【インタビュー】G.RINA「他者を受け入れることが巡り巡って自分自身を受け入れることになる」…新AL『Tolerance』の妙味

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G.RINAが約4年ぶりのソロアルバムをリリースした。前作『LIVE & LEARN』以降、ZEN-LA-ROCK、鎮座DOPENESSとのトリオユニット・FNCYでの活動を経た彼女がタイトルに冠したのは『Tolerance』(トレランス)。直訳すると許容、寛容、包容力となる。本作にはどんなメッセージや気持ちが込められているのかを聞いた。

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■いつも音を作る以前にまずコミュニケーションがある

──G.RINA名義としては約4年ぶりのソロアルバムですね。でもFNCYが活発だったので、あまりお久しぶりな感じはしないです。

G.RINA:ありがとうございます。ソロでも曲はずっと作っていたんですよ。ただアルバムはハードルが高い。歌詞も音も自分と向き合わなきゃいけないから。そうなるとまとまった時間が必要で。コロナ以前の1〜2年はFNCYのリリースやライヴが続いていたから、自分のアルバムを作る余裕がなくて。でもコロナで予定していたいろんなライヴがなくなってしまったので「今なら作れるかな」と。

──FNCYは自分にどんな影響を与えたと思いますか?

G.RINA:FNCYはとにかく楽しい。ソロとは違う音楽的な冒険ができる。私はトラックも作ってるので、「2人がどういうビートに乗ったら面白いかな」という引きの目線でやってるところがありますね。楽しんでもらいたい気持ちが強い。

──逆に難しいことはありましたか?

G.RINA:1人ではままならないことが起こることですかね。2019年にFNCYの活動休止があって。しかもそれがちょうどワンマンライヴを開催するタイミングだったんですよ。今回のアルバムにはその時に感じたことも散りばめられています。

──ということは『Tolerance』というテーマもその時に?

G.RINA:はい。FNCY以前の私は自分の表現を突き詰めてました。バンドと一緒にライヴをするにしても、私のビジョンをしっかりと伝えてそれを再現していただく、みたいな。でもFNCYは3人。しかもそれぞれがソロ活動してて、みんなに個性がある。でも3人でいる時はすっごい楽なんです。これはたぶんゼンラくんも鎮くんも同じだと思う。「じゃあこの楽しい状態を作り出してる前提ってなんだろう?」って、FNCYの休止期間に考えてみたんです。

──それが『Tolerance(=許容、我慢、寛容、包容力)』だった?

G.RINA:私たちはいつも音を作る以前にまずコミュニケーションが大事で。何気ない普通の会話なんですけど。でもそういうありふれた時間の中で、自分を受け入れてもらったり、自分が他者を受け入れたりするのかなって。そうやって人と人との関係ができていく。誰しもですよね、そういうのがないと物事がスムーズにいかない。それが巡り巡って、自分が自分を受け入れることにもつながってる気がするんです。そういうことをちょっとずつ切り口を変えて歌にしたいなと思ったのが1曲目から5曲目ですね。


▲G.RINA/『Tolerance』

──なるほど。アルバムの中ではどの曲が最初にできたんですか?

G.RINA:去年の12月に出した「White Night feat. BIM」ですね。完成した順にリリースしてるので。その次はEP『Funky 4 You』に入ってる「Simple Pleasure」ですね。

──ではまず「White Night」の制作について教えてください。

G.RINA:去年BIMくんのアルバム(『Boston Bag』)で「One Love feat. kZm」をプロデュースしたんですよ。その時に「私のアルバムにも参加してほしい」って話をして。そしたらBIMくんが「クリスマスソングをやりたい」って提案してくれたんです。その発想はまったくなかったけど、ちょっと面白いなって。ラップが入ってるクリスマスソングを作るのは自分としても結構チャレンジだと思って。

──BIMさんとはどのように作っていったんですか?

G.RINA:今回はBIMくんに限らず、できるだけゲストの方たちのスタジオに会いに行って、お互いの近況や最近考えてることを話してから、交差するテーマを一緒に見つけて、それを私が持ち帰ってトラックを制作してるんです。この曲に関しては最初からクリスマスソングという明確なテーマがあったのですごくスムーズに進みました。

──近年のBIMさんはラッパーとしての表現力が著しく成長していますよね。

G.RINA:2人で話したのは「今(去年)作るクリスマスソングはこれまでとは同じじゃないよね」ということ。キラキラした雰囲気だけではないし、かといってジメジメしたのも違う。特別な日ではあるけど今は思うようにいかないよねっていう温度感を意識しました。ちなみにアルバムの365 Ver.はシングルから鈴の音を抜きました(笑)。あと今回のアルバムは一部の曲を除いて自分でミックスしているんですが、シングルの「White Night」も、アルバム用にミックスし直してます。


──そういえばYouTubeに制作動画をアップされてましたね。

G.RINA:普段はまさにあんな感じでやってます。制作に関しては手元にある機材で作るのが基本ですね。でも今回はコロナで時間があったので、改めて自分が持ってる機材やプラグインを見直してました。そこからミックスも自分なりに研究して。

──話の流れで偶然ですが、それって「Simple Pleasure」の《その手に今あるものに目を 向けて 忘れがちなbaby》というラインに繋がりますね。

G.RINA:確かに。「自分の手元にあるものを大切にしよう」というのはアルバム制作期間に感じていたことなんですよ。同時に普遍的なこともでもあるし。この曲は今年4月に出した配信EP『Funky 4 You_EP』の収録曲なんですね。EPではラップなしだったんですけど、作ってる時から本編ではゼンラくんに歌ってもらおうと思ってました。そもそも『Funky 4 You_EP』は前作『LIVE & LEARN』に入ってる「close2u」の2020年版リミックスを制作しようという話からできたもので、リミックスだけじゃ寂しいから世界観がつながるような「Simple Pleasure」を作ったんです。この曲でやりたかったのは、ダンスミュージックの同じ言葉を連呼する感じ。エディットバージョンにはそういう曲は多いけど、オリジナルだと連呼系は少ないので。ゼンラくんにもなるべく短いフレーズを何回も言って欲しいとお願いしました。

──次にできたのはどの曲ですか?

G.RINA:あとはほぼ同時進行かな……。最後の最後まで歌詞を入れ替えたり、歌い直したり、スネアの鳴りを調整したり。マスタリングの前日まで全曲のミックスをやり直したりしてました。正直、最後のほうはちょっとおかしなマインドでしたね(笑)。

──先ほどのYouTubeの制作動画でお子さんが起きちゃうシーンもありましたが、家事や育児をしながらアルバムを作るのってものすごく大変そうだなと思いました。

G.RINA:それはもう。大変。それしか言い様がない(笑)。でも私は10分でも集中すればすごく進むほうなんです。なので生活の隙間を見つけてパッパッパッと。子供が学校に行ってる日中とか。


──ではここからは1曲目からお伺いしたいのですが「Body Temperature」はどのように制作されたのですか?

G.RINA:この曲のテーマは体温です。私は1stアルバム『サーカスの娘』の頃から「体温を感じたい」ということを歌にしてきました。でもコロナになって触れないことによって保たれる安全が優勢になっていて、触れあうことで得られる精神的な安全が忘れられたり、後回しになっている。歌詞ではその相反する状況を表現できるなって。

──今G.RINAさんがおっしゃったようなことを、僕も最近、売野機子さんという方の『ルポルタージュ』というマンガを読んで感じていたんですよ。だからすごくタイムリーが曲でした。

G.RINA:実は私自身は人に会わなくても平気なほうなんです。自粛期間もあまり辛くなかった。うちには家族がいるから、一人ではないんですが。ただ私はどちらかというといろんな人に会うことのほうが辛いと感じる性質なんです。でも何かしようとすると1人では進まないから対面せざるを得ない。そして一緒に何かする人とはわかりあいたい。温度感を知りたい。

──正反対の感情だけど、自分の中では矛盾なく共存してる。

G.RINA:そんな風な感じ方の人も結構いるのかなって思います。この曲に関しては歌詞以上のことをうまく言えないんですよ。あまり1曲目っぽい内容じゃないけどサウンドが非常に爽やかなのでいけるかな、と(笑)。

──鎮座DOPENESSさんが参加された「i wanna know」は、お互いの温度感を知ろうとする男女の歌でした。

G.RINA:私も鎮くんもレゲエが大好きだけどメインではやってない。なので私たちなりの傍流のレゲエをやってみようという話になりました。このサウンド感が前提にあったので、自然と男と女の歌になった感じ。だけど私たちがスイートなことを歌い合うのも違うねって話になって。お互い根本的なことをズバリと言いたいタイプなので、こういう感じになりました(笑)。

──鎮座DOPENESSさんはラップもすごいけど、歌もめちゃくちゃくかっこいいんですよね。

G.RINA:そうなんですよ。彼にはこういう曲も歌ってみてほしいなと思って。

──そしてM3。今回のアルバムでは、個人的にこの「魅力」が一番好きでした。

G.RINA:どういうところが良かったですか?

──ひとつはメロディーがものすごく好みだったということ。もうひとつは歌詞の内容です。ものすごく個人的な体験なんですが、先日44歳にして生まれて初めて髪を染めたんですよ。それまでは他人の目が気になってあまり奇抜なことができなかった。でも軽い気持ちでやってみたら自分を縛ってた何かから解放された気になれたんです。新しい自分になれたというか。「魅力」の歌詞はその時に心境にぴったりでした。

G.RINA:それはすごく嬉しいですね。歌詞がものすごく難しかった。この曲のテーマは自己肯定です。今の世の中って、私自身も含めて自己肯定に苦労してる人がすごく多い。私たちが「素敵だな」と思うような人ですら多かれ少なかれ感じてる。「なんじゃ、この状況は?」って。でもこれは自分で解決しなきゃいけないこと。だから自分の言葉で掘り下げてみました。とても繊細なことなので、どう伝わるかをすごく考えながら作りました。ラップパートの位置を何度も変えたり。私としては最終的に「何にもとらわれないで好きにしたらいいんだよ」っていうことだけを言いたかった。そのことを最後の最後に小声で言ってるんですが、なぜ小声かというと「そう思えた時、そうできると良いね」というニュアンスにしたかった。

──そのテーマを違う切り口から歌ったのが次の「PMS」のような気がしました。NENEさんの《親指動かすだけで審査員のつもり? あーは、さてはごまかし? 勘違いしないで決めるのは私》というパンチラインにやられましたね。

G.RINA:クールでのびのびして見えるNENEちゃんですら、そう感じるんだなって思ったんです。表現を豊かにする燃料になってる部分もあるんだろうけど。

──この曲はどのように進めていったんですか?

G.RINA:私はNENEちゃんが去年出した『夢太郎』というEPが大好きで。今回のアルバムでは女性と共演した曲をやりたかったので迷わずオファーしました。NENEちゃんと品川でお茶を飲んでいろいろ話しながらこのテーマにたどり着きました。

──男性の僕が聴いても共感できる曲でした。

G.RINA:今は社会全体がPMS的というか。イラついてる。この曲は先にNENEちゃんがラップを入れてくれて、その後に私が歌を入れました。でも書いてるうちに私のパートは「BEAUTIFUL」がテーマになってしまって(笑)。これは「魅力」にも通じるけど、ときどき自分がどうしようもなく思えることがある。でも「それは一時的な気分ですよ」って。そんな気分に取り込まれないようにしようって。そういう時こそ自分を抱きしめてほしい。


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