【コラム】祭られないレジェンド、桑田佳祐がコキまくる“NEW 70’S”

2026.04.03 15:00

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2026年の新たなソロ活動開始にあたって桑田佳祐が掲げた“NEW 70’S”というテーマがなかなかに味わい深いのでそれについて考えてみた。2月26日に古稀=70歳の誕生日を迎えて新たなフェイズに入ったことを“新入り70代”もしくは“新たな70代の生き方”と定義し、ここからが始まりだぜと自身を鼓舞しつつ、自らの人格形成と音楽嗜好に多大な影響を与えた1970年代への回帰の意味も併せ持つと思われる“NEW 70’S”。新曲に寄せた公式コメントで桑田氏が連発している“コキまくる”も妙に発語の快感をそそる言葉で、古来稀なるとはいえ現代の感覚では未だ壮年、音楽家生活50年に迫りつつなお尽きない情熱と矜持を天下に示し同輩後輩をも励ます素敵なメッセージだ。年末に流行語大賞とかにノミネートされたら面白いと思う。

何はともあれ音楽を聴こう。新曲「人誑し / ひとたらし」はテレビ朝日系TVアニメ『あかね噺』オープニング主題歌として4月3日に配信解禁、CDシングルは6月24日リリース。四つ打ち感覚のソリッドな打ち込みビートにアコースティックギター、幽玄シンセとキャッチーなギターリフを経てボーカルが飛び込んでくる30秒間ですでにワクワク。メロディは数ある桑田節の中でも王道の哀愁歌謡路線で、サビ前に登場する琴のような和風音階もノスタルジック。サビでボーカルとバイオリンが並走する隣にそっと寄り添う原 由子のコーラス、間奏にちょっと出て来るだけの粋なホーン、アウトロを締めるハーモニカ?のゆるい音色まで、デジタルな正確さとアナログのぬくもりが共存するスタイルは70’s+80’s+2020’sの魅力溢れるもの。何よりボーカルに張りと色気と渋みがあって4分半をじっくり聴かせる、“NEW 70’S”の幕開けにふさわしい力のこもった曲だ。

『あかね噺』が女性落語家が主人公の漫画原作ということで、歌詞は女性賛歌と落語用語とオリジナル桑田語をこき混ぜた独特の世界観。“人誑し”はポジティブな愛され上手の意味もあればネガティブな世渡り上手の意味もある面白い言葉で、しかしそれがなきゃ世の中渡っていけないよねという桑田氏自身の人生哲学もありそうだ。思えばサザンオールスターズこそ人誑しバンドだったのかもしれず、売れたいと願いながらも商業主義を忌避するポーズを取った日本の70’sロック/フォークの世界に登場し、あっけらかんとテレビからお茶の間に飛び込んでいった雄姿はまさに時代の分岐点だった。あれから50年近く、桑田氏は常に自らを音楽家であり大衆的な芸人であると考えている節もあり、落語家は思い入れしやすい題材だったのかもしれない。

蛇足ながら付け加えると歌詞に出てくる“浮世床”は落語の演目、“半鐘はいけないよ”のくだりは「火焔太鼓」のサゲで、五代目志ん生の声色を思い出すとより味わい深い。これからは楽曲の構成をAメロBメロサビ落ちサビなどと呼ぶよりも、まくら、くすぐり、サゲと呼んだら面白いかもしれないとか、どうでもいいことを思いつくのもこの曲が持つ絶妙な軽やかさゆえかもしれない。シリアスな女性賛歌、困難な時代を乗り切るニッポン応援歌にも取れる楽曲だが、いちリスナーとしてはもう少しライトでユーモラスな解釈、歌詞で言うと“笑う門に神は宿る”の部分を強調したい。“NEW 70’S”に辛気臭い顔は似合わない。笑顔のほうがいい。

「人誑し / ひとたらし」のリリース後、2026年7月8日から全国10か所22公演のアリーナツアーが始まる。デビュー50年近く経ってこの規模のツアーを軽やかに継続していることは天晴のひとことに尽きる。1970年代からコンスタントにライブ活動を続けているアーティストはほかにもいるが、権威や芸術、アイコンとして祭られることを絶妙に避け、閉じたファン層の中に安住せずに良い意味で軽い存在であり続けている桑田佳祐はきわめて稀な音楽家だ。『あかね噺』をきっかけに若いアニメファンがライブに来はじめたらさらに面白い。軽いからこそ重みを増す不思議なアーティスト、“NEW 70’S”に突入してコキまくる古希、桑田佳祐に出会うなら今が好機だ。おあとがよろしいようで。

文◎宮本英夫

「人誑し / ひとたらし」

2026年4月3日(金)先行配信スタート
2026年6月24日(水)CDシングル発売
【完全生産限定盤】CD+Special Goods VIZL-3300/ 税込¥2,750
【通常盤】CD VICL-38700/ 税込¥1,430
【アナログ盤】2026 年7月8日(水) VIJL-61900/ 税込 ¥2,750
※テレ朝系TVアニメ『あかね噺』オープニング主題歌

「人誑し / ひとたらし」

<桑田佳祐アリーナツアー>

石川県産業展示館4号館
7月8日(水)開場17:30開演18:30
7月9日(木)開場17:30開演18:30

あなぶきアリーナ香川
7月14日(火)開場17:30開演18:30
7月15日(水)開場17:30開演18:30

広島グリーンアリーナ
7月21日(火)開場17:30開演18:30
7月22日(水)開場17:30開演18:30

TOYOTA ARENA TOKYO
7月29日(水)開場17:30開演18:30
7月31日(金)開場17:30開演18:30
8月1日(土)開場16:00 開演17:00

三重県営サンアリーナ
8月7日(金)開場17:00開演18:00
8月8日(土)開場16:00 開演17:00

グランメッセ熊本
8月13日(木)開場17:30開演18:30
8月14日(金)開場17:30開演18:30

GLION ARENA KOBE
8月19日(水)開場17:30開演18:30
8月20日(木)開場17:30開演18:30

北海道・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
8月27日(木)開場17:30開演18:30
8月28日(金)開場17:30開演18:30

Kアリーナ横浜
9月2日(水)開場17:00開演18:30
9月3日(木)開場17:00開演18:30

宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ
9月9日(水)開場17:30開演18:30
9月11日(金)開場17:30開演18:30
9月12日(土)開場15:30 開演16:30

◆「人誑し / ひとたらし」特設サイト

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