【インタビュー】遊佐未森、5年ぶりアルバム『潮騒』完成「とても濃密。静かに燃えているみたいな感じ」
遊佐未森が6月23日(水)、ニューアルバム『潮騒』をリリースする。“潮騒(しおさい)”とは、潮が満ちてくる時、波の騒ぎ経つような音のことを指す。2016年の『せせらぎ』以来5年ぶりとなるオリジナルアルバムは、この時代の中でそっと目を閉じて耳をすませば聴こえてくる、遥かな波のさざめきのような優しい音楽だ。
◆遊佐未森 動画 / 画像
楽曲は、彼女のルーツであるクラシックの歌曲やオペラのアリアを思わせるスタイルに、エレクトロニカの音色を組み合わせた、とても繊細で格調高いもの。アレンジャーには才能あふれるピアニスト/アコーディオニストの大口俊輔、プロデューサーにはなんと17年ぶりの参加となる盟友・外間隆史の二人が揃った。原点回帰を経て新しい世界へ、数多い遊佐未森作品の中でも特別に美しくしなやか、アメイジングな作品が完成した。
◆ ◆ ◆
■これまでのキャリアを経て
■今できるとてもフレッシュなもの
──久しぶりのオリジナルアルバム。5年ぶりになりますか。
遊佐:コロナのことがあったので、いつもよりゆったりめにスケジュールを取っていて、しっかりレコーディングすることができました。今の、この時代にきちんとアルバムが作れたことが良かったと思っています。
──5年空いたということは、ルーティンではなく、タイミングが来たということですか。
遊佐:アルバムを作るというところに至るまでに、いろんな日々があって、コンサートもたくさん重ねていく中で、“次に何を作ろう”というものが見えてくるので。今の時代の空気を吸って、感じたものが、アルバムとして世の中に出ていくという認識ですね。ミュージシャンなので、コンサートはもちろんですけど、アルバムはとても大切なもので、新しい音を聴いてもらう大事な場なので。特に今回は、コロナのこともあるし、“今だからこそ新しい音を届けたい”ととても強く思ったので、こういう流れになりました。
▲遊佐未森 |
遊佐:それまでに作ってきた、『銀河手帖』『淡雪』そして『せせらぎ』という流れの中で、やりたいものをひとつ形にできたという思いがあったので。そのあとにいろいろなコンサートを重ねて、3年前ぐらいから浜離宮朝日ホールというクラシックホールでコンサートを始めて、その時に大口俊輔(Pf)さんにアレンジをしてもらって、フルートとチェロとピアノという変わった編成で、オリジナルはもちろん、私が学生の時に歌っていたオペラのアリアや、クラシックの曲も織り交ぜながらコンサートをしてきたんですね。そこで、もともと自分が持っているクラシックの要素も再確認しながら、“次のアルバムをどういうものにするか?”ということを考えていたところはありますね。
──それが形になったのが、今回の『潮騒』ですね。『せせらぎ』とは、サウンドの質感がまったく違って聴こえます。
遊佐:まったく違いますね。そういうものを作りたかったんです。今、新たな遊佐未森の音世界というものを生み出したかったし、これまでのキャリアや、作ってきたものを経て、今できるとてもフレッシュなものをリスナーの方にお届けしたい気持ちが強かったので、こういうアルバムになりました。
──まさに、とてもフレッシュに受け止めました。こういうアルバム、ありそうでなかったので。
遊佐:声と、ピアノと、弦カルテットを中心に、楠(均 / Per)さん、西海(孝 / G)さん、今堀(恒雄 / G)さんや、信頼できるメンバーにも参加していただいて、最近よく一緒にやっているフルートのMiyaさんとか、みんなが今回のサウンドを楽しんで、面白がってやってくれました。それを大口さんがまとめてくれて、外間(隆史)さんと二人でプロデュースをしたということですね。外間さんとは、17年ぶりに一緒にスタジオに入りました。
──昔からのファンには、それだけで感激するものがあります。どんな経緯があったんですか。
遊佐:こういう時代だからこそ、何かを打破していくようなアプローチをするべきだという思いがあって、強度を増すためにも「共同プロデュースをお願いしたい」という話をして、快諾していただきました。そこで3人のトライアングルが出来上がって、ああでもないこうでもないと話し合って、リモート会議をやりつつ、データで音のやりとりをしつつ、去年はものすごい勢いで作業を進めていました。だから、ずーっと作り続けている感じなんですよ(笑)。一昨年から準備を始めて、去年に加速して、秋からスタジオに入って、12月から歌入れをして。ミックスとマスタリングも、カラム(・マルコム)がものすごく心を込めて作ってくれて、本当に慈しんで作ってくださった感じがあります。参加してくれたメンバーもみんな、思いを込めて作ってくれた結晶なんじゃないかな?と思います。
▲アルバム『潮騒』初回盤 |
遊佐:曲によって、わりとクラシック寄りの曲もあるんですけど、そこにエレクトロニカの音をすごくうまい具合に乗せられたなと思っていますね。自分が自宅で打ち込んでいた音が入っているものもあって、大口さんがそこを尊重してくれるところもありましたし、そういうやり取りがとても楽しくて、とても濃密でした。何と言うか、静かに燃えているみたいな感じ?
──ああー。なるほど。
遊佐:たぶんそういうものが、今、自分の音楽として欲していたものだと思うんですね。静かに燃えているようなものが。それは『潮騒』というタイトルにも表れている気がして、今はこういう落ち着かない時代ですけど、私の中では耳を澄ますと潮騒の音が聴こえていて、きっとみんながそういう音を内包していて、大切に耳を澄ましていくと、その中には静かなエネルギーがきっとあって、それを持って未来に向かっていくと、コロナが明けた時に何か力になるかな?という思いがありました。
──『せせらぎ』も、『潮騒』も、水に関わる言葉ですけど、ニュアンスはかなり違います。
遊佐:違いますね。『せせらぎ』はもう少し緑の感覚に近い感じがありますけど、『潮騒』は青い海と白い雲と、広々とした感じがします。『せせらぎ』は川べりの、身近なところにあるもので、曲の中に出てくる人たちも、身近というかパーソナルな感じなんですけど、今回は歌詞の世界も、1曲ずつがかなり違っています。そのへんの方向性は、外間さんと相談しながらやってきたことで、ものすごく広がったなという気がします。
──風景が広い気がします。空間と、あと時間も。
遊佐:うん、そうですよね。
◆インタビュー【2】へ
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