るくするのは……。それまで、まだまだ僕の追究の旅は続くんだな”と思って、こういう歌詞にしました。「Odyssey」というタイトルは歌詞を書く前に決めていたんですけど、ルイ17世のことを歌うとはまったく思ってなかったんですよね。
──サビ部分などを見れば、ルイ17世に関することを歌っている内容だと気づきますが、そんな経緯があったとは。これまでにやってきたことを見つめ直しつつ、新たにやるべきことも見い出した。そういう転換点になりうる曲なんですね。
KAMIJO:そうですね。曲の世界を作っていく上で、HIROさんとプリプロをさせていただいたんですけど、“まさにHIROさん!”というフレーズのおかげで、先ほど「長3度の転調から戻れなかった」と話した部分が戻れたんですよ。実音でAマイナーのフレーズが入ったことで、サビのC#マイナーキー対する4度のマイナー、つまり、ちょっと眠くなるコードというか、ノスタルジーなコードで戻れたという。自分の中でも理論付けができたんですね。
HIRO:「転調から戻るきっかけになった」というのは今初めて知ったんですけど(笑)、そういう話を聞くと、自分の役割はちゃんと果たせたのかなって思いますし、それが形になって世に出ることも嬉しく思います。
KAMIJO:今までだったら、同じギターリフが曲の別の部分に出てきたとしても、僕はキーをガンガン変えていたんですよ。でも今回は、“ギターリフのキーを変えたくない。転調後もそのギターリフのキーに戻したい”というテーマがあったんです。C#マイナーキーのリフから始まりますけど、Aメロでいきなりキーを4つ落として。サビでまたC#マイナーに戻し、その後のイントロもC#マイナー、その後にまたAマイナーに転調するんですけど、まったくブリッジなく、いきなり転調できてるんですよ。これは奇跡だなって。「Twilight」もそうなんですけど、特に「Odyssey」に関して、HIROさんとのプリプロ作業でかなり曲の世界を作っていただきましたね。
▲初回限定盤
──すごいこだわりです。そこまでやらなくても曲を成立させることはできるはずですし…とはいえ、KAMIJOさんにとってはそれが普通のやり方ではあるんですよね。
KAMIJO:いや、僕も“やりすぎかな”って思うときもあったんですよ。でも、自分と同じぐらい構築にこだわってくださる方…HIROさんがいらっしゃった。僕としては「美しい日々の欠片」のときから、“なるほど、だからLa'cryma Christiはあんなに偉大なバンドだったんだ”と思わされることがたくさんあったんですよ。
──拍車をかける存在が身近にいることで、ご自身も自然に、より探究する姿勢になったと。
KAMIJO:「やっぱそこまでいかれますよね」「そうですよね」っていう。今まで誰もそのレベルでこだわる人はいなかったんでけど。HIROさんだけなんですよ、この方向でこだわる方は。
HIRO:僕は自然とそういう意識になってますね、レコーディングするときって。自分の役割はやっぱり曲を彩ることだと思ってますし。自分がレコーディングに参加していなかったKAMIJOさんの過去曲も、ライヴをやるにあたってコピーするじゃないですか。もちろん超絶なんですけど、「もっと違うアイディアも遠慮なくどんどん出してください」といった話をいただいたり、KAMIJOさんも「HIROさんのスタイルでやってください」と言ってくださったんですよね。それなら、自分の得意なところを出して曲を彩り、メロディーを持ち上げる…たまにやりすぎることもあるんですけど、そこは2人で意見を出し合ったり。
──Aメロの冒頭2行の歌の後ろで鳴っているギターと、ベースと思しき音も印象的です。
KAMIJO:あぁ。IKUOさんが「タッピングでめちゃめちゃ苦労した」っていう話をしてました(笑)。
HIRO:いやいや、「ベースでユニゾンしたら」って言ったのはKAMIJOさんですからね(笑)。その瞬間、すげぇプログレッシヴで、めちゃめちゃカッコよくなって。
──ライヴのときにどう聴かせるのか興味深いですよ。
HIRO:確かにそう思います(笑)。
──クワイアと鐘の音で厳かに始まる「INTENSE CARESS」は、サビなどからもライヴでの光景が思い浮かびますが、そういった意識で作った曲なんでしょうか。
KAMIJO:まず、このテンポ感でいこうと思ったきっかけは、イングヴェイ・マルムスティーンなんです。ただ、そのテンポ感で、ツーバスではない。その上にリフを乗せる。これがこだわりでしたね。歌うことは愛することと一緒で、言ってみればカレス(愛撫)なわけで。ライヴそのものがその行為であるかのような、そういう曲でありたいと思ってますね。
──イングヴェイ・マルムスティーンがきっかけというのは?
KAMIJO:イントロリフの着想といいますか。そこはイングヴェイ・マルムスティーンのリフを聴いてて、“何てカッコいいんだ。俺もこういうリフを作りたい”といったところからイントロを作り始めました。タイプは全然違うんですけどね。
──この曲のギターはYUKIさんが弾いていますが、レコーディングではメンバーにどういうリクエストしたんですか?
KAMIJO:バッキングを含めてかなり作り込んだデモを「好きに弾いてください」とYUKIくんに渡したんですが、結構忠実に弾いてくれて。でも、YUKIくんらしさもちゃんと入れてくれましたね。ギターのリズムの譜割とか“スピード感を出したい”とか、こだわりは先に伝えて。たとえば、ブリッジミュートのだんだん閉じてく感じなども細かくやり取りした上で、レコーディングしてもらいました。それと、ベースとドラムはレコーディングに立ち合っているんですけど、IKUOさんのベースに関しては、とにかく思いっきり弾いてもらって、あとで削っていくパターン。shujiくんは作り込んだものをしっかり叩いてくれるドラマーなんですね。彼は結構シンプルなドラムが好きなので、そこら辺もちょっと考慮しつつ、自分の好みを入れながら作っていきましたね。
──クワイアと鐘の音で始めたことにも絶対的な理由がありますか?
KAMIJO:いや、鐘の音にしたかったというよりも、リフに入った瞬間のスピード感を出すために、その前の拍子を変えたかったんですよ。そうなったときにそのフレーズが自然と鐘の音になった感じですね。クワイアとチューブラーベルは僕のいつものサウンドなので、聴いた瞬間に、“KAMIJOサウンドだな”って感じてもらえると思います。
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