【インタビュー】アラマーイルマン・ヴァサラット、あらゆる音楽ファンのド肝を抜く唯一無二のサウンドの秘密
フィンランドから来たユニークな編成、ユニークなサウンドを持つバンド、アラマーイルマン・ヴァサラットの5枚目のアルバム『Valta 力業』が発売される。チェロと管楽器が二人ずつにオルガンとドラム。この編成からは、軽い民族音楽を想像するかもしれない。しかしこの6人から放たれる音はそんな生やさしいものではない。エフェクトを駆使して暴れ回るチェロに、豪胆に吠えるアルトホルンとチューバックス、そして地域不明の民族音楽の香り漂うトライバルなグルーヴがうねり、ときにはへヴィメタルのように重く迫ってくる。不思議だけれどクセになるこのサウンドが、いったいどこから生み出されるのか。フィンランドから急遽来日したこのバンドのリーダー、スタクラに直撃した。
◆アラマーイルマン・ヴァサラット~拡大画像~
■僕らの音楽は“架空の世界のワールドミュージック”
■あらゆるスタイルをミックスして好きなようにやっている
――まず、アラマーイルマン・ヴァサラットの音楽についておうかがいします。あなたたちの音楽はとてもユニークですが、これを読者に説明するには、いったいどう表現したらいいでしょうか?
スタクラ:いつも“架空の世界のワールドミュージック”って言ってるんだけど、僕らはあらゆるスタイルをミックスして、好きなようにやっているだけなんだ。でも何をミックスしてるかを説明するのは難しいな。“交通渋滞みたい“って言われたことがあったけど、それは当たってるかな。あと、“セミ・サタニック・クレツマー・パンク”っていうのもあった。意味はよくわからないけど言葉の響きは気に入ってるよ。えーと、まだまだ色々あるんだけど、これからずっとこの話する? 終わらないよ?(笑)
――ワールドミュージックやジャズの雰囲気の中に、へヴィで図太いロックの迫力もある。なんか昔のキング・クリムゾンを思い出しました。
スタクラ:クリムゾンも言われるけど、よく比較されるのはフランク・ザッパ。でもこれ、よくわからないものを“ザッパみたいだね”って言ってるんだろう(笑)。実はザッパってあまり聴いたことがないから、そんなに影響を受けてはいないんだ。でも音楽に関する意識、なんでもミックスするオープンなところは確かに似てるんだろうね。あと、楽器の編成、アコースティックなサウンドっていう意味で、80年代のトム・ウェイツは近いものがあると思う。
――このバンドを結成する前から、こういう音楽をやろうと思っていたんですか?
スタクラ:一番最初に思ったのは、サックスをやりたいってことだけ。実は、サックスを買ったその日に、まだ吹けもしないのにこのバンドを始めちゃったんだ。だからバンドもルール無用ってことになったのかもね。でも最初から決めていたこともある。それはギターを使わないってこと。その形の中で工夫を重ねていくうちにこういうサウンドにたどりついたんだ。僕のソプラノサックスとチェロとドラマーの3人だけで試行錯誤していた時期もあったし、そういうのがオープンな姿勢につながったんだと思うよ。
――ギターを入れないのは最初から決めていたことなんですね。
スタクラ:以前、ギタリストが二人いるバンドで僕はベースをやっていたんだけど、そのときにもうギターはいいやって思っちゃったんだ(笑)。マルコもそのバンドにいたんだけど、彼のチェロがギターの陰に隠れちゃってたから、次はもっとアコースティックな方向でチェロをもっと前に出せるバンドにしたいって思ってた。チェロはリズム楽器としてもメロディ楽器としても美しい音を出せる楽器だからね。僕らは“なんでもあり”でやってるけど、少しだけ制約があることで、逆に解放感もある。ギターレスという唯一のルールの上で自由を十分に味わってると思うよ。
――では今のようなサウンドが固まってきたのはいつごろ?
スタクラ:1stアルバムのときだね。1stのレコーディングやミックスの作業の中で、自分たちの持っている音というのがはっきりわかったし、これならどんな音楽でもできるぞ、と思った。チェロだってエフェクターを使ったり歪ませたりして色々な音が出せるし、そこにこれ(横に置いてあるチューバックスを指して)みたいな大型の楽器を入れることで幅も広げられる。1stのときに固まったものをベースに、今はそれを発展させているってところだな。
――バンド名は“地下世界のハンマー”っていう意味だそうだけど、このサウンドをイメージしてつけられたものですか?
スタクラ:いや、音とは直接関係ないんだ。10年くらい前、チェロのマルコと二人でストリートパフォーマンスをやっていたんだけど、その場所がヘルシンキの地下鉄だったんで、このデュオをそう名付けたんだよ。その後今のバンドを始めるときに、アコースティックを基盤にしようってことで、デュオの名前を引き継いだんだ。
――5枚目のアルバム、『Valta 力業』ですが、タイトルはもともとフィンランド語ですよね。日本盤では曲名もすべて漢字2文字の邦題に統一されているのを知ってましたか?
スタクラ:オリジナルタイトルには僕らが作った造語もあって、厳密に言うと正しいフィンランド語ではないんだ。そのタイトルを英語に訳したのは僕らだけど、日本語タイトルは日本のスタッフがつけてくれたんだと思う。ちょっと見せて。(邦題のリストを見て)おおいいね。すごくいい。Yesみたいだよ!(笑)。
――生々しくて、すぐ目の前で演奏しているみたいなリアルな音が強烈ですね。迫力もすごい。
スタクラ:今回新加入のドラマーのサンテリが、音作りにすごくこだわるんだ。チューニングも細かく調整するし、曲ごとに音も変える。そんな彼を見て、僕らも音に広がりがありつつ、細かいところもきちんと聴こえる“クローズアップ”な音を作りたいと思ったんだ。大きい部屋で録ったような、エコーとかリバーブがかかった音は、もともと好きじゃなかったしね。だから今回は、生々しい音にこだわって録ったんだ。力んだ雰囲気とか、細かいニュアンスまで伝えたかったから。
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