来日目前、ナチュラリズムの巨匠ルドヴィコ・エイナウディの魅力とは
▲©Decca/Ray Tarantino
ナチュラリズムと呼ばれるジャンルの音楽が、流行に敏感な音楽ファンの注目を集め始めている。“自然派”というジャンル名が示すように、普段の生活の中に自然に溶け込み、優しく目立たずに心地よさを演出する音楽だ。それが今、ヨーロッパを中心に急速に人気を集めていて、日本でも人気を獲得しつつある。そのナチュラリズムの巨匠と呼ばれるルドヴィコ・エイナウディが間もなく4月16日(日)に来日公演を行う。これから日本国内でも大きなムーブメントになりそうなナチュラリズムを、いち早く体験できるチャンス到来だ。
ナチュラリズムは“ポスト・クラシカル”とも呼ばれるように、クラシックの室内楽がその源流。以前に大きなムーブメントとなったアンビエントやニューエイジにも近いが、それよりクラシック色が濃い。強く主張しすぎず過剰にドラマチックに展開することもないのに、心に染み入るように静かな感動を覚える音楽なのだが、単なるBGMではないところが受けている理由だろう。その元祖がエリック・サティだといえば、どんなものか想像がつく人も多いかもしれない。聴く人によって頭の中に豊かな情景を映し出し、ドラマチックな世界を生み出してくれるのだ。
そんなナチュラリズムの世界で、カリスマと呼ばれて今とくに人気があるのが、マックス・リヒター、ハウシュカ、ニコ・ミューリー、ルドヴィコ・エイナウディといったアーティストたちだ。マックス・リヒターは、ポスト・クラシックという言葉を最初に使ったとされるアーティストで、眠りのために作ったという『スリープ』は日本でも話題になった。静かなピアノが眠りを誘いそうな曲だが、単に催眠効果があるだけではなく、眠っている間にも聴き続けられるという8時間に及ぶ大作だ。ハウシュカはピアニストのフォルカー・ベルテルマンのソロプロジェクト名で、プリペアド・ピアノ(ピアノの弦に木片や金属を挟み込んで特殊なサウンドを生み出すもの)を使うことでも知られている。また、ビョークやルーファス・ウェインライトなど多彩なアーティストとのコラボレーションでも有名なのがニコ・ミューリー。現代音楽の雰囲気も漂う緻密に組み上げられたサウンドで、彼もすでに日本で人気がある。
そして巨匠と呼ばれるのが、間もなく来日公演を行うルドヴィコ・エイナウディだ。イタリア人作曲家のエイナウディは、現代音楽作曲家としてキャリアをスタートさせるが、ビートルズに影響を受けてポピュラー音楽を取り入れ始めたという。90年代には、クラシックを基盤にポップス、ロック、民俗音楽など様々な音楽をミックスした独自の楽曲を発表してヨーロッパで一大ブームを巻き起こしている。それ以降、ピアノを中心に弦楽器や電子楽器とコラボした作品を次々に発表してきた。2009年の『Nightbook』はヨーロッパのすべてのクラシック・チャートでトップ1を獲得しているし、2013~14年度の英クラシック週間シングル・チャートではトップ1に最多登場という記録も作っている。これまでのCDセールスが世界で150万枚以上、楽曲のストリーミング再生回数が5億4千万回以上という数字は、クラシックの世界では異例中の異例。まさに巨匠の名にふさわしい作曲家・ピアニストなのだ。2016年に、公開されたPV「北極に捧げるエレジー」が印象に残っている人は多いのではないだろうか。これは北極海で実際に撮影されたもの。決してCGなどではない。
そんなエイナウディの現在での最新作が『エレメンツ』だ。UKトップ・チャート40で初登場12位と、過去23年の中で最高位を獲得したクラシック・アルバムとなった作品だ。冒頭の「雨の匂い(ペトリコール)」は静かで音数の少ないピアノ、寂しげなストリングスから幕を開け、徐々に分厚く、重みを増していくストリングスが荘厳な雰囲気を醸し出す。軽やかで流麗なピアノが印象的な「夜」の途中で登場するストリングスセクションは、寂しさと明るさを併せ持っていて、希望を感じるような情景が浮かぶ。落ち着いたピアノが静かに流れる「四次元」は、変化が少なく平坦なようなのに、聴いていると徐々に、抑えた中に熱い感情が秘められているように感じられる不思議な楽曲だ。少しビートが明瞭になるのがタイトル曲の「四大元素(エレメンツ)」。4つ打ちのようなビートに乗ったストリングスセクションは、エイナウディが愛するビートルズの中でももっとも影響を受けたという「エリナー・リグビー」のようだ。また、曲が進むにつれて緊張感が高まっていく「いにしえの言葉(ロゴス)」のような曲もあり、飽きずにナチュラリズムの世界を堪能できる。
▲『エレメンツ』
どの曲も落ち着いて控えめな雰囲気、時折無音になってしまいそうなほど音数が少ない楽曲もある。一般的なポピュラー音楽のように、サビで必ず盛り上がるような仕掛けもほぼ皆無。しかし、そこがキモなのだ。本来人間の持つ自然な感情は、それほどドラマチックに乱高下したりしないのが普通。つまりエイナウディの楽曲の起伏は、自然の感情にとても近いのだ。だからこそ、普段の生活の中で心に自然に入り込んできて、感動を呼ぶのだろう。
フランス映画『最強のふたり』の音楽を担当したことで、ここ数年日本でも人気が上昇し始めているエイナウディだが、今度は日本映画の音楽を担当することも明らかになった。9月に公開予定の映画『三度目の殺人』の音楽を担当することが、先日発表されたのだ。2013年の大ヒット作『そして父になる』と同じ是枝裕和監督と福山雅治主演となるこの作品、役所浩二、広瀬すず、斉藤由貴、吉田鋼太郎、満島真之介、松岡依都美、市川実日子、橋爪功といった豪華なキャストも映画ファンに注目されているが、是枝裕和監督たっての希望で実現したというエイナウディがどんな楽曲を映像に乗せてくるのか、音楽ファンならサントラにも要注目だ。
▲是枝裕和監督&ルドヴィコ・エイナウディ
そんなエイナウディが間もなく来日公演を行う。ルドヴィコ・エイナウディのピアノのほか、バイオリンやギター、パーカッションなどを含めた6人編成、さらに日本でも人気のヴォーカリスト/ヴァイオリニストのサラ・オレインもゲストで登場するという。世界中の名門ホールでコンサートを行い、そのほとんどがソールドアウトというエイナウディの音楽を、ぜひ体感しに行ってみてもらいたい。そのチャンスは、4月16日の1日限りだ。
■ルドヴィコ・エイナウディ
『エレメンツ』
発売中
CD:UCCL-1192 ¥2,700(tax in) 2016.12.7
◆https://itunes.apple.com/jp/album/elements-deluxe/id1027176835?app=itunes&at=10I3LI
■ルドヴィコ・エイナウディ
『時の移ろいの中で』
SHM-CD:UCCL-1168 ¥2,700(tax in) 2013.10.9
◆https://itunes.apple.com/jp/album/in-a-time-lapse/id586716152?app=itunes&at=10I3LI
■ルドヴィコ・エイナウディ
『エッセンシャル・エイナウディ』
HQ-CD:TOCE-90206 \3,086(tax in) 2011.10.5
◆https://itunes.apple.com/jp/album/essential-einaudi/id720569650?app=itunes&at=10I3LI
ライブ・イベント情報
場所:すみだトリフォニーホール
日時:2017年4月16日(日)17:00開演(16:30開場)
前売:S席6,500円(1階・2階)/A席6,000円(3階)※当日券500円増し
(問)プランクトン03-3498-2881 http://www.plankton.co.jp/einaudi/index.html
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