【ライブレポート】絶望キネマ始動。悲劇と喜劇が交錯していく絶望クリスマス

2026.01.07 18:30

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ダークアイドルシーン急先鋒の事務所、MAD’S iNKから新しいグループが誕生した。“悲劇の喜劇”を掲げる、絶望キネマだ。

2025年12月25日、ヴィジュアル系が多く出演するライブハウス、愛知・HOLYDAY NEXT NAGOYAにて始動公演<絶望クリスマス>を開催。チケットはソールドアウトである。MAD’S iNK所属の全グループが一堂に会するなか、初ライブとは思えぬ堂々とした完成度の高いパフォーマンスを披露した。

この日、絶望キネマ以外のグループはクリスマス特別衣装でのライブだ。いつもとは一味違うムードが漂わせながら、新しい仲間の門出を祝した。

イベントのトップを飾ったのは、神様の言う通りで、崇高なメタリック楽曲でボルテージをぐいぐいとあげる。めっ!は、ハイテンションのライブ運びでフロアを大きく沸かせた。マザリは特別衣装ならではのセットリストで、“ラブリ”の「はっぴーすまいる♡ラブ&ピース」を披露。“呪イ”とはかけ離れたアイドルらしいラブリーなステージを届ける。MADMEDは唯一、黒を基調としたクリスマス衣装でクールなパフォーマンスを展開。1月27日に終幕を迎えるからこそ、残されたライブに賭ける情熱をひしひしと感じた圧巻のステージだった。

トリはお待ちかね、絶望キネマだ。ソールドアウトしたパンパンのフロアから緊張感が走る。

古い映画の始まりを告げるような音楽が響いた。道化師を彷彿とさせる出立ちのコ鳴しぐれ(コナリシグレ)が歌いながらステージに登場する。緑髪の隙間から鋭い眼光を覗かせる蔡厄ノ髑(サイヤクノドク)、滑稽な笑みと麗しい所作で現れた今世イ憂³(コヨイウイサンジョウ)、背の高さがその貴公子な佇まいを強調する悼ミ弔(イタミトムラ)と、パートを引き継ぎながら入場する。グループ始動に伴い公開された、怪しいアニメムービーが鮮烈なインパクトを放った「開演」と名付けられた楽曲である。登場SEが歌ありというのは斬新だ。最後に夢喰イ獏(ユメクイバク)が貫禄たっぷりに太い歌声を轟かせる。初ステージの開演とは思えぬ自信に溢れた5人の姿にフロアのオーディエンスは歓声を忘れた。絶望キネマは只者ではない。

「絶望キネマ、上映開始させていただきます」

弔が小さく呟き、髑の宣誓から始まったのは「絶望ヒロイン倶楽部」だ。2000年代初頭のネオ・ヴィジュアル系楽曲を想起させるようなヘヴィさと歌謡性のあるキャッチーなメロディが暴走する。艶やな憂、凛とした獏、可憐なしぐれ、吐き捨てる弔、かわるがわるのパートの合間を縫って相槌を打つかのごとく、髑が息を吐くようにシャウトする。目まぐるしい楽曲展開を激しくも丁寧に紡いでいく5人。しぐれから獏の流れゆく落ちパートも美麗だ。妖艶なゴシックと退廃的な和情緒がラウドに交錯していく絶望キネマの5人が、フロアのオーディエンスを圧倒する。

土砂降りのような轟音がフロアに降り注ぐ。髑と憂がシンメトリーのフォーメーションからシャウトする。シャウトは髑だけでない。ステレオで獰猛に吠えるツインシャウトは絶望キネマの大きな武器だ。そうして始まった「私の不幸は蜜の味」。ノイジーなバンドサウンドの渦中で切ないメロディが狂い咲く。〈大切にしてた宝物を ぐしゃぐしゃに壊されてしまった〉と歌う、自己が崩壊していく歌。

名古屋拠点グループということも相まって、絶望キネマは完全に“名古屋系”の世界観だ。名古屋系とはヴィジュアル系シーンの細分化ジャンルであり、もともとは“名古屋シーン出身”という意味で使われていた言葉だが、退廃的でダークな雰囲気を持つバンドが多かったことから、名古屋特有の様式美という意味で使用されるようになった。マザリも名古屋系であるが、ベクトルは違う。モダンヘヴィな趣よりもレトロック、それこそネオヴィジュアル系の多くが影響を受けたエログロナンセンスの香りを放つのが絶望キネマ。音楽と5人の佇まいから放たれる退廃美がなんとも馨しい。

「操リ人形―――。」はオルガン風のフレーズとチェンバロの音色、そして何よりマイナー調の歌い上げの旋律が90’s V-ROCK節全開で、まさに王道の名古屋系ソングだ。獏と弔のニヒルなボーカルもグッとくる。後奏のギターソロまで抜け目なく、たまらない。

それぞれの自己紹介のあと、「絶望キネマ後半戦となりますが、皆様まだまだ声出せますか? 僕たちに絶望を見せてくれますか?」と弔。フロアは大きく応えるも、想像以上の絶望キネマの創り上げた世界に惹き込まれている様子だ。「あなたも助けてくれないの?」憂がそう言って始まったのは「ペドの花」。まるで演技を始めるように5人はゆったりとしながら身体で表現。緩急のついた楽曲の展開に合わせて歌を乗せて舞っていく。

続く「終わりのイヴ」は、ハイテンポで攻めに攻めるアッパーチューン。リズミカルなボーカリゼーションと華やかなブラスサウンドが印象的だ。ちなみにこの「終わりのイヴ」と「操リ人形―――。」はMADMEDの猿馬虎がコレオを担当している。曲のラストは乱れ撃たれるブラストビートと共に髑の咆哮がこだました。

最後の演目は「この幕の向こうに救いは無いわ…」と、しぐれの台詞で始まる「絶望キネマサーカス」。タイトル通りの陽気なサウンドが次々と繰り出され、挿入される荘厳なクワイヤと壮麗なサビなど、ドラマチックな楽曲だ。五者五様の歌声と手足が変幻自在に舞い踊る。縄を使ったパフォーマンスも刺激的。まるでサーカスのようで、ミュージカルのようでもある。そのシアトリカルなステージングは見事で、呆然と見入っているうちに気づけば終わってしまった。「それではまた次の幕で…」しぐれの台詞で曲と絶望キネマのステージは幕を閉じた。

最後はメンバー1人ひとりの挨拶。

「僕は絶望キネマという音楽を通して、みなさんの絶望に寄り添える存在でありたい」と口を開いたしぐれ。「絶望キネマのメンバーとして、MAD’S iNKの一員として、これが最後だという気持ちで頑張っていくので、これからよろしくお願いします」と述べた。

「自分は『NARUTO』のロック・リーというキャラクターが好きなんですけど」という髑は、そのキャラクターに「努力すればいつか報われる」ということを学んだという。そして「初心を忘れないようにこの5人で頑張っていきたい」と語った。

「知ってる方も、出会ったことある方もいると思います、たくさん待たせてしまいました」と、前グループからのファンへの感謝を述べる弔。「この場にこうして立てて、みなさんがいてくれること、当たり前ではないと思っているので、僕も絶望キネマのメンバーとして、MAD’S iNKの一員として、頑張っていこうと思うので、そばにいてくれたら嬉しい」と続け、さらに「はじめて出会ってくれた方も、僕とこれから絶望の中でも光をみつけて、僕と共に歩んでくれたらなと思います」と強く口にした。

憂は絶望キネマになって、シャウトや演技など、はじめてのことに挑戦。未熟だが、成長を見届けてほしいと語る。「これからMAD’S iNKの一員として、素敵な先輩方に近づけるように、魅力的で最強のメンバーとまだまだ成長していきます。これから一緒にたくさんの物語を作っていきましょう!」と呼びかけた。

最後は獏。このライブは楽しみではあったが不安もあったと。しかしながら、ステージに立てることが当たり前ではないことに前日の夜中、ふとあらためて思ったという。1人ひとりリスペクトできる強いメンバー、一緒に頑張ろうって言ってくれる仲間、準備で動いている人たち、仕事を休んでまで集まってくれた観客、大勢の人たちに感謝。「初心を忘れず、絶望キネマに骨を埋めるという強い意志で、終わるときまでやり切りたいので、ぜひみなさん、最後までついてきてほしいと思います。そして今日ここで出会ったご縁も、これから出会うご縁も、最後まで大切にしていきたいと思います!」と述べると大きな拍手が巻き起こった。

想像以上のクオリティのライブを魅せてくれた絶望キネマ。個人的にしぐれと獏は以前所属していたグループをずっと見てきたので、その実力はよく知っていたが、ほか3人の力量も凄まじく、5人それぞれのパフォーマンスもインパクトも強大だ。5人全員がメインを張れるような猛者揃いの絶望キネマ、今後生み出される悲劇の喜劇から目が離せない。

取材・文◎冬将軍
カメラマン◎ミヤタショウタ

セットリスト

  1. 開演
  2. 絶望ヒロイン倶楽部
  3. 私の不幸は蜜の味
  4. 操リ人形―――。
  5. ペドの花
  6. 終わりのイヴ
  7. 絶望キネマサーカス

◆絶望キネマ オフィシャルX