the HIATUSと共に過ごした黄金に輝く記憶。3/1新木場スタジオコースト・レポート
アルバム『A World Of Pandemonium』のアートワークが描かれた巨大バックドロップがステージ後方に掲げられる中、登場した5人は、アルバムと同じく「Deerhounds」でツアー・ファイルとなるライヴをスタートさせた。細美武士のアコースティック・ギターをきっかけに、各パートの色を交わらせていく5人の楽団は、確実にアルバムとは違う音楽の景色を見せてくれた。メンバー自らが曲の中にもぐり込みながら、その日にしか見えない景色をこちらに提示する感じで、それが見えた瞬間のバンドの歓びにも似たエネルギーの放出の瞬間は、無条件で観る者を貫くばかりだった。そのせいなのか、「Superblock」で客席から生まれたハンドクラップも自然発生的で、客席の自由なノリもまた、この日にしかないものとして映ってやまなかった。
そんな『A World Of Pandemonium』で彩られたオープニング・パートを終えたところのMCで細美は、ツアー・ファイナルを“祭り”に例えていた。“祭り”は、ある意味、非日常の場。理性のリミッターを外して盛り上がるのも“祭り”なら、心を鎮めるのも“祭り”の一場面。『Trash We'd Love』と『ANOMALY』からの曲を中心に、『A World Of Pandemonium』からは唯一「Broccoli」が織り込まれたライヴの中盤は、まさにエモーショナル・サイドな“祭り”の場となり、頭よりも体が先に動いてしまうバンドのプレイと、思い思いのタイミングでシンガロングし、ダイブする観客のリアクションは、互いに影響し合いながら会場全体の熱を高めていった。バンドと観客の化学反応はまた、思わぬサプラズを生み、アルバム・バージョンよりどっしりと腰を据えながらシアトリカルな音楽を構築していく「My Own Worst Enemy」では、ダイブが生まれ、プレイし終えた後、細美は思わず「『~Enemy』でダイブするやつがいるなんて、いい国になったぜ」と、笑顔混じりに客席の光景に賛辞を送っていた。
一方の心鎮める“祭り”の場は、『A World Of Pandemonium』の楽曲が再び並べられた後半に訪れた。アコースティック色の強い「Flyleaf」は、その最たる例だったのだが、ここでもバンドはアルバムとは異なる景色を見せてくれ、堀江博久のキーボードがバンド・サウンドからはみ出すかのような即興的なノリへ移り~再びバンドへ戻っていく様子は、観る者に静かな心の震えを与えてくれた。
“祭り”といえば、参加者のすべてが平等な立場で楽しめるものだが、「Bittersweet / Hatching Mayflies」で細美の裏声を観客がシンガロングでサポートし、「Souls」の本来ジェイミー・ブレイク(ザ・レンタルズ)が歌っているパートを観客がシンガロングでデュエットしていく場面は、そんな祭りの共有感を感じてやまなかった。それが昨年3月11日以前の無邪気なライヴの共有ではなく、3月11日以降を生き抜いてきた者たちにとっての切実な世代の共有に起因しているところが、<A World Of Pandemonium Tour 2011-2012>の重要な鍵だったのではないだろうか。だから「紺碧の夜に」、「ペテルギウスの灯」と繋げられる本編ラストも、バンド、観客共に、互いにぶつける思いを残すことなく燃焼し尽くすことができたのだ。
燃え尽きながら思いを分かち合えたからこそ、アンコールの曲「Storm Racers」、「Ghost In The Rain」が終わる度に、客席からは「ありがとう」という声が上がっていた。そしてラストの「On Your Way Home」をプレイする前には、細美からも「このツアーやってよかった」という感謝の声が…。決してハッピーではない状況でも「怖がることはない」、「きっとなんとかなる」とも歌われる曲と、この日のライヴの記憶を重ねながら、ライヴ前に感じていた不安といらだちは次第に溶けていくようだった。
もちろん我々の世代が背負ったものはあまりにも大きく、すべてのわだかまりが溶けきったわけではない。しかし帰り道の橋から見える川面の光と、この日もプレイされた「Shimmer」の歌詞を重ねながら、2012年3月1日のthe HIATUSと共に過ごした記憶は体験した人すべてにとって黄金に輝くものになることを実感していた。
取材・文●安部 薫
写真●橋本 塁
3rd Album
『A World Of Pandemonium』
2011年11月23日発売
FLCF-4406 ¥2,520(tax in)
1. Deerhounds
2. Superblock
3. The Tower and The Snake
4. Souls feat. Jamie Blake
5. Bittersweet / Hatching Mayflies
6. Broccoli
7. Flyleaf
8. Shimmer
9. Snowflakes
10. On Your Way Home
◆the HIATUSオフィシャル・サイト
◆細美武士オフィシャル・サイト
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