【インタビュー】世武裕子、「自分が思い描く歌に届きたい」
世武裕子が、“日本語を大切に歌う”ピアノ弾き語りシリーズ第2弾となるアルバム『あなたの生きている世界2』を発売した。
◆撮り下ろし写真
本作には森山直太朗「人間の森」、宇多田ヒカル「Deep River」に加え、『魔女の宅急便』主題歌の荒井由実「やさしさに包まれたなら」、TVアニメ『カードキャプターさくら』オープニングテーマの坂本真綾「プラチナ」カバーを収録。さらに、自身の楽曲「みらいのこども」のセルフカバーも、2023年バージョンとして収録されている。
このシリーズでは自身が交流のあるアーティストの楽曲をはじめとした名曲をピアノ弾き語りでカバーしているが、単なるカバー作品集ではない。一聴すれば、世武がどんなに真摯に楽曲に向き合ったのかがわかると思う。
そんな、どこか鬼気迫るような本作について、世武が語ってくれた言葉をお届けしよう。
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■残せるものは残しておきたいし、伝えなきゃ駄目なことは手遅れになる前に伝えておきたい
──前作『あなたの生きている世界1(以下、『1』)』をリリースして、その反響をどのように感じていますか?
世武:自分に届く声って基本的にポジティブなものばかりですけど、「また歌が聴けてよかった」と言ってくれる人が多くて。それが自分としては意外でしたし、嬉しかったですね。
──意外だったのですか?
世武:劇伴をたくさん作ったり、サポート・キーボーディストとしていろんなライブに参加してるので、これまでピアノを褒められることはありましたけど、「歌がいい」と言われた記憶があまりなくて。ここでみなさんが言う「歌」って、日本語でちゃんと歌詞が伝わる歌のことだと思うので、そういう意味では、シンプルにピアノと歌をしっかり聴かせる音楽を求めてくれていたんだなっていう嬉しさがありました。
──その『1』から3カ月という短いスパンで新作『あなたの生きている世界2(以下、『2』)』がリリースされましたが、制作自体は2作品同時進行だったのですか?
世武:いえ、『1』を録って、少し経ってから『2』を録音しました。
──となると、『1』の時とはまた違う心持や意識でレコーディングに臨んだ?
世武:『1』のレコーディングを経て、「もう少しこうしておけばよかった」といった点を今回はクリアにしようと思いました。それと私自身、新鮮な気持ちで取り組みたかったので、「新しいアイデアはないかな」と、いい意味での欲が出てきたところはありましたね。
──前作で「こうすればよかった」と感じたのは、具体的にはどういった部分?
世武:完成した作品に対するネガティブな気持ちは一切なくて。『1』のレコーディングはエンジニアの中村涼真くんと初めて一緒にやったこともあって、音を詰めていくのに時間がかかったんです。作業が難航したというよりも、「こういう風にやったら面白いかも」「じゃあ、これもアリかな」といったことをたくさん試したし、中村くんもいいものを作ろうと時間をかけて頑張ってくれて。でも今回は自分のビジョンをクリアにして、そのビジョンに対して必要な素材をきちんと考えたうえでレコーディングに臨みました。ただ、「こういう風に弾こう」と音楽を決め込みすぎるのは肌に合わないので、あくまでも全体像として何を目指すのかという最終地点をしっかりとイメージしました。そういう意味では、『2』の方がコンパクトに、スピーディにレコーディングを終えられました。
──選曲も、『1』を作り終えてから?
世武:いえ、選曲自体は『1』の時に決めていました。
──すると、候補曲をどのように『1』と『2』に振り分けたのですか?
世武:音源作品を作る時も、ライブのセットリストを考える時も、「こういう流れで音楽を聴きたい」という好きな形があります。「音源はこの曲順、ライブならこのセットリスト」って考えもあると思いますけど、私の場合は2つを分けて考えられなくて。ライブの曲順を考えるような感じで『1』と『2』の流れを考えていきました。
──2作品の選曲に何か特別な意味を持たせるというよりは、2回分のライブのセットリストを考えたような感覚?
世武:そんな感じです。実は最近、過去の自分の作品を聴き直す機会があったんですけど、そういう曲順の癖というか、自分の好きな“聴き順”みたいなものがあって。ひとつの波の形というか、好きな音楽の流れ。これまでの作品もそういう流れになっているなと、改めて感じました。
──そのうえで、これは完全にリスナー視点での感想ですが、『2』を聴いて──もしかしたら『1』を聴いているから余計にそう感じたのかもしれませんが──より世武さん自身を感じるというか、世武裕子という音楽家がどのように形成されたのか、その背景がぼんやりと見えてくるかのような印象を持ちました。
世武:『2』は女性アーティストの作品が多くて、“私”視点の歌が多いんですよね。中でも「テルーの唄」は、初めて聴いた時から「この歌詞、私やん!」っていうくらいのリンクを感じて。自分にはこんな風に歌詞は書けないけど、「これ、私の生き方を述べてくてるんだっけ?」っていうくらいに思えたし、森山直太朗さんの曲も、「僕」と歌っているものの、彼も一人称感が強い人だから、ジェンダーと関係なく、一人の人間のすごく個人的な表現という世界にリンクする部分があって。『1』はバンド曲が多いんですけど、『2』は個人の曲なんですね。だから余計に、私自身と近いものを感じてもらえたのかもしれません。
──なるほど、よくわかりました。その1曲目「みらいのこども2023」は、10年前に発表したご自身のセルフカバー曲。最近、世の中にあまり明るい話題がなく、未来もより混沌としていく中で、この曲を聴いて、久しぶりに未来に光が見えたような、そんな気持ちになれました。そんな歌詞を10年前にどのような気持ちで書かれたのですか?
世武:ちょうど10年前だということには後々に気付いたんですけど、歌詞を書いた時は、人生に対する諦めや終わりといった気持ちが強かったんです。そうした絶望感に対して「こう思える人生だったらよかったな」と思って書きました。
──えっ、そうだったんですか。
世武:「Hello Hello」という曲があって、自分のおばあちゃんに宛てた手紙のようなシンプルな歌詞なんですけど、その曲も実は「そう思ってます」じゃなくて、「そう思える人生だったらよかったな」という気持ちで書いていたんです。そうやって書いた「みらいのこども」を10年越しに聴いて、何とも言えない気持ちになったんですね。10年前の自分が書いた歌詞に励まされて、自分にはまだまだやれることがあるかもしれないという風にも思ったし、一方で、そうか、10年前の自分はそんなに辛かったかというようにも感じた。結果的に、今回歌詞を一部変えて収録しました。
──それはどうしてですか?
世武:自分がすごく苦しいと感じていたあの時よりも、今の私は、もっと伝えないと駄目なことがあると思ったんです。それは自分自身に対してもそうだし、この曲をたまたま聴いてくれる人に対しても。音楽って、作品としてずっと残るものだから、10年前には気付けなかったけど、今だったらもっと話したい言葉があるだろうと思って、そう感じた部分だけ歌詞を変えました。だからこそ2023年バージョンの方が、今の私にはよりグッとくるし、自分の今の気持ちにより近い。自分がより励まされるんです。頑張っていきたいと思った時に、自分自身の背中を押してくれる、そんな仕上がりになったと思っています。
──だからなのか、他の収録曲も含めて、前作以上に世武さんの内面に迫る歌が多いように感じました。
世武:人間、いつ死ぬかわかりませんから、残せるものは残しておきたいし、伝えなきゃ駄目なことは、手遅れになる前に何とか伝えておきたいという気持ちがすごく強いんです。心配性な性格からくる面も大きいとは思うんですけど、そうやって1曲ごとに本気で取り組んだので、それが良い意味で鬼気迫るものとして受け取ってもらえたなら、それはすごく嬉しいことだと思っています。
◆インタビュー(2)
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