【インタビュー】アースレス「コラボから自分の音楽性が見えてくる」
アースレスが通算4作目となる新作『ブラック・ヘヴン』を完成させた。時に30分におよぶインストゥルメンタル・ジャムで知られてきた彼らだが、今作は全6曲中4曲がボーカル入りでいずれも10分未満という、彼らとしてはコンパクトな楽曲が軒を連ねている。もちろん、そんな実験的アプローチを取りながらも、全編アースレスならではのヘヴィ・スペース・サイケ精神は健在だ。
◆アースレス映像&画像
1970年代ハード・ロックからジャーマン・サイケ、日本のニュー・ロックまでを化学融合させ21世紀のヘヴィネスの息吹で蘇らせたアースレスは、どこへ向かうのか?バンドのギタリスト兼ボーカリスト、アイゼイア・ミッチェルに訊いてみた。
──『ブラック・ヘヴン』で長さを抑えたボーカル・ナンバーを中心にしたのは、どんな意図があったのでしょうか。
アイゼイア・ミッチェル:明確な意図があったわけではなく、きわめて自然な過程でこんな作風になっていったんだ。マイク(・エジントン/B)とマリオ(・ルバルカバ/Dr)がサンディエゴ、俺がサンフランシスコに住んでいるから、彼ら2人がジャムを重ねることでベーシックなアイディアを作って、それに俺がギターを加えて曲の形にしていくことが多かった。今回はギターだけでなくボーカルも入れてみたらクールな出来になったんだ。俺はもうひとつのバンド、ゴールデン・ヴォイドで歌っているし、ボーカルを取るのは新しい経験ではなかったからね。それに、曲を長くする必然性も感じなかった。引き延ばさなくても伝えるべきメッセージは十分伝わるからね。もちろん20分のインストゥルメンタルを収録して、延々とギター・ソロを弾くことだってできたし、いくつかインスト曲のアイディアもあったんだけど、今回はタイトな作風にしたかったから、2枚組にはしなかった。結果として良いアルバムになったし、その選択は正しかったと思う。
──『ブラック・ヘヴン』には同題のインスト・ナンバーも収録されていますが、どんな意味があるのでしょうか?
アイゼイア・ミッチェル:何だろうな(笑)。実は俺も正解は知らないんだ。マイクとマリオが2人で書いたジャムが元になっているんだけど、そのときから「ブラック・ヘヴン」というタイトルが付けられていたんだよ。聴いた人がそれぞれ考えて自分なりの答えを導き出して欲しいな。俺自身は、夜の空を見上げた天国を見ているような感じをイメージしてギターを弾いた。“黒”と“天国”の双極性を描いているのかも知れないし、“黒い天国”とは“宗教の堕落”を象徴しているのでは?と訊いてきたジャーナリストもいた。いやーそれは考えすぎじゃないかな?...と答えたけど、それはそれでアリだと思うよ。
──全6曲中「ブラック・ヘヴン」と「ヴォルト・ラッシュ」のみがインストですが、今後もボーカル・ナンバーがバンドの音楽性の主軸を占めるようになるのでしょうか。
アイゼイア・ミッチェル:今後のことはまったくわからないけど、『ブラック・ヘヴン』ではこれまでやったことのない、新鮮なアプローチを採りたかった。それは成功したと思うし、次のアルバムではやはり過去にやったことのない手法を試みることになると思うよ。
──グラウンドホッグスのカバー「チェリー・レッド」は、ずっとライヴでボーカル・バージョンでやってきましたが、何故そうしてきたのでしょうか。
アイゼイア・ミッチェル:他人の曲だけどずいぶんアレンジを変えているし、ボーカルを入れないと「チェリー・レッド」だと気がついてもらえないと思ったんだ(笑)。アルバム『Rhythms From A Cosmic Sky』(2007)のレコーディングを担当したティム・グリーンは何も注文をつけてこなかったし、ライヴでやっているのと同じように何テイクか録って、それで完成だった。この曲は最近ライヴではプレイする頻度が少し減った気がするけど、大勢のお客さんからリクエストがあればプレイしているよ。初めてプレイする国では大抵演奏するようにもしている。別にジンクスというわけではないけど、知名度のあるカバー曲だし盛り上がるからね。
──アースレスとゴールデン・ヴォイドで歌うのは、表現手法は異なりますか?
アイゼイア・ミッチェル:バンドごとにあえて異なったスタイルで歌おうとは意識していない。ただ歌詞やボーカル・スタイルは音楽から触発されて生まれるものだから、バンドのメンバーが異なれば自然に異なるものになっていく。脳内で異なった波動が起こることは確かだ。
──2015年1月の来日公演では、どのような思い出がありますか?
アイゼイア・ミッチェル:最高の経験だったよ。ライヴ会場は小さかったけど、お客さんがギュウギュウ詰めになってすごい熱気だった。無理して大きな会場でやるよりもこれで正解だった。バンドの3人の演奏とお客さんがぴったりハマって、誇りにできるステージ・パフォーマンスになったよ。日本は食べ物も素晴らしいし、アメリカやヨーロッパとは異なる文化圏で、街を歩くだけですべてが新しい発見だった。コンビニで物を買うだけでもスリルを感じた。最終日に新宿のバッティングセンターに行ったのを覚えている。アメリカとはまったく異なる最新の設備で、デジタル映像でピッチャーが投げてくる映像に驚いた。変化球の球種も多くて、映画『ブレードランナー』の世界に入り込んだかのようだった。
──アースレスの3人は日本のロックにも傾倒しているそうですが、どんなバンドが好きなのですか?
アイゼイア・ミッチェル:日本のハードなアンダーグラウンド・ロックが大好きなんだ。十代の終わりから二十代の初め、日本のロックやドイツのクラウトロックへと導いてくれたのはマイクとマリオだった。HIGH RISEの『DISALLOW』(1996)を聴いたことはアースレスの音楽性を決定づけたといえるかも知れない。ヘヴィで、サイケデリックで...まさに完璧だった。それからブルース・クリエイションや陳信輝、フラワー・トラベリン・バンド...だるま式に膨れあがっていった。最近のバンドではアシッド・マザーズ・テンプル、メインライナー...そしてもちろんETERNAL ELYSIUMね。彼らと出会うのは、ある意味運命だった。アースレスを結成して1年ぐらいした頃、西海岸で一緒にショーをやったんだ。彼らとは音楽的にも人間的にも兄弟となった。
──これまでどんなバンドとジャムをやったことがありますか?
アイゼイア・ミッチェル:サンディエゴのアストラのブライアン・エリス、ハーシュ・トークのゲイブ・メッサーとジャスティン・フィゲロアのような地元のミュージシャンとジャムをやったことがあるし、ファットソー・ジェットソンのマリオ・ラーリとも共演したことがある。2018年4月にオランダの『ロードバーン・フェスティバル』でダモ鈴木と共演できるのは夢のようだよ。自分の人生においてこんなことが起きるなんて、本当にクレイジーだ。彼のようなレジェンドと一緒にプレイして、何が起こるのかまったく予測できない。『ロードバーン』フェスではレジデンシー・バンドとして3回プレイすることが決まっているんだ。いろんなミュージシャンとのコラボレーションすることで自分の音楽性が見えてくるし、これからもっとジャムをやりたいね。サンディエゴの仲間サクリ・モンティやジョイともやりたいし、一緒に北米ツアーを回る日本の幾何学模様、それからもちろんETERNAL ELYSIUM...そうしてミュージシャンとして、そしてバンドとして成長していきたい。
取材・文:山崎智之
写真:Ed Dominick
アースレス『ブラック・ヘヴン』
【30セット通販限定CD+Tシャツ】¥5,000+税
【通常CD】¥2,300+税
1. ギフテッド・バイ・ザ・ウィンド
2. エンド・トゥ・エンド
3. エレクトリック・フレイム
4. ヴォルト・ラッシュ
5. ブラック・ヘヴン
6. サドゥン・エンド
【メンバー】アイゼイア・ミッチェル(ギター/ボーカル)
マリオ・ルバルカバ(ドラムス)
マイク・エジントン(ベース)
◆アースレス『ブラック・ヘヴン』レーベルオフィシャルサイト