【インタビュー】シド ゆうやのソロプロジェクト“S.Yuya”、全曲の作詞作曲、歌唱と演奏、アレンジやプロデュースを自作自演する理由「ひとつの表現だけじゃもったいない」

2026.01.27 19:00

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■物語を書いていると
■今と照らし合わせることができる

──S.Yuyaさんは、そういう音楽との出会いを楽しみながら柔軟に取り込んでいけるタイプなんですね?

S.Yuya:ところが、昔はそうだったんですけど、今ははみ出せない男というか(笑)。決まったことしかやりたくないタイプで、新しいものに手が出しづらくなったかな、という気はしています。昔のものが好きなんですよね。映画にしても、一回観たものをもう一回観たり。だから、ここ最近は柔軟な気がしないんですよね、自分の中で。

──コロナ禍をきっかけとして立ち止まった時に、いろいろやってみたい、と思った根底には、S.Yuyaさん自身のそういった閉塞感もあったんでしょうか?

S.Yuya:うん、そうかもしれないですね。あとは、そこまで深く考えずに当たり前に過ごしてきてたことが多かったんだろうなとも思ったし。それまでは振り返ることがあまりなかったんですよ。“あれをしよう、これをしよう”と思うこともないというか。シドも2026年に23年目を迎えますが、今までずっと活動してきているので、どこか学生生活に近い感覚になっていたというか。別に“学校に行きたいから行く”ではないじゃないですか?

──ある種のルーティーンみたいな?

S.Yuya:そういう感覚に近くなっていたのが、コロナ禍があって、普通だったことが普通ではなくなって、やりたいことが明確に出てきて。“これをやりたかったんだ”と気付けた、という感じでしたね。

──アルバム『circle』は、このインタビュー序盤でもお話があったように、マンスリー公演をしながら1曲ずつ新曲を増やしていき、それをまとめたアルバムです。改めて、制作プロセスをどう振り返りますか?

S.Yuya:めちゃくちゃ大変でしたね。12月が自分の誕生日で、年間で最後の月でもあるので、“そのタイミングで曲をまとめたアルバムを出せたらいいな”って、構想を立てたんです。で、「月イチでライブをやりながら、新曲を1曲ずつつくっていく」とスタートの段階で言ってしまったんですよ。

──有言実行したわけですね。すごい試みですよ。

S.Yuya:“1ヶ月に1曲って楽勝じゃん”と最初は思ってたんです。でも落とし穴がありましたよね。マンスリーとはいえ、厳密には次のライブが1ヶ月後ではないこともあって。“あれ? 今回は3週間しか間が空かなかった”とか“2週間強しかなかったじゃん!”みたいな。シドのツアーとも被っちゃったし、よくよく考えたら他の曲もつくらなきゃいけないし……いろいろと重なってくると、“S.Yuyaが4人ほしいな”という気がしてきました(笑)。

──デモというか、曲の種は事前に準備されていたのですか?

S.Yuya:最初の何曲かまでは、その種があったんです。でもだんだんなくなっていくし、ライブをやっていく中で、その予定が変わっていって。たとえば、元々あった種のうち“これを次の月にやろう”と思っていたんだけど、“やっぱりやめて、全然違うのにしよう”とか。だからほぼほぼ、途中からはイチからつくっていった曲ばかりでしたね。

──歌詞についても掘り下げていきたいのですが、アルバム全体を通して、叶わなかった夢とか、一歩そこから踏み出せない状態にいる主人公が多いように感じました。3曲目の「フェイク」は、サッカー部の先輩がモデルだとか。ミュージックビデオにもそのような描写がありますね。

S.Yuya:高校1年生当時、下から見上げていた2個上の先輩がモデルになっています。僕もそのうち高校3年生になるわけですから、次は彼と同じ目線で1年生を見ることになるじゃないですか。先輩のことだけではなく、自分自身のその感覚を織り交ぜて書いていった歌詞ですね。

──“孤独なヒーロー”という言葉が出て来て、軽妙で明るい曲調ではありますが、やはりどこか影のある世界観だと感じます。意図的に、あるいは自然にそうなったのですか?

S.Yuya:自然にかな。自分が今までやってきたことを振り返ってみると、そういうことのほうが、ガッツリとハッピーだったことよりも強く記憶に残っているのかなって。それに気付いて落とし込んでいったらこういう形になった、という感じでしたね。

──“ここに居たかった 守りたかった今を ミスジャッジだとしても”というフレーズなど、ポジション争いを想起させる表現もあります。

S.Yuya:モデルとなっているその先輩が、めちゃくちゃ怖い先輩だったんですよ。だけど、どこかしら寂しさを持っているように感じられた瞬間が何回かあって。後輩に対して見せる背中としても、“まぁ、彼もそうしなきゃいけなかったのかな”って。その孤独さというか、“自分のポジションを取られるわけにはいかない”と思ったことが、自分も3年生になった時に一瞬あったから。嘘偽りというか“本当は良くないことをしてるな”と自分で分かっていながらも、それでもここに居続けたい、自分の場所は譲りたくないっていうプライドですよね。

──サッカーという舞台を借りて描かれていますけれども、今S.Yuyaさんは音楽をやってらっしゃって、バンド活動をされていて。その世界のことをサッカーに投影している、みたいなところもあったりはしますか?

S.Yuya:そうですね。高校時代の話を今思い起こしたとしても、何十年も前の話ですから。意識レベルで言うとやっぱり、今の仕事ともそんなに遠くないとは思っていて。だから表現しやすかったな、というのはありますね。物語を書いていると、今と照らし合わせることがすごくできている気がします。僕は、その世界に入り込んでしまうタイプで、一瞬タイムスリップしたような雰囲気になるんですよ。それで、“今の俺だったらこうしてるな”と思ったり。今の僕が次の十年後になった時、“その時の俺も、また違う意見なんだろうな”と思うこともあります。だからこそ、“今しか書けないものなのかな”と思いますよね。

──「フェイク」の次の「garden」は、アコースティックな始まりで、物悲しいメロディーが美しくて。“大人の気まぐれだけで 決まっていくこの社会”など、気になるフレーズが出てきます。

S.Yuya:これは上京物語ですね。あとは社会との闘い。やっぱり、たとえ自分の好きなことをやっていたとしても、自分だけの意見じゃ進まないことが多いと思うんです。会社員もたぶんそうなんでしょうし、団体として動いていく中で、下の人たちが切磋琢磨して考えたものを、上に立つ偉い人はその過程を全く知らずにひっくり返せるじゃないですか。

──組織だとそうなりますよね。

S.Yuya:そこへのフラストレーションというか。僕も東京に出てきた組なので、そこからが大人の社会でのスタートだったのかなという気がしていて。その時のことを若干思い返してみながら書いた、という感じですね。

──8曲目の「Come on!」からガラッと流れが変わって、ライブのラストスパートを想起しました。冒頭のカウントもS.Yuyaさんご自身ですか?

S.Yuya:そうですね。ライブで活きるだろうな、というイメージの曲です。ツアーをしながらつくっていて、ライブのやり方も月イチ公演を続けていくと少しずつ変わってきて。“熱量があって、ガッと行ける青春パンクみたいな曲がほしいな”と思ってつくりました。青春パンクには、歌い上げて感動させるバラードとは違った切なさがあると思っていて。このテンポ感なのになぜかジーンとしてしまう、それが青春パンクの醍醐味だなと。

──こういった疾走感や躍動感のある曲も、ドラムは打ち込みなんですか?

S.Yuya:打ち込みですね。シングル「アサガオ」の時は、家でスネアとハイハットだけは生で録ったんですよ。そういう方法も選べたんですけど、今回は普通に、ソフト音源をもとにEQでつくって仕上げていきました。

──そういったサウンド構築やマニピュレーター的な作業もご自身でされているのですか?

S.Yuya:そうですね。今はいい機材がいっぱいありますから。

──本当に何もかもひとりでつくっているんですね。9曲目の「ruby」は個人的に最も興味深かったのですが、エレクトロなテイストで幕を開け、次々と表情が変わっていく多面性に惹かれました。どんなふうに生まれていった曲ですか?

S.Yuya:「ruby」の時はまず、静と動がくっきりしてる曲をつくりたいなと思ってて。AメロとBメロとサビ、全部ジャンルが違う感じがやりたいなと。サビは、ちゃんとライブでも上がれるような熱量のある感じにしたいと思っていたら、こんな感じになっちゃいましたね。

──多彩な要素を盛り込んだ曲を生むのは、アイデアが豊富にないとできないことですよね。

S.Yuya:僕、ラジオを結構聴くんですよ。自分で車を運転して移動することが多くて、その中でよくラジオをつけているんですけど、ラジオって自分が聴きたい曲以外も流れてくるじゃないですか。あれが自分の中ですごくいい研究材料になるなと思っていて。気になるフレーズとかを音声メモに入れておいて、作曲するときに一通りバーッと聴いて、それをヒントに広げていくこともあります。

──アルバムの締め括りは「飛べない鳥」。S.Yuyaさんがお好きな某映画シリーズの登場人物の目線で書かれたそうですね。

S.Yuya:自分の中でテーマにしたのは、ある映画の登場人物の恋愛。それをモチーフにしています。とはいえ、もちろん100%ではなく、それがひとつのきっかけでありながら、自分の感じを入れてつくっていきました。

──シングル表題曲レベルの華やかな曲だと感じましたが、会心の出来ではないですか?

S.Yuya:そう言っていただけるととてもうれしいです。いろいろと考えながらそれまでの9曲をつくったんですけど、最後の1曲は何にも考えずに、自分がど真ん中で好きな感じの、カラオケで行った時に歌いたい曲を書いたらこうなりました。

──お客様の反応はどうでしたか?

S.Yuya:良かったと思います。でも、この曲に関しては、まだライブで披露した回数が少ないので。だから、2月から始まる次のツアーで、また改めて反応を感じたいですね。