【インタビュー】上白石萌音、歌手デビュー10周年YEAR第一弾作品『texte』に積日の記憶と終わりのない研鑽「心から納得して歌いたい」

2026.03.02 18:00

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上白石萌音が2026年10月5日、歌手デビュー10周年を迎える。10周年イヤー初のリリース作品として、2月25日にリリースされた『texte』は、デビュー作『chouchou』のコンセプトを踏襲し、“映像作品にまつわる楽曲のカバー”と“オリジナル”を織り交ぜて新たに制作されたアルバムだ。そのアートワークは、デビュー作品と同じスタジオと同じカメラマンで撮影された写真をもとに、イラストレーター加藤大により絵画として描かれるなど、デビュー作へのオマージュを感じさせる仕上がりとなった。

収録曲は全8曲。上白石が主人公のひとりを演じたNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』主題歌「アルデバラン」のカバーや、小林武史の新たなプロデュースによりレコーディングされた「Swallowtail Butterfly〜あいのうた〜」をはじめ、映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』主題歌で、作詞をMONGOL800のキヨサクが手がけたオリジナル楽曲「奇跡のようなこと」などがラインナップされたほか、上白石萌音の歌手デビュー曲「なんでもないや (movie ver.)」のセルフカバーもアレンジを新たに再収録された。

歌手デビュー10周年について、俳優活動と歌手活動について、歌うということについて、『texte』制作秘話について、じっくりと訊いたロングインタビューをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■表現すると結局は
■どういう人なのかが炙り出されてしまう

──歌手デビュー10周年おめでとうございます。昨年のデビュー記念日には、初ライブと同じ会場、同じセットリストでライブ<Mone Kamishiraishi Special Live 105>を行ったんですよね。どんなことを感じましたか?

上白石:当時17歳の自分が組んだセトリ、めちゃくちゃセンスいいなと思いました(笑)。スティングの「Shape of My Heart」をセトリに入れていて。

──確かにそれはセンスがいい。

上白石:自分で発掘した音楽もありますけど、思春期は特に、人から紹介されて聴くようになったものも多かったと思っていて。当時のセットリストも、友人や親からの影響をかなり感じられる内容で、いい音楽に触れて育ってきたんだなと感じました。歌いながら、“ここですごく緊張したのを覚えてるな” “これが楽しかったな”という記憶が蘇ってきて。10周年に向けて、いいスタートを切れたなと思っています。

──“10周年”という数字に対する実感はいかがですか?

上白石:実感は本当にないですね。「歌手デビューするよ」と言われた時は、ここまで続くとは全く思ってなかったので。ずっと“今年だけの話”だと思っていたし、“これで最後かも”と思いながら1曲1曲歌っていたら、気づくと10年経っていて。だから他人事みたいな……人に曲を作っていただいて、歌う場所を与えていただいて、なんとか繋がってきた10年なので。私ひとりの力では何もすることができないので、とにかく感謝感謝だなと。今年はみなさんに“ありがとう”を伝えまくる年にしたいです。「いつも曲を聴いてます」って言われると未だにびっくりしちゃうんですよ。「えっ、何でですか?」と聞きたくなるし、本当にそう言っちゃうこともあるんですけど(笑)。

初回限定盤

──(笑)。上白石さんは俳優活動もされていますが、歌手活動を追っているファンの方々は、役を通していない、上白石さん自身の歌を聴きに来ているわけですからね。

上白石:未だに恥ずかしいです。ライブの時って本名でステージに立つじゃないですか。それが慣れない……というか、心許ない感じがあって。だから私、星野源さんってすごいなと思うんですよ。音楽番組でも、最初に絶対に名乗るじゃないですか。

──そうですね。「こんばんは、星野源でーす!」と。

上白石:源さんも役を演じる方だけど、本名をフルネームで名乗ってから歌い始めるという。そこに強い意志を感じていて。あれを聞くと震えます。私は、歌う時に“別人格に逃げたほうがいいな”とか“そのほうがこの曲を伝えられるな”と思ったら、自分はさて置くことが多くて。だからこそ、自分の名前でツアーを回ることやCDを出すことって、未だに違和感があります。幸せな違和感。

──前アルバム『kibi』では、作詞も多くされていましたよね。自分で歌詞を書いた曲は、別人格に逃げづらいんじゃないかと思いますが。

上白石:逃げないように、道を断つという感覚でした。“自分の名前で歌う以上、自分の言葉を歌わなくては”という気持ちがあって、『kibi』ではたくさん歌詞を書いたんですけど、自分の言葉を歌うのは、誰かが書いてくださった言葉を歌う以上に難しくて。レコーディングがすごく大変でした。だから私はもう、“0”から“1”を生み出す人にリスペクトしかないです。自分自身と膝を突き合わせながら、“自分は本当はどんな人間なのか” “何を考えているのか”と向き合わなきゃいけないので。『kibi』の時のように作詞をするにしても、今回のアルバムのように人の言葉を歌うにしても、自分の名前を冠する以上、自分がどんな人間か知っておかなきゃいけないし、それを表現しなきゃいけない。歌っていると、お寺で修行しているような感覚になることがとても多いです。

通常盤

──今回のアルバム『texte』は、上白石さんの歌と生楽器の柔らかなアンサンブルに、豊かな気持ちにさせてもらいました。静謐で、透明感があり、温かい……『kibi』とも近しいトーンで、上白石さんはこういう音が好きなのかなと。自分の名前で歌うには、自分がどんな人間かを知る必要があるという話でしたが、10年続けたことで、音楽の趣味がより明確になった感覚はありますか?

上白石:そうですね。趣味嗜好は言語化できるようになってきましたし、どんどん偏っています(笑)。やっぱり楽器そのものが持つ温かさがとても好きで。楽器に直に触れているような音の重なりというか。“滾る”というよりは、副交感神経側の音……息遣いが聴こえちゃいそうなくらいの密室感のある雰囲気に心地よさを感じます。歌詞も、広がりや深みがあるものが好きですし。でも、「それだけをやっていたらダメなんだよ」とスタッフさんから言われていて。私がセトリを組んだら、すっごく静かなライブになるんですよ(笑)。

──なるほど(笑)。

上白石:ライブの時はバランスも考えなきゃいけないんですけど、今回のアルバムは、趣味嗜好を凝らした音たちになっていると思います。

──デビュー作『chouchou』と同じく、“映像作品の音楽を歌う”というコンセプトですね。自分の言葉を経て他の人の言葉に戻ってきて、さらに映像作品の音楽を歌うなかで、何か感じたことはありましたか?

上白石:やっぱり私は演劇的なアプローチが好きなんだなと思いました。今回は映像作品の曲ばかりだったので、その作品をもう一回見て、“この歌詞を歌う時にこのシーンを思い浮かべてみよう”とか、“この作品の中のこの人の目線で歌ってみよう”“作品の○年後だと思って歌ってみよう”といったことをやったんですよ。そういう“役作り”をしている時間が一番楽しくて。その準備の仕方はお芝居と変わらないので、自分の中の一貫性を見つけられたのが面白かったです。

──俳優活動もされている上白石さんならではですね。具体的にどんな思索があったのか伺いたいです。

上白石:今回、特に難しかったのが「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」で。原曲ではCHARAさんの声が楽曲ととても馴染んでいるので、まず“私にあれは絶対にできない”と思ったんですよ。“だったら、私は伊藤歩さんだ”と思って一度練習してみたら、“あっ、こっちかも”と思った瞬間があって。

──CHARAさん演じるグリコではなく、伊藤歩さん演じるアゲハだと。

上白石:映画『スワロウテイル』での伊藤さんの眼差しやしぐさをとにかく研究して。歌う時にそれが自然と脳裏に浮かぶようにして、逆サイドから見た『スワロウテイル』の世界みたいなイメージで歌いました。

──面白い。まさに役作りですね。

上白石:役作りとはまた別の角度からの話になるんですけど、「時をかける少女」と「AUDITION (THE FOOLS WHO DREAM)」のレコーディングはすごく演劇的でした。ミュージシャンの方々と“せーの”で一発録りしんですよ。お互いの呼吸とか手の動きを感じながら、みんなでセッションするみたいな……すごく演劇的な時間で、心地よさと楽しさを覚えて。とても時間がかかるんじゃないかと思いながら臨んだんですけど、「あっ、なんか録れたね」というふうになったので、どちらも2〜3回くらいしか歌ってないと思います。人と一緒に何かをやるからこそのエネルギーをとても感じました。

──映像作品内の人物とか、一緒にセッションするミュージシャンとか、他者の何かを借りて、より純粋な自分に触れるような感覚もあるんでしょうか?

上白石:確かに。表現すると、結局はどういう人なのかが炙り出されてしまうと思っていて。私の中にないものは出てこないので、他者との関わりを通して、自分の反応を見る、自分の心がどう動くのかを知る……ということなのかもしれない。今言っていただいてそう思いました。

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