【コラム】音楽と、車と、ドライブと、Kroiの「Juden」

ドライブの選曲はいつも迷う。もちろん、適した曲は多いだろう。走る車に合わせた疾走感のあるロックやファンク、明るいときに聴くポップス、季節感のある楽曲。それらは運転の時間を彩り、豊かにしてくれる。
しかし、たとえ同じ曲でも、家族の旅行とデートとでは、その場に合う曲というのは異なるだろう。また、乗っている車によっても違ってくるはず。それが選曲の難しさでもあり、面白さでもある。なんとなくでも合う曲をかければ雰囲気はよくなるし、バッチリとハマったときは、忘れられない体験にさえなるかもしれない。以前、友人と行った海の家のイベント帰りに、ふと山下達郎「SPARKLE」が流れたときは、これよりいい曲はないとさえ思えた。その瞬間の車内の様子は決して忘れないだろう。
ドライブに合う曲を決めるのに、映画やCMなども大きな影響を与えている。というのも、とある楽曲とそれが流れる状況、そして車の種類とが強く結びついたイメージに、人々は日々接しているからだ。そうした映像を通じて、その曲がドライブに合う状況を経験し、ドライブに適した曲を学んでいるとも言えるだろう。
たとえば、映画『運び屋』(2018年)では、古びたフォードのピックアップトラック乗るクリント・イーストウッド演じる主人公が、車のラジオを切り替えると、スパイラル・ステアケースのヒット曲「More Today Than Yesterday」(1969年)が流れ、口ずさむ。その後のカットで、時間の経過を示すように車のヘッドライトが点灯すると、ジャズ・オルガン奏者、チャールズ・アーランドによる同曲のカヴァーが聞こえてくる。通り過ぎる看板には「Get your adventure off the ground」(冒険を始めよう)という文字が。このシーンを観た後は、古い車に乗るときはもちろん、何か変化を求めるときにも、「More Today Than Yesterday」とそのカヴァーを車内でかけたくなってしまう。まさに音楽と車、曲が流れる状況とが結びつけられた瞬間だ。
CMは、映画以上に音楽とドライブとを結びつけていると言えるかもしれない。テレビやwebなどで、短い映像が繰り返し流れ、そこで聴こえる楽曲と車、そして運転する様子とが強く合わさったイメージが形作られる。各メーカーは、売り出したい車種に似合う曲、ドライブに適していると考えた楽曲を起用する。そしてCMが見られることで、その楽曲はドライブに合う曲だとさらに強く認識されるのだろう
直近ではKroiの「Juden」が、ダイハツ「ROCKY-e:smart」のタイアップソングに決定した。そして、11月19日にはCMの放映が開始。「ROCKY-e:smart」は、50年以上電動車を研究してきたダイハツによる、新開発のハイブリッドシステムを搭載したコンパクトSUVとのこと。「Cool Drive@棚田」篇と題したCMでは、棚田に囲まれた道を颯爽と車が走っていくという、ある種エコなイメージと共に、車体に青い光のエフェクトを足した映像によって、このハイブリッド車の技術、その先進性が強く印象付けられる。
今回CMに抜擢された「Juden」は、11月17日にリリースされたEP『nerd』の先行曲でもある。この曲は、Kroiの基調にあるファンクネスだけでなく、これまで以上にフュージョンっぽさを強く感じさせる。それだけでなく、ラテンやアフロの要素を読み取れる部分もあり、一曲の中での移り変わり、その自由な展開が魅力だ。疾走するファンクにさまざまなジャンルが混ぜ合わさり、実験的な新しさが伴った「Juden」は、その技術と先進性が表現されたCM映像に相応しい曲だと言える。
また、車のCM曲といえばレニー・クラヴィッツ「Are You Gonna Go My Way」(1993年)が定番として思い浮かぶ。邦題は「自由への疾走」。2006年に日産「ウイングロード」で使われただけでなく、2015年よりスズキ「アルトワークス」でも起用されている。特に後者は、シフトチェンジを映したカットも挟みつつ、次々と映像が切り替わりながら疾走するその様子に、イントロの力強いギターリフがマッチしている。
季節感のある、特に夏のドライブに合うCM曲だと、上述の山下達郎が印象深い。たとえば、85年にホンダ・クイント インテグラのキャンペーンソングとして制作された「風の回廊」。颯爽と車を走らせ海岸沿いに停車すると、同じ格好のスラッとした男性二人が車を降りる。そのシンメトリーな構図含め、映像によって喚起されるスタイリッシュな夏のイメージは、楽曲によってさらに強まる。
以後、さまざまな車種のCMに山下達郎の曲は使われてきた。2014年のスバル「インプレッサ スポーツ」では、「踊ろよ、フィッシュ」(1987年)を起用。夫婦、あるいはカップル二人が楽しげにいろいろな場所を巡るが、やはり海外沿いを走るショットに惹きつけられる。そして実際に、この曲をかけて海のそばを走りたくなってくる。
一方、過去の定番曲ではなく、次世代の国内アーティストを起用することでブレイクのきっかけを作り、ハイセンスなブランド・イメージを確立したのが、ホンダ「VEZEL」だ。2016年にSuchmosの「STAY TUNE」(2016年)を用いたCMは大きな話題になり、曲もロングランヒットを記録した。運転する人物の顔を映さず、「あらゆるボーダーを、超えていけ」というメッセージと共に、都会を覆う霧を振り払うかのように駆け抜けるコンパクトSUV。ロック、ファンク、ジャズ、ヒップホップなどに影響を受けたSuchmosによる、スタイリッシュで疾走感のあるこの曲は、まさにうってつけだったと言える。その後も「VEZEL」は、SIRUP「Do Well」(2018年)、King Gnu「小さな惑星」(2020年)、など、洗練された楽曲を次々に起用し、いずれもヒット曲になった。
2021年には、ホンダが新型の「VEZEL」を発表。CMに藤井風「きらり」(2021年)を抜擢する。映像は、それまでのクールな都会の描写から、人種、国籍、年代など異なる背景をもった人々のドライブの様子を、その表情を8ミリカメラで映した暖かみのあるものに変化。4つ打ちのカラフルなダンス・ポップ「きらり」は、これを鮮やかに彩っている。現代的な感覚とその変化を映像に反映させ、それにマッチするような、多様なジャンルを越境する次世代アーティストを起用してきたのが、ホンダ「VEZEL」だと言えるだろう。
今後も、新しい車や、車に搭載される新しい技術は次々と生まれていく。また、社会の価値観もだんだんと変わっていき、その変化を表すCMが作られていくだろう。それらに合わせるように、定番曲のみならず、さまざまなジャンルに影響を受けクロスオーヴァーさせた次世代の楽曲が、これからのCM映像を彩っていくはずだ。そして、その楽曲のアーティストも、颯爽と駆け抜ける車のようにシーンを快走していくのだろう。人々はその映像で体験した新しい曲をかけることで、ドライブの時間を、そして日々の生活を、少しずつ豊かなものへと変えていくだろう。
文◎島晃一
【車編】CMで知った名曲プレイリスト
https://lnk.to/Car_CM_Song
New EP『nerd』
2021年11月17日(水)発売
■CD Only / PCCA6094 / 1,650円(税込)
■CD+DVD / PCCA.6093 / 3,300円(税込)
[CD収録曲(全6曲)]
1.Juden
2.pith
3.Rafflesia
4.blueberry
5.おなじだと
6.WATAGUMO
[DVD収録内容(全19曲)]
Major 1st Album『LENS』Release Tour “凹凸” from 2021.08.27 LIQUIDROOM
1. dart
2. Mr. Foundation
3. Balmy Life
4. sanso
5. shift command
6. a force
7. Monster Play
8. ichijiku
9. Custard
10. selva
11. Page
12. 帰路
13. Pirarucu
14. 侵攻
15. 夜明け
16. Network
17. HORN
18. Shincha
19. Fire Brain
※CDショップ別予約購入先着特典あり。詳細は『nerd』特設サイトでご確認ください。







