【ライブレポート】マシーン・ヘッド、誇り高きメタルの尊厳

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2015年7月6日(月)渋谷O-EASTにて、マシーン・ヘッドの日本公演が開催された。ツアー名は<アン・イヴニング・ウィズ・マシーン・ヘッド>、マシーン・ヘッドの20年に及ぶ軌跡を2時間半に凝縮したライヴだ。

◆マシーン・ヘッド画像

メタルが“クールでない”とされていた1994年にアルバム『バーン・マイ・アイズ』でデビューしたマシーン・ヘッドは、パンテラと共にメタルの尊厳を守ったバンドだった。彼らは逆境の中、苦難の道を歩んできたが、今回のツアーではその部分までも凝縮されてしまった感がある。ヴォーカリストでギタリストのロブ・フリンは緊急胆嚢摘出手術、ウィルス性旅行者下痢に見舞われ、ジャパン・ツアー直前には耳感染症を患ってドクターストップ。急遽、初日の東京公演を延期して大阪・名古屋の後、最終日にスライドする形で、ツアーが敢行されることになった。

大阪・名古屋公演が無事行われたというニュースは伝わってきたものの、東京公演は大丈夫なのか?…という張り詰めた空気が開演前の場内を漂う。10分が経ち、20分、30分が経って、不安がMAXに近づいた頃、場内が暗転。場内の空気に引火したように、観衆は「マシーン・ファッキン・ヘッド!」と大声援で、バンドの降臨を迎えた。

マシーン・ヘッドのライヴといえばサークル・ピットが名物だ。1曲目、『スルー・ジ・アッシュズ・オヴ・エンパイアーズ』(2003)からの「インペリアム」でショーが始まった瞬間、観客はグルグルと場内を走り回る。 特大のサークル・ピットはまるで巨大な洗濯機のようで、あまりの熱気にバターになってしまわないか心配なほどだった。


気になるロブの体調だが、そのヴォーカルとギター、そして全身から放つオーラは凄まじいものだ。続く「ビューティフル・モーニング」は前回、2010年の来日公演でも演奏された『ザ・ブラックニング』(2007)からのナンバーだが、まったく遜色ない、いやそれ以上のエネルギーを込めてプレイされた。

これまでリリースしてきた8枚のアルバムすべてから選曲するという今回のコンセプトだが、もちろん最新作『ブラッドストーン・アンド・ダイアモンズ』(2014)からの楽曲も披露される。アルバムのオープニング曲「ナウ・ウィ・ダイ」には往年のクラシックスと同じテンションの高さの反響が返ってきた。

しばしば“静かに音楽に聴き入るタイプ”といわれる日本の観衆だが、マシーン・ヘッドについていえば、それは当てはまらない。2時間半の長丁場を叫び、騒ぎ、走り、暴れる彼らを見ると、日本人の体力が向上したことが窺える。「フロム・ディス・デイ」は1999年の発表当時、ラップ・ヴォーカル(?)をフィーチュアして賛否を呼んだが、若いファンからすれば、それを含めたすべてがマシーン・ヘッドなのだ。

もちろんオールド・ファンも新参ファンも、名曲「テン・トン・ハンマー」の叩きつけるグルーヴには拳を突き上げて、首を振って応じる。サークル・ピットやモッシュ、ダイヴ、ウォール・オブ・デスなどメタルのライヴでの暴れ方にもいろいろあるが、この曲を聴いて、根底にあるのはヘッドバンギングであることを再確認させられた。


サポート・バンドがいない単独公演で、時間の余裕があるせいもあってか、ロブのステージMCも長めだ。中盤、「ダークネス・ウィズイン」前にはアコースティック・ギターを爪弾きながら、日本のファンへのメッセージを語ってくれた。

「東京公演が延期になったけど、チケットの払い戻しがほとんどなかった。みんな今日来てくれたんだ。俺は子供の頃からヤマトやマクロス、ウルトラマン、ゴジラが大好きだったんだ。ずっと日本に来たかったけど、メタルをやっていたら何度も来られることになった。最高の気分だ」

『スーパーチャージャー』(2001)からの「ブルドーザー」、新作の「キラーズ・アンド・キングス」も熱狂的に迎えられたが、この日のクライマックスは、メタル史に深々と打ち込まれた極太グルーヴの楔「ダヴィディアン」だった。マシーン・ヘッドを1曲で定義しているといっていいこの曲では、イントロで大振りのヘッドバンギング、ファスト・リフでこの日最大の全速サークル・ピット、そしてコーラスの「Let freedom ring with a shotgun blast!」絶唱という一連のムーヴがセットになっている。エンディングではオジー・オズボーンの「オーヴァー・ザ・マウンテン」のドラム・パターンを引用。さらにスレイド/クワイエット・ライオットの「カム・オン・フィール・ザ・ノイズ」をロブと観衆が合唱する光景も見られた。

「ディセンド・ザ・シェイズ・オブ・ナイト」「ナウ・アイ・レイ・ジー・ダウン」を挟んで、再びロブの語りが入る。

「何度も日本に来たけど、2001年には<BEAST FEAST>フェスでプレイしたんだ。観客エリアが幾つものフェンスで区切られていたのが記憶に残っている。その時のヘッドライナーがパンテラで、彼らの最後のショーだった。ライヴが終わって、ダイムバッグ・ダレルと死ぬほど飲んだのを覚えているよ。その後も彼とは何度か会ったけど、一緒にあれほど飲んだのは最後だった。この曲はダイムバッグに捧げる。「エステティック・オブ・ヘイト」だ」

「エステティック・オブ・ヘイト」「ゲーム・オーヴァー」「ブロック」とファスト・ナンバーが続き、バンド・観衆共にそろそろ体力の限界に近づいたところで、ロブはフィル・デメル(ギター)、デイヴ・マクレイン(ドラムス)そして新加入のジャレッド・マクエイカーン(ベース)を紹介。ドラマチックな「ヘイロー」がフィナーレとなった。


2008年3月、同じ渋谷O-EASTでライヴをやったとき、ロブがステージMCで「いつもより長いセットをやるぜ!」と宣言した。このときのショーは実際には80分だったが、その濃密度は5時間ぶんぐらいだった。今回のライヴ時間はその2倍。その体力消耗度たるや、まさに∞=無限大だった。

ラッシュやドリーム・シアターなどは二部構成のロング・ショーをやることで知られるが、エクストリームなメタル・バンドがぶっ続けで2時間半のショーを行うというのは前代未聞。ロブ自身も関係者から「お前、クレイジーか?」と言われたという。彼が体調を崩したのは、ツアーによる疲労もあったかも知れないが、このワンマン・ショー形式が気に入ったようで、「次もこれでやろうぜ」と観客にアピール。さらに「次は5年も待たせたりしないから」と約束してくれた。ロブ・フリンは約束を守る男だ。“アン・イヴニング・ウィズ・マシーン・ヘッド”は遠くない将来、再び日本で実現する。マシーン・ヘッドは今もなお、メタルの尊厳を守り続けているのだ。

なおライヴの模様やロブ・フリンのインタビュー映像はBSフジ『伊藤政則ロックTV』で放送される予定だ。詳しい放送日時は番組公式ページで近日発表される。

取材・文 山崎智之
Photo By Mikio Ariga

マシーン・ヘッド『ブラッドストーン・アンド・ダイヤモンズ』

1.ナウ・ウィ・ダイ
2.キラーズ&キングス
3.ゴースツ・ウィル・ハウント・マイ・ボーンズ
4.ナイト・オブ・ロング・ナイヴズ
5.セイル・イントゥ・ザ・ブラック
6.アイズ・オブ・ザ・デッド
7.ビニース・ザ・シルト
8.イン・カムズ・ザ・フラッド
9.ダメージ・インサイド
10.ゲーム・オーヴァー
11.イマジナル・セルズ(インストゥルメンタル)
12.テイク・ミー・スルー・ザ・ファイア

◆マシーン・ヘッド『ブラッドストーン・アンド・ダイヤモンズ』オフィシャルページ
◆『伊藤政則ロックTV』オフィシャルフェイスブック
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