【インタビュー】サイモン・フィリップスが語る、新作の疾走感と世代を超えたサウンドの秘密
Photo by Rylan Phillips
TOTO、マイケル・シェンカー・グループ、ホワイトスネイク、ザ・フー、上原ひろみザ・トリオ・プロジェクト等で活躍し、ジェフ・ベック、カルロス・サンタナ、ミック・ジャガー等のサポートも経験、バンド歴・共演歴を挙げるだけで一冊の分厚い音楽ヒストリー本ができること間違いなしのカリスマ・ドラマー、それがサイモン・フィリップスである。彼が1988年から続けているソロ・プロジェクト「プロトコル」シリーズの第5弾にあたる『プロトコル V』がこの春、国内リリースされた。
メンバーには2013年作品『プロトコルII』以来のレギュラーであるアーネスト・ティブス(B)に加え、元ジョン・マクラフリン・バンドのオトマロ・ルイーズ(Key)、スティーヴ・ヴァイが称賛したアレックス・シル(G)、クリスチャン・スコットとも共演するジェイコブ・セスニー(Sax)といった凄腕たちが集結。むろんサイモンの懐の大きいプレイ、オリジナル曲における独創的な楽想は以前にも増して冴えわたっている。力作誕生の背景について、さっそく話をうかがった。
Photo by Stephanie Cabral
──アルバム・リリースに先駆けて、プロトコルはアメリカ西海岸でクラブ・ギグを行ないました。久しぶりのライヴだったのではと思いますが、感触はいかがでしたか?
サイモン・フィリップス:2020年のカタリナ・バー&グリル(ハリウッド)公演以来、プロトコルとして2年ぶりのショウを行なったばかりだよ。まずカタリナに戻って3日間、その後ベンチュラという街にあるザ・グレープで演奏して、それからオークランドのヨシズに4日間出演した。リハーサルの時間もたっぷり取れて、『プロトコルV』のナンバーをすべてプレイできたし、とても充実したパフォーマンスになったと思う。
──その『プロトコルV』は約5年ぶりの新譜になりますが、以前の「プロトコル」シリーズ以上に実演さながらというか、粗削りなまでの疾走感を覚えました。
サイモン・フィリップス:5年間リリースがなかったのは…実は『プロトコルIV』のツアーを終えた後、森林の自然発火で自宅が焼けてしまったからなんだ。2018年から2020年ぐらいにかけては、家と人生を同時に立て直す時期だった。ただ『プロトコルV』に関しても、レコーディングの準備をしてスタジオを押さえて、リハーサルして本番を迎えるという過程は以前と変わっていない。でも、久しぶりの新作ということで、バンドの皆には「行くぞ、やるぞ」と発破をかけるようなところはあったし、それが勢いにつながったのかもしれないね。私はオールド・ファッションな人間だから、やっぱり全員が集まって一発で収録するのが好きだ。ここを変えたいと思ったらすぐに話しあって、その場で直すやり方のほうが合っている。皆で一斉に演奏するからこそ生まれるグルーヴは間違いなく存在するし、それが私にとってのジャズなんだ。
──サックス奏者のジェイコブ・セスニーとギター奏者のアレックス・シルは、プロトコル加入を機にさらに知られていくことになる気鋭だと思います。ふたりとの出会いを教えていただけますか?
サイモン・フィリップス:ジェイコブと出会ったのは2018年のことだ。当時の私は新しい住居を探しつつ、時おり「ディア・ロッジ」というレストランで演奏していた。ハービー・ハンコック、フレディ・ハバード、タワー・オブ・パワー等、1970年代ジャズ・ファンクの曲を中心にカヴァーするバンドを組んでね。ある日、レギュラーのサックス奏者が参加できなくなって、替わりに入ったのがジェイコブだった。名前を知っていた程度で面識はなかったけれど、明るいキャラクターの持ち主で才能に溢れていて、聴いたとたん最高のミュージシャンのひとりに出会ったと思ったよ。アレックスにはジェイコブの友人として知り合ったが、私よりも先にアーネスト(・ティブス)が彼の凄さを知っていた。アラン・ホールズワースのベネフィット・コンサートで一緒になって、すごく良い印象を抱いたと言っていたね。アレックスもジェイコブもまだ30歳になっていないんじゃないかな。年の離れたメンバーを起用すると、まるでアート・ブレイキーのような気分になってくるよ。
──確かにブレイキーが率いたジャズ・メッセンジャーズは、次世代のミュージシャンを続々と起用して、世代を超えた素晴らしいサウンドを生み出していました。
サイモン・フィリップス:自分自身のことを振り返っても、18歳か19歳の頃にジャック・ブルースに誘われた経験が大きかったからね。私は駆け出しの若者だったが、それでも信頼してくれる先輩たちのおかげで、業界の中で少しずつ頭角を現していくことができた。そう考えると、今度は自分が若手に同じことをする番だと思えてくる。バンドの中で私が最年長という状態がしばらく続いているけれど、こうした気分もとても良いものだよ。
Photo by Stephanie Cabral
──若手ミュージシャンならではの魅力とは、具体的に何でしょう?
サイモン・フィリップス:恐れを知らないところだね。これはアレックスもジェイコブも同じだ。やっぱり歳を重ねると、レイジーになったり炎を失ってゆくミュージシャンも多いから。私は、リハーサルをきちんとした上でも、その場でセットリストを変えたくなるタイプなんだ。「今、これをやろうぜ」という感じでね。気分を取り乱すことなく「いいよ、OK!」とすぐに対応できるのが若手のメンバーたちだ。彼らは私をすごくいい気分にしてくれる。でも、実をいうとその感覚は久しく忘れていて、思い出させてくれたのは(上原)ひろみとの共演経験だったのかもしれないね。
──2010年に始まった上原ひろみザ・トリオ・プロジェクトですね。新世代の上原さんと百戦錬磨のアンソニー・ジャクソンとあなたの組み合わせが斬新で刺激的でした。
サイモン・フィリップス:彼女(上原ひろみ)は冒険的だから、覚えかけの新曲でも「今夜、これを演奏したい」と言ってプレイすることがある。まだその曲を知り尽くしていないことは承知の上で、ひとまず人前で演ってみましょうという感じだ。その恐れの知らなさを私やアンソニー(・ジャクソン)は好きで、私もそういった精神を自分のバンドに持ち込みたいと考えていた。同じことを繰り返せば不安はなくなっていくけれど、それよりも、その場その場で前向きにやっていくことの面白さを私はとりたい。それは6年間に及ぶ、ひろみとの共演で学んだことだ。『プロトコルII』以降のすべての私のソロ・アルバムに、彼女の影響があるといっていいだろう。(上原ひろみザ・トリオ・プロジェクトの)ツアー中に、プロトコルのための曲を書いていたこともあるし、彼女の貢献は大きいよ。
──しめくくりに、今後のプロトコルの予定を教えていただけますか?
サイモン・フィリップス:5月には船上コンサート「クルーズ・トゥ・ジ・エッジ」(マリリオン、アル・ディメオラ、エイドリアン・ブリュー、アラン・パーソンズらも参加)で演奏する予定だ。また、キャンセルになってしまった公演の再ブッキングにも動いている。閉店してしまったクラブも、けっこう多いんだけどね…。入国制限や自主隔離が取り払われたら、コロナ後の初海外公演のひとつをブルーノート東京でできたらとも思っているんだ。
取材・文◎原田和典
通訳◎丸山京子
サイモン・フィリップス『プロトコル V』
UCCU-1659 SHM-CD ¥2,860(tax in)
1.ジャガナス
2.アイソスリース
3.ニャンガ
4.ウンデウィギンティ
5.ホエン・ザ・キャッツ・アウェイ
6.ダーク・スター
7.ザ・ロング・ロード・ホーム
サイモン・フィリップス(Dr)、アーネスト・ティブス(B)、オトマロ・ルイーズ(Key)、ジェイコブ・セスニー(Sax)、アレックス・シル(G)
◆ストリーミングLinkfire
Photo by Stephanie Cabral
◆サイモン・フィリップス・レーベルサイト
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