かりゆし58、過去に感謝、未来に希望を持たせるデビュー5周年記念ベスト『かりゆし58ベスト』特集
かりゆし58
ベストアルバム『かりゆし58ベスト』 2011.7.27リリース
INTERVIEW
前川真悟(以下、前川):選曲は投票で決めてもらったんですけど、ほとんど予想通りでしたね。ファンの人と僕等の一体感を感じました。
前川:僕自身は壁のようなもので、人が投げてくれたボールをポンっと返すように相手に返っていってると思うんですよ。自分の中で勝手に感じて唄っていることは意外と少なくて。向い側に誰かがいて出来上がった思い出とか、経験した出来事を書いているだけで。自分から生まれたものというよりは、自分の周りがくれたものを返している感覚なんですよね。
新屋行裕(以下、新屋):ライヴ中は演奏で必死なんで、刺さったりすることはないんですけど、「ウクイウタ」は、当時のことを思い出しますね。
中村洋貴(以下、中村):そういうのが多いですよね。
前川:出来上がったもんが刺さるというよりも、作り上げる過程を思い出すっていうことが。
新屋:そう。こんなことあったなぁとか。
新屋:この頃は東京でレコーディングしていて、スタジオに閉じこもっていたんですね。フレーズも出てこないし、プレイもうまくいかないし、一度、内緒で沖縄に帰ろうとしたんですよ(笑)。すごくつらい時期で、いやな思い出しかないんですけど、沖縄に帰ったときに友達と飲んでて、“「ウクイウタ」が一番好きで、毎朝聴いて、一日頑張ってんだ”って話を聴いたときに、報われたなぁ、良かったなぁって思ったんですよね。
前川:この曲のレコーディングのときって、二時間弾いて、一個もOKテイクが出ないとかでしたからね。しかも歌詞は“あきらめたりすんなよ”って言ってるし、何これって思いながら(笑)。
新屋:イラっとしましたよね(笑)。
宮平直樹(以下、宮平):僕も「ウクイウタ」からメンバーになったから、この曲には思いいれありますね。
中村:はい。あとは「オワリはじまり」。初めてのワンマンライヴをやったときに、その最後に1フレーズだけやったんですよ。それからいつ出来るかなぁって感じだったんで。そのライヴでやったときのことを思い出しますね。
前川:本当に初めてのワンマンだったんですよね。確かにかりゆし58を観に来てはいるんだけど、一時間半、みんなが「アンマー」を待っているのがわかるんです。他の曲はあまりわからないし、「アンマー」だけを待っている空気を感じるし、一曲をピックアップしてもらったからって、自分たちがすべて肯定されるわけでもないじゃないですか。どうなんかなぁと思って。最近、その「アンマー」がピックアップされることについてはどうでも良くなってきましたけどね。
前川:曲の力を信じたり疑ったりした時期は迷いとか不安も自分の中にあったけど、受け止めてくれる人を信じはじめたら怖くなくなりましたね。
宮平:「さよなら」という曲も、思い入れありますね。それまでは沖縄っぽい匂いのある曲だったり歌詞だったりしたんですけど、この曲はそことは違う部分もあるから。初めてドラマのタイアップがついて、テレビに出演する機会も増えたし、「さよなら」をきっかけに“聴いたことある!”って人も増えたり。そのあとに58本のツアーがあったり、このシングルで環境が変わったこともあるので、印象深いですよね。
前川:今ここにいることに後悔がないっていうことは、悪い5年じゃなかったなって。この5年の間に母ちゃんが還暦を迎えたり、一緒にやってたバンドが解散したり、そういうところで言うと色んなことがあったなぁと確かに思うけど、相変わらずでいられてるというのは嬉しいことですよね。5年間、無我夢中でやってるやつはあっという間に過ぎていくものなのかもしれないですよね。テレビ越しでも、会場でも、受け入れてくれている人にとっては、長い時間そばにいてくれていると思います。そういう人たちが選んでくれた、一番良いと思うものを投票で並べて。ベストの次の作品はひとつも、このベストの中にある曲に見劣りしない曲を打ち出していくよっていうひとつの約束でもあるし。だから目に見える形で自分たちにハードルを強いて、それを約束として出すことで、それを聴いて、次の作品が出たときに、「こっちのほうがいいぜ」って言ってもらえるようなスタートになればいいなぁって。
前川:うん。支援とかチャリティーという言葉をいろいろ耳にしますけど、そんなつもりではなく。友達から「支援とかそういうのではなく、遊びにおいでー」ってメールをもらったんです。友達が言っているから遊びに行って、友達の部屋を片付ける感覚で瓦礫撤去やらやっていて。そういう自分たちなりの現実との向き合い方をしていて。
前川:被災地でなくても、戦場になっている場所も今はあると思いますけど、そういう街だって、誰かにとってはふる里じゃないですか。現状、笑えない人もたくさんいるかもしれないし、泣いている人が必ずいるけど、墓場に行くんじゃないから。遊びに行って、自分が手の届く範囲で、信用できるやつに誠意を分け合って帰って来る作業をしようと思って。
前川:そうなんですよ。そこで生まれる恋もあるのかもしれないし、そこに来るまでは知らなかった家族に、そばでハッピーバースデーを歌ってもらっている子もいるかもしれないし。それがすべてだとは言えないけど、なるべくいい現実に向き合えるように。被災地の状況を見るとどっちかに別れると思うんです。心が痛くて涙が止まらなかったっていう話も聞くし、でも、そこで残ったものを大切にしようっていう言葉も聞くし。俺が感じたのは、現実は現実としてそこにあって。そこに暮らしている人や、訪れた人に何かを感じろとか、何か答えを出せってことでもなく、ただ現実としてあって。右に倣えで、それに対して何かリアクションしなきゃならないってことでもなく、現実のまま受け止めて。言葉では収まらないし、感情でも片付かないもんがあるっていうときに、この曲にあるようなメールをもらったから。じゃあ、俺は、何かを感じに行くのではなく、友達のところに遊びに行こうと。手が必要なら手伝いもしようと。
前川:そうなんです。新屋のファインプレーです。
新屋:いつかやってみたいフレーズとしてあったものなんですよ。この歌詞の世界観だから、どこの国かわからないような雰囲気をサウンドで足してみても面白いかなと思ったので。そうしたら意外とハマったので。
前川:そうなったらいいですね。
前川:完成するまで何が起こるかわからんし、もしかしたら震災が起きなければ一曲少ないアルバムが出たかもしれないし。でも思ったことに目をつむったりはできないし、出来上がったものも「そういうご時世じゃないから」って引っ込めるのも嫌じゃないですか。メッセージしたいわけではないし、チャリティーだどうのこうの言う気もない。そういう感じですよね。
前川:うん。日記の最新版っていうくらいです。
新屋:そうなんです。だから、人がいっぱい必要(笑)。正直不安なんです。今までライヴハウスが多かったんですね。僕らのファンの方って、年齢層の幅が広いので、小さい子やお年寄りはライヴハウスだとなかなか見に来ることができないという方が多かったんです。今回は椅子があるぶん、見やすいと思うので、色んな方に来て欲しいですね。
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