【ライブレポート】Sadie、極限まで追求された二つが一つとなるネクスト・ステージ
Sadieというバンドは知れば知るほど不思議な存在である。シーンに登場するや漆黒の激情とへヴィ&ラウドなサウンドで瞬く間に頭角を現した一方、その音楽性を紐解いていけば、核に在るのは心揺さぶるメロディと共感度の高いリリック。そんな両極端な個性を軸に、恐ろしく多彩な引き出しを内包している彼らにとって、対照的な2曲を掲げて2013年3月27日に発表した両A面シングル「双刻の艶」は、いわば辿り着くべき“必然”でもあった。
◆Sadie 画像
が、それは肉体面に限ったことではなく、中盤では真緒の素晴らしく伸びやかな歌声が嘆きの楔を深く、激しく、ドラマティックに打ち込んで、会場の全員に感嘆の息を呑ませることに。そんな彼のエモーションを景のダイナミックなドラミングが華やかに彩り、メロディックな弦楽器隊が絡み合いながら優しく包んで、痛みと心地よさをない交ぜに味わわせてくれる。中でも“この場所で歌うことだけが自分の生きる道! 此処で誰かを愛することを許してくれますか!?”と、息も絶え絶えに真緒が絶叫した「サヨナラの果て」から、真っ赤なライトとスモークが眼前を覆い、拳と合唱が場内を席捲する「Rosario-ロザリオ-」へのシームレスな展開は圧巻。そうして勢いづけば、後はオーディエンスとメンバーが共に極限まで感情をさらけ出し、ぶつかり合って、カオスの内に爆発してゆくだけだ。結果、本編終了時には真緒が倒れ込み、スタッフに抱えられて退場する場面もあったほど。
それでも日常で隠し持つ負の情念を吐き出させようとする手綱は、依然1ミリも緩められることなく。アンコールの「妄想被虐性癖」では、なんと17分にわたってメンバーが交互にお立ち台に立ち、煽り、真緒はフロアに身を乗り出して、半ば引きずり込まれながらも延々と水を噴き続けた。その間、代わりにマイクを握って叫び続けた美月(G)は、舞台の去り際に“みんなが生きていく中で味わうネガティブなことを引きずり出せたら。そして会場の扉を出るとき、みんなの気持ちが軽くなってたら、ホントに良かったと思います”と挨拶。それこそがライヴ中に真緒が漏らした“絶望と狂気にあふれた快楽”の先にある、彼らの真の目的だったのだ。
対する2日目・2013年7月14日は、前日に吐き出したぶん空いた穴を埋めようとするかのように、ひたすら共鳴を求めてゆくステージを展開。ヴォイスループが衝動と興奮を駆り立てる「Grieving the dead soul」から始まり、合唱、掛け声、手拍子等々、いわゆるオーディエンスとの“共同作業”が不可欠な疾走チューンを立て続けに繰り出して、凄まじい声と一体感をフロアに巻き起こしてゆく。普段は後方で黙々と演奏に専念している亜季(B)も珍しく客席ギリギリまで前方に迫り出し、「SUICIDAL ROCK CITY」ではベースネックを電飾で光らせて、マイクに向かってシャウト。負けじと美月も「GIMMICK」でヴォーカルの一翼を担い、コーラス番長として声を枯らしながら、お馴染みのリズミカルなステップを踏む。“声も感情も全部出して帰ってくれ! 最後に希望を見せてやるぜ!”という真緒の言葉通り、そこには心を一つに重ねてポジティヴな感情を注ぎ込もうとする彼らの気概が表れていた。
故に、聴かせるミドルチューンが用意された中盤戦でも、真緒の凛々しいヴォーカルが哀しみの中に温かさを滲ませて、前日とは明らかに異なるオーラで会場を包むことに。「サイレントイブ」では透き通ったクリーン・トーンを鳴らす剣&美月のギター隊が楽曲世界に入り込み、感情露わなプレイで揺れ動く想いを視覚面からも表現。さらに、珠玉のメロディが切なく胸を刺す名曲「陽炎」からの後半戦に到ると、ステージを大きく動く弦楽器隊に真緒がマイクを向けたり共にお立ち台に上がったり、親密なコミュニケーションを図ってオーディエンスのボルテージを上げてゆく。そのクライマックスとなったのが「クライモア」。“狂ってくれ、東京!”との声に応えるジャンプと拳は尋常じゃないパワーを生み出し、そのままラストの「雪月花」へと雪崩れ込んで、煌めきにあふれた旋律とスリリングなプレイ、そして大合唱と一体となって希望の光へと昇華してゆく様は、実に眩いものだった。
1日目には一切設けられなかったMCも、この日のアンコールでは軽快に繰り出され、シリアスな本編からは想像もつかない爆笑トークで関西バンドの本領発揮。万人が踊り狂う「Rock’n roll stinky people」曲中で“俺、みんなが大好きです!”という告白をかました真緒は、今ツアー各地で歌ってきたという最終曲「a holy terrors」で“一人じゃないこと”を強く訴えると、静かに語り始めた。ツアー中の辛かった日々をファンの声が助けてくれたこと、秋にアルバムをリリース&ツアーを回ること、そして。
”辛いなって思うことも多いけれど、この辛さを乗り越えたら、また、みんなの顔が見れると思えば全然たやすい。同じ気持ちを、みんなも持っていてくれたら嬉しいです。みんなの居場所を創ることが僕たちの音楽。応援してくれるみんながいる限り、この居場所、永遠に創らせてもらいます!”
感動と歓喜の涙がフロアを包み、こうして3ヶ月に及ぶSadie史上最多本数のツアーは終了した。2日間のセットリストで被っていたのは、「斑」と「雪月花」の中間子とも言えるカップリング曲「face to face」のみ。徹底して“絶望”と“希望”の二者を描き分けながら、しかし、両日共に最も印象的だったのがバンドの“伝える”力であったのも事実である。共に楽しみ、共に騒ぐだけでなく、生きる上で重要なメッセージを歌と音に乗せて叩きつける彼らの真摯な姿勢にオーディエンスは心動かされ、カタルシスの涙を流すのだ。
人間にとって呼吸は必要不可欠なものであるが“吐く”だけ、もしくは“吸う”だけでは生きていくことはできない。吐いて、吸う、その循環こそが人の命を繋ぎ、肉体と精神を育んでゆくのだ。それと同じことを、Sadieは音楽というフィールドで成し得ようとしているのかもしれない。吐き出すこと、そして吸い込んで満たすこと。極限まで追求された二つが一つとなるネクスト・ステージで、レベルアップしたSadieに出会える時が楽しみでならない。
文:清水素子
◆Sadieオフィシャル•サイト
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