【インタビュー】結花乃、透き通る歌声と優しくときにはやんちゃさも感じさせる彩り豊かな表現力による一枚『きんぎょすくい』
8月9月にオンエア中のNHK「みんなのうた」きんぎょすくいで話題となっているシンガーソングライター結花乃が3rdシングル『きんぎょすくい』を9月12日にリリースした。医大看護科を卒業後、看護師を経てシンガーソングライターとしてデビューしたという、異色の経歴の持ち主である彼女。透き通る歌声と、優しく、ときにはやんちゃさも感じさせる彩り豊かな表現力による一枚は、自ら手掛けているという水彩画のイメージそのものだ。音楽を始めたきっかけから今作についてまでインタビューを行った。
■小さくても大きくても、命の一つ一つが大切に輝いている
■そういう曲を作りたくて「きんぎょすくい」を書きました
――医大看護科を卒業後、看護師として働いていたそうですね。みなさん気になると思うのが、どうして看護師からシンガーソングライターになったのかということだと思います。そもそも看護師になるのも大変ですよね。
結花乃:そうですよね(笑)。私が看護師になろうと思ったのは、高校生の頃に祖母が入院したことがきっかけです。その頃は将来の職業についての希望はなかったんです。でも、看護師さんが働いている姿を見て、すごく溌溂として人のために働いていて、元気で時に優しく時に厳しくっていう姿がとても素敵だったので、看護師になりたいと思うようになりました。歌うこと自体はずっと好きだったんですけど、仕事にしたいということではなくて、ちょっと得意だなっていうくらいで。高校3年の進路も決めて受験勉強も始めていたときの文化祭で、友だちと思い出を作りたくてバンドを組んで、初めてステージで歌ったんです。そのときに、初めて全身の血が巡るくらいの、「素晴らしいものをみつけた!」っていう気持ちになりました。
――そのときは、どんな曲を歌ったんですか。
結花乃:JUDY AND MARYさんの「そばかす」や、絢香さんがすごく好きだったので、絢香さんの「三日月」も歌いました。
――その頃から、憧れていた女性シンガーがいたんですね。
結花乃:そうですね。その頃は歌を職業にしたいとは思っていなかったんですけど、HYさんや絢香さんなど、歌が上手な方の曲を歌いたいと思ってカラオケで歌ったりしていました。そこから、「もう一回ステージに立ちたいな、もう一度歌いたいな」っていう思いが募るにつれて、「これをずっと続けられるようになりたい、歌手になりたい」って思うようになったんです。でも、もう進路も決めていたし、親に学校に通わせてもらっていたということもあって、今さら勉強を辞めて音楽をやりたいって言う勇気もなくて。それで、そのときは看護師になって音楽は趣味として続けていければと思っていました。
――大学時代は、音楽と離れていたんですか。
結花乃:看護師になるために大学に進学して勉強を始めてからも、音楽が好きな気持ちがどんどん募ってしまって。大学生活でも軽音楽部に入ったり、ボイストレーニングに通ったりもしていました。看護師として働き始めてからも、路上ライヴを一緒にやってくれる友だちを見つけて、ちょっとでも音楽と繋がっていたいと思ってやっていたんです。
▲『きんぎょすくい』【Type-A(CD+DVD)】
▲『きんぎょすくい』【Type-B(CD)】
――そこから、シンガーソングライターとして本格的に活動するようになったのは、どんなきっかけがあったのでしょうか。
結花乃:私が看護師になって初めて勤めた病棟が、重い患者さんが多い病棟で、結構「新人にとってはつらいよ」って周りから言われているようなところでした。昨日まで自分が診ていたのに、翌日勤務に行ったら亡くなっていたりという経験もあって、「人間て儚いな」って思うようなところがあったんです。そんな中でも、私が失敗したりしても、にこやかに「大丈夫だよ」って言ってくださる方がいたんです。その方に「結花乃ちゃんは何か趣味はあるの?」って訊かれて「じつは音楽が好きで歌うのが好きなんです」っていう話をしていて。後日、その方が突然亡くなってしまったんです。そのときに、自分の好きなことがあって、本当はもっとしっかりやってみたいと思っているのに、「このままでいいんだろうか?」って思い始めて。いつ亡くなるかわからない方々をいっぱい見ている中で、その人は「やりたいことがあってもできない」けど、私は「やりたいことがあるのにやらない」んだって思うようになってモヤモヤし始めたんです。それで「やっぱり私は音楽をやりたい」と決断して、仕事を辞めたんです。
――思い切った決断ですよね。
結花乃:始めるなら早い方が良いと思って、そこからまず1年音楽を頑張ってみようって思ってやったんですけど、1年じゃ何も変わらなくて。それでも諦めきれなくて続けてきて、今に至る感じですね。
――作詞作曲もご自分でしていらっしゃいますが、一番最初は、どんな曲を書いたんですか。
結花乃:未発表曲なんですけど、一番最初に作ったのはバラードです。その前にもいくつか作ってはいたんですけど、気に入らなくて途中で止めちゃったりしていました。最初は、曲から作ろうと思っていたんですけど、だんだん詞から作る方が向いてると思い始めて。まず詞を書いて、その詞の雰囲気からバラードにしようかポップな歌にしようか、暗い歌にしようか明るい曲なのかっていうことを考えるようになってから作れるようになりました。
――では、それぞれの曲について教えてください。まず「きんぎょすくい」はNHK「みんなのうた」のために書き下ろした曲なんですね。どんなきっかけから生まれた曲なんでしょうか。
結花乃:曲ができたきっかけは、私が実際にお祭りできんぎょすくいをして、小さいきんぎょを5匹飼っていたんですけど、2、3日で3匹死んでしまったんです。それで調べたら、お祭りのきんぎょって、密集しているところに入っているから、酸欠で弱っていたり、病気になってしまっていたり、追いかけまわされてストレスで参っちゃってたりして、あっという間に死んでしまうことが多いらしいんです。その死んでしまって浮いているきんぎょを見て、「とても弱いな、儚いな」って感じたときに、病棟で働いていたときのことを思い出したんです。そんな思いが重なって、「小さな命の輝き」というか、小さくても大きくても、一つ一つが大切に輝いているんだっていう曲を作ってみたくて、詞から書き始めました。
――そうしたご自身の体験から、曲の発想が生まれることが多いのでしょうか。
結花乃:多いです。看護師を辞めて音楽を始めた頃は、もっと早く始めればよかったと思ったんですけど、最近は歌詞を書くたびに、働いていたときのことや、夢を追うか追わないか迷っていたときのこと、始めてからも全然上手く行かなくて諦めるかどうしようか悩んだときのことなんかを思い出すことも多くて。色んな思いがあって夢を追い始めたっていう自分のベースがあるからこそ、書ける歌詞があると思うことも多いです。
――歌を歌うことと、看護師として働くことの共通点みたいなものはありますか?
結花乃:自分が歌い始めたときは、自分が歌が好きで歌いたいから、やりたいことをやるために夢を追い始めたっていう感じだったんですけど、ちょっとずつ聴いてくださる人が増えて行くにつれて、人がいるから私が歌いたい、人に伝えたいっていう気持ちに変わりました。看護師をやっていたときも、「この人にはどういうケアが必要なんだろう」ってすごく考えたし、ライヴで「どういうことを言えばみんなに伝わるんだろう」っていうのは、繋がるものはたくさんあると思います。
――看護師としての経験も活かして、歌詞だけじゃなく曲調なども「どうやって人に伝えるか」ということを考えているということですね。
結花乃:そうですね。歌い方とか、声のテイストとかにもこだわりたくて、何テイクも録らせてもらうこともありました。
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