【インタビュー】上野優華の恋愛論「人を好きになる資格」とは?
2018年12月にリリースした「好きな人」MVがYouTubeで430万回再生を突破、2020年2月にリリースした「あなたの彼女じゃないんだね」MVは3ヶ月で100万回再生を突破し、“いま、泣ける声”との呼び声が高いソロアーティスト、上野優華。
2020年12月にリリースした「好きでごめん」は、コロナ禍で届いたリスナーからの“あなたの歌が聴きたい”というコメントや、恋の悩みが綴られたDMを多数読んだことを受けて、彼女自身が作詞作曲した楽曲だ。小さくつぶやくような歌声、ひとりごとのような歌詞、“好きでごめん”という切実な言葉、ポップネスに富んだバラードサウンドは、恋の切なさ、尊さ、矛盾をあたたかく包み込む。未曽有の事態を経て23歳を間近に控えた彼女は、いまどんなことを思うのだろうか。
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■相手を好きになる資格
──この取材は、2021年2月のバースデーライブの延期が発表になったばかりのタイミングで行われています。上野さんはブログに、もやもやとポジティブの両方があるという、複雑な心境をお書きになっていました。
上野優華:決まりを守れば開催できることはわかっているんですけど、もうわたしは1年くらい有観客ライブをやっていなくて。1年空いて、やっとみんなの前で歌える!というライブを、不安な気持ちを抱えている人も少なくないなかで開催するのは、あまり喜べない気がして……。それで延期という選択をしました。会えなくて寂しい思いをさせてしまっていることも、動きを見せられないことも、本当に苦しいことなんですけど。
──アーティストもリスナーも、みんな厳しい選択を迫られるご時世だと思います。23歳のお誕生日ライブもみんなでお祝いしたかったですけど……。ところで上野さん、今年23歳なんですね。
上野:あははは、そうなんです。14歳でグランプリを獲って15歳でデビューしたので、アーティスト活動がスタートして今年で8年で。周りのみなさんに助けられていつも楽しく新鮮な気持ちで活動させていただけてます。“歌うことが好き!”という気持ちだけでオーディションに応募して、デビューしてから歌うだけでなく歌詞を書いたり、曲を作ったり、いろんな音楽に出会ったり──そういうなかで“自分はこういう(恋に悩んでいる)女の子の気持ちを歌っていきたい。シンガーとしてもひとりの女性としてもそういう子に寄り添っていきたい”と思ったのがここ3年くらいで。
──上野さんの“泣ける声”がより魅力を発揮するようになった時期もそれくらいの時期ですよね。
上野:“これをやっていていいんだろうか”と停滞する時期も含めて、二十歳前後って人間としていちばん悩むし、いちばん成長する時期ですよね。その期間を音楽を通してみなさんに見てもらえたことは励みになったし、だからこそ同世代の人にも伝えられる生き方ができたのかな……と思います。
──そうですね。YouTubeにアップされたMVのコメント欄も、たくさんの10代から上野さんの同世代の女の子たちが、自分の恋愛の話を書いてらっしゃって。それは象徴的だと思います。
上野:みんな“独り言すみません”みたいな感じで経験談を書いてくれるんですよね。わたしも去年ライブができない状況になって、じゃあ配信ライブをやろう、曲を書こう、トーク配信をしようと行動していって──それは“みんなとどこかでつながっていたい”という想いが強くなったからだと思っていて。ファンのみなさんが、アーティスト上野優華だけではなく、上野優華というひとりの人間を支えてくれていたなと強く感じているんです。“寂しい”と言ってもらえることでみなさんの強い想いを受け取ることができた。だから自分の音楽がそういうみんなの心の拠り所になれていたら、すごくうれしくて。
──昨年末にデジタルリリースなさった「好きでごめん」にも、その気持ちは反映されているのではないでしょうか。
上野:去年、いままででいちばん“上野優華の声が聴きたい”、“唄ってほしい”、“新曲が聴きたい”という声を頂いて。たぶんそれまでどおり最低でも月1回ライブができている状況なら、ここまで言っていただくことはなかったと思うんです。だからこそ今回は自分で作詞作曲した楽曲をみなさんにお届けしたくて。初めてのバラード制作にもトライして、“この期間わたしはずっと止まってなかったよ。みんなのことを思いながら音楽を続けていたよ”と伝えられたらなと思ったんですよね。
──作詞作曲をするうえで、今回はラブソングをお選びになったとのことで。
上野:書きたいテーマは恋愛以外にもいろいろあったんです。でも去年はおうち時間が長いのもあって“彼氏に会えなくてつらい”や、“学校がないから好きな人と会えなくなっちゃった”という恋愛にまつわるコメントやDMをもらうことが多くて。いまわたしが寄り添えるのは、恋愛している方々なんじゃないかと思ったんですよね。
──そこから上野さんは“どんな恋愛を歌うべきか?”と考え、ふと“好きになることは資格が必要なんだ”と思われたとセルフライナーノーツに書かれていました。“資格”という言葉がとても独特だと思ったんですよね。
上野:あははは、そうですか?(笑) 好きになることは自由だし、想われるのはうれしいしありがたいことだと思っていたんですけど……いろんな恋愛の相談を受けることが多くなって、そうとは言い切れないなと思うようになっていったんですよね。たとえばわたしが片想いをしていたとして、その相手にはわたしではないすごく好きな人がいたら、相手はつらいと思うんですよ。
──ああ、こんなに好いてもらっているのに、別の人が好きだからその想いには応えられないから、苦しいということですね。
上野:好かれるのはうれしいこと、ありがたいことばかりではないんだろうなって。だから誰かに好きと伝えるには、相手の傷ついた気持ちや、“想いに応えられなくて申し訳ないな”という気持ちを背負う資格が必要だし、好きになることで自分が傷つく覚悟をしておく必要があるとも思う。本当は理想の恋愛をしたいけど、その願望が相手を傷つけてしまっている──だから人を想うという行為は自由じゃないなと思ったんですよね。自分のなかの大切なものを捨てて、相手を好きになる資格を得ると思う。
──人を好きになることには不自由さは伴うけれど、人を好きになるという気持ちを肯定している曲ですよね。
上野:そうですね。出来ることなら苦しくて切ない想いはしたくないけど、片想いをしていたらそれは仕方がないじゃないですか。“何かを失うことで何かを得るんだよ”というのを書きたかったんです。そういうものも含めて恋愛っていいですよねえ〜。好きって素晴らしいですね!(笑) 「好きでごめん」とは言いつつ、誰かを愛しく思う気持ちは素晴らしいと思っております!
──ははは。“好きでごめん/それだけは 気づかせないで”という歌詞は、この曲の鍵だと思います。
上野:好きになって切なくなるというのは大多数の人が感じる気持ちだと思うんですけど、“好きでごめん”は誰もが湧くわけではないなと思うんです。でも今までわたしが歌ってきたラブソングを聴いてくれている子たちは、“好きでごめん”と思うほど誰かのことを一途に好きになったり、諦めきれなかったり、好きな気持ちに気付いてほしいけど気付いてほしくなかったり……そういう子たちが多いと思うんです。
──自分の気持ち以上に、相手の気持ちを考えすぎてしまう人というか。
上野:特に10代の子たちは、暮らしている社会が大人よりも狭いから人間関係が複雑と言うか。好きな相手のことも、友達のことも考えなければいけないなかで、すごく気を遣って恋をしている。そういう子たちが人に言えない気持ちを音楽で発散してるのかなと思うんです。仲良しの子たちに言えない思いを、YouTubeのコメント欄やInstagramのDMで送ってくれているというか。だから「好きでごめん」はわたしからのメッセージではなく、“あなたのことを歌うよ”という気持ちから生まれたという意味合いが強いんですよね。この曲を聴いて自分に重ねて悲しみに浸る人もいると思うんですけど、叶わないとわかっていながらも誰かのことを好きでいたい、一途な恋をしたいと思う人もいると思う。だから好きって素晴らしいし、苦しい。わたしは“その気持ちわかるよ〜”ってスタンスなんです。
──“でも 好きでごめん/それだけは 気づかせないで”は好きな人に自分の恋心を気付かれたくないという意味なのかなと思ったんですけど、“まだ 好きでごめん/それだけは 気づかせないで”は“まだ好きでごめん”と思ってしまう自分の気持ちに気付かないで、と自分に言い聞かせているのかなと思って。
上野:わー、うれしい! 特にラブソングはいろんな解釈ができるほうがいいと思うので、わたしが歌詞に対してどんな意味を込めて書いたのかを語ることは絶対にしないんですけど、同じ言葉を違う意味として受け取ってもらえたことはすごくうれしいです。みんな恋をするといろんな悩みが生まれると思うんですけど、片想いでも恋をしてるだけで勝ち組だよ!?ってめっちゃ思うんです(笑)。誰かを想えるって、本当にすごいこと。恋をしている人は輝いているし、叶わない恋をしている女の子には色気も感じるし。中身も大人になれるし、綺麗になれる!
──(笑)。好きな人の恋が成就しても、もしかしたら連絡が来るかも、想い続けていたらお付き合いできるかも……と期待してしまったりもして。
上野:それはもう仕方がないですよね。好きな人の恋が成就したらとても悲しいけれど、やっぱり幸せそうな姿を見るとうれしいだろうし。でももしかしたら期待をしてしまうだろうし──恋愛感情って矛盾だらけですよね。たとえば“ここまで長く付き合ったから別れられない”っていう人多いじゃないですか。
──ああ、そうですね。長い時間をその人に費やしたから、手放すのは勿体ないと思う人は多い気がします。
上野:それは、その人のことを好きな自分を捨てたくないということだと思うんです。結局みんな自分のことがいちばん大事だから、その人と出会った、その人を好きになった、その人と付き合った自分を間違いだったと思いたくないのかなって。……恋愛って不思議ですよね。片想い、両想いだけではなく、一つひとつに異なる事情があるし、両想いでも切ない気持ちはあるし。ひとつの言葉で表せないいろんな感情を孕んだものが、本当の恋なんだろうなと、曲を書きながらすごく思いました。
──そうですね。サウンド面もバラードではあるけれどポップさがあって、言葉では言い表しにくい感情が音でも表現されています。
上野:学生さんや若い子は何かしながら音楽を聴くことがすごく多いと思うので、音もテンポも歌も聴きやすさを重要視しました。歌い上げる感じというよりは、つぶやくような、喋るような歌い方をして。喋るような歌い方は前々からやりたいと思っていたので、研究中なんですけど。
▲上野優華/「好きでごめん」
──歌い方からも、想いを口に出せず胸に秘めている女の子の姿がパッと浮かんできます。「好きでごめん」を制作したことで、また新しい感覚が芽生えたのではないでしょうか?
上野:今まで自分の歌ってきた曲は、片想いというよりはちょっと大人の恋愛を歌ったものが多くて。だから“今日はどんな1日だったの?”みたいに、ここまで言葉を飾らなかった歌詞、SNSに書くような言葉で作った歌詞は初めてなんです。こんなにストレートでいいのかな?と悩んだりもしたけど、思い切って書いたことで自分の作詞の幅が広がって。ふだん思っていることに音楽をつける、メロディを乗せることが歌なんだなとあらためて気付かされた制作期間でした。
──ご時世もあって、無意識的に“独り言”のムードは高まって、シンプルな言い回しになったのかもしれません。
上野:かもしれないですね。「好きでごめん」はみんなが掛けてくれた言葉や、相談してくれた内容をそのまま受け取って書いたような感覚なので。そのまっすぐさ、飾っていない感じは、自粛期間だからこそ開けられた引き出しだったのかもしれない。だから2020年のうちに出せてよかったですね。
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