【ライブレポート】“うたいびと” 鈴華ゆう子

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鈴華ゆう子が6月30日、自身のバースデーライブ<Rockin’ Birthday 2024 -CRADLE OF ETERNITY->を開催した。

ライブタイトルに掲げられた『CRADLE OF ETERNITY』とは、鈴華ゆう子が2016年にリリースしたソロデビューアルバムのタイトル。“なぜいまこのタイトルを掲げるのか”、それは鈴華ゆう子の想いの現れであった。CRADLE OF ETERNITY、その先へ──。

◆ライブ写真

開演時間を少し過ぎた頃に、バンドサウンドに和楽器、鈴華の吟詠がのるSEが流れ始めた。そしてNarukaze(G)、わちゅ〜(B)、広田圭美(Pf, Key)新保惠大(Dr)のメンバー、続いて鈴華ゆう子が現れ、ソロデビューアルバム『CRADLE OF ETERNITY』のリード曲でSDガンダム ジージェネレーション ジェネシス OPテーマの「永世のクレイドル」でライブの幕が開けた。

この日は“Rockin’”という言葉が掲げられている通り、ロックバンド編成でのライブだ。鈴華+バンドというワードだけを聴けば当然、彼女がボーカルを務める和楽器バンドが思い浮かぶのだが、1曲目だけでも分かった。いくらバンドと一緒だと言っても、今日の鈴華は“和楽器バンドのボーカル”を感じさせない。“歌手”だった。


「ひとつになって最後まで一緒に盛り上げていくぞ!」と会場を煽ったあとは、広田圭美の銀河を降っていくような綺麗な旋律から、同じくSDガンダム ジージェネレーション ジェネシスのEDテーマ「Remains」が続く。「Remains」は、なんとライブ初披露だ。一気に広がるサビではペンライトで大きな光の波が生まれ、間奏ではヘッドバンキングも起きる。

2曲目にしてすでにライブハウス然と仕上がっている会場。これまで鈴華のバースデーライブはコンサート形式だったので戸惑いもあるのかと思いきや、全くそんな心配はなさそうだ。なんと海外からやってきたというファンもいるようで、熱量は申し分ない。鈴華はそんなファンたちに向け『CRADLE OF ETERNITY』を掲げたライブをようやく実現できたことへの御礼を述べ、「私自身次のステージに向かっていこうかなと思っているところでもあるので、『CRADLE OF ETERNITY』をこんなにまるっとやるのは見納めかな」と語った。

続くターンは「ラヴィ」「酔いどれ知らず」と、ボカロ曲の連続。もともとニコニコ動画から見出された鈴華のルーツを辿るような2曲だ。本家リスペクトのイラストも美麗な“歌ってみた”動画も公開されているが、生で聴くと鈴華のボーカル力に驚かされる。転調やリズム変化は難なく乗りこなし、その上で可愛い声やドスの効いた声、はたまた詩吟調の声を入れるなど、まさに七変化。「酔いどれ知らず」のムーディーな雰囲気を引き継ぎつつの、オリジナル曲「背中合わせ」への流れも心地よかった。


ここでバンドメンバー紹介。それぞれ、鈴華の歌にふさわしい実力派の面々だ。Narukazeは「ゆう子さんの隣で弾くなら裸足かな」と、和楽器バンドの町屋(G)へのリスペクトも忘れない。わちゅ〜はこの日のSEも制作、鈴華とは同じ出身地ということで水戸弁でトーク。新保惠大はニコニコ動画時代からの知り合いで、和楽器バンドの山葵(Dr)とも仲が良いという。広田圭美、通称たまちゃんは、鈴華の親友でもはやお馴染みの存在だ。それぞれと良い空気感で、この日のライブができていることが実感できた。

そして今日最初のハイライトと言える、バラードメドレーへ。ファンのペンライトとスマホライトで一面白く輝くフロアに、「雪時計」のオルゴールの音が響く。雪原を1音1音踏みしめるように、歌詞を大切に紡いでいく鈴華。しんとした透き通る声がとても美しい。そのまま「カンパニュラ」へ。バンドも入ってのサビの迫力、そしてラストのロングトーン。誇張ではなく、本当に鳥肌が立つ凄みだ。「雪時計」の切なさから時を経て、より深部へと響くようになった「カンパニュラ」。歌が描き出す情景に圧倒され言葉も出ない。

ここでバンドインストが挟まれ、世界観が一変。誰も何も合図を出したりなどしていないのに、自然とフロアにはクラップが起こり、ファンもみんな音楽を楽しみに来ていることがわかる。バンドメンバーのセンス抜群なソロ回しに心が湧き立ってきたところで、津軽三味線の匹田大智と鼓の仁が登場。会場に和楽器サウンドを響かせる。桜menなどのユニットで活動する匹田、竜馬四重奏のリーダー仁は、もともと鈴華との付き合いも深いという。


満を持して鬼面をつけた鈴華が登場。オハコの和メロ曲「鬼の宴」が披露される。いまたくさんの人がカバーしている「鬼の宴」だが、バンドに和楽器、こんな豪華な演奏はなかなかないだろう。鈴華の詩吟の発声も心地よく、空気作りもお手のものだ。

「お家芸でもある和ロックで、盛り上げていきたいと思います!」と勢いよく宣言すると、Q-MHzとのコラボ曲でアニメ『ピーチボーイリバーサイド』OPテーマの「Dark spiral journey」を、津軽三味線&鼓を加えた編成のまま披露。ピアノと三味線の音飾で、原曲よりも疾走感が増している。和ロックボカロ曲の代表格「いろは唄」では、仁の掛け声がいいアクセントに。《犬のように》の歌詞のとおり、鈴華が仁の首飾りを引っ張る艶かしいパフォーマンスにも、会場が沸く。


ファンが舞扇子を取り出した。鈴華は剣詩舞も学んでおり、これまでのライブパフォーマンスでもたびたび扇子を使用してきた。今回、初めてグッズとして本格的な舞扇子を作ることができ、それを使って「百年夜行」が披露されるのだ。事前にレクチャー動画が公開されていたおかげか、ファンも見事な扇子さばき。こんな光景が見られるのは、おそらく鈴華のライブくらいではないだろうか。ちなみに「百年夜行」はソロで初めてメジャーリリースされた楽曲。初のリリースからここまでの歴史を寿ぐような、雅な一幕だった。

鈴華が白い布と扇子を使った舞を見せたインストで和楽器の2人がはけ、全力でタオルを回す「マトリョシカ」で再びバンド編成へ。熱いライブもいよいよ終わりに向かう。ここで投下されたのが、TVアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』挿入歌「戦火の灯火」。「マトリョシカ」とは違う熱を生み出す、エモーショナルなロックバラードだ。哭きのギターも冴わたる。そのスケールを引き継いだ「RE:I AM」では、まるでグランドミュージカルを見ているような広がりが生まれる。『CRADLE OF ETERNITY』にも収録されていたカバー曲だが、そのときよりも数段表現力が増しているように思える。歌手としての本領発揮だ。


いよいよライブはラストへ。鈴華は今日ここに集ってくれたファンに感謝を述べる、そして「これからも1人1人に寄り添っていける歌手でありたい。人生かけて歌っていきます」と想いを述べた。最後の一曲は、「step forward」。いままさにこの空間を共にしているファンへの気持ちにも寄り添う、背中を押してくれる楽曲だ。会場の端から端まで笑顔を届け、ライブ本編を締め括った。

ファンの「みんなのアイドル!」「鈴華ゆう子!」「納豆大好き!」「鈴華ゆう子!」という、和楽器バンド「花になれ!」の歌詞を引用した愛あるアンコールを受けて、再びステージに登場した鈴華はソロで全国ツアーをやれるようになりたいという目標を語る。そして続けて「いろんなことがあるんだけど、私が歌い続ける限り、絶対につぶれない。私の大切な仲間たちも必死に、自分というものをもっともっと大きく成長しようとして、もがいています。やめなければ終わりは絶対ない」と。これは活動休止を発表している和楽器バンドのファンにも向けた言葉だったのかもしれない。


アンコールは、鈴華の想いが詰まった「うたいびと」と、もはやオハコ中のオハコとなった「千本桜」の2曲だ。

「うたいびと」は、本当に素敵な歌だ。今日一番柔らかな手触りの歌声が、それぞれの心象風景を描き出す。ピアノ1本というシンプルさが、その歌をより引き立てる。ささくれだった心の傷を柔らかく包み、孤独な背中にそっと寄り添ってくれるような優しさを感じる。

『CRADLE OF ETERNITY』の頃には歌えなかった曲だと思う。もちろん鈴華は当時から高い歌唱力の持ち主で華があったけれど、キャリアを重ね、酸いも甘いも噛み分けてこそ歌える歌がある。ただ歌がうまいだけの人には出せない、層がある。特にこの数年はライフステージの変化、10年間走り続けてきたバンドの活動休止、外側から見ているだけでも、彼女自身に色々なことがあったと察せられる。

でもどんなときも歌い続けてきた鈴華の歌だからこそ、支えられる人がいるし、救える人もいる。鈴華は今日この日を持って、また『CRADLE OF ETERNITY』の頃とは違う歌手、いや“うたいびと”になっていくのだろう。そしてそんな“うたいびと”としての鈴華の歌を、これからもずっと聴いていたいと思う一夜だった。

取材・文◎服部容子(BARKS)
写真◎KEIKO TANABE

<鈴華ゆう子 Billboard Live2024 -Autumn Songs->

【ビルボードライブ横浜】(1日2回公演)
2024/9/29(日)
1stステージ 開場14:00 開演15:00 / 2ndステージ 開場17:00 開演18:00

・チケット料金  ※飲食代金別
【横浜】
DXシート カウンター ¥9,800-
S指定席 ¥9,800-
R指定席 ¥8,700-
カジュアル センターシート ¥9,300-(1ドリンク付)
カジュアル サイドシート ¥8,200-(1ドリンク付)

・発売日
2024/7/29(月)正午12:00=Club BBL会員・法人会員先行(ビルボードライブ)
2024/8/5(月)正午12:00=一般発売開始(ビルボードライブ/e+/ぴあ)

*チケットはビルボードライブ公式HPおよびプレイガイド(e+・ぴあ)にてご購入いただけます。
*ビルボードライブ公式HPでチケットをご購入いただく際にはHH cross IDへの登録(無料)が必要となります。
*HH cross IDとは阪急阪神ホールディングスグループが提供する様々なサービスを、
ひとつのIDでご利用いただくためのIDです。(https://www.hhcross.hankyu-hanshin.jp/ 参照)

ビルボードライブ公式HP:http://www.billboard-live.com/

▼公演に関するお問い合わせ
ビルボードライブ横浜:0570-05-6565
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