吉澤嘉代子、“アイスクリームの日”のワンマンライブで「氷菓子」を初披露

ポスト

吉澤嘉代子が、2023年5月9日(火)EX THEATER ROPPONGIにて《ワンマンショー「アイスクリームの日」》を開催した。7月14日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショーとなる映画『アイスクリームフィーバー』の主題歌として、吉澤が「氷菓子」を書き下ろした記念に行われた本公演。日本アイスクリーム協会が定めた“アイスクリームの日”ということもあり、映画にリンクした演出も行われた。


定刻になるとステージカーテンが開き、バンドの演奏に合わせてウェイトレス姿の吉澤が「アイスクリームのうた」(童謡)を歌いながら登場。あどけなく甘い歌声が、たちまち観客の心をつかむ。舞台一面を這うドライアイスや後方に設置された丸いアイスクリームなど、ステージにはアイスクリーム店を彷彿とさせるセットが組まれていた。


オープニング曲を歌い終えた吉澤は「バンド編成でのライブは日比谷野外大音楽堂ぶりということで、気合を入れて六本木にやってきました。楽しい、アツアツな夜を一緒に過ごせたらいいなと思います」と意気込む。そして、ライブ冒頭のナンバーとしてお馴染みの「未成年の主張」を歌唱。宣言通り彼女の歌は熱を帯びていて、堂に入った立ち振る舞いで見る者を引き込んでいった。


「チョベリグ」では楽曲のワンフレーズをファンとの合言葉“嘉代子が大好き”に歌い替えてコール&レスポンスを行うなど、生き生きとパフォーマンスを続ける。その後サングラスをかけた吉澤とバンドメンバーが「六本木の底力を見せてやれ! 夜露死苦!」と煽ると、不良学生に恋焦がれる女の子を描いた「ブルーベリーシガレット」へ。フロアに降りた吉澤が学生鞄からお菓子のシガレットを取り出し、観客にプレゼントした。


さらに「次は、自分のライブでは初めて演奏する曲です。そして初めて楽曲提供をした曲でもあります」と述べ、私立恵比寿中学「面皰」のセルフカバーを披露。振り付けを交えながら愛嬌たっぷりに歌唱する。ゴンドウトモヒコ(Horns, Sequence)によるホーン演奏が楽曲をファンシーに彩る「鬼」「月曜日戦争」を歌い終えると、吉澤が舞台袖にはける。それまでメルヘンチックで甘い楽曲が続いていたが、暗転とステージに残されたバンドメンバーによる演奏をきっかけに、会場の雰囲気はガラリと変化。伏見蛍(Gt)のサイケデリックなギターや張替智広(Dr)の重厚感のあるドラムをはじめ、ひんやりと仄暗いサウンドがフロアを満たす。

衣装チェンジした吉澤がステージに戻ると、混沌としたサウンドの「ユートピア」を届ける。このセクションでは、ファンタジー性が強く、えぐ味に近い狂気を持った楽曲を展開。歌に静かな熱を秘めた「えらばれし子供たちの密話」、伊賀航(Ba)が牽引するノリと吉澤の艶のある歌声で魅せる「サービスエリア」と続く。伊澤一葉(Key)がタクシー運転手に扮した「地獄タクシー」では、ゆったりとしたアンサンブルによりうねりのあるグルーヴが生まれ、観客を飲み込んでいった。初期のナンバー「ちょっとちょうだい」は演奏が次第に鬼気迫っていくさまが圧巻で、カラフルなフリルのスカートを揺らしながらダイナミックに歌う吉澤の仕草も目を引く。


その後、煌びやかなアレンジで届けた「ニュー香港」や、色鮮やかな照明と厚みのあるギターサウンドで魅了した「グミ」を歌った吉澤は、椅子に腰かける。暗がりのステージにぽっかり月が浮かぶ様子はまるで夜の情景。伊澤と2人で演奏した「よるの向日葵」では繊細なピアノに乗せて今にも泣き出しそうな声で歌っていた吉澤だが、そこからシームレスに続いた「残ってる」では芯のある歌声を響かせる。朝焼けのようなオレンジ色の照明と情感豊かなバンドサウンドも、楽曲の物語を鮮やかに描き出していた。


「まだ一人にしか聴かせたことがない曲です」と告げて披露したのは、未発表の新曲「すずらん」。友人を想い作ったというこの曲は、大切な人の幸せを願う温かな眼差しが感じられる楽曲だ。本編の締めは、友人のひたむきな美しさを讃えた楽曲「ミューズ」。歌唱前に「ずっと聴いてほしかった人に今日聴いてもらえます」と打ち明けていたが、その歌声はフロアにいる一人一人の心に届く力強さがあり、祈るように耳を傾けるファンの姿も見られた。


アンコール開始を告げるブザーが鳴ると、本編終了時に閉じた幕が再び開き、本公演のために用意された『アイスクリームフィーバー』の映像が流れる。「100万年、君を愛ス」――その主人公の一言から、「氷菓子」の演奏がスタート。“百”と“愛”の文字をかたどったネオンや雄大なアレンジ、白いドレスに身を包んだ吉澤による熱のある歌唱が、映画の世界観と共鳴する。


『アイスクリームフィーバー』は、吉澤のアートワーク等も手掛けている千原徹也(れもんらいふ)の初監督作品だ。彼女は数年前に千原から主題歌の依頼を受けたそうで、1~2年かけて書き上げた新曲について「甘い、苦い、冷たい、熱いという矛盾した気持ちを封じ込めたいと思って。それが届かなくても、叶わなくても、今ひとりこの場所で編み続けていることが大切だって、そういう曲にしたいと思いました」と語った。


さらに作品の舞台が東京であることに触れ、「東京絶景」を歌う。本楽曲のミュージックビデオを千原が手掛けているのも偶然ではないだろう。歌い終えた彼女はファンに向けて「ずっとずっと、会いたくてたまらなかったです。みんな大好き」と感謝を伝え、ステージをあとにした。


ライブ定番曲を軸に全20曲を披露した吉澤。テーマやコンセプトを設けてワンマン公演を行うことが多い彼女にとって、今回のようなスタイルのコンサートはしばらくぶりで、そのためどこか新鮮味を感じさせた。一方で、吉澤が積み重ねてきたキャリア、人間関係、歌に対する実直な姿勢が結実したパフォーマンスであったのも確かだ。また、現在の彼女が表現者として充実した日々を送っていることも伝わった。

7月12日(水)には、シングル「氷菓子」がリリースされる。そして7月23日には、配信イベント『「氷菓子」リリース記念~つめたいあまい生配信~』の開催も決定。その先について吉澤は「楽しいことをたくさん用意して待っているので、楽しみにしててください」と公演中に発言した。デビュー10年目を目前に控えた吉澤嘉代子に、さらなる期待がかかる。

文:神保未来
写真:山川哲矢

<セットリスト>

1.アイスクリームのうた(童謡)
2.未成年の主張
3.チョベリグ
4.ブルーベリーシガレット
5.面皰(セルフカバー)
6.鬼
7.月曜日戦争
8.ユートピア
9.えらばれし子供たちの密話
10.サービスエリア
11.地獄タクシー
12.ちょっとちょうだい
13.ニュー香港
14.グミ
15.よるの向日葵
16.残ってる
17.すずらん(未発表曲)
18.ミューズ
アンコール
19.氷菓子
20.東京絶景
この記事をポスト

この記事の関連情報