【インタビュー】人間椅子、24thアルバム『まほろば』に止まらぬ進歩と新たな理想郷「我々は光から来て、光に帰っていく」

2025.11.20 18:00

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■言葉にもグルーヴがある
■仏教用語は熟語とも違ってカッコいい

──アルバム『まほろば』は鈴木さん作曲による楽曲も充実しています。お馴染みの“地獄” “宇宙” “悪魔”といったシリーズものは、このアルバムでは「地獄裁判」「宇宙誘拐」「悪魔の楽園」として登場します。さらに、「ばかっちょ渡世」「樹液酒場で乾杯」といった個性の強い曲も目立っていますね。

鈴木:反省点はいっぱいありますけれども、すごく時間をかけて、たくさんリフを作った中からヘヴィなものを選んで、結果、6曲になりました。「アルバムタイトルを『まほろば』にする」って言われたのは、曲ができてからだったんだけど、“これ、大丈夫かな?”と思うぐらい暗い曲が多くて。だけど、そんなに違和感なく、和嶋くんに歌詞を書いてもらえました。アルバムタイトルが『まほろば』だからって、まほろば的な歌詞ばかりだったら、それはそれでウンザリでしょうし。シリーズものは続けなければ意味がないし、期待している人もいるでしょうし。「宇宙誘拐」は、宇宙シリーズの中でもとても気に入っている曲です。皆さんにはそんなにウケないかもしれないけど、ずっと演奏していきたい曲になりました。

──自信作ですね。

鈴木:メロディ的にはなにも盛り上がらないんだけど、なんか足りないなっていうときに、和嶋くんは必ずいいギターソロを乗せてくるんですよ。これはKISSのエース・フレーリーもそう。ジーン・シモンズには駄作というかB級的な曲も多いんですけど、そういう曲に限って、すごくカッコいいギターソロをエースが弾く。それが目玉になって、その曲をみんな飛ばさずに聴くっていう状況があるんです。和嶋くんも同じなんですよ。「宇宙誘拐」のギターソロは13曲中ピカイチだと、自分は思ってます。弾いた本人はどう思ってるか知らないけど。

和嶋:ふっふっふっ(笑)。

鈴木:中間部のソロには宇宙的なフレーズが出てきますし、後半部最後のソロには鳥肌が立ちました。自分の曲を聴いて鳥肌が立つなんてことはあんまりないんだけど。

和嶋:そこまで褒めていただけるとは(笑)。でも頑張りました。考えて練ったソロです。

鈴木:ホークウインド的なギターソロを弾いて、最後に速弾きが出てくるっていうのがカッコいいんですよ。ソロの後半部分は美しく聴こえたと思うんですけど、あれは同じソロを2回重ねて弾いてるからなんです。まったく同じようにギターソロが弾けるのがすごいし、一瞬だけハモるところもカッコいい。イチオシの曲なんで、長いけど最後まで聴いてほしい(笑)。

和嶋:楽器アレンジは凝ってるし、宇宙人の声も入ってる。今回のアルバムならではじゃないですか。録音するにあたって、いい意味でふざけようと思ったんです。これもヘヴィな曲だからこそ、宇宙人の声を絶対入れたほうがいいと思いまして。

──ユーモラスです。深刻になり過ぎないところが絶妙です。

和嶋:聴いていて眉間にシワが寄るよりは、頬が緩むほうがいいじゃないですか。ホラー映画を観て、逆に笑っちゃったりするでしょ。それと同じように、ちょっと笑いの要素を入れたかった。

鈴木:和嶋くんは高校時代に宇宙船に乗った体験を真顔で語るんですよ。だから、この「宇宙誘拐」は実話なんです。

──和嶋さんの逸話として有名な“アブダクション”ですね。それを正面切って描いた曲は、今までの人間椅子になかったと思います。ノブさんはいかがでしたか?

ナカジマ:宇宙シリーズをちゃんと踏襲していて最高だなと思います。ちなみに、宇宙人の声は僕と和嶋くんです。ライヴで早くやりたいですね。

──アルバム『まほろば』には、ライヴでどう再現されるのかが気になる曲が多いですね。実際に演奏するとなると、すごく大変そうです。

和嶋:そうなんですよ。アイデアをいっぱい入れましたから。

──そして今回の地獄シリーズは「地獄裁判」です。

鈴木:アルバムタイトルを『まほろば』にしたというのに、和嶋くんには地獄の歌詞を書いていただいて、感謝しております(笑)。あの歌詞によって、この暗いリフが生きたなと思ってて。僕もときどき地獄シリーズの歌詞を書きますけど、和嶋くんの地獄には仏教学部学生時代の経験から、より詳しい描写がある。……地獄の描写と言ったって誰も見たことがないから、知らないんだけど(笑)。

和嶋:八大地獄とか、八寒(はっかん)地獄とかね。

鈴木:そういう単語にグッときますね。

和嶋:仏教用語を入れると、もっともらしくなるんですよ(一同笑)!

──それが地獄シリーズ作詞のコツですか?

和嶋:地獄感が出るんです、本当に。「鬼がいて悪い人の首を斬る」と言われただけではその画が浮かぶのみだと思うんです。ところが、“そこは阿鼻叫喚地獄だ”と言われると、生々しく迫ってくるわけで。

──想像力が働きます。

鈴木:「阿修羅大王」の歌詞に迦楼羅(かるら)と鳩槃茶(くばんだ)が出てくるんです。仏像の名前なんだろうけど、そんなの初めて聞いたし、歌にしてみたら意外と語呂がよくて、思わず口ずさんでしまいます。

和嶋:みうらじゅんさんもよく言うけど、仏像を怪獣として捉えると、すごいおもしろいんですよね。いわばヒーローですよ。いろんなキャラクターがいて、生き生きとしてくるんです。

鈴木:だから、「阿修羅大王」はヒーローものの曲みたいに仕上がった。

和嶋:そう、阿修羅をヒーローとして捉えました。

──“阿修羅”と“大王”という単語の組み合わせもおもしろいです。

和嶋:“阿修羅王”という言葉はあるみたいです。阿修羅の王様が阿修羅界にいるらしいんですね。奈良の興福寺に八部衆というのがいて、美少年みたいな阿修羅が一番人気あるんだけど、そこに緊那羅(きんなら)とかいろいろいるんです。そこから仏法を広めるために出てくるさまを歌にしたのが「阿修羅大王」です。

鈴木:知らない単語が多くて、勉強になりましたね、ウィキペディアで調べて。“八面六臂の活躍”っていう言葉はよく聞くけど、“三面六臂(さんめんろっぴ)”って知らなかった。そういえば阿修羅は顔が3つあるから“三面六臂”なんだと思って。実際に使う場面のない言葉だけど、“♪さんめんろーっぴのー”っていい語呂ですよね。“貪瞋痴(とんじんち)って何?”って思うけど、響きがいい。

和嶋:そう。仏教用語は音がいいんですよ。一番が阿修羅の“三面六臂”ときたら、二番の出だしは“三千世界”かなっていう。非常に歯車が嚙み合った曲になりました。

鈴木:三番で“六道輪廻”だもんね。

──これまたライヴでどう歌われるのか興味深いです。

和嶋:確かに、覚えるのは難しいね。

鈴木:歌詞カードを置くわけにいかないから、セットリストの脇に頭文字ぐらいはね。たとえば“三面六臂”だったら“三”とか書くんだけど、そうしたところで“三面六臂”だか“三千世界”だかわからなくなるね(笑)。“六”ってなんだよ?とか。もう少し下の文字まで書いておかないと。結果、漢字が多すぎて、和嶋くんにしかわからないプロンプターになりそうです。

和嶋:歌詞を書いてるときは楽しかったですよ。勉強しながら、ぶっちゃけ3日ぐらいかかったかな。一番時間がかかった曲ですね。

鈴木:でも、3日でできるんだ!と思いましたね(笑)。

──語呂を合わせるのも至難の技なのに。

鈴木:そう、韻を踏んでますよね。真ん中で“えいっ えいっ”って全員で掛け合いをやってるんですけど。“えいっ!”って気合い入れて何十回も録ったの、おかしかったね。

和嶋:阿修羅が悪を“えいっ!”て征伐してる場面なわけですよ。声が枯れましたね。

鈴木:「ちょっと左側の人、ズレてます」とか言って録り直したりして。

和嶋:やりましたね。ノブが「空手経験者じゃないから“えいっ!”が軽いな」とか言いながら。

──ノブさんは「地獄裁判」や「阿修羅大王」の仏教用語についてはどうですか?

ナカジマ:漢字4文字だったり3文字だったりで、言葉にもグルーヴがあるんだなって感じましたね。仏教用語は普通の熟語とも違うし、カッコいいですよね。

和嶋:そう、カッコいいんですよ。“貪瞋痴(とんじんち)”とか。

ナカジマ:「地獄裁判」は“馬鹿者~♪”のところがすごく好きです。「阿修羅大王」には、僕らの子供の頃のヒーローソングへのオマージュが入ってるのもいいなと思いますね。

和嶋:渡辺宙明先生へのオマージュなんです。わりと早いうちからでてくるサビは、“青色(しょうしき) 青光(しょうこう) 黄色(おうしき) 黄光(おうこう)”。ここは『イナズマン』の“ゴーリキショーライ! チョーリキショーライ!”っていうところのオマージュですね。

──和嶋さんは近年、渡辺宙明作品に強い関心を抱いていますよね?

和嶋:だから「阿修羅大王」の最後は“バンバンバババ”っていかないと、スッキリしなかった。

ナカジマ:勢いよく、なりふり構わず、みたいなのがすごくカッコいいですよね。お客さんもライヴで合唱するんじゃないですかね。

──今回はみんなで歌いたくなる曲が多いと思いました。では、悪魔シリーズの「悪魔の楽園」へのこだわりは?

鈴木:仮タイトルは「極悪」で、ギターリフで極悪な感じを出したいと思ってたんですね。そこから和嶋くんが悪魔シリーズにしてくれたという感じです。アリスの「チャンピオン」の“♪You’re King of Kings”みたいなブレイクを入れたくて、“♪ダラララーラッ”て仮歌を入れたんですけど、“♪開けゴーマッ”になった。“開けゴマ”がよく浮かんだなと感心しました。

和嶋:極悪なギターリフだったので、“これはもう明るい歌詞は書けないな”ということで、悪魔の思惑みたいな感じで歌詞を書くといいかなと。“開けゴマ”って呪文みたいでいいじゃないですか。

鈴木:で、この曲もギターソロがいいんですよ。悪魔的歌詞で極悪リフ。そこに乗ってるのが、スライド奏法のブルースギターというのが、きっと他のギタリストにはない発想ですよね。ブルースにどっぷりの和嶋くんならでは。

和嶋:普通は速弾きかペンタトニック系のソロを弾くんじゃないかな。“♪タララ タララ タララ タララ”ってやるだろうね。

鈴木:僕は全然ブルースは好きじゃないんだけど、和嶋くんに散々聴かされてきたから(笑)。そのフレーズが古いブルースギタリストが弾いたものだっていうのは知ってるんですよ。“♪テレレ テレレ テレレ テレロロリンラー”みたいなの。それをギターソロのオープニングに持ってきたのがすごいと思いましたね。あまり上手くない人だったら、アームでごまかすところだよね。ところが、全部スライドで、ブルースフレーズを散りばめてるのがおかしくて。

──“悪魔と契約を交わす”というところから、ブルースを思い付いたわけですか?

和嶋:そうです。ロバート・ジョンソンが、クロスロードで悪魔と契約してブルースを編み出したとか、その後いい曲を作れるようになったとか、逸話があるじゃないですか。ブルースの曲には歌詞に神様とか悪魔がよく出てくるんです。それか、“朝、女が出ていった”っていうパターンしかない(笑)。とにかく不幸を歌うのがブルース。イントロはエルモア・ジェームスお得意のフレーズを使い、デュアン・オールマンのフレーズも入れましたね。スライドギターって、きっちり音程が合わないじゃないですか。それが悪魔的といえば悪魔的だから、この曲に合ってるんじゃないかな。で、次は、鈴木くん作詞作曲の「樹液酒場で乾杯」を訊いたほうがいいんじゃないですか? 僕がこの場を仕切り出すのもどうかと思いますが(笑)。