「M-SPOT」Vol.016「既成概念を飛び越えた、いろんなミュージシャン像」

バンド、ソロ、ユニット、プロジェクト、P…、そしてネット系、ライブハウス叩き上げ、ストリート、ベッドルーム・ミュージック、余暇での制作…、作詞、作曲、弾き語り、生録、DTM、DAWから生成AIまで、その活動の仕方とアーティストとしてのアイデンティティの持ち方は、まさに多様性に富み、ミュージシャンという単一の名詞では捉えきれない状況にまでシーンは広がり、成熟・進化・発展を遂げ続けている。
世のクリエーターたちは、自らの活動をどのように造り、魅力を磨き、訴求させていくのか。プロデュースの仕方も多面的になった、そんな2025年のインディペンデント・シーンには、既成概念を飛び越えたいろんなミュージシャン像が蠢いている。
注目したいアーティストを紹介するのは、TuneCore Japanの堀巧馬と野邊拓実、そして進行役の烏丸哲也(BARKS)である。
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──たくさんの音源が「M-SPOT」へ寄せられているものの、我々スタッフのアンテナもバラバラなので注目する作品がバラけることも多いんですが、同じ作品に評価が集まると「お?」っと気になりますよね。
堀巧馬(TuneCore Japan):そうですよね、例えばAMY McFLYなどは、僕も烏丸さんも注目したみたいで。
堀巧馬(TuneCore Japan):なんかドージャ・キャット感があっていいですね。僕、ドージャ・キャットもすごい好きなんですけど、彼女っぽいR&Bシンガーってあまり日本には少ないなと思うんです。2000年代系のR&Bシンガーは割といるんですけど、今で言うヒップホップ・テイストをしっかり持っている歌い方っていうのかな。
──ブラック・ミュージックに大きな影響を受けているとのことなので、そういうルーツもありそうですね。私がいいなと思ったポイントのひとつに、プロフィールに「2児の子育てをしながら2021年より活動再開」とある点なんです。家庭を持っても子育ての途中でもアーティストへの道を諦める必要はないし、いつだってどんな状況でも音楽活動はできるんだという実例ですよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):テクノロジーが発展してAIも登場し、AIも作曲だけじゃなくてミックスやマスタリングでも便利なツールとして利用されてきていて、音楽をやる上で必要だった手間というか、越えなくてはいけないハードルがすごく下がりましたよね。本当にいろんな人が音楽ができる環境になっていて、「音楽をやろう」と思ったときに必要なものって、もはや「勇気」ぐらいなんじゃないかって思います。
──確かに。「勇気」とか「やる気」とか、一番必要なものは「強い思い」だけかもしれません。

AMY McFLY
野邊拓実(TuneCore Japan):もちろんお金はそこそこかかるものもあるだろうし、突き詰めれば高額な機材もありますけど、でも始めること自体のハードルはものすごく下がっているし、これからも多分どんどん下がっていくんだろうって思います。メジャーを目指す人からライフワークとして生活の合間にやっていきたい人まで、いろんなモチベーションでいろんなレベル感で音楽をやる人が増えて、これからは世界的にも音楽人口ってどんどん増えていくんじゃないかなって思います。
──誰でも簡単に音楽が作れる時代になりましたね。
野邊拓実(TuneCore Japan):「私もこういうのやってみたい」みたいなのって、全然可能になってきているし。でね、人口が増えれば増えるほど市場の熱が高まって、頭角を表すハードルが高くなるので、逆にこれから音楽ってどんどんレベルが高くなってくんじゃないかなって思うんですよね。
──そうかもしれない。音楽文化のさらなる成熟だ。
野邊拓実(TuneCore Japan):AMY McFLYの作品には、そういう未来も感じさせるようなところがありました。考えすぎだろって思いますけど。
──いや、でも芯を突いていると思います。そして、まさしく音楽制作の敷居の低さと同時に、表現や制作の自由さが格段に広がっていることを思わせるアーティストもいるんです。ぼぼんぬです。
──このイラストの女の子がぼぼんぬで、アイドルを目指してオリジナル曲とAIイラストが投稿されているんですが、歌はSynthesizer V AI Maiなんですね。曲自体はオリジナルで制作したもので生成AIではないというところに強いアイデンティティを示しています。ただね、困ったことに、このぼぼんぬというバーチャルキャラを応援してほしいのか、制作している中の人を評価してほしいのかが、ぼやけててよくわからないんです。
堀巧馬(TuneCore Japan):Xに投稿されているキャラクター・イラストは一貫して髪の色や目の色も共通しているので、これがぼぼんぬというキャラクターですね。ただ、活動自体はボカロPみたいな感じですよね。曲を作ってMai(SynthV)に歌わせているわけですから。でも、前に出ているのはPではなく、このキャラクターなんですね。すごい珍しいかたちな気がします。
今日も頑張ろ〜????????#AIart #AIイラスト pic.twitter.com/OHyjZsguo5
— ぼぼんぬ 2025/2/1 新曲 いのり 配信予定です???? (@bobonnu_popopon) April 30, 2025
──そう、中の人Pの「いのり feat. Synthesizer V AI Mai」ではなく、ぼぼんぬの「いのり」なんです。ここがややこしい。
野邊拓実(TuneCore Japan):「アイドルを目指してます」というアイドルが、Pとしての自分自身なのか、このイラストのキャラクターなのかみたいなところがわかんないですね。
──そこが謎。「曲を作っています」「投稿しています」という発言はPの一人称なんですが、「アイドルを目指してます」がぼぼんぬの一人称発言なので混乱するんです。
堀巧馬(TuneCore Japan):Pの名前がぼぼんぬで、そのPがこのキャラなのか?そこも全部含めてプロジェクト自体がぼぼんぬなのか。いやー、新しいですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):面白いですね。でもちょっと思ったんですけど、このアイドルというアイコンを立たせながらバックで曲を作っている人がいるという構造は、昔のアイドル歌謡とかの形と同じですよね。後ろで曲を作っているのは違う人だけど、でもみんな松田聖子が好きだから「この曲を聴く」みたいな、その構図にちょっと似てる感じがします。
──なるほど。確かに、リアルなアイドルの構造と変わってないのかもしれない。
野邊拓実(TuneCore Japan):でも全部ひとりなんですよね。ちょっと面白いな。オルタナティブだ(笑)。
堀巧馬(TuneCore Japan):とはいえ、ぼぼんぬが歌っているわけではないというところも味噌で、結局これ、Synthesizer VのMaiが歌っているわけで、当然そこにはMaiというキャラデザがいるんですよね。ボカロPがボカロのキャラクターを立たせて、それがIP化されるという構造ではないので、このぼぼんぬというキャラクターはなんなんだ?みたいなところですよね(笑)。
──アイドルを目指すといいながら、ぼぼんぬは歌っていない(笑)。Maiが歌うオリジナル楽曲を世に広める水先案内人係ってこと?

ぼぼんぬ
野邊拓実(TuneCore Japan):本人の中で、そこがどう仕切られているのか。僕らはここで議論を交わしてるけど、実は本人そこまで考えてなかったりして(笑)。
──本人がこだわっているのは「楽曲はオリジナルで作っているぞ」というところなのかな。
堀巧馬(TuneCore Japan):うーん、新しいっすね。「ぼぼんぬさんのアイドルとは?」って、直接聞いてみたい。普通に興味がある。
野邊拓実(TuneCore Japan):確かにちょっと可能性がありますね。いろんな選択肢というか、今後どう展開して目指しているのか。このゴール地点をどういう風に考えてるのか、みたいな。
──これも、イラストや動画などが気軽に生成できるようになった今の時代ならではの自由度なのかもしれません。音楽活動の形態や作品の発表の仕方も自由ですからね。引き続き、今度の動向にも注目していきたいです。
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.
AMY McFLY & DJ SARA
AMY McFLY 1993年生まれ。兵庫県出身。幼少期からUS Hitsを中心に様々な音楽を耳にしながら育ち、小学生の頃にはDestiny’s ChildやRihanna等ブラックミュージックを聴きはじめ絶大な影響を受ける。18歳の頃には大阪ミナミのナイトクラブでフロアダンサーを務め、シンガーとして活動しようとし始めた21歳の頃妊娠を期に一時断念。2児の子育てをしながら2021年より活動を再開し、2024年8月に自身3作品目となるダンスミュージックのEP、『PARADOX』をリリース。
◆AMY McFLY & DJ SARAページ(TuneCore Japan)
ぼぼんぬ
アイドル目指しているぼぼんぬです! 画像はAI画像生成ですが、音楽はAI生成ではないオリジナル曲です。ボーカルは主にSynthesizer V AI MAIです。 ポップス中心にオリジナル曲を配信します! 是非聴いてくださいね! 歌ってみたなども大歓迎です!Xもやっていますので良かったらチェックしてください。 よろしくお願いします!
◆ぼぼんぬページ(TuneCore Japan)