【ライブレポート】中田裕二、歌謡曲を復権させた一夜に「昭和サイコー!」
12月15日、中田裕二がキネマ倶楽部にて<『BACK TO MELLOW』完成披露パーティー~"鴬谷で逢いましょう"~>を開催した。素晴らしいライブだった。中田裕二は、椿屋四重奏というバンド時代から、自身の音楽的素養である70年~80年代歌謡曲を非常に全面に出した音楽活動を行っている。「シルエット・ロマンス」や「いっそ セレナーデ」などを収録したカバー曲集『SONG COMPOSITE』をリリースするなど、そのはっきりとした姿勢がむしろ非常にロック的なアティチュードであるという見方は、もはや中田裕二の形容詞にもなっているかもしれないが、このライブは見事にそれを裏付けていた。というか、そのミュージシャンとしての肝の座り方は、ますます加速しているみたいだ。
◆中田裕二 ライブ写真
この一夜は、11月19日にリリースしたアルバム『BACK TO MELLOW』の全国ツアーに先駆けて行われた完成披露パーティーである。2014年は弾き語りでのライブが多かった中田にとって、久々のバンド編成。サポートメンバーとして、キーボードにはSOUL FLOWER UNIONの奥野真哉、ドラムにはNONA REEVESの小松シゲル、ギターには元BEAT CRUSADERSのカトウタロウ、ベースにはFLOWER FLOWERやEGO-WRAPPIN’ AND THE GOSSIP OF JAXXでも弾く真船勝博。元々このアルバムの楽曲は、曲のボトムがしっかりしているというか、サウンドのアンサンブルに構築美がある贅沢なものだ。簡単に言うと、歌のメロディだけが聴こえてきてサウンドが空洞化したような曲とは真逆にある。それを実際に生で体感すると、このバンド力の高い編成によってグルーブはさらに冴え渡り、甘美な歌声と相まって、ラグジュアリーかつエモーショナルな音像が会場に広がっていく。中田にとってこの場所でのライブは初めてということが意外過ぎるほど、よくハマっている。それに、ライブ写真を観てもらえばわかるように、成熟した繊細な佇まいと大胆なアクションを使い分け、緩急のあるステージングを展開していく。本人は地味だと語っていたラメのスーツ姿も、ビシッとキマって色っぽい。
だが、ふと考える。どうして中田裕二はこんなに自信に満ちているのだろうか。時に微笑がえし、時に切なげに、時に表情を激しくさせ、ステージ上でこれでもかとパフォーマンスし切っている。その自信の源には、会場を埋め尽くす女性ファンをうっとりとさせる端正かつ時にやんちゃな彼の雰囲気も、そしてもちろん、あの美声も起因しているだろう。『SONG COMPOSITE』の出来栄えも、原曲の歌謡性をさらに引き出すほど表情のある歌声だ。もしくは、生まれ持った性格的な部分もきっとあるかもしれないけれど。
だが何より一番の理由は、ステージ上にいる中田裕二が、自分の音楽性を信用しているからだと思う。MCがこの日も面白くて、ライブ前夜にテレビで放送された『THE MANZAI』のことを持ち出した。優勝した博多華丸・大吉に対して大会の最高顧問をつとめたビートたけしが、「スピード感のある漫才が人気を集めているけど、華丸・大吉は、ゆったりと誰にでもわかるやり方で漫才をした」と賛辞を送ったと言うのだ。そして、これは歌謡曲という王道に対しても同じことが言えるんだ、と誇らしげに中田は言った。もっと認められるべき“正統派”が認められていない今の音楽シーンは、そんな世の中は、とてもおかしいと明言もした。
だからステージ上の中田裕二は、「昭和サイコー!」なんて叫ぶ。“LOVERS SECRET”では、「この曲、凄くトレンディーですから!」なんて曲紹介をする。“メロウ”も“トレンディー”も“ロマン”も、もしかしたら“歌謡”さえも、もうどれもが使い古された言葉かもしれない。だが、すべての物事において、新しいことや速いことや奇抜なことがいいわけでは決してない。そんな大義をも、この時ふと思い出した。さらに、音楽家にとって音楽というのは、他に見当たらないから自分で作るもの、自分にとってはこれがジャストなんだという意志を表現するために作るもの、である。その信念がなければ何も始まらない。だから常に、その活動には常にアナキズムを孕むという意味において、彼は本物の音楽家なのだとも思った。音楽シーンにおいて、中田裕二は今、間違いなくオンリーワンな位置に立っている。
その証として実際に、『BACK TO MELLOW』はとても上質なアルバムとなった。引力の凄いメロディ、聴き手の感情を揺さぶるフックの効いた構成、これがピークタイムですと堂々と存在するサビ、歌詞でしか言えないようなロマンティックかつ、ドラマティックなあまり痛切な歌詞。中田は自分の音楽の理想をただ唱えるだけでなく、傑作を作り上げた。こうした丁寧な音楽は、どんなジャンルであろうと聴き手に充足感を与える。こだわった材料で本当の作り方を経たケーキは誰にとってもおいしいし、ベルトコンベアを通って作られるケーキはそんなにおいしくない、それと同じだと思う。たとえば即効性に重点が置かれたダンスロックなどを楽しむ人にも、一度聴いてみて欲しいアルバムだ。
ライブで浮き彫りになったのは、このアルバムの威力とともに、中田裕二がライブに求めるものではないだろうか。“髪を指で巻く女”や“世界は手のうちに”といった、ダイナミックな歌唱と振る舞いには、ステージに身を置く者としての威厳を感じさせた。それはスター性と言い換えられるかもしれないけれど、もしかしたらこれも昭和的な発想かもしれない。ステージ上とフロアの関係性には親近感がキーワードになっている近頃は、あまり感じない感覚だからだ。だが、オーディエンスと演者にあるいい意味での確固たる距離感というのは、オーディエンスにとって恍惚感や陶酔感を覚えるもので、本来は心地いいはずなのだ。
この夜の主役であるアルバムのタイトルは、『BACK TO MELLOW』である。つまり、“メロウ(=芳醇な)”という感覚は、過去に置き去りにされてしまったという認識がこの作品の創作の根っこにあるのだろう。それを自覚する中田裕二が、本来はそこにある大きな価値を、こうしてライブを通して見せつける様子はどうしたって勇敢に映るものだ。ライブ中、その迫力に何度も感動を覚えた。
それは、アンコールでも同じだった。ステージから階段をつたった場所にあたる踊り場で、「まるでヨーロッパのテラスにいるみたいです」と笑って言い、中田はひとり、弾き語りを披露した。会場の視線を一手に引き受けながら哀愁あるアコースティックギターの調べに乗る歌声は、とても繊細に、とても力強く、会場を豊かに満たした。その余韻は、決して華やかとは言えない鶯谷駅までの帰り道もずっと続いてなかなか消えないものだった。素晴らしい音楽にはこういう効用がある。
これからいよいよ全国ツアーが始まる。楽しみにして欲しいから細かいセットリストなどは、ここではまだ記さない。本当の音楽を聴きたいならぜひ足を運んで観に行って欲しい、と願ってしまうほど特別なお披露目ライブだった。
text by:RYOKO SAKAI
photo by:YUKI KAWAMOTO
[初回限定盤(CD+DVD)]TECI-1427 ¥3,300(税抜)
[通常盤(CD)]TECI-1428 ¥2,800(税抜)
1.愛の摂理
2.誘惑 -album mix-
3.世界は手のうちに
4.そのぬくもりの中で
5.未成熟
6.髪を指で巻く女
7.PURPLE
8.ドア
9.薄紅 -album mix-
10.サブウェイを乗り継いで
11.LOVERS SECRET
1.MAKING OF “BACK TO MELLOW”
2.薄紅 Music Video
<TOUR’15 “BITTER SWEET”>
1月24日(土)HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3 ※SOLD OUTOPEN/START 18:30/19:00
[問]SOGO TOKYO 03-3405-9999
1月25日(日)水戸 ライトハウス
OPEN/START 16:30/17:00
[問]SOGO TOKYO 03-3405-9999
1月31日(土) 新潟 GOLDEN PIGS RED
OPEN/START 17:30/18:00
[問]FOB企画 025-229-5000
2月5日(木) 岡山 IMAGE
OPEN/START 18:30/19:00
[問]夢番地086-231-3531
2月6日(金) 福岡 DRUM LOGOS
OPEN/STAR 18:30/19:00
[問]BEA 092-712-4221
2月14日(土) 柏 PALOOZA
OPEN/START 18:30/19:00
[問]SOGO TOKYO 03-3405-9999
2月15日(日) 東京 日本橋三井ホール ※SOLD OUT
OPEN/START 16:00/17:00
[問]SOGO TOKYO 03-3405-9999
2月20日(金) 京都 MUSE
OPEN/START 18:30/19:00
[問]夢番地 06-6341-3525
2月21日(土) 大阪 梅田クラブクアトロ
OPEN/START 17:00/18:00
[問]夢番地 06-6341-3525
2月23日(月) 熊本 B.9 V1
OPEN/START 18:30/19:00
[問]BEA 092-712-4221
2月28日(土) 名古屋 Electric Lady Land
OPEN/START 17:30/18:00
[問]サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
3月1日(日) 横浜 Bay Hall
OPEN/START 16:00/17:00
[問]KMミュージック 045-201-9999
3月5日(木) 仙台 Rensa
OPEN/START 18:30/19:00 ※チケット一般発売 1月17日(土)~
[問]GIP 022-222-9999
3月7日(土) 札幌 cube garden
OPEN/START 17:30/18:00 ※チケット一般発売 12月20日(土)~
[問]マウントアライブ 011-211-5600
[席種](全公演共通)
オールスタンディング (※東京・札幌公演除く)
※2月15日 東京公演:スタンディング/スタンディング後方指定席
※3月7日 札幌公演:1階 オールスタンディング/2階 指定席
[チケット料金](全公演共通・前売)
¥4,620(税込/ドリンク代別/整理番号付き)
※2月15日東京公演のスタンディング後方指定席のみ ¥5,140(税込/ドリンク代別)
<追加公演>
3月28日(土) 東京 赤坂BLITZ
OPEN/START 17:00/18:00 ※チケット一般発売日 1月31日(土)
[チケット料金]
1Fスタンディング/¥4,620(税込/ドリンク代別/整理番号付き)
2F指定席 ¥5,140(税込/ドリンク代別)
[問]SOGO TOKYO 03-3405-9999
[参加メンバー]
keyboards 奥野真哉 (SOUL FLOWER UNION)
drums 白根賢一 (GREAT3) ※1月24日~2月6日公演
drums 小松シゲル (NONA REEVES) ※2月14日~3月28日公演
◆中田裕二 オフィシャルサイト
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