【プロミュージシャンのスペシャル楽器が見たい】当代随一のハモンドの使い手BANANA NEEDLE市塚裕子のハモンド+レスリー+アープ・オデッセイ

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3ピースのインストバンドBANANA NEEDLEのサウンドの核となるハモンドオルガンを担当しているのが市塚裕子。小柄な彼女が操るのは、二段鍵盤のハモンドにビッグサイズのレスリースピーカー、そしてアナログシンセという実にユニークであり重厚なセットだ。今回は都内某スタジオに用意されたこのセットを前に、ベーシストの三重野徹朗にも立ち会ってもらって市塚裕子に話を訊いた。

――まず、市塚さんのセットの内容を簡単に紹介してください。

市塚裕子(以下、市塚):オルガンとレスリースピーカー、それにアナログシンセという組み合わせです。オルガンはビンテージのハモンドを再現して作られているXK-5というモデル。上下二段にして使っています。それにつなげているのがレスリースピーカー。スピーカーが回転してうねりをつけられるロータリースピーカーですね。これはレスリー3300というモデルで、以前はもう少し小さい木製のものを使っていたんですが、このBANANA NEEDLEというバンドをやるにあたって音圧がどうしても不足しがちだったので、ビッグサイズのものにしました。そしてシンセサイザーはARP Odysseyのコンパクトモデルです。


――足元にあるのは?

市塚:専用の足鍵盤と、エクスプレッションペダルです。このエクスプレッションペダルはちょっと特殊で、一番下まで落としても音が消えないという、本物のハモンドと同じ作りなんです。ただ本物にないのが、サイドについているスイッチ。足でレスリースピーカーの回転速度を切り替えたり、回転を止めたりすることができます。


――ではオルガンについて色々伺っていきますが、そもそも鍵盤奏者としてオルガンを中心にやろうと思ったのは?

市塚:私の師匠が河合代介さんというハモンド奏者なんですが、その方の演奏を始めて聴いたときに、あ、これだ! と思ってしまったんです。ピアノやキーボードをやっていた時期もあるんですが、それ以来、徐々にこっちにシフトしてきましたね。


――やはりシンセのオルガンでは満足できない?

市塚:そうですね。ハモンドを始めて数年後に、ビンテージの本物のハモンドB-3を手に入れられたんです。それを弾きなれてしまうと、シンセのオルガンの音とか、レスリーシミュレーターの音には違和感がありますね。

――B-3はオールドハモンドの世界的名機ですね。

市塚:そうですね。B-3は脚もついていて大きいので持ち運びが大変なんですが、本当に良い音だと思います。オールドなので、今は色々調整も必要になってきているんですが、自分で出来る事はやっちゃいます。


▲オールドのハモンドについては、市塚は自ら調整もするという。これはそのときの写真。内部には細かいパーツが多数並んでいて、無数の細いケーブルもとぐろを巻いている。市塚は半田ゴテを手に、これらのパーツ交換や細部の調整を行なっているそうだ

――オールドハモンドの中身はどうなっているんですか?

市塚:アナログのパーツがたくさん、細いケーブルも複雑にからんでますけど、半田ゴテを使ってなおしたりします。

――ハモンドオルガンでとくに好きなところは?

市塚:音色はもちろん好きですが、すごく不親切な楽器だというところも(笑)。ハモンドってサスティンがないんです。鍵盤を押してるときだけ鳴って、離すとすぐプチっと余韻もなく切れる。でもそのぶんちゃんと弾いてあげればきちんと応えてくれる。自分の弾いたものに寄り添ってくれる感じがします。


――ハモンドの音作りはどのように?

市塚:ハモンドってやはりドローバーが特徴ですよね。引っ張ると倍音が出て、押し込むと出ない。単純な作りで感覚的に使えるのがいいですね。ベースとなる音に対して、ドローバーで肉付けをしていくという感じ。このあたりの音がこう出たらいいな、とか、この辺の音があるとパンチが出るな、というのがイメージしやすいから、ライブや音決めの時でもリアルタイムに動かして音作りすることができます。内蔵のコーラスとビブラートもよく使いますし、オールドのハモンドにないエフェクトの、オーバードライブとかディレイも曲によって使っています。




三重野:ハモンドの使い方は、YouTubeを見てもらったらいいよね。

市塚:ハモンドの解説動画をやっているんです(現在、第五回まで公開)。最初は私もよくわからなかったんですけど、やってみれば単純なんです。基本の音は一つで、ただドローバーでそれに音を足したり引いたりするだけなんですよ。


――二段鍵盤の上下はどのように使い分けているんですか?

市塚:上でメロディ、下は左手で和音とか伴奏、というのが自然な体の動きになりますね。ただ曲によって色々やりたいことも出てくるので、下の鍵盤で左手でソロを弾いたりもします。上下の鍵盤で違うのは、音のアタックのパーカッション、カツンカツンというのが上の鍵盤だけつけられるんです。だからパーカッションが不要なときは下、という使い分けはありますね。ホントは、下の鍵盤のほうが自然に弾ける高さにあるはずなんですが、私はエレクトーン出身なので、この体勢、両手両足を別のところに置くのは違和感がなかったですね。ペダルも最初から見ないで弾けましたし。


――エレクトーンと違うところもありますよね。

市塚:それはもうまったく違います。近いのは形、弾く体勢くらい。エレクトーンは色々な音が出せるし、サスティンを使うことも多いんです。でもハモンドは音は1種類だし、鍵盤を離したら音が切れる。だから最後まできちんと自分で操作しないといけない。音の長さを意識しないといけないので、演奏方法としてはかなり違います。鍵盤を離すときにもカチッと音が鳴ったりするので、鍵盤を離すタイミングはかなりシビアにコントロールしないと。あと、オールドのハモンドでも同じですが、鍵盤の左端の部分、黒鍵と白鍵の色が反転しているエリアがありますよね。ここは鍵盤ではないんです。これはプリセットで、あらかじめ設定しておいた音色を呼び出すスイッチなんです。だから弾いても音は出ません。グリッサンドのときに間違えてさわっちゃうこともあるので、普通のスイッチのほうが便利な気もしますが、なぜ鍵盤の形になっているのかはわからないです。


――レスリーについてはどんな使い方を?

市塚:回転を速くすると盛り上がる感じになりますね。音をかき回すので広がる感じになる。だからサビで長く伸ばすときに速くする、というのは普通によく使いますけど、私は速いところから普通の速度に戻る瞬間がすごく好きなんです。なので、わざとサビで遅くするみたいな使い方もしますね。ある音に向かって手前で速くしておいて、その音に到達した瞬間に減速させる。これが最高に気持ちいいんです。逆に、回転させっぱなしはちょっと気持ち悪い(笑)。ファンクのバッキングだったらそれがいいんだと思いますが、私はメロディを弾くので、回転させっぱなしで弾くことはあまりないですね。



――ロータリーエフェクトではなくて、実際にスピーカーが回転している音はやはり特別ですね。

市塚:そもそもエフェクトとは音が違いますからね。スピーカーの前で演奏しているので、音の広がりも感じられますし。

三重野:回転しているので、音が360度広がりますからね。僕はステージ上でもモニターではなくて直接レスリーの音を聴いています。僕の立ち位置はドラムとレスリーの真ん中なので、どちらも生の音が聴けるんです。一番ぜいたくな場所にいる(笑)。


――以前はもう少し小さいモデルを使っていたということですが、大きいものにしたことで変わったことは?

市塚:ローも豊かに鳴ることですね。ほかのメンバーも聞き取りやすくなったと言っているし、やりやすくなりました。小さいモデルだと、ドローバーをフルに引き出したときなどに音圧に耐えられなくてビビっちゃうこともあったんですけど、これはそういうことがないので、思い切り弾けるという安心感があります。

――オルガンでよく使う音作りや、気に入っている設定はありますか?

市塚:よく使うのは、ドローバーの下3本だけをフルに引き出すっていう、いわゆるジミー・スミス セッティング。あとは全部のドローバーを引き出してリバーブをかけるとチャーチオルガンっぽくなるので、静かなところで使ったり。特殊な使い方としては、パーカッションの音だけを出す、というのもありますね。これにリバーブとディレイをかけると、オルガンっぽくない、シンセのような弦楽器のような音が出せるんです。歪ませるのは内蔵のオーバードライブを使っています。以前使っていたモデルにはエフェクターをつないでいたんですが、この内蔵ドライブは良い音で歪むので、もうこれだけで。


三重野:鍵盤楽器は音域が広いので、ギター用やベース用のエフェクターだとうまく歪まないんですよ。

市塚:エフェクターだと音がやせ気味になっちゃうんです。ちょっとでもやせたらダメな楽器だと思っているので。

――ではシンセサイザーについても教えてください。

市塚:ARP Odysseyのコンパクトモデルです。鍵盤はミニサイズですが、操作パネルは本物と同じ。音については、このままだとちょっと直接的すぎてオルガンとうまく混ざらない感じがしたので、空間系のエフェクターを使っています。strymonのEl Capistanというテープエコーです。



――ハモンドと組み合わせたのが、やはり古いタイプのアナログシンセ。

市塚:最近のシンセも確かに良い音がするんですけど、色々使ってみてもあまりピンとこなかった。私、基本的に昔の音が好きなんだと思います。ただこれ、昔のアナログシンセらしく、電圧によってチューニングもちょっと狂ったりする。だからチューナーを必ずつないでいます。

三重野:ライブ会場によっては、本番になって電圧が変わっちゃうこともあるんですよね。

市塚:本番で弾いてみたら半音下がっていてびっくりすることもあります。ライブ中だと調整もできないので、弾く鍵盤を半音上にずらして対処したり(笑)。


――アナログシンセの中でこの機種を選んだのは、なにか出したい音があったからですか?

市塚:ないです。もう見た目だけ(笑)。たまたま入った新宿の楽器屋さんで一目ぼれして買いました。この白のモデルってあまり出回ってないので、自慢のモデルなんです。実は、これを買うまでアナログシンセを扱ったことがなかったんです。最初は音作りも難しかったし、ライブ中に急に音が出なくなったり。しかも原因もわからない(笑)。今は、こういう音を出すにはこういうセッティングかな、というのがわかるようになってきましたけど、まだまだ初心者です。


――シンセはどのように使っているんですか?

市塚:単音しか出ないモノシンセなので、メロディを弾いたりソロを弾いたりというのがメインですが、ノイズとか効果音的な使い方もしますね。よく使うのはシンプルなリード系の音ですね。ただこの楽器、プリセットができないので、毎回最初から音を作らないといけないんです。だからライブ中でも音を変えるためにめっちゃいじりますよ(笑)。


――では最後に、このセットの一番の自慢ポイントを教えてください。

市塚:ズバリ見た目です(笑)。二段鍵盤で、デカいレスリースピーカーがあって、アナログシンセがあるというこのセット、カッコいいんですよ。いつもドヤ顔でセッティングしています(笑)。BANANA NEEDLEはライブバンドなので、それも含めてぜひ見に来ていただきたいと思います。

取材・文:田澤仁

リリース情報

『オルガン・ニュー・ワールド』
2020.11.11 Release
発売元:ステップス・レコーズ
販売元:ヴィヴィド・サウンド・コーポレーション
品番:STPR020
価格:\2,500プラス税
44.1kHz/24bitおよび44.1kHz/16bitデジタルアルバム同時配信
〈収録曲〉
1.So Happy Day 作曲:市塚裕子
2.バタフライ 作曲:市塚裕子
3.Inco 作曲:市塚裕子
4.Tokyo City 作曲:市塚裕子
5.Virtualand 作曲:市塚裕子
6.Golden Drop 作曲:市塚裕子
7.Having a Giraffe ! 作曲:三重野徹朗
8.STEPS 作曲:市塚裕子
9.Stay be 作曲:市塚裕子
10.Valk 作曲:市塚裕子
11.Cosmo 作曲:市塚裕子
12.YOLO 作曲:市塚裕子
13.Interlude 作曲:市塚裕子
14.Up to 作曲:市塚裕子

ライブ・イベント情報

時節柄、出演日程を会場にご確認ください。

2021年6月6日(日)
横浜 Mr.Brooklyn(045-442-8293)
https://mrbrooklyn.owst.jp/

2021年6月20日(日)
赤坂 CRAWFISH(03-3584-2496)
http://crawfish.jp/access.html

2021年7月2日(金)
越谷 EASY GOINGS(048-963-1221)
https://www.easygoings.net/index.html
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