【インタビュー】ポール・ギルバート最新作『WROC』と、ツアーの表と裏

2026.09.30 11:26

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スーパー・ギタリストとしてのみならず、優れたメロディ・メイカー、実験精神に富んだクリエイターとしても長きにわたり高い支持と共鳴を集め続けてきたポール・ギルバート。去る2月に発売された現時点での最新作『WROC』は、彼自身がヴォーカルをとるアルバムしては実に10年ぶりの作品であり、なおかつジョージ・ワシントンにまつわる書籍に触発されたという歌詞で構成された異色作でもある。

そしてこの作品を携えながらアメリカ大陸を巡演してきた彼が、いよいよこの10月下旬にジャパン・ツアーを実施する。ソロ名義での単独来日も実に約7年ぶりとなるが、今回のステージではこの画期的な『WROC』からの楽曲のみならず、思いがけないカヴァー、大胆かつクレイジーなメドレーなども楽しめそうだ。さっそく彼の最新肉声をお届けすることにしよう。

――『WROC』のリリース後はまず北米ツアーをしていましたよね。その際の手応えはどうでしたか?

ポール:素晴らしかったよ。ツアー・バスに乗り込んで30公演をこなしたんだ。6日連続でライブをやったら1日休んで、また6日間やる。その繰り返しだった。かなり忙しかったけど楽しかったよ。バンドも最高だった。『WROC』からの新曲もたくさんやったし、僕のキャリアのハイライトを網羅したメドレー曲、「Crazy PG Medley」もやったんだ。ただ、アメリカはあまりにもデカい国なんで、それでもまだ東海岸と南部、中西部しか回れていないし、ロサンゼルス公演すらまだやれてないんだ。この先にまた、前回のツアーでは行けなかった都市にも足を運びたいと思っているよ。

――ひとつ確認なんですが、このツアーでは『WROC』の参加メンバーであるダグ・ラポポート(G)とティマー・ブレイクリー(B)が同行しているんですか?

ポール:そうそう。その2人については一緒。ただ、ドラマーは違う。アルバムではニック・ディヴァージリオが叩いていたけど、ツアーにはジェフ・マーティンが参加しているんだ。ジェフは素晴らしいドラマーであると同時に、RACER Xのリード・シンガーだった男でもある。つまり彼が僕の歌にばっちりハーモニーを重ねてくれるんだ。『WROC』はロック・アルバムだけど、ヴォーカル・ハーモニーがたくさん詰まっているから、ジェフがいてくれて本当に助かっている。それに、何より彼は僕にとって一番の親友でもあるからね。ステージでもツアー・バスでもそんな顔ぶれで過ごしてるから、常に和気藹々としているんだ。ツアーでライブが6日間続くのは、ギタリストにとってはさほど大変なことじゃない。だけどシンガーにとってはキツい行為だよね。だけどいざツアーに出てみたら、僕の歌声は以前よりも強くなっていたみたいだ。北米ツアーの終盤には、今までで一番上手く歌えてたんじゃないかと思う。それくらい声をちゃんと維持できていたうえに、ライブを重ねていくにつれて声が強くなっていったんだ。あれは嬉しかったな。

――頼もしいかぎりですね。日本にも同じ顔ぶれでやって来るんですか?

ポール:ギターのダグ以外はね。彼はちょうど同じ時期に、日本人フュージョン系アーティストのツアーへの参加が先に決まっていたんだ。そこで彼の代わりのギタリストを誰か雇うか、それともいっそのこと僕がもっとギターを弾くか…。そうやって2つの選択肢について考えてみたら「後者のほうが絶対いい!」って思えて、自分でも興奮しちゃってさ(笑)。というのも、一度やってみたかったんだよ。ジミ・ヘンドリックス・スタイルの3ピース編成でね。そうすればギターもたっぷり弾ける。実際どんなことになるのか、すごく楽しみだよ。

――ジェフとは、ずっと交友関係が続いていたんですね?

ポール:ああ、ずっとね。彼は僕の過去のソロ・アルバムでもドラムを叩いてくれている。『ALLIGATOR FARM 』(2000年)でもそうだったし、『FLYING DOG』(1998年)のツアーの時もそうだった。もちろんRACER X のアルバムでも一緒だったしね。彼の起用理由としは、やっぱり歌えることが大きかった。他のメンバーも歌えるけど、さっきも言ったように今回のアルバムにはヴォーカル・ハーモニーがたくさんあるし、なにしろ彼の歌声はパワフルきわまりないからね。

――さきほどの発言によるとツアーの過程の中で喉がどんどん強くなっているようですが、喉のケアのために心掛けていることはありますか?

ポール:ウォームアップの時には自分にとって歌うのが一番キツいパートを歌う、というやり方をみつけたよ。「ここは歌っていて辛いな」という箇所が出てきたら、まずはすごく低いキーから歌い始めて、それを徐々に上げて行って、そのキツいパートまで持っていくようにウォームアップを構成して、それを毎日続けてきたんだ。もちろん、オフの日には喉を休ませるようにした。鍛えることも大事だけど、休ませることも大切なんだ。とはいえ僕はギターを弾きながら歌っているわけで、ギター・ソロを弾いてる間はおのずと喉を休ませることもできてるわけだけどね(笑)。

――確かに。さきほど「Crazy PG Medley」の話が出ましたが、その件についても訊きたかったんです。そのメドレーに組み込まれる曲は日によって違ったりもするんですか?

ポール:ちょっとだけね。というか、即興で弾いてるパートが何ヵ所かあるんで、そこは常に変わっていくんだけど、それ以外は基本的に一緒だよ。あのメドレーの構成を考えてバンドに渡した時、みんなから「マジでこれをやるのか? 正気じゃない」って言われた(笑)。だけどジェフは、そこにさらにアイディアを持ち込んでくれた。メドレーの中にMR.BIGの「Green Tinted 60’s Mind」を少し入れてるんだけど、彼が「あのメロディはすごくいいし、みんなにしっかり聴かせるべきだから、もっと長くしたほうがいい」って提案してくれたんだ。あれはまさに名案だった。ジェフのおかげでさらにいいメドレーになったよ。

――ちょっと調べてみたところ、ZZ TOPやLED ZEPPELIN、THE WHOなどの曲のカヴァーもプレイしてきたようですね。選曲理由はどんなところにあったんでしょうか?

ポール:何であれ、まずは僕の声、もしくはギター・プレイに合う曲かどうかを試してみる。とはいえ多くの場合は、ギターでヴォーカルのメロディ・ラインを弾いているんだ。DIOのカヴァーをやったアルバム『THE DIO ALBUM』(2023年)で、ロニー・ジェイムズ・ディオの歌唱をギターで再現した時みたいにね。実は今、南米ツアー(2026年9月半ばに終了)に向けて何曲か新しいカヴァーを試してるところでね。自分の声とギターだけじゃなく、ジェフの歌声との相性もあるから、すべてが嵌まるような曲を選ばなきゃいけないんだ。

――日本公演では、何か斬新なサプライズ・カヴァーも期待できそうですか?

ポール:まだわからないな。というのも、カヴァー曲を決めるのはいつも直前なんだ。そのほうが僕は最高にエネルギーを発揮できる。あまり前から決めてしまうと、自分の中で新鮮味が薄れてしまうというか。ただ、どうあれ南米でも日本でも、前回の北米ツアーとは違う選曲になると思うよ。ツアーごとに少しずつ変えるようにしているからね。DIOの曲はもちろん、さっき名前が挙がったZZ TOPやLED ZEPPELIN、THE WHOの曲もやってきたけど、南米ではJOURNEYの曲も試してみようかなと思っている。実際にステージで、全員で合わせてみないとわからないけど、僕的には絶対上手くいくと思ってる。まあでも、すべてはリハーサルの場で試してみたうえでの話だね。そのうえで、ツアーの初日が終わった段階で「この曲とこの曲を入れ替えようか?」みたいな話し合いをするようにしてる。MR. BIGのツアーでは一度決めたセットリストを替えることはあまりなかったけど、これは僕自身のバンドでもあるから、結構そこらへんは柔軟というか臨機応変にやれるところもある。それがソロ・アーティストでいることの良さのひとつだね。もちろんそこで判断を間違うこともあるけどね(笑)。そういえば北米ツアーでは、またゲイリー・ムーアの「Still Got The Blues」を試してみたんだよ。凝りもせずにね(註:彼には、かつて同楽曲のカヴァーに挑んだものの、ヴォーカルのキーが高過ぎて思うように歌い切れず、ファンから「歌はいいからギターだけ弾いてろ」といったコメントが届いて傷ついた過去がある)。結果は…さんざんだった(笑)。僕としては挑戦する自由を持ち続けたいけど、そこには失敗もつきものだよね。だけどそこから学ぶことが大事だと思うんだ。実際、その挑戦にしても本当にそこまで酷かったってわけじゃない。だけど「もう一度立ち戻って、べつの曲を試してみよう」という気持ちだったんだ。常に実験を求めてるというか、いつも新しいアイディアが浮かんでくるからね。それが僕という人間なんだよ。

――素晴らしいと思います。ZZ TOPもあなたのお気に入りバンドのひとつなのでしょうか? 残念ながらドラマーのフランク・ベアードが先日亡くなってしまいましたが。

ポール:ZZ TOPの曲は子供の頃からラジオでいつも流れていたし、僕はまさにZZ TOPを聴いて育ったようなもんだよ。ブルースを学ぶうえで彼らの存在はとても大きかった。ブルース・ミュージックの重要な要素をロックのフィーリングの中に込めて、いわば「3分間で理解できるブルース」を作り出したのが彼らだった。最高だったよ。綺麗にラッピングされたブルースが届くんだ。少年期には、彼らの「Heard On The X」をカヴァーしていたんだ。フランク・ベアードのドラムが信じられないぐらいすごかった。最近でもイタリアでのツアーでは毎晩のようにあの曲をプレイしていたよ。

――なるほど。これまでのツアーを経てきたことで、あなた自身の中で『WROC』の感触はどんなふうに変ってきましたか?

ポール:今回のアルバムに限ったことじゃないけど、スタジオで録った時と、実際にライブで演奏した時の違いについては、いつも興味深いものがあるよ。まず、ライブにおいてはやっぱり速いテンポのほうが気持ちいいんだ。いや、もちろんゆっくりしたテンポが心地好い場合もあるんだけど、いずれにせよテンポがすごく大事になってくる。だから僕が一番意識するのは結局のところ「テンポはどうだろう? これだと速過ぎる? 遅過ぎる? チューニングはこれで合ってる?」ということなんだ。とはいえオーディエンスはそんなこと気にもしてないだろうし、僕の頭の中だけの話でしかないのかもしれない。だけどライブではいつも、そういうことを気にしながらやっている。スタジオではいつでも作業を一旦止めて修整できるけど、ライブの場合はその場でやり直すわけにいかない。何があろうと、やり続けなきゃいけないからね。

――ええ。ところで『WROC』での歌詞はジョージ・ワシントンの教えが綴られた本が基になっているわけで、その意味では特殊な作風でもあるわけですが、ツアーで毎晩のように歌ってきたことで、その歌詞について新たな発見などはありましたか?

ポール:うん。たとえば「Spark Of Celestial Fire」は、いくつものパートから構成されたとても長い曲だ。この曲のエンディングあたりには 「あなたの胸の中にある、良心と呼ばれるあの小さな天上の炎の火花を、生かし続けるよう努めよ」という歌詞が出てくるけど、それは、ワシントンの本に収められた最後のルールに基づいているんだ。まるでポエムのように美しい言葉で書かれたルールで、その美しさにインスパイアされて、僕はヴォーカル・メロディと3部ハーモニーを書いた。その曲のその部分は自分でもすごく気に入っていて、サウンドチェックでも必ずやっている。その様子を会場内で見ている関係者たちは「ポール・ギルバートのライブだから、どうせギター弾きまくりなんだろうな」と思い込んでいる。だけどそこで僕がマイクの前に立ち、メンバーたちとこの美しい3部ハーモニーを披露すると、サウンド・エンジニアも照明担当者もみんな驚いた顔をするんだ(笑)。いい意味で、「単なる高速技巧だけじゃないんだな」と思ってもらえる。そんな楽しさもあるし、あの曲をやるたびにあの歌詞の美しさに気付かされるんだ。

――ちなみに南米ツアーは過去にも何度か経てきているはずですが、あちらのオーディエンスの反応はどんな感じなんでしょうか?

ポール:すごくいいよ。ただ、オーディエンスの反応って、そこがどこの国であるかよりも、会場の状況がどんな感じかによるところが大きいんだ。着席型の会場でやる場合は、どうしても反応がいくぶんおとなしめになるよね。だけどオール・スタンディング形式の会場だと、そこが世界のどこの国だろうと、反応は当然のようにエネルギッシュになる。そういえば南米には印象深い想い出がある。あれは初めてアルゼンチンに行った時のことだ。ギター・クリニックのために行ったんだけど、大きなホールは満員だった。そのこと自体はすごく嬉しかったんだけど、その時の僕はくたくたに疲れ切っていた。というのも、現地の空港到着時に荷物が全然出て来ないっていうアクシデントに見舞われて、その件で電話を掛けたりあれこれ対応に追われて、気が休まる暇がまったくなかったんだ。それで会場に行き、時差ボケのままステージに上がり、盛況のうちにクリニックを終えた。ところが「やった、なんとか終わった」とひと息ついていたら、プロモーターがやって来てすごいことを言い出したんだ。「ショウは完売だったけど、実は外で待っているお客さんがたくさんいる。君さえ良ければ彼らを中に入れるから、すぐにでも2回目のショウをやってくれないか?」ってね(笑)。僕としては「そんな話、聞いてないよ」という感じだったけど、プロモーターは「お客さんをガッカリさせてもいいならやらなくてもいいけど?」なんて言う。その時の僕は、マジでめちゃくちゃ疲れてた。だけど疲れ過ぎてたから逆にもうこれ以上疲労感をおぼえることもないんじゃないかと考えて、2回目のショウをやることにしたんだ。どんなに疲れていようとプレイするのは楽しいし、特に、盛り上がってくれてる人たちを前にプレイするのはものすごく楽しい。あの時のことは忘れられないな。

――わかりますけど、過労には気を付けましょうね(笑)。さて、10月下旬にはいよいよジャパン・ツアーということになります。すでに日本については慣れたものだと思いますが、ライブ以外で「日本に行くたびに楽しみにしていること」というのは何かありますか?

ポール:食事だね。僕に美味い食べものを教えてくれたのは日本なんだ。それをバンドのメンバーたちに紹介するのがいつも楽しみでね。「ふぐを食べに行こう」「焼肉に行こう」「焼き鳥に行こう」とみんなを誘って出掛けるんだ。今回のメンバーでいえば、ベースのティマーにとってはおそらく初の日本行きということになるはずなんで、彼にとっての案内役になれるのを楽しみにしているんだ。いや、もしかすると僕が知らないだけで、彼は過去にそっちに行ったことがあるのかもしれないけど(笑)。

――また新たなお気に入りの食べものをみつけられるといいですね。あなたは音楽趣味の幅広さでも知られていますが、最近のお気に入りはどんな音楽ですか?

ポール:最近はまたアラン・ホールズワースをよく聴いている。彼はギター・プレイだけじゃなくソング・ライティングも本当に素晴らしくて、僕は大好きなんだ。特に『ALL NIGHT WRONG』(2002年)というライブ・アルバムが素晴らしくてね。確かあれは、日本で録音されたものだったんじゃないかな?(註:2002年の来日時、東京の六本木PIT INNにて収録) あのアルバム、特に冒頭の数曲は何度でも繰り返し聴いていられるよ。最初の3枚のソロ・アルバムも十代の頃によく聴いていたんだけど、最近また聴き返しているんだ。彼のやっていることは、僕が普段やっている音楽よりもずっと洗練されていて、しかもちょっと変わった音楽でもある。だけど僕の耳には「すごく速いのにメロディアスで、ちゃんと音楽として成立したもの」に聴こえるんだ。

――あなたは「創作意欲が止まらない人」としても知られています。もしかして、すでに次のアルバムに向けての制作準備も進みつつあったりするんでしょうか?

ポール:アイディアは常にあるよ。実際、新たに書いた曲があってね。今度はワシントンじゃなくて、ベンジャミン・フランクリンが基になっているんだ(笑)。ちょっとしたお遊びで書き始めたものだけど、すごくいい曲に仕上がったから、それを続けていこうと思っているんだ。それに、最近ちょっと興味をそそられている新しい楽器というのもあるし、次のアルバムをレコーディングする時に使えそうなアイディアがいろいろと湧いてきてるんだ。

――どんな方向に進むことになるのかが楽しみです。最後に、来日公演を待ち焦がれている日本のファンにメッセージを。

ポール:BARKSを見てくれているみんな、長年の応援に感謝しているよ、また日本に戻ってライブをやれることを楽しみにしている。めちゃくちゃタイトなバンドだし、めいっぱいプレイするつもりだから楽しみにしていて欲しい。それから、最新アルバムの『WROC』も是非楽しんで欲しい。そのアルバムからの曲もプレイするし、これまでのレパートリーの中からもみんなが大好きな曲をたくさん演奏する。みんなで楽しもう!

取材・文◎増田勇一
Photo◎Sam Gehrke(offstage)、Terri Smith(onstage).

<ポール・ギルバート来日公演 WROC WORLD TOUR 2026>

10月21日(水)東京・Shibuya WWW X
10月22日(木)東京・Shibuya WWW X
10月23日(金)大阪・Yogibo META VALLEY
開場18:00/開演19:00

PAUL GILBERT 2026|ウドー音楽事務所サイト https://www.udo.jp/shows/PaulGilbert26
ポール・ギルバート | ソニーミュージックオフィシャルサイト https://www.sonymusic.co.jp/artist/paulgilbert/discography/SICX-213