【インタビュー】遊佐未森、ベストアルバムとライブDVDを基に25年を読み解く5つのキーワード
あれから25年が過ぎたとはとても思えない。その姿は相変わらず可憐でキュート、その声は音楽の神様に祝福された輝きにあふれ、放つオーラは森の妖精のごとく清くみずみずしい。新録音を含む2枚組ベストアルバム『VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS』と、デビュー25周年記念コンサートを収録したライブDVD『mimo-real songs』をもって完結した、遊佐未森のデビュー25周年プロジェクト。年月を超えて色あせないその魅力を、5つのキーワードとともに振り返る、これは新世代ミモリストに向けた「26年目の遊佐未森ガイド」だ。
■キーワード その1「25」
──最初のキーワードは「25」です。一連の25周年記念プロジェクトを振り返って、今どんな思いがありますか。
遊佐未森(以下 遊佐):すごく充実した25周年を過ごすことができて、最後に『mimo-real songs』という映像作品を残せたことは、とてもよかったな、ありがたかったなと思ってます。『VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS』という二枚組のベストアルバムも、過去の曲も入っていますし、今の私が演奏する新しくアレンジした曲もありますし、それがすべてコンサートにつながっていて、一連のことが点ではなく線として過ごせた1年だったので。これ以外にも、2013年はコンサートがすごく多かったんですよ、私にしては(笑)。うわーっという感じで毎日毎日、駆け抜けたような感じでした。
──なかなかないことだと思うんですけど、25年ぶんの曲と向き合うのは、どんな体験でした?
遊佐:いつもはあんまり、振り返ることはしないんですね。それをやらなかったぶん、ベストを作るために曲を全部聴きなおしたりとか、1年で全部やってしまったような気がします。それで、「あ、この曲忘れてた」とか(笑)。
──あら(笑)。やっぱりそういうこともありますか。
遊佐:ありますあります。最初のうちはリリースが立て続けで、時代的にもアルバムは必ず1年に1枚ということだったので、なんとか頑張ってやってきたんですけど、その中で記憶が飛んでるところもあります(笑)。音楽業界も本当に変わってきましたけど、あの頃は業界自体にものすごく勢いがあって、特に私はエピックからのデビューだったので。
──当時のエピック/ソニーレコードのアーティストのラインナップは、とんでもないですよ。すごかったです。
遊佐:すごかったですね。新人もいっぱいデビューしましたし、会社に行くと、大学に行ったみたいな空気だったんですよ。私は最初がエピックで、エピックしか知らなかったから、そのあと東芝に移籍した時その落ち着いた重みのある雰囲気に、「会社によってこんなに空気が違うんだ」って初めて感じたんですけど。そのぐらい当時のエピック/ソニーというのは、キラキラしているというか、時々ギラギラというか、そこでデビューさせてもらったことは本当に恵まれていたと思いますね。
──あの、言い方がアレですけど、その中で未森さんって、あまり華々しいデビューのイメージではなかったというか。
遊佐:ひっそりと(笑)。
──悪い意味じゃないです! ある意味、神秘的だったんですよ。周りがあまりにキラ星のごとく派手なアーティストが多かったじゃないですか。
遊佐:周りがね(笑)。こういうお仕事なので、たぶん前に出たほうがいいんでしょうけど、どうもそれができなくて(苦笑)。たとえばテレビに出させていただいても、はじっこのほうに立ってるので、同じエピックの松岡英明くんが一緒に出ていた時に、「未森ちゃん、もっとこっちだよ」って、真ん中にしてくれたことをすごくよく覚えていて。
──いい話ですね(笑)。
遊佐:本当に緊張してました。いつも助けてもらってましたね。それで、なんとなくすーっとデビューさせてもらったあとに、カップヌードルのCMがあったので(サードシングル「地図をください」)、そこで認知されたことがすごく大きかったと思います。でもこうやって25年を振り返ってみると、デビューした時に作ってきた世界は、実はデビューする前から、スタッフとは2年前ぐらいから会っていたので、準備期間がすごく長かったんですね。何度もデモテープを作ってましたし、デビューアルバム『瞳水晶』も、前の年の夏の終わりぐらいには完全にできあがっていたんです。だから神秘的に見えたのも、そういう流れ自体がちょっと神秘的ですよね。今考えれば。
──ぜいたくという言葉を使いたくなるぐらい、今の新人アーティストではありえないと思います。
遊佐:そうですよね。すごくぜいたくな時間の使い方をさせてもらったことが、ここまで続けられた、ひとつの大きな要因だった気がします。
──最初に、根っこにたくさんの栄養をもらったような。
遊佐:スタッフともいろんな話をして、すごく中身の濃い時間を過ごせたので。そういうデビューって、なかなかないんだろうなと思います。
■キーワード その2「遊佐未森流歌唱法」
──そしてキーワードその2が、「遊佐未森流歌唱法」なんですが。本当に独特なスタイルだと思うんですけど、もともとさかのぼると、小さい頃に合唱をやっていて、それから正式にクラシックの声楽を学んで、同時にポップスの影響もあって。どうやって自分のスタイルを作っていったんですか。
遊佐:クラシックの勉強をしていく中で、自分が好きなポップスやロックの曲を、遊びの弾き語りで歌ったりもしていたんですね。学校ではベルカント唱法で歌曲を歌っていたんですけど、そこで日本語のポップスを歌う時に、自分の弱い部分を克服するにはどうすればいいか?ということを、学生時代から試してたんです。ベルカントは自分の身体と対話して会得するような感覚的なものなので、自分なりにわかって歌えるようになるまでに時間がかかるんですよ。それから大学に行って、自分の体のこともだんだんわかってきて、自分なりのベルカント唱法を見つけた気がして。今度はポップスを歌う時の、自分が出したい声をどうやったら出せるんだろう?ということを研究していました。それでデビューする前には、デビューアルバムで歌っているような歌い方を、自分なりに発見できていたので、安心してデビューできたというのはありますね。
──あの歌い方は、論理的に、肉体的に、編み出していったものなんですね。
遊佐:基礎にクラシックのベルカント唱法があって、遊佐未森の歌い方を作っていったことで、デビューしてから喉をつぶすこともなかったんです。『mimo-real songs』のコンサートも、3時間歌いっぱなしだったんですけど、もっと歌いたいという感じで終わったんですね。ちょっと、ハイになってるからでもあるんですけど(笑)。
──昔と全然変わらないですよね。ファルセットと地声の間を自由に行き来する、流れるように伸びやかな歌で。
遊佐:8の字唱法と言ってたんですけどね。
──それ、遊佐さんがおっしゃってるのを聞いたことはあるんですが、実際よくわからないんですよ。解説してください(笑)。
遊佐:あのですね、たとえば地声から上に行く時に、腹筋を使うんですけど、腹筋が8の字を描くような感覚があるんですよ。「あ~あ~~」って歌う時に…なんか、発声練習みたいになっちゃいますけど(笑)。8の字を描く感じで。
──息が通って行く?
遊佐:息じゃないんです。体の中を意識が駆け抜けるみたいな感じで、意図的に腹筋を使うというか。
──ある時、それを発見したんですか。
遊佐:そうなんです。「あ、これは8の字だ」と思って、だから8の字唱法。
──それ、人に教えられるものなんですか。
遊佐:まだ教えたことはないんですけど、でも教えられると思います。これを本当に使えるようになると、すごく楽なんですよ。喉は通り道になるだけで、あごの力も抜くので、楽に歌えます。まずは地声の出し方からやらないといけないんですけど、自分の腹筋がどういう状態になってるかを確かめながらやれば、たぶんできると思います。
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