「楽器の専門誌に出るようなバンドじゃなかったのに、いつの間にか上手いバンドになっちゃって。………イヤな感じだなぁ(笑)」
“こんなバンドになれたんだな”という感慨深い思いと、そんな思いに耽ってしまった自分に対してほんの少しの照れがまざりあったような笑いだった。2回目のアンコール。舞台に現われた清春が、ギターの坂下、ベースの小林、ドラムの満園がそれぞれ楽器の専門誌に出るという話をした後のくだりである。
結成以来、固定した4人のメンバーがなかなか揃わなかった。
黒夢にピリオドを打ったのは自分。“バンド形体にもっとも近づいた”ユニットを越えるためにも「次にやるならバンド」と決めていたのだろう。だからこそ、彼はひたすらバンドにこだわった。
だが、空回りは続いた。サッズがデビュー以降リリースしてきた2枚のアルバムには、まさにそんなバンド内の噛みあわない4つのパーツをどうバンドに見せるのか、一人格闘してきた清春の姿が克明に刻まれている。
そして今年、この4人のメンバーが集まったことでこれまでの問題点が消えた。“新生サッズ”――今のバンドを清春は自らこう呼ぶ。
“神が与えた唯一無二の薔薇”、そんなタイトルがつけられた新作『THE ROSE GOD GAVE ME』をひっさげての全国ツアーを、神奈川県立県民ホールで観た。冒頭の清春のMCこそ、的確に現在のサッズを言い得ていると思った。これまでのサッズを知っている人にとっては、まったくの“別バンド”だろう。
単純に言ってしまえば、新生サッズの今回の<1stツアー>(←彼らが公言している)は、アタマから最後まで、どこまでもどこまでも、入り込めば入り込むほどに音に酔えるコンサートになっていた。とくに、彼らと同年代で洋楽、邦楽を聴いてきた人にはたまらなく、くるサウンドである。
アルバム同様、本編は中盤に1曲と後半に2曲ほどしか日本語が出てくるナンバーは用意されていない。けれどもお客さんはけしてサッズの向こうに外タレを見ている訳ではない。ここは重要なポイント。それなのに、オーディエンスを酔わせることができる。それだけのサウンドを今のサッズは手に入れたのである。
薔薇の花びらのように、4つの音が重なり合い音が醸し出される。トゲのあるパンキッシュなナンバー、妖しい色艶をした花びらのようにグラマラスなグルーヴチューン……、音のシルエットがいちいち美しいのである。
深紅のカーテン、ピンクの照明、ミラーボール。まるでアメリカのストリップショウを思わせるようなセットのなか、ヘヴィにワイルドに、そしてセクシーにうごめくサッズ・サウンド。日本じゃ、彼らしか出せない。そんな唯一無二の音に酔えるコンサートである。
黒夢のある時期からまったくやらなくなっていた日本武道館での公演を、このツアーのファイナルに組み込んだ清春の気持ちが少しだけ分かった気がした。
文●東條祥恵