【インタビュー】DEZERT、千秋が語る47都道府県ツアー開幕直前の最新作と自問自答「俺たちはどう音楽をやっていくか」

2025.06.13 17:00

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■この曲、このアルバムの肝じゃねえ?
■めっちゃこれからのこと言ってる、と

──今回の5曲に関して、サウンド面でこだわったところもありましたか?

千秋:サウンドはぶっちゃけ、今回全曲を通して、新しいエンジニアの方とイチからやった感じですね。

──それもあって、全体を通して聴こえ方が違う感じを受けるんでしょうね。

千秋:これは、作ってる人以外はクエスションな話だと思うんですけど、納得いくまでサウンドを突き詰めるっていう当たり前のようなものがありますよね。僕も昔、好きなアーティストのインタビューを読んでいて、「サウンドはもうちょっと突き詰めることができたはずだけど…」みたいな発言を見たときに、「アーティストやねんから、本当に納得いくまで作品を出すなよ」と思ってたんです。だけどサウンドだけは、これはもう出たとこ勝負なんですよね。

──と言いますと?

千秋:自分たちだけではどうにもできない作業なんですよ、エンジニアとの兼ね合いもあるので。今回は、お付き合いが初めてのエンジニアさんで、結果的に未来を見据えてのサウンドになったんです。正直言うと…僕の中では“もっとこういうイメージで” “こういう音があって” “こういうドラムの音がよかったんだけどな”とか、足りないところはあるんですね。けど、そもそもどのアーティストも“これだ!”ってサウンドの音源はないと思うんですよ。

──たしかに、試行錯誤は重ね続けるんでしょうね。中でも、「真宵のメロディー」の空気感だったりメンバー個々の音のクリアさに、新たな印象があったんですが。

千秋:デモの素材をそのまま使ってるものも多いんですよ。エンジニアさんが“デモの雰囲気がよかったらそのまま使えばいい”っていう考えの人で、「「変身」」とかは、サビ以外は僕が家で録ったテイクなんです。

──あ、そうなんですね。

千秋:“どうしたら自分の思い通りのサウンドを音源に残せるんだろうな”っていう永遠のテーマを考えつつ、“今回はこれをやったから、次こうしようね”っていう、テストのようなものではあったかもしれない、『yourself: ATTITUDE』は。なので、サウンド面ではここからより良くなっていくだろうなっていう。

──もっとこういう質感にしたいとか具体的なイメージって千秋さんの中にあるんですか?

千秋:僕の主観的なものですけどね。デモを世界で一番聴いてるのは僕で。聴き込んじゃうので、音圧だったり隙間だったりが頭の中に凝り固まっちゃうんですよ。

──逆に言うと、それほど完成度の高いデモを作っているということですよね。

千秋:僕はデモの段階で、マスタリングでするようなマキシマイザーとかリミッターとかの作業を簡易的に行っていて、CDレベルまで音圧を詰めるんです。そこでイメージが出来上がる。だから、レコーディングでは、これはデモに近づけようっていうパターンと、これはみんなが弾いたものでやろうっていうパターンと、その二つがあって。たとえば、「明日暗い月が出たなら」はデモをそのままやるしかないっていう部分があったり。ただ難しいですよね、自分がいいと思った音が果たして世間的にいいのかとか、考え始めるとキリがないから。

──レコーディング時のメンバーとのやり取りはいかがでしたか? 全曲の作詞作曲を千秋さんが手掛けてるわけですから、楽曲に対するイメージは千秋さんにあるわけで。そこでメンバーから「ここはこうしたらどうだろう」とか提案もあったり?

千秋:レコーディング中にメンバーも言ってたんですけど、僕は「これ、どっちがいい?」とか絶対メンバーに聞くんですよ。でも聞いてる時点で、僕の中ではたぶん“どっちがいい”の結論は出ているんです。安心したいだけなんですよね。だから、違うほうを推されたら「いや、でもそっちはさ」って言うし、自分の好きなほうを選んだら「でしょ」っていう感じで(笑)。

──ははは!

千秋:メンバーからしたら「もう千秋が決めてくれ」という話が選曲途中にもありました。それは、面倒臭いからとかじゃなくてね。アレンジとかも含めて、「ほんまにわからんところを一緒に話し合おう」みたいな。そういう話をメンバーから聞いて、たしかにと思って。

──リスタートだったり、新しいエンジニアを迎えたり、心境や環境に変化はあったと思うのですが、レコーディングを通して、デモから大きく変化した部分は?

千秋:この5曲に関して言えば、マジでないですね。ほぼデモのフレーズのままだったと思います。もちろんギターに関して言えば、バッキングは僕が弾くし、みーちゃん(Miyako)のパートはみーちゃんが弾くし。

──そこで、デモを超えるバンドマジックのような新たなものが生まれたり。

千秋:DEZERTはあまりアレンジャーを入れないんですけど、メジャーデビュー以降は、アレンジャーの人と話し合ってアレンジを決めていった作品もあったんです。ところが、今回はセルフプロデュースに戻って、デモにめちゃくちゃ時間をかけている。なので結局、「デモが一番いいやん」ってなるんですよ、もちろんメンバーが考えるのが面倒臭いとかじゃなくてね。

──はい。

千秋:だから、新しい人が関わったから進化したというのは、この5曲にはない。セルフプロデュースゆえに、得るものもありましたし、これから自分がやるべきこととか、ここは自分がスキルをアップしないといけないとか、そういう課題は見つかりましたけどね。

──それはバンドとして?

千秋:上手くギターを弾く、上手くボーカルを歌う、ということです。当たり前のことなんですけど、上手なほうがいい。「足りひんな」っていうのはメンバーにも言ってるので、今めっちゃパワハラしてます…まあ、昔の感じが戻ってきたっていう(笑)。ベースとかもこれまでは任せてたんですけど、レコーディング中に隣でじっと見て、「ちゃうなあ」っていう感じが戻ってきました。リスタートなので。

──そこにもリスタートに掛かってると(笑)。ちなみに2曲目の「はい!少女」は?

千秋:これまで「感染少女」「肋骨少女」とか“少女”シリーズを作ってきましたが、今回この少女が選ばれたという感じですね。

──疾走してますね。

千秋:サウンド的には自分で同期をいっぱい入れたりして遊んだんですけど、ライヴで映えるのは案外こういう曲なんだろうなと思いながら。ま、今まで“少女”シリーズに助けられてたので、このタイミングで入れておかないと。

──4曲目の「真宵のメロディー」はDEZERTらしさも新しさも感じさせる美しい曲ですが、どんなイメージで作りましたか?

千秋:僕の中では「TODAY」の先の、その手前なんです。もう「TODAY」を擦りすぎて「その先の曲、ないんか?」っていう案がもちろん出てくるんですよ。SORAくんとかはドラマティックな男なので、「夜が来たら、夜明けちゃうん?」とか「俺たちの夜明けは、どこ?」みたいなことを言うんですけど、それ聞いてめっちゃ腹立ってきて。

──はははは。SORAくん熱い。

千秋:わかるでしょ(笑)。で、俺は「なに勝手に夜明けてんねん、ずっと夜じゃい」と。ただ、SORAくんのそういう考えはわかるし、客観的には俺もそう思うんです。でも絶対、夜明けの曲は嫌というか、夜明けの曲はまだ早いと思ってるから。「TODAY」という曲はライヴハウスの暗い中でやる…イメージはやっぱり夜なんです、決して朝ではない。その先ってなったときに、なんとも言えない暗さのなかで、希望も見えなくて別によしみたいな…“真宵”(まよい)という単語には、そういうイメージがあったんですよね。なんとも言えない暗さというか。

──いい言葉ですよね、“真宵”って。きっとその色合いも、人ぞれぞれさまざまなイメージができそうで、心境が映るような言葉にも思います。

千秋:“「TODAY」を歌っていた人の死生観”じゃないけど、そういうイメージを持って、すごくアバウトに作った歌だったんです。ストレートな言葉で、というよりはフィーリングで感じてもらえたらいいなって、出したデモでしたね。

──アバウトとはいえ、曲終わりの一節にある「“生きることに意味はない” その先へ」という、“その先へ”に視線が向いている曲ですよね。

千秋:気づいちゃいましたか。そう、“その先へ”なんですよ(笑)。これがDEZERTの1stアルバムに入っていたとしたら、こんなことは言ってない。「明日暗い月が出たなら」とか「アダム・ペインを探して」とかは同じ千秋がずっと言ってるような、変わらない僕の感性というか世界観だと思うんです。でも「真宵のメロディー」の歌詞に関しては、これは確実に初期には言えてない。

──なるほど。

千秋:当時は、“死にたい”とまでは言ってないけど、生きるってことに対して比重を置いてなかったわけですよ、若かったし。そいつが「“生きることに意味はない” その先へ」って言うと、すごくネガティヴな言葉になるじゃないですか。

──今、受けるイメージとは真逆の、死を意味する言葉になりそうです。

千秋:そう。でも今は完全にポジティヴなので、そうではない。そこは今しか歌えないというか。でも、自分で気づいてなかったんですよ。重そうな曲だけど、自分はそう捉えてなかったので。だからむしろ「これ入れたいの? じゃあ入れるか」くらいの感じだったんです。で、歌い終わって、ラフミックスが上がってきたときに、Sacchanと二人で「あれ? これいい曲じゃない?」って(笑)。「結構、このアルバムの肝じゃねえ? めっちゃこれからのこと言ってるやん」みたいな。レコード会社の人はめっちゃ推してくれてたんですよね。でも、“もっと今出すべきことが他にあるんじゃないか”と思っていたんです。そうしたら“これこそめっちゃ今やん”みたいな。奇跡の選曲だったんです。

──それは意外でした。

千秋:スタッフと今後の展望を話すミーティングのときに、「つまり、その先へってことですよね?」ってスタッフの方が発言したんですね。そのとき、「“その先”ってめっちゃいい言葉ですね。いいこと言ったな」ってスタッフの方に言ってたんです。でも、この曲は武道館の1年以上前から、歌詞も変わらずにあった曲だったので、“もう既に自分が歌詞で言ってるやん。だからグッときたんや”って。そういう意味でも、デモよりも、今レコーディングしたほうがよかった曲ではありますね。