――いやぁ、とにかく今回のアルバムにはエキサイトさせられまくりです。
STEVEN: (ため息混じりに)そいつは嬉しいねえ!
──当然のこと、皆さんも出来栄えには大満足だろうと思うんですが。
TOM: 音楽的にハマってるよ。分かりやすい説明だろ?(笑)
STEVEN: まるで眠りからさめる怪物みたいなアルバムなんだ。1曲目の「Beyond Beautiful」は超どデカいサウンドの曲。次の「Just Push Play」は奇妙な感じ。3曲目の「Jaded」もまた全然違う雰囲気で…。イチゴ、チェリー、チョコレート、バニラ…といった、誰もが知り尽くした味が並んでる。とにかく、レコーディングを終えたばかりだから、まだ自分たちでも、よくわかってないってのがホントのところなんだけどさ(笑)。
JOE: 少しずつは反応が届いてきてるんだけど、驚いちゃうのが「とてもギター志向の強いアルバムで、バンドのライヴ感が伝わってくる」っていう意見が多いことなんだ。実際はストリングスやらホーンやら、今まで以上にオーヴァー・ダビングをふんだんに施してるのにね。
TOM: 彫刻を作ってる知り合いが、こんなことを言ってたよ。「デカい石を持ってきて、女性に見えない部分をすべて削り取っていくんだ」って。それをすべて削り取ったところでやっと彫像になる。結局、俺たちもAEROSMITHらしくない音を全部削り取ったってことなんだろうな。
──今作では、とにかく古くからあるAEROSMITH的要素と、新しい刺激的エッセンスとが見事に融合してると思うんですよ。
STEVEN: そこんとこ、わかってもらえてて嬉しいね(笑)。
──実際、何を目標に据えて作業にあたっていたんですか?
STEVEN: 怒りと争い!(笑)
BRAD: その質問って、訊かれるタイミングによって答が変わってくるよね。1年前に目標を尋ねられたら「仕上がるかなぁ」って言ってただろうし(笑)、半年前なら「仕上がるといいなぁ」とかさ(笑)。ただ、常にあるのは、新しい領域を開拓しようという気持ちかな。今までと違う音を出してみたり、歌い方を変えてみたり。実際に今回も、あらゆるところから要素を取り入れつつ、それをAEROSMITHの基本にあるものと上手く融合できたと思う。いずれにしても、本当にいい出来だ。いつもこうだと嬉しいね(笑)。
──アートワークも今までと全然違いますよね。なんかハイテクな印象で。
STEVEN: 何故だかわかる? 日本人アーティストのおかげ! ソラ…ソロ…じゃないや、ソラヤマっていう人の作品なんだ。
──そうらしいですね。バンドのヴィジュアル・イメージの一新を狙ったんですか?
STEVEN: たまたま自分たちが持ってたアイディアと、彼の作品とが一致しただけのことさ。ダンス会場で女を左、男を右に整列させる。真ん中にはステレオがあって“PLAY”のボタンを“PUSH”すると、あちこちが動きだすってわけ。
TOM: 以前はアートワークの許容範囲が、遥かに狭かったからね。結局、音楽って、難しいことなんか考えないで“単純にPLAYをPUSH”してみればいいものなんだってことを、このアルバムを通して分かってもれえたらいいな。音楽だけでなく、すべての事柄に関して言えることだ。
──『Just Push Play』というアルバム・タイトル自体がそれを語ってるわけですね?
JOE: その通り。
──ところで今回のプロデュースはStevenとJoeにMarti Frederiksen、Mark Hudsonを加えた“The Boneyard Boys”というチーム。彼らと組むことにした理由は?
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Joe Perry |
JOE: 当然の成り行きだったね。最初、みんなで相談して決めたんだ。Martiとは前にも一緒に仕事をしてきたけど、あいつは生粋のロッカーさ。俺たちよりも10歳くらい若くて、’70~’80年代の音楽にドップリなヤツであるのと同時に、コンピュータの天才でもあるんだ。過去には「Nine Lives」、「Something’s Gotta Give」、「Attitude Adjustment」みたいなヘヴィなロックを手掛けてくれてる。一方のMarkはもっとダーク・エイジ的で、THE BEATLES的なものが上手いんだ。今までもMarkとMartiに入れ替わり立ち替わり関わってもらってきていて、最終的にその2人が組んだ。じゃあ今度は4人でやってみよう、ってことになったわけさ。1作限りのチームっていうのはよくあるけど、俺たちの場合は、面白い刺激が沢山あって、長続きしてるんだ。
──レコーディング・セッションはJoeの自宅スタジオ(The Boneyard)で行なわれたんですよね? さぞかしアットホームな雰囲気だったことと思いますが、今までと比べてどうでした?
TOM: やっと今までの流れから開放されたね。これまでは、まず高額なホテルを押さえて、その近くにある高額なスタジオを見つけて、ヒットを飛ばしてる高額なプロデューサーに来てもらってた(笑)。
JOE: しかも、そいつの言いなりになるために、な(笑)。
TOM: そう! わざわざこっちから出向いたうえに、やり方までキッチリ向こうに決められてさ(笑)。だけど今回は、いろいろ試しながら、漠然とした曲作りを進めていったんだ。毎日、課題が決まってるわけじゃない。そういう自由な雰囲気がずっと続いてたんだ。オマケに優秀な人材と機材に囲まれてたよ。つまり、自宅にいながら、いろんなアイディアを好きに試しながら、出したい音を出したい時に出せてたんだ。今って、車のトランクにレコーディング機材が収まっちゃう時代だからね。経験に基づいたトラディショナルなやり方と、未知の新しいものを効率よく融合できるようになったな。 ──とにかく、過去になかったほど自由な作業ができたわけですね?
JOE: ああ、遥かに自由だったよ。以前はレコーディングといえば、テープを切り貼りしてたもんだけど、今はコンピュータの恩恵で、アタマに浮かぶものはほとんどすべてカタチにできるようになった。しかも瞬時にしてね。だから逆にインプロヴィゼーションが利くし、想像が自由になるぶん、すごく有機的だと思うんだ。
TOM: 実は、俺たちのドラム・テクニシャンだったヤツが自分のバンドでレコード契約を獲ることになったんだ。だけどそいつ、メジャーともなればデカいスタジオに入って、テープ機材で昔ながらのレコーディングをするもんだと思ってたらしい。新人バンドがそんな風に考えてちゃダメだよ。コンピュータを使えば、時間も金もうんと節約できるんだからね。
──ちなみに今回、「大物プロデューサーを使わずに自分たちだけでアルバムを作りたかった」ことについては前々から強調されてましたけど、’80年代、’90年代にだってそれは可能だったんじゃないですか? 実際、’70年代にはいつもJack Douglasと共同プロデュースしてたわけですから。
JOE:そりゃ、なるべくそういう方向に持っていこうとはしてたよ。前からね。ただ、利害関係だとか“プロデューサー神話”みたいなものが邪魔だったんだ。あの連中って、話す言語も俺たちミュージシャンとは違ってて、機材のことだって懇切丁寧に細かく教えてくれるわけじゃない。だから、自分たちでよく観察して、学び取って、開拓していかないといけないんだ。実際俺たちも、スタジオに何度も入ってるうちに、いろいろ覚えたよ。もちろん、すべてのプロデューサーがクソみたいだなんて言いはしない。あっちだって、自分の仕事を守りたいだけだろうし、アーティストの中にだって、平気で言いなりになるヤツもいれば、大物プロデューサーと上手くやるのが得意なヤツもいる。でも、ひどいプロデューサーってのは、自分の大事な王国を奪われまいとして、クレジットを独占したりする。そういうのはもうウンザリなんだ。それに、こっちですこぶる上質なデモ・テープを用意していったうえで、わざわざそいつのもとで録り直すっていう作業も、もう我慢できないからね。
──とにかく今回は、最新テクノロジーを思いきり楽しんだわけですね?
TOM: いや、だってテクノロジーには敵わないもの(笑)。テープを使うとしても、わざと古い感じを出したい時だけさ。俺たちみたいに音作りを仕事にしてるヤツなら、誰だって、後ろを振り返ることなんかしないよ。
BRAD: とにかく、テープは今や特定な音を作るための道具に過ぎないね。テープに録られた音ってのは、実際のアルバムの音と違うしさ。その点、コンピュータは一貫して音質を変えずに、アルバムそのままの音を最初から出してくれるから、ラクなんだ。
──アルバムのクレジットには、ご家族の名前も登場しますよね? 彼らの仕事ぶりはどうでした?
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Steven Tyler
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STEVEN: ウチの娘のChelseaが歌を、Joeんちの息子のTonyが「Just Push Play」でスクラッチを入れてくれてるんだよな。それからCDの最後で、ずっと掛け放しにしてると「Fly Away From Here」のオーケストラ・ヴァージョンが流れるんだ。その中でLivが妖精の言葉で囁いてる。彼女、ちょうど『指輪物語』のシリーズを撮影中で妖精語を話してるから、そのへんは問題ないと思うよ(笑)。とにかく、こうやって作り上げていくのは楽しいもんだね(笑)。
──Tonyくんの作業も順調でした?
JOE: あいつ、前から自分の部屋で、よくターンテーブルを回しながらスクラッチをやってたんだ。ちょうど、ああいうものを入れたかったんで声をかけたのさ。
──彼は何歳?
JOE: 14歳だ。
──今度のツアーにターンテーブル担当として同行、なんてことは?
STEVEN: そこまでは遠征しないよ(笑)。
JOE: そりゃないね。ミュージシャンにはなって欲しくないな(笑)
──「Avant Garden」は“avant garde(アヴァンギャルド)”という言葉をもじった歌ですよね。歌詞に「We won’t be denied here inside our Avant Garden」とありますが、これは「音楽的に充分アヴァンギャルドである限り、AEROSMITHが否定されることはない」という意味でもあるんでしょうか?
STEVEN: 特にそういうわけじゃないんだ。ま、そう解釈してもらっても構わないけど、俺自身はAEROSMITHのことに限定したつもりはない。もっと一般的な意味合いで歌ってたね。「愛が否定されない」とかそんな風に。人と人とが結びつく時は、ナカミに惚れるわけだろ? みんなそれぞれ、自分の愛はユニークで奇妙なものだと思ってるんじゃないのかな。たとえ、他人から受け入れられなくても構わない。お互いの“愛を愛する”。そういう感覚を歌ってるんだ。
──そうした歌詞の真意はともかく、クラシック・ロックと呼ばれるよりもアヴァンギャルドであり続けたい、という思いはあるんじゃないですか?
TOM: わざわざ意識してアヴァンギャルドになりたいとは思わないね。そんなのは仮面を被るのと同じで、ワザとらしいよ。やってることが結果としてアヴァンギャルドだって言われるのは構わないけどさ。結局は、聴く人に判断してもらえばいいことだ。ちなみに、俺たちのアルバムに“メッセージ”とやらを見出そうとする連中もいるようだけど、そんなことはするなよ! ただ、リラックスして音楽を感じ取りさえすれば、自然と意味が見えてくるもんなんだ。俺、オーディエンスに特定な考えを押しつけるバンドが大嫌いなんだよね。『Rolling Stone』誌をはじめとする音楽誌は、ほとんどどれも、そういうのを求めてるけど。“ただPLAYを押せば”いいだけなのに。
JOE: 「Avant Garden」は一種の分岐点だったんだ。この曲はシングルにも、ライヴ・レパートリーにもならないし、ダンス向きでもないかもしれない。だけど、これを聴いた時に溢れ出てくる感情が、なんとも言えないものなんだ。こんなものを作り出せるバンドに居られて本当に幸せだ。是非、みんなにも、曲に身をまかせて3分間のトリップを楽しんで欲しいな。
TOM: 自分たちでは「この曲ってスゴすぎる!」と思っていても、リスナーの反応は想像がつかないからね。『Permanent Vacation』に収録されてる「Simoriah」なんて、「こんなにクールな曲はない! 大人気になるぜ」って思ったのに、みんなほとんど無視(笑)。「Avant Garden」も俺にとってはパワフルだけど、リスナーはどう思うかな。
JOE: 「Simoriah」や「Get A Grip」の過去があるからなあ。ちゃんと曲を理解してもらえるか、気になって夜も眠れないよ(笑)。ま、「Avant Garden」にも望みを託すとしよう。
──話は変わりますが、スーパーボウルでのパフォーマンスは強烈でしたね!
JOE: おかしかったよ。ライヴの前は『USA TODAY』紙とか、あちこちのメディアでモノすごいい大騒ぎだったんだ。ところが、終わった途端にシーン…(笑)。朝食のソーセージと同じだよ。食ってるうちは美味いけど、それが腹に消えると、みんな昼メシのことしか考えられなくなるんだ(笑)。
BRAD: ボストンに、まるで軍事施設みたいなクラブがあってさ。そこでライヴをやると厨房で山盛りのメシを食わせてくれるんだ。裏街道の音楽をやるっていうのに、あんなによくしてもらえることなんてないから不思議な気分だったな。スーパーボウルも同じなんだ。「ロックが、こんなに歓迎されていいのかよ」って気分だった(笑)。一方でもちろん、精一杯いいステージをやりたいという思いもあったけどね。
──小さい子供たちにまでAerosmithを知ってもらうには、いい機会だったんじゃないですか?
JOE: もちろん!
BRAD: とにかく、信じられないような話さ。ある日、突然、8億人の視聴者が俺たちのステージを観ることになったんだもの。
──世界中がテレビで見てましたからね。さて、次のジャパン・ツアーはいつ頃になりそうでしょう?
JOE: プロモーターが動いてくれれば、2ヵ月後にだって実現可能だ(笑)。でも今から2ヵ月後ってのは無理だな。早く行きたいのはやまやまだけどさ。
BRAD: ツアー自体のめどが立ってないんだ。俺たちもキミと同じで、噂に振り回されてるんだよ(笑)とにかく、早く日本に行って素晴らしいファンのみんなに会いたいね。アルバムを楽しんでくれ!
STEVEN: ニュー・アルバムは、日本で言うと桜の季節にリリースされるんだろ? みんなが桜を見せてくれるお返しに、俺たちが新しいアルバムをプレゼントするよ(笑)。 |