【インタビュー】「陰陽座そのものと言えるものを作りたかった」──2年半ぶりオリジナルアルバム『吟澪御前』リリース

陰陽座が8月6日に、2年半ぶりとなるオリジナルアルバム『吟澪御前』 をリリースした。
タイトルの意味は“吟ずることを己の澪とする強力な鬼”ということ。“澪”とは船が通った後の航跡のことで、つまり“歌ったり音楽を作ることで自らの軌跡を語る鬼”ということ。陰陽座の覚悟を込めたタイトルだ。その名の通り “これぞ陰陽座”な楽曲がたっぷり詰め込まれた大満足の一作に仕上がった。今回は瞬火に、アルバム制作についての思いを語ってもらうことができた。
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◾︎これが現時点の陰陽座そのものである
──前作『龍凰童子』から2年半ぶりのリリースです。前作は15曲入り約70分というボリュームでしたが、今作は陰陽座の魅力をコンパクトに収めた仕上がりで、これまた素晴らしい出来栄えになりましたね。
瞬火(B, Vo):前作はボーカル黒猫の体調やコロナ禍の影響で久しぶりの作品になってしまったので、罪滅ぼしではないですが、ボリュームはマックスで曲数も考えずに入れるだけ入れたんです。それを経てからの今作なので、平常運転に戻ったという感じです。もともと収録曲数が多すぎるアルバムよりも、聴きやすい尺で収まっているものが好きなんです。今作は程良いサイズ感で、作ろうと思ったものを作れました。
──その“作ろうと思ったもの”を具体的に言うと?
瞬火:アルバム名がそのまま表しているんですけど、音楽を吟ずること、歌や音楽をやることが自分の生き様なので、それを感じられる作品にしようと。前作もそうでしたが、陰陽座そのものと言えるものを作りたかったんです。口で説明するよりも、今作を頭から聴いていただければ“これが現時点の陰陽座そのものである”と伝わる作品になったと思います。

──つまり、取り組む姿勢は前作と今作に違いはなく?
瞬火:そうではあるんですが。前作は久しぶりの制作だったので、特別な気持ちはありました。コロナ禍で世界の状況も大変だったし、黒猫の体調のこともありましたしね。それを経て、今作は曲を作ったりライブをやれることへの有り難みを改めて噛み締めながら、よりいい状態で作れたとは思います。今作を作り切ることができて、いままで以上の手応えを感じるし、この作品を死ぬまでに残せて良かったなと感じています。
──今作の冒頭を飾る「吟澪に死す」は小手先やギミックではなく、どストレートなザ・陰陽座だなと。
瞬火:読んで字のごとくタイトルトラックなので、アルバム名のコンセプトや意思や意図をこの曲がすべて体現していると言っていいと思います。この曲はど真ん中に速球を投げるイメージですね。シンプルに伝わる曲かなと。
──「吟澪に死す」の曲名に“死”という字が入っており、死という言葉は一見ネガティブな印象を与えます。ですが、限られた時間の中で今を全力で生きるんだというようなポジティブな意味合いを感じました。
瞬火:まさに「吟澪に死す」と言ってしまうと、死んじゃうんだと思われるかもしれないけど、死ぬということは、その瞬間まで生きていたということですよね。「吟澪に死す」とはつまり「吟澪に生きる」という意味なんです。最終的に人間はいつか死ぬわけで、誰にとっても死ぬことは恐怖であり、悲劇ですけど、生まれなかったら死ぬこともない。“死”という言葉を持ってくることで、強く“生”を促しているんですよ。
──決意表明的な1曲ですよね。この曲は自分の中からすんなり出てきた感じですか?
瞬火:1曲目に来るべきものとして曲名から作り始めたんですけど、まずは今作をどう始めたいのかを考えましたね。多少の苦労はありましたけど、ああだこうだとこねくり回すよりも、これしかないという形で出しました。
──ちなみに最初の方に出来た曲ですか?
瞬火:今回の作業としては最初に着手したものですけど、マテリアルとしては以前から形になっていたものもいくつかありました。この曲が先にあって、ほかの曲をどう並ぶのかを考えましたね。今作の軸となる曲であることは間違いないですね。
──そして、2曲目「深紅の天穹」が先行シングルとして既に公開されていますが、この曲を選んだ理由というのは?
瞬火:どの曲も掛け値なしにいいという確信はあったんですが、その中であえて選ぶならば、勢いがあってわかりやすい曲を選ぼうと。
──ドラムもかなりヘヴィに攻めてますよね。
瞬火:そうですね。ただ、この曲がアルバムを牽引するリードトラックであるとか、これが目玉という意図はなくて。アルバムの流れもありますからね。とはいえ、その流れを意識せずに単体で聴いても捉えやすいと思える曲を選びました。
──男女ツインボーカルを含めて陰陽座らしさが出た楽曲です。続く3曲目「鬼神に横道なきものを」は今作の中でもフックナンバーになっていて、PANTERAの「Mouth For War」、あるいはLAMB OF GOD辺りを彷彿させるグルーヴメタル調のリフが際立っており、非常にカッコイイ曲ですね!
瞬火:いいですねぇ、大好きなバンドに例えられてゴキゲンです(笑)。これは有名な酒呑童子という鬼が討伐される瞬間を描いた曲で、曲名も酒呑童子が恨みをもって人間にぶつけた言葉……辞世の句というか、最後の言葉が「鬼神に横道なきものを」なんですよ。人間の卑怯な謀略によって騙し討ちをされて、首を落とされる酒呑童子の状況を切り取ったシーンですから、どうしても凄惨で禍々しい場面になります。それでこういう曲になりました。
──それで今作の中でも特に、いかついサウンドになったと。
瞬火:そうですね。僕と黒猫のボーカルパートはどちらも基本的に酒呑童子の嘆きを表現しているんですよ。僕の方が酒呑童子から直接出た言葉、黒猫の方は酒呑童子の内なる嘆きを表現しています。それによって、酒呑童子というキャラクターの深みを出せているんじゃないかと。
──歌声の対比も大きな聴きどころになっています。それで「星熊童子」も攻撃的な曲調で、METALLICAの「Battery」に通じるスラッシュメタルナンバーですね。
瞬火:ええ、懐かしいスラッシュメタル然としたアプローチですね。こっちはもっと直接的な怒りを吐き出してます。内容的には「鬼神に横道なきものを」で首を落とされる酒呑童子の配下の鬼、それが星熊童子なんですけど、その配下が見た討伐のくだりですね。仲間が人間と内通しているんじゃないかと疑念を抱くという。そういう裏切り者、寝返る汚い人間に対するストレートな怒りを表現してます。「鬼神に横道なきものを」はいろんな感情が渦巻いてますけど、「星熊童子」はただただ怒っている感覚に近い。だから、ストレートな怒りや激しさが出ているかなと思います。
──一曲通して怒りまくってますからね。ラストの歌詞では「彼は 総じて 愚陋の図」とトドメまで刺して。それから「毛倡妓」は黒猫さんのコブシを効かせた歌い回しが素晴らしく、和に振り切ったサウンドがいいですね。
瞬火:リフやフレーズから、黒猫の歌い方まで和そのものですね。いわゆる民謡や演歌の要素を織り交ぜています。とはいえ、本物の心得があるわけじゃないので、そういうニュアンスを取り込んで表現しているんですが。民謡を習っていたから民謡を歌いましたというんじゃなく、民謡を自分の中で咀嚼して歌として表現した感じです。以前から黒猫の中にあった持ち味のひとつですけど、この曲ではその真骨頂を表せたんじゃないかと。かといってクセが強いだけではなく、キャッチーな聴きやすさもありますし。だけど、黒猫が歌っている感じをマネしようとすると、実は凄いことをやっているんだなと気づくと思います。本人にはそこまでの意識はないと思いますが。

──「毛倡妓」は飛び道具的な1曲であり、陰陽座らしいオリジナリティが伝わってきます。この曲には琴の音色も入れてますよね?
瞬火:サンプル音源でプログラムしました。陰陽座は和のヘヴィメタルなので、聴いたことがない人にとってはすべて和音階の曲で、和風のアプローチしかやらないと想像する人もいるかもしれないけど、基本的にはそういう要素は側面の一つです。この「毛倡妓」のように、時折りそういう要素を色濃く出してメリハリを付けているつもりです。
──ここぞ!という場面で出されると効果的です。和の要素と歌詞の世界観も見事にリンクしていますね。
瞬火:僕の場合、歌詞は後に書くんですよ。最初に何についての曲かを決めて、曲名を付けます。その曲名通りのイメージを音で広げて、歌詞で表現するという。
──アーティストによっても異なりますが、曲名を決めてからサウンドや歌詞に着手するタイプはかなり珍しいのかなと。
瞬火:僕が知る限り、最初に曲名を付ける人はいないと思います(笑)。僕は名前(曲名)に呪力を感じるんですよね。特に日本語の名前に力を感じるので、後で何となく付けるより、“こういう名前の曲にしたい”という気持ちが先に来るんですよ。多分、レアケースだと思います。でも僕はそれが一番やりやすいんですよ。
──その作り方はデビューから変わらず?
瞬火:基本的には変わらないですね。「毛倡妓」はそういう妖怪がいるので、その妖怪について歌おうと。面白い妖怪で喋ると長くなりますが……喋りましょうか?(笑)。
──良ければお願いします!
瞬火:あるとき髪の長い馴染みの倡妓を街で見かけた男が後ろから声をかけ、無遠慮にも前に回って顔をのぞきこんでみたら、顔側にも後ろ髪と同じようにたっぷり髪の毛があって顔が毛まみれで見えない、それにびっくりして気絶する──という、髪の毛が前にも後ろにもある妖怪なんです。
──なんだか面白いですね。
瞬火:はい。でも僕はこれを、声をかけるべきではないタイミングを見計らえない無粋な男に対する戒めのような妖怪だと捉えていて。例えば芸能人でもアイドルでもいいですけど、仕事としてお客さんと接する関係性はあっても、ステージを離れたら一線を引かなければいけないじゃないですか。僕はこの毛倡妓を、大昔にそういうことを諌めるための逸話だったと思ってるんです。そこまで深く解釈するか、単に毛まみれの女性がいると思うのか、それは妖怪の捉え方次第ですけどね。
──なるほど、とても興味深い。
瞬火:妖怪をただのキャラクターとして捉えるのではなく、“そういうことが言い伝えられているということは、何かあったのかな”と考えることが好きですね。






