【インタビュー】LUNA SEA、RYUICHIが語る『MOTHER』『STYLE』と30年「何を失って何を得たのか」
LUNA SEAが1990年代に産み落とし、日本ロック史に多大なる影響を及ぼし続けてきた伝説的名盤『MOTHER』(1994年発表)と『STYLE』(1996年発表)を完全新録したセルフカバーアルバムが11月29日、2作同時リリースされた。また音源だけでなく、二大ツアーを現代に蘇らせて完全再現する<LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023>が10月7日および8日に神奈川・Kアリーナ横浜で開幕、各地で喝采を浴びている。
◆RYUICHI [LUNA SEA] 画像
「仕上がりを聴いて、5人でブッ飛んだ」とRYUICHIが目を輝かせて語るロックな仕上がりのミックスは、U2やローリング・ストーンズなど名だたるアーティストを手掛け、LUNA SEAとは10thオリジナルアルバム『CROSS』以来二度目のタッグとなるスティーヴ・リリーホワイトが担った。音源もライブも、セルフカバーとは言ってもノスタルジーには決して終わらせず、新鮮な驚きと美しさに満ち溢れ、“今”の輝きを放っているのはなぜなのか? その真相に迫るべく、様々な角度から質問を投げ掛けた15000字のロングインタビューをお届けする。
◆ ◆ ◆
■課せられた罠や障害を乗り越えられたら
■昔の自分を凌駕して俺は絶対に進化できる
──<LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023>が10月7日および10月8日の神奈川・Kアリーナ横浜より開幕しました。手応えはいかがですか?
RYUICHI:想像していたよりも、自分的には手応えを感じています。というのは、僕自身いくつかの喉の不調を経て、<復活祭 -A NEW VOICE- 2022.8.26,27>(8月26日および8月27日@日本武道館)とかいろいろなライヴをしてきた後に、発声障害を持っているかもしれない、ということが分かってきて。ネガティヴではなく、これをポジティヴに捉えたいなと思ったんです。
──発声障害かもしれないという事実を。
RYUICHI:最初は気付かなかったんですね。第1回目は2019年、肺腺がんの切除手術の後に受けた声帯ポリープ切除手術。その後は何ともなかった。次はツアー<LUNA SEA 30th Anniversary Tour 20202021 -CROSS THE UNIVERSE->中に毛細血管の異常による静脈瘤ができて。それも発見までにすごく時間が掛かったんです。僕はソロで“8時間以内に100曲を歌うソロアーティスト”というギネス記録も持っているし、9時間近いライヴを行ったこともあるのに、なぜLUNA SEAのライヴ本番では4〜5曲歌っただけでもう声が出なくなるぐらい不調になるんだろう?って。
──なるほど。
RYUICHI:ヴォーカリストには、風邪をひくとか様々な理由からくる不調って元々付きまとうものだから、 パーフェクトな声帯のまま歌える日が1年間に何日あるかと言うと、絶対的にそれは少ないんです。だから、ヴォーカリストとして歌っている中では気づかなかった。それが、喉の検査のために胃カメラを飲んだ時に、ライヴ翌日、声帯の片側が血豆のように真っ黒になっているのが分かって。つまり、静脈瘤が切れて血液が溢れ出すことで、声帯の厚みや重さに変化が生じるから、声が上手く出ないんですね。それでもその状態をコントロールしながら誤魔化しつつ歌うことで、なんとかツアー<CROSS THE UNIVERSE>は貫通したんですけど。
▲<LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023>11月4日+5日@福岡公演
──2021年12月23日の<SLAVE MEETING 2021>、2022年1月の<LUNA SEA 30th Anniversary Tour -CROSS THE UNIVERSE- GRAND FINAL>後に静脈瘤除去の手術を受けること、それに伴いLUNA SEAが活動休止することが発表されました。
RYUICHI:静脈瘤を除去する他にも、無理して歌ったぶん結節もあって、それらの手術をしたんです。本来はそこで治療は終わっていたはずなんですけど、なかなか復活が遅くて。“それはなぜなんだろう?”と考えていくと、ある規則性に気付いたんです。どういうことかというと、ある音程や発音に対して発声障害を自覚する瞬間があった。ただ、僕の初期からのボイストレーナーの方と復活を目指したトレーニングやっていても、発声障害とは言われず。一方で、いろいろな方に相談するうちに「もしかしたら発声障害かもしれない」と言う方もいたり、あるお医者さんには「スタートラインをまたいでいる」と言われたんですが、まさにそうだなと。
──初期症状が出ているということでしょうか。
RYUICHI:もっと先へ進んでしまうと何年間も歌えなかったりするようなんですけど、僕は幸いまだ“またいでいる”段階で。「その毛はあるけど、ジストニアじゃない」と言う人もいれば、「ジストニアですね」という人もいるというライン。そこから今回の<DUAL ARENA TOUR>に向かって、『MOTHER』と『STYLE』のセルフカバーアルバムのレコーディングもあったし、自分が信じられるエクササイズやフィジカルの作り方を模索しながらずっと実践している。なので、最初の話に戻ると、アリーナツアーの手応えとしては、 自分が想像していたよりも少し良い状態で歌えている気がしています。そこに関しては本当に良かった。
──「発声障害の可能性もある」というお話は、今初めてお聞きしたので、少し驚いています。
RYUICHI:表立っては言ってないですし、診断も先生によって分かれますからね。でも、確実に同じポイントで躓くという規則性を自分で見付けたので、“またいでいる”ということなんでしょう。ただね、先ほども言ったように、365日のうち万全な声帯でレコーディングやライヴをできる日は少ないし、ヘヴィユースし過ぎて声が枯れていたりすることはあるし。だからプロのスポーツ選手がケガして痛めているところはあれどもピッチにしっかりと立つ、みたいな感じですよね。自分に課せられたこの新たな罠というか足枷というか障害を乗り越えることができたら、俺は絶対に進化できると思ったんです。
──強いですね。
RYUICHI:今まではノンプレッシャーで、ステージに立てば歌えていた自分の“曖昧な宝探し”ではなく、今は1cmでも10cmでも1mでも前に進むための“的確な宝探し”をしていて。そうすることで、過去に取りこぼした宝物をもう一度拾うことができると思っているんです。今回の再現ツアーで、“これは忘れちゃってたね”というものを拾えた時に、昔の自分を凌駕する進化した自分になってるんじゃないかな。
──今回のツアーは、セルフカバーによる再現ツアーとは言えども、懐古的ではなく今のLUNA SEAを体感させてくれるものになっています。ツアー続行中なのでネタバレのないようにお話できればと思っていますが、「FOREVER&EVER」の映像演出には涙を禁じ得ませんでした。
RYUICHI:セルフカバーによるレコーディングも再現ツアーも、決して焼き直しではなく、新しいものが生まれているという感覚は強くありますね。
──そもそも1作品だけでも大変だと思うのですが、『MOTHER』と『STYLE』の2作品同時、というプランはどのような経緯で決まったのでしょうか?
RYUICHI:ライヴの話が先にありましたね。2018年に『IMAGE』(1992年発表)のツアー<IMAGE or REAL>の再現ライヴと、『EDEN』(1993年発表)のツアー<SEARCH FOR MY EDEN>の再現ライヴをやっていて。今回の<DUAL ARENA TOUR>とセルフカバーのリリースという発想はavexさんのほうから出てきたものなんです。新しい道を歩み始めるという意味で、とてもチャレンジングで魅力的に思えました。たとえば、海外アーティストの来日時…ポール・マッカートニーでもローリング・ストーンズでも誰でもいいんですけど、やっぱり“聴きたい鉄板曲”というのがあるじゃないですか。僕はビリー・ジョエルのライヴを観に行って「オネスティー」や「ピアノマン」を歌ってくれた時に、涙が流れたんです。ファン心理ですよね。
──それはLUNA SEAにもあることで。
RYUICHI:絶対そうだと思うんです。『MOTHER』と『STYLE』は、“やっぱりライヴでこの曲を聴きたい”って思うであろう永遠のアルバムだし。「LUNA SEAとは?」と聞かれたら、代表する曲が詰まっている2枚でもある。これをただの“約30年前に産み落とされたアルバム”にしておくのはもったいない。<DUAL ARENA TOUR>という発想があるのなら、たとえセルフカバーだとしても新譜としてしっかり作りたかった。僕たち自身、レコーディングでは実際に“新しい作品”だという手応えを感じたし、そもそも古くならないんですよ。30年前の楽曲だとしても斬新さがあって、他のバンドが持っていない“不完全な美学”がある。
──小さくまとまるなんてことが一切ない。
RYUICHI:当時、ものをあまり知らなかったからこそ、こういうすごい作品が生まれたのかもしれないですね。逆に音楽を知り尽くして、“和音のアンサンブルはこう”とか徹底的にアレンジしていってたら、もっと平坦でスタンダードなベスト盤に近いアルバムになっていたはず。そうはならず、LUNA SEAの5人があの当時できることを、メンバー同士バチバチ火花を散らしながら、嵐のような時間の中でレコーディングをしていた。あのピリピリしたムードやヒリヒリした時間が本気度として表れているアルバムなので。
──楽典的な基礎ルールを超越した自由さ、歪さが生んだ美なのかもしれませんね。
RYUICHI:一般的な音楽プロデューサーを入れて作ってたら、もっと無難な作品になっていたかもしれないなってことを、今回のセルフカバーで再認識しましたね。 1989年のデビューから数えて、まだ5〜6年しか経っていない時に、これまで見たことのない彫刻のような、絵画のような……そういう作品を作っていたわけで。そこをど真ん中の大黒柱として、この30数年もの間、ファンのみんなと僕らはやってきた。そういうすごい作品なんだなと思いました。
──アルバム『MOTHER』には「ROSIER」「TRUE BLUE」、アルバム『STYLE』には「END OF SORROW」「DESIRE」といったシングル曲も収められていますが、同時にアンダーグラウンドな匂いやプログレ感のあるコアな楽曲もひしめいています。
RYUICHI:ラジオとかで流しづらい曲も、CMソングとしてはちょっと使いづらいかなって曲も、いっぱいあるじゃないですか(笑)。そういう曲たち1曲1曲も名場面になっていくんです。『MOTHER』はのっけから「LOVELESS」ですからね。
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