【インタビュー】とけた電球、三人が丹精込めて作り上げたハイ・クオリティーな最新音源「STAY REMEMBER」

ポスト

今年1月にベーシスト脱退というアクシデントに見舞われた、とけた電球。そこで停滞することなく、意欲的に活動を継続させた彼らの最新音源「STAY REMEMBER」が11月28日にリリースされた。とけた電球初のEP盤となる同作は、幅広さとクオリティーの高さを併せ持った、非常に良質な一作となっている。さらなるグレードアップを果たしたメンバー三人の最新の声をお届けしよう。

■今回のEPは「覚えてないや」を中心にして
■この曲との距離感を考えながら作っていきました


――新しいEPの制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?

境直哉(Key. 以下、境):今回の「STAY REMEMBER」の3曲目に入っている「覚えてないや」という曲は2年前くらいにできた曲で、ずっとライブで演奏しているんです。メンバーみんなこの曲は気に入っていて、今回のEPは「覚えてないや」を中心にして、この曲との距離感みたいなところを考えながら他の曲を選んで作っていきました。

岩瀬賢明(Vo.Gt. 以下、岩瀬):全体を覆うテーマや方向性みたいなものは特になかったです。とりあえず、できる限り曲をたくさん作って、「覚えてないや」を軸にしつつ、今の自分達がいいと思うものを拾っていった感じです。

――とけた電球のど真ん中といえる曲調で、なおかつ良質な「覚えてないや」があったことは制作の大きな拠り所になったでしょうね。「STAY REMEMBER」はカラーの異なる5曲が並んでいますが、それは自然な結果でしょうか?

高城有輝(Dr. 以下、高城):狙った感じはなかったですね。今回は僕も曲を作って候補として出して、デモのストックみたいなものが結構あったんですよ。その時点でいろんな曲があったし、僕らはいろんなことをやりたい人間の集まりなので、自然と幅広くなりました。


――では、「STAY REMEMBER」を1曲ずつ見ていきましょう。EPの幕開けを飾る「新鮮な身体」は、シティポップに通じるテイストが香るファンキー&アッパーな曲です。

岩瀬:この曲は、高城が「こういうビートを叩きたい」と言ってきたところから始まりました。それで、作曲のクレジットが僕と高城になっているんです。

高城:カッコいいドラムのビートを基盤にした曲を作りたいという気持ちが自分の中にあって。それで、こういうテンポ感で、こういうビートの曲をやりたいんだよね、ということを岩瀬に伝えたんです。そうしたら、そこに岩瀬がストックしていたコード進行を乗せて原形ができて…という感じでした。

岩瀬:全体の曲調としてはファンクっぽいのかなと思ったけど、バンドとしてやりたいのはそうじゃなくて、ポップスなんだよなというのがあって。バンドでいうと、ORIGINAL LOVEさんの昔の感じというイメージでした。後ろのビートがカッコいいけど、やっていることは歌モノのポップスみたいなところに落ち着かせたいなと思って作りました。僕はこういう曲調は大好きで、歌うのも楽しかったです。


▲岩瀬賢明

高城:この曲はイメージどおりのビートを叩けたし、インター・パートにフックを入れ込んだことも印象に残っています。そこだけドラムをダブルで重ねて、スネアもちょっと違うスネアを使ったりして、ドラムを押し出しているんですよ。それが楽しかったし、仕上がりも気に入っています。

境:僕らは元々ファンクっぽい曲が好きで、前のアルバムや、それ以前の音源、つまりCDになる前からそういう曲をやっていたんです。今回ベースをサポートのこうだい君が全曲弾いてくれているんですけど、彼もファンクっぽい曲調が好きなので、僕らはすごくやりやすかった。こうだい君も含めた4ピース感で成立させて、それをパッケージできたのは、すごく良かったんじゃないかなと思いますね。

岩瀬:この曲はレコーディングするときに僕のギターの16ビートのブラッシングをループさせたのを流しっぱなしにして、それをみんなで聴きながら演奏したんです。ブラッシングが入ってから、全然ノリが変わったよね?

境:変わった。

高城:めっちゃ、やりやすくなった。

――躍動感に溢れたグルーブが心地好いです。「新鮮な身体」の歌詞についても話していただけますか。

岩瀬:この曲の歌詞は、テーマがあって。僕は顔がカッコいい人とか、美人があまり好きじゃないんです(笑)。好きじゃないというか、羨ましさを感じている。生まれ持ったスペックの高い人の中には、生まれ持ったものだけで勝負していく人がいると思うんですよ。人生を生きていく中で得たものを使うんじゃなくて、顔がいいからそれだけで私は生きていけるとか、俺はモテるぜみたいな人は結構いるなと思っていて。

高城:そういう人は、得しているよね(笑)。

岩瀬:うん。でも、そういうのは若いうちだけだぜと僕は思っているんです。そういう人達に対して、“別にいいけど、若いうちだけだよ”ということを書いたのが「新鮮な身体」です。

――歌詞からは、“人生を大事に生きて、日々生まれ変われ”というメッセージを歌っているのかなと思いました。

岩瀬:そういう前向きな歌詞ではないです(笑)。根っこにあるのは、“お前らムカつくんだよ”という気持ちなので(笑)。

境:でも、ひっくり返せば、そういう意味にもなるんじゃない? “こっちは日々、ひたすらがんばっているんですよね”という(笑)。

岩瀬:そうだね。“お前らはそうやって顔だけでご飯を奢られていたりするけど、こっちはな…”みたいな(笑)。ただ、自分の思いをダイレクトに書いた歌詞ではないので、前向きな歌詞だと捉える人は、そう解釈してもらってかまわないです。


▲境直哉

――では、そう捉えさせていただきます(笑)。2曲目の「ロードムービー」はメロディアス&ウォームなアップテンポのナンバーです。

境:これは元々サビだけ作ってあって、「覚えてないや」を軸にEPを作ろうという話になったときに、この曲を形にしたいなと思って完成させました。ポップな曲調をイメージしていて、残りのメロディーと歌詞を考えていく中で、僕は高城が昔付き合っていた人のことを思い出したんです。二人はお似合いだなと勝手に思っていたけど、別れてしまって、それが悲しくて。それをテーマにした歌詞にしようと思いつつ、元々サビは“こんなふうに、ゆったりした気持ちで生きられたらいいな”という思いでメロディーを考えていたので、それと重ねながら高城の恋をモチーフにして、僕の気持ちを書いたのが「ロードムービー」です。

――それで、透明感のあるせつなさを湛えた曲になっているんですね。「ロードムービー」は正統的ポップスという印象の曲でいながら、構成がイレギュラーなところが面白いです。

境:そう。この曲の構成は、気持ちの変化を現しているというか。最後に“ワァーッ”と高ぶって終わるというよりも、こういうふうに生きていけたらいいな…というふうに、緩やかに日常に戻っていくことをイメージして書いていたので、それに沿った流れにしたいと思って。それで、こういう構成にしました。

岩瀬:ストーリー性を感じさせる構成になっていて、すごくいいと思いますね。「ロードムービー」は、僕はメロディー作りも、作詞も何もしていないので、歌にしても、ギターにしても自分なりにできたというのがあって。今回の5曲のレコーディングの中では、1番か2番くらいに上手く歌えたました。レコーディング中も気持ち良く歌えたし、できあがった音源を聴いても上手く歌えたなと思う。いいテイクが録れて良かったなと思いますね、自画自賛になっていますけど(笑)。

――この曲の包み込むような歌は本当に魅力的です。それに、ブルージーなギター・ソロも聴きどころになっています。

岩瀬:ソロは、すごく適当に弾きました(笑)。僕はギターを弾くのは好きだけど、決まったフレーズを弾くのはあまり好きじゃないんですよ。この曲もソロは考えずにレコーディングして、何度か弾いて、その中からいいのを選んだんです。この曲は8テイクくらい、ソロを弾いていたよね?

高城:そんなに録ったっけ?

岩瀬:録った。「あっ、間違えちゃった」みたいな感じで(笑)。


▲高城有輝

――何度も弾くことになるかもしれないとわかっていながら、何も決めずにスタジオに行ったんですね。

岩瀬:そう(笑)。その場の空気感とか、瞬間の感情を活かしたかったんです。

境:この曲のソロは岩瀬ならではのグリップ感というか、この曲が持っているせつなさみたいなものが凝縮されていていて、すごく気に入っています。曲の中でギターにある程度立っていてほしかったし、ギター・ソロもお任せしたんですけど、すごくいいギターを弾いてくれて感謝しています。

高城:「ロードムービー」は、境から作曲の経緯を聞いていたので、僕は超おセンチな気持ちになって録りに臨みました(笑)。レコーディングのときも、多摩川の映像を流したりしていたよね?

岩瀬:そう! パソコンで映像を流してギターを弾いた(笑)。

高城:岩瀬に、「センチメンタル担当は、お前ね。俺は自転車を漕いでいるようなドラムを叩くから」と言って。そうやって、みんなでイメージを共有して、役割分担を決めたんです。なので、僕はシンプルなビートを刻んで、疾走感を出すことを意識しました。そういうアプローチを採ったことで、この曲はレコーディングでさらに化けたという印象があります。

――サラッとしていそうでインパクトの強い曲といえますね。続く3曲目は、今作の軸になった「覚えてないや」です。

岩瀬:これは2015年の終わりか、2016年の始め頃に作った曲で、僕が前の彼女と……。僕は、元カノの曲ばかり作ってしまうんですよ。「覚えてないや」は、当時付き合っていた人がいて、僕がこの人と別れても、この人は普通に生きていくし、僕も生きていくんでしょうねと、ちょっと淋しがりながら作ったような記憶があります。

境:僕は、この曲を最初に聴いたときのことを、すごくよく覚えています。岩瀬が弾き語りの形で持ってきたんですけど、その時点で歌詞もあらかたできあがっていて、“君が今生きている世界から僕が消えたとして”というのを聞いて、めちゃくちゃ暗いことを歌っているなと思ったんですよ。でも、曲自体はすごく開けていて、非常に届きやすいというか、とけた電球の入り口になるような曲なんじゃないかなという印象を受けたんです。なので、気合を入れてアレンジしたし、ピアノも結構細かく気を遣いました。重心の置き方や和音の積み立て方を丁寧に決め込んでいったんです。ただ、イントロだけ自信がなかったんですよ。これだけ良い曲に対して、このイントロでいいのかなとずっと思っていたんです。それで、レコーディング前に岩瀬に相談したら、「いや、これがいいんだよ」みたいなことをサラッと言ってくれたことも印象に残っています。

岩瀬:……ごめん、全然覚えてない(笑)。

境:ええっ? マジで?(笑)

岩瀬:うん。

境:あの言葉で、すごく救われたのに……。

高城:でも、岩瀬が覚えてないということは、本当にいいと思っていたんだよ、多分(笑)。「覚えてないや」は本当にわかりやすいメロディー・ラインだし、歌が超良くて、僕はこの曲が大好きです。僕の兄貴も大好きなんですよ(笑)。そういう曲なので、ただひたすら歌を届けたくて、ドラムは後ろに徹することにしました。それは、正解だったんじゃないかなと思います。

岩瀬:みんな、俺が思った以上に思い入れが強いね。

――実際、曲も歌も上質です。

岩瀬:ありがとうございます。この曲の歌はめっちゃ難しいんですよ。僕が出せる高い音の限界まで全部出ているメロディーなので。だから歌うのが難しいんですけど、その中でも声をすごく張るところや、繊細に歌わないといけないところがあって。難易度の高いメロディーを、そういうところも感じながら歌うというのが、すごく難しかったです。

――黒っぽさが香っていることが、独自の色気を生んでいます。

岩瀬:だとしたら嬉しいですね。

高城:この曲の歌は、本当にいいと思う。いつも歌録りをするときはエンジニアさんと、歌はこうしたほうがいいね…みたいなことを話し合うことが多いんですけど、「覚えてないや」は岩瀬が一人で全部録ったんです。それが、すごいなと思って。

境:そう、あれは本当にすごかった。

高城:Bメロの最初に出てくる“だらしなくて情けないな”というところの声色の変化とかは、“情けねぇな、お前”という弱さや人間性が垣間見えるし。岩瀬の表現力の高さを、あらためて感じました。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報