異端児SSWジェイムス・アーサー、波乱の人生 Vol.1/3
ワン・ダイレクションなどを輩出した英TVオーディション番組『Xファクター』の2012年度優勝をきっかけに、華々しいデビューを飾ったジェイムス・アーサー。幼い頃から、そしてデビュー以降も波乱に満ちた人生を歩んできた“異端児”シンガーソングライターである彼の、シングル・アルバム共に全英1位に輝き、大復活を遂げた最新アルバム『バック・フロム・ジ・エッジ』の国内盤発売がいよいよ1月25日に発売となるが、ジェイムス・アーサーの日本デビューを祝して、彼の波乱の人生を計3回にわたってお届けする。
◆ジェイムス・アーサー画像
「苦難に直面しても立ち向かうこと。自分を信じて自信を持つこと。ポジティヴで良い人であること。これが今、僕が音楽で伝えたいこと。過去の自分は残念ながら正反対だったけれど、今はそこから戻ってくることができたんだ」 ──ジェイムス・アーサー
決して優等生とはいえない人生だった彼が、実生活を更正させ2度の転落を乗り越えた末に辿り着いた“全英チャート1位”の日本デビュー作は、君の人生の応援歌にもなるはずだ。
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オーディション番組の優勝者や上位入賞者が、当然のようにアーティストとして成功を収める時代は、残念ながらもう終わってしまったようだ。ここ数年の『Xファクター』や『アメリカン・アイドル』のチャンピオンたちのチャート成績を振り返ってみれば、それはすぐに分かる。英国版の『Xファクター』を例にとってみると、かつては、毎年ちょうどクリスマス頃に優勝者がデビュー・シングルを全英ナンバーワンに送り込むのが、ちょっとした慣習になっていた。でも昨年のチャンピオンであるマット・テリーは3位、一昨年のルイザ・ジョンソンは9位という結果に終わっている。そんな中で、2012年の第9シーズンで優勝し、まさにデビュー・シングル『Impossible』で1位に輝いて一旦頂点に立ったのち、スキャンダルを起こしてドン底に落ちて、ここにきて再び頂点へと返り咲いたジェイムス・アーサーのケースは、極めて稀だと言えるのだろう。
思えばその生い立ちもある意味で、来たるトラブルを予感させるものだったのかもしれない。1988年3月にイングランド北部の町ミドルズブラで、ワーキングクラスの家庭に生まれたジェイムス。父と母は彼がまだ1歳の頃に離婚し、以後母に育てられた。その再婚相手の仕事の関係で9歳から数年間を中東のバーレーンで過ごすのだが、母がまたもや離婚したことから、英国に帰国。これを機に、ジェイムスの人生は少しずつおかしくなってゆく。幼少期の地元の友人たちとも、実の父親とも疎遠になって、同性のお手本的存在を欠いていた彼は不良行為に走り、母親との関係も険悪化。15~16歳になる頃には、とうとう家から追い出されてしまうのである。
それからは定職にも就かず、お金に困ってホームレス状態に陥って公園のベンチで夜を過ごしたり、里親に引き取られたりもしながら生活したジェイムス。そんな彼にとって、唯一の心の拠り所は音楽だった。オアシスやステレオフォニックスといったアンセミックなロックバンドを始め、色んなジャンルの音楽に親しんだが、特に、スティーヴィー・ワンダーやプリンス、マーヴィン・ゲイ、マイケル・ジャクソンなどなどを愛していた母の影響で、ソウル・ミュージックに傾倒。15歳の時に、当時の母の交際相手にもらったというギターを弾き始めて以来、それぞれに志向が異なるバンドの数々のフロントマンとして、或いはソロのシンガーソングライターとして精力的に活動を続け、ミュージシャンを志す。すさんだ生活を送りながらも、なんとか16歳までの義務教育を終えた彼は、さらに1年、音楽を学んでいる。
そしてパブやクラブでカバー曲を歌う一方、独自にソングライティングを行ない、ラップでも実験しながら、ソウルやヒップホップとポップをミックスしたスタイルを模索。地元のスタジオのオーナーの好意で、無料でレコーディングをするチャンスを得て、数枚のEPをインターネット経由で発表するのだが、レーベル契約のオファーは得られず…。なかなか突破口が見いだせずに行き詰っていたジェイムスは、試しにオーディション番組に挑戦しようと思いつく。
まずは2011年に、スタートしたばかりの『The Voice UK』の予選に応募。しかし200組まで絞られた時点で敗退してしまい、次は翌年6月、ニューキャッスルで開催された『Xファクター』の地区予選にエントリーする。そこで彼が勝負をかけて選曲し、アコギを抱えて披露したのは「Young」。同番組の審査員のひとりである、元N-Dubzのトゥリーサ・コントスタヴロスのソロ・デビュー・シングルで、当時全英ナンバーワンになって間もなかった曲だ。サビで“私たちがしてきたことを許して/なぜって私たちはまだ若いから”と聴き手に懇願するこの曲に、ジェイムスは、自ら綴ったラップを織り交ぜてオリジナリティをプラス。複雑な青春時代を振り返るパーソナルな内容に仕上げることで、パフォーマンスにエモーショナルな重みを与えられたのだろう、審査員たちの絶賛を浴びて晴れて予選をパスし、次の“ブートキャンプ”ステージに進むのだ。
またこの頃にはようやく、両親との関係を修復しつつあったジェイムス。予選の会場では、離婚後初めて同じ場所に揃ったという父と母が息子を見守り、歌を聴きながら涙を流す姿がテレビを通じて全国のお茶の間に伝えられ、大きな話題になったものだ。そして無事ブートキャンプ・ステージ、続いて次の“ジャッジズ・ハウス”ステージも通過すると、このシーズンに男性ソロ・アーティストを担当した、元プッシー・キャット・ドールズのニコール・シャージンガーのコーチのもとに、いよいよ13人のファイナリストのひとりとして、10月に始まる生放送の本戦に出場することが決まった。(続く)
text: 新谷洋子
ジェイムス・アーサー『バック・フロム・ジ・エッジ』
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日本独自ボーナストラック2曲を含む、計6曲追加収録
◆ジェイムス・アーサー・オフィシャルサイト