【インタビュー】逹瑯(MUCC)が語る、『奇怒哀落』という尽くしがたい感情「濃く歪な感じにしたかった」

2021年にソロプロジェクトを始動したMUCCの逹瑯は、コンスタントにリリースとライブを重ね、そのたびにソロに“足りないもの”を発見しては自身の血肉とすべく、それを新たに作り出して完成度を高めてきた。ソロ始動から約5年、前シングル「checkmate」のインタビューで、「現在地を示す座標的な曲がソロで初めてできた」と語った逹瑯は「ソロ活動がやっと1周した」と手応えを滲ませていた。
そして全国ツアー<LIVE HOUSE TOUR [VILLAINS chapter 2]>を経て、次のフェーズへと進む逹瑯が作り上げたのが、EP『奇怒哀落』だ。“喜怒哀楽”から“喜”と“楽”を取り、“奇”と“落”を加えた4曲入りEPは、彼らしい解釈で4曲4様の感情が渦巻いている。
MUCCの楽曲をはじめ、人間ゆえの生々しい感情を歌に込める業は逹瑯というヴォーカリストの得意分野と言えるだろう。しかし、4曲それぞれが持つ独自の世界観と、一歩深く踏み込んだ表現はソロだからこそのもの。コンセプトという制約の下でさらに開花した逹瑯ソロの世界を覗いてみてほしい。

◆ ◆ ◆
■“真人間”という言葉から始まって
■感覚で動いたけど間違いじゃなかった
──2026年3月から4月にかけて、<LIVE HOUSE TOUR [VILLAINS chapter 2]>が開催されました。前回のインタビューで、「ここまでのソロの集大成的なものができそう」というお話がありましたが、実際の手応えとしてはいかがでしたか?
逹瑯:2025年秋の<VILLAINS>ツアー時、何かひとつ完成しそうな感じがするという手応えを掴んだまま終わったから、この世界観でもうちょっとやりたいなと思って、このツアーに<chapter 2>というタイトルをつけたんですよね。シングル「checkmate」の曲を追加してツアーを回った結果、ソロ始動から今年3月までにやってきたことがしっかり形になった感覚がありました。自分のソロの世界観が構築された達成感があって、すごく満足できた。
──予感が実現したわけですね。その達成感をもう少し具体的に言葉にするとどういう部分なんですか?
逹瑯:“逹瑯ソロのライブの空気感はこういうものだよね”っていうものが色濃く作れた感じかな。MUCCではなくて逹瑯ソロでしか動かない感情とか空気感、温度感を作ることができたのが大きかったと思います。その空気感は自分だけで作るんじゃなくて、お客さんを含めたフロア全体、ステージ上のメンバーみんなで作るものだから。自分から発信して、みんなで共有して生まれた世界という感覚ですね。
──手探りでソロを始めて、いろいろな人と関わりながらやってきたものが確立されたと。
逹瑯:そう思います。だから次は、単なる延長線上じゃなく、ひとつ完成されたものを土台にして、また違う世界に行きたいなという思いがありました。

──そうして完成したのが1st EP『奇怒哀落』。今回の制作は、これまでと向き合い方が違ったんですか。
逹瑯:最初に決めたのが、ツアータイトルの<真人間>だったんですよ。今までずっと横書きのツアータイトルだったから日本語がいいなと思っていたら、<真人間>という言葉がなんの根拠もなくポンと出てきて。“じゃあ、<真人間>というタイトルのツアーを回る時に持っていく作品ってどんな感じだろう?”と考えていきました。スケジュールはキツいけど、作れるなら4曲入りくらいのEPにしたいな、アッパーな速い曲もほしいなってことで、であれば“人間”が表す感情、喜怒哀楽をテーマにしたEPがいいんじゃないかと。去年リリースしたミニアルバム『MONOCHROME』で、虹の配色をテーマに7曲書くという作り方がおもしろかったから、“喜怒哀楽”のひとつひとつに曲を当て書きしていこうと思いついたんです。
──ツアータイトルが発表された時はインパクトがありました。日本語にしたいと思ったのは?
逹瑯:ずっとふわっとした横書きの英語や単語だったから、飽きてきたんですよね(笑)。ふわっと大きく解釈できるものじゃなくて、グッと濃く、より歪な感じにしたかったというか。EPもちょっと尖った作品にしたかったので。
── “喜怒哀楽”から、“喜”が“奇”、“楽”が“落”になっているところが逹瑯さんらしいなと思いましたが、喜びと楽しさは……。
逹瑯:別にいらないなと(笑)。入り口と出口を俺っぽく変えたくて『奇怒哀落』にしました。曲や歌詞が完成する前に、“奇”は「奇妙な果実」、“落”は「落下の終着点」がいいなあってタイトルも浮かんでいましたね。 “怒”と“哀”に関しては仮タイトルから変わりましたけど、いずれにせよ先にタイトルのイメージがあって。いつものように足立(房文)と曲作りしていく中でヒントになればいいなと思って共有していました。ギターのレコーディングは前シングル「checkmate」と同じ人にお願いしているんですけど、その人にも「こういうタイトルの曲にしたいから、イメージを膨らませてギター弾いてくれ」って伝えたり。
──お任せする部分も大きいんですか?
逹瑯:足立のデモにも結構しっかりしたものが入っているので。デモを踏まえつつ、ギタリストはギタリストの脳味噌があるだろうから「これをもとにいいテイクください」みたいな感じですね。
──共有することで、作業もスムーズに進みそうですね。
逹瑯:曲の仕上がりはスムーズだったんじゃないかな。それこそ『MONOCHROME』の時は、感情じゃなくて色から連想される音だったからもっとふわっとしてたけど、今回はもうちょっと具体的だったかもしれない。


──高橋岳人さんの絵を使ったジャケットがすごく素敵で、作品の世界観が伝わってきます。
逹瑯:俺も気に入ってます。最初から、“ピエロの絵を描いてもらいたい”というイメージがあって。「『奇怒哀落』という作品の中で、なんとも言えない表情をしてるピエロがいいんですよね」ってデザイナーさんに相談して、デザイナーさんの知り合いの方を紹介してもらったんです。「表情もわからないし、性別もわからない、なんとも言えない感じで描いてほしい」と伝えて、ばっちりな仕上がりでしたね。なんの根拠もなく“真人間”という言葉がポンと出てきたところから始まって、インスピレーションや感覚で動いたけど、間違いじゃなかったなと思ってうれしかったです。
──1曲目は“奇”の「奇妙な果実」。ギターやベースの音はバキバキに仕上げつつ、ミドルテンポでオシャレな雰囲気が新鮮でした。
逹瑯:こういうテンポ感の曲は、ライブですごく盛り上がるわけじゃないけど、音源として聴いていて楽しいんですよ。そこにJ-POP的なものを感じていて。キャッチーじゃないタイプの、アンニュイなほうのJ-POP感。そういうものは、この曲だけじゃなく4曲すべてで意識していましたね。マニアックなことをやってるんだけど、マニアックな曲になっちゃダメだって、歌詞を書く時もポップスを意識して。ポップスとしてちゃんと聴ける、そういう抜け感みたいなものがほしかったんですよね。
──ライブで盛り上がるだけじゃなく、曲として楽しめることを大事にしていたと。たしかに、“奇”だからといって難解な曲にならず、聴き心地はポップです。
逹瑯:ポップスにしたいんだけど、歌詞はちょっとひねって面白い感じにできたらいいなと思っていました。足立からこの曲のスケッチボードが送られてきた時、俺自身すごくワクワクしたので。オープニングナンバーとして、ここから何が始まるんだろうと思わせる曲になったと思います。
──歌詞は、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、想像させるような世界観で。
逹瑯:これはメリーバッドエンドですね。ヤバイ相手だと思ってたら両方ヤバかったみたいな……ま、ふたりが楽しいならいいんじゃない?って感じ(笑)。
──(笑)。「St.Anger」は、最初におっしゃっていたアッパーで速い曲がほしいというところから作ったんですか。
逹瑯:そうですね、もう突っ走るだけの曲。こういうタイプの曲があると、ライブの頭でも最後のほうでも、どこにも置けてラクだから、ほしいパーツだったんですよ。MUCCでは得意なアプローチですけど、ソロでは足立がメロディまで作るから、新鮮で面白かったです。俺からはサビの頭の入りを一音削ってちょっと勢いをつけたくらいで、ほぼ足立のメロディのままなので。
──“怒”をテーマに、書かれているのは外ではなく内側に向いている怒りですよね。
逹瑯:『奇怒哀落』をテーマに、ひとりの人間の怒りをどこに向けて書くかとなった時に、外に向けての怒りというより、一回自分の中に向けて溜めてからの爆発力というイメージだったんですよね。毎回、“この曲にどういう感情をくすぐられるんだろう?”って曲と対話しながら書いていくんですけど、この曲にくすぐられたのがそういう部分だった。タイトルの「St.Anger」も、普段怒らないであろう“聖人の怒り”っていう皮肉や対比が面白いなって。
──《何時からか忘れてしまっていた 願う事 夢見続ける事》という導入にハッとさせられました。“閉じ込めていた感情を解き放て”というメッセージは、大人になった自分に向けているところもありつつ?
逹瑯:そうですね。凪いでいる平穏な日常もすごく好きですけど、やっぱり感情が動く瞬間…ライブとかそういう場所もたまには必要だよなって。感情が動くと疲れるんですけどね。







