【連載】フルカワユタカはこう語った 第37回『2020年10月6日』
僕の”唯一”のギターヒーロー、エディー・ヴァン・ヘイレンが亡くなった。
◆フルカワユタカ 画像
前回の来日が2013年。新譜やツアーの発表がないかと定期的に情報を追っかけていたので、舌ガンが再発して結構ヤバいかもというのは知っていた。2013年の来日の時は大学の後輩とタロティーを誘って東京ドーム公演を観に行ったが、結局あれが最初で最後の生エディーになってしまった。とはいえ、チケット代はかなりしたし、エディーは米粒くらい小さかったし、音響も最悪だったし、したり顔で連れに講釈をたれまくっていた斜め前のハードロックリーマンは3曲目で寝てしまったし。誘った二人に対して申し訳ない気持ちいっぱいで過ごした時間を覚えている。
以前、スティングの楽屋に行ったことがある。ジョシュというイギリス人の友達がいて、彼から“スティングの息子(ジョー・サムナー)は遠い親戚で古い付き合いなんだ”というのは聞かされていたので、なるほどチケットくらいは手に入るんだろうなとついて行ったのだが、そのままドカドカとバックヤードに侵入して行き、大変驚いた。直前まで楽屋に行くことを聞かされておらず、心の準備が全くできてなかった僕はせっかく目の前(2メートル以内!)にいたスティングに、結局声をかけられなかった。が、その時、間近にスティングを見たことでなんの根拠も無く、いつかエディーにも会えるんじゃないか、って心のどこかで思うようになった。でも、そんな日は訪れなかった。
▲<STING 57TH & 9TH TOUR>2017.6.6-7@日本武道館
これまで最もコピーしたのはエディー・ヴァン・ヘイレンだ。これまで最も聴いた音楽も、恐らく、いや間違いなくVAN HELANだろう。なにせ他の音楽と歴が違いすぎる。僕のギタースタイルはハードロック由来だと思われがちだがそれは誤解で、正確には真性にエディー由来だ。記事の記憶は曖昧だが、「バキバキにキマリまくった状態でニルヴァーナのライブに突然現れ、“共演させろ”と迫る。カートはエディーのことが好きだったから丁寧に相手したが、娘が無茶苦茶怖がったんで結局SPに追い払わせた」っていう“下げ”エピソードが大好きだ。「脱退したボーカルと無断でライブをしようとしたベースに、“俺とアイツどっちをとるんだ”と迫ったあげく、結局、問答無用でクビにしてしまうんだが、その後釜に愛息を入れてしまう」様な所が、大大大好きだ。
多分相当面倒くさい人だったんだと思う。言い換えれば信じられないくらい繊細な人だったんだと思う。だけどというか、結果的にというか、人見知りを乗り越えると無茶苦茶人懐っこい人だったらしい。
片手でりんごを潰せるだとか、弦高は指一本分入るぐらい高いとか。高校の時、必死で握力鍛えたな。りんご潰せないからあんな音にならないんだって。ちなみに内緒だが、今もそう思ってたりする。りんごを潰せないからだと(笑)。それから、ドーパン(Doping Panda)の基本チューニングが半音下げだったのはVAN HELANが半音下げだったからってだけで他に理由はない。
そうか、亡くなっちゃったかエディー・ヴァン・ヘイレン。
もちろん彼の作品は残り続けるし、影響という意味ではエディー・ヴァン・ヘイレンの歴史は続いて行く。けれど、10月6日以降の世の中をエディーが僕らと共有することはもうない。メジャーリーグの優勝チームを彼が知ることはないし、アメリカの次の大統領を知ることも出来ない。当たり前の話だということは分かっているのだけど、僕は誰かが亡くなった折、このことを考えるといつも得体の知れない気持ちになる。通常世界との遮断は僕のヒーローにも平等に訪れ、今そのことにいささか動揺しているというわけだ。たとえば今日僕が死んでしまえば、そこから先の新しい音楽、映画、小説、青い空、新しい恋を僕が体験することはない。全てを塗り替える新しい才能も、全てを飲み込む恐ろしい災害も、無になった僕に影響することは何一つ無いのだ。もし僕の“それ”が去年であったのなら、かように世界を牛耳るコロナも僕にとってはまったくの“無”だ。死はそれほどまでに絶対的で凄まじい”終わり”である。正直、いなくなってしまうこと、それ自体には恐れは無い。付随する寂しさや、悲しさや、悔しさが“恐ろしい”のだ。
小学生の時、死ぬことが理解出来なくて、怖くて怖くて1人布団の中で泣きじゃくったことを覚えている。今思えば、あれはただ怖いという気持ちだけではなくて、その間際に訪れるであろう寂しさとか、悲しさとか、悔しさとかを既に想像していたのかもしれない。であるなら、あの日、人目もはばからずボロボロとアイツの為に泣いてしまったこともそういうことだったのだろうか。
いかんね、話が逸れてしまった。こんなことでは僕の“唯一”のギターヒーローに申し訳ない。僕の死生観などこの際どうでもいいことだから。
◆ ◆ ◆
親愛なるエディーへ
「僕は世界中にいるあなたのフォロワーの中のたった1人です。
あなたの存在に気づいてから30年弱。
あなたと同じ世界にいて、あなたに影響を受け、同じ仕事を選び、同じようにギターを愛し、あなたのチューニングを、弾き方を、リフの作り方を真似し、ライブを、ギターをあなたと同じように楽しみました。
本当に素晴らしい経験でした。
エディー・ヴァン・ヘイレンがいた世界と、エディー・ヴァン・ヘイレンに、心より感謝します」
フルカワユタカ
◆ ◆ ◆
約束があったので、上記まで書いて外出した。
程よく酔って帰宅して、結びを書こうとこのテキストファイルを開けた僕は今、不覚にも泣いている。ポロポロと涙がこぼれる。涙のわけはよく分からない。会ったこともないレジェンドの死になのか。必死になってスコアブックに何かを書き込む高校生の僕になのか。大きなステージでスポットライトを浴びるあの頃の僕になのか。それとも今の僕になのか。
さよならエディー。
今月のコラム、少々短いがこれにて。もう少し詳細は書けるが、余分はいらぬかと思うのでやはりこれにてです。
2020年10月6日、僕の唯一のヒーローが亡くなった日。
愛をもって。
■有観客ライブ<生配身>
・1st:open14:15 / start15:00
・2nd:open17:15 / start18:00
▼チケット
スペシャルCD(新曲2曲収録)付き:6,900円(税込)
チケット販売:10月中旬より受付スタート予定
■配信番組『オンガクミンゾク Vol.4』
open20:50 / start21:00
スペシャルライブ:ジャズカワユタカ feat.岸本亮(Key)、井上司(Dr) from fox capture plan
トークゲスト:後日発表
▼チケット
1,000円(税込)
配信プラットフォーム:Streaming+
https://eplus.jp/furukawayutaka-s/
■公式ファンコミュニティfanicon『星の降る町』入会ページ
■コンテンツ内容■
・ここだけでいち早く聴ける新曲
・ここだけでしか呟かない、本人による投稿
・ここだけでしか見られない生配信ミニライブを月1〜2回程度開催予定
・本人によるオンラインギタークリニック
etc.
「星の降る町」入会ページ
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