【インタビュー】ACIDMAN、4年ぶり13thアルバム『光学』に凛然たる覚悟「本当に好きだと思うものを徹底的に」

映画『ゴールデンカムイ』主題歌として書き下ろした衝動溢れるロックナンバー「輝けるもの」をはじめとするヒット曲も目白押し、ACIDMANが4年ぶりとなる13作目のアルバム『光学』を10月29日にリリースする。
7年ぶり7度目となる10月26日の日本武道館公演といい、最新アルバムと同時発売されるトリビュートアルバム『ACIDMAN Tribute Works』といい、何やら周年のアニバーサリーを思わせる…そんな活況は意識したものではなく、たまたまタイミングが重なっただけなのだそうだが、「輝けるもの」とともに吹き始めた追い風がそんなバンドの今現在に結実したようにも思える。大木伸夫も(Vo, G)もインタビューで語っているが、確かに「輝けるもの」を作った経験は、結成28年のベテランバンドの気持ちに火を点けるという意味でターニングポイントになったようだ。
アルバム『光学』にはその「輝けるもの」やドラマ版『ゴールデンカムイ』の最終話にエンディングテーマとして提供した王道バラード「sonet」、ドラマ『ダブルチート 偽りの警官 Season1』主題歌「白と黒」に加え、ファンキーなロックナンバー、ゴスペル、ジャジーなメロウナンバー、インストなど、幅広い全13曲が収録されているが、前作『INNOCENSE』以上に出てきたオルタナティヴな感性も聴きどころだ。
と同時に、大木がライフワークとして探求し続けている生命と宇宙の根源となる光というテーマから導き出したメッセージも、さらに聴き手に突き刺さるものになっている。バンドを代表して、大木がアルバムに込めた思いや楽曲作りの背景を詳らかにしてくれた。盟友に加え、新しい世代のアーティストも参加したトリビュートアルバムもACIDMANの楽曲の良さを改めて物語るという意味で、聴き応えあるものになっているので、『光学』とともに耳を傾けてほしい。
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■ジャーンっていう一発目の音を決めるまでに
■たぶん10年ぐらい掛かったんじゃないかな
──調べたところ、今年インディーズデビューから25周年ですよね?
大木:えっと、結成は1997年なんですけど、インディーズから作品を出したのは2000年だから…そうですね。
──いや、新しいアルバムも出るし、トリビュートアルバムも出るし、それなのに特に周年みたいなことは何も言っていないなと思って。
大木:裏で言ってたんですよ、「なんか周年っぽいね」って。10月26日に日本武道館公演もあるし、2作同時アルバムリリースもあるし、周年っぽい動きになっちゃったけど、何もないねとスタッフと言ってたんですけど、ありましたね。
──ということは、アルバムもトリビュートアルバムも武道館公演もたまたまだったんですか?
大木:そう。たまたまそういうタイミングだったんです。もっと早く言ってくれたらよかったのに(笑)。そうか、インディーズデビューから25年経ったんだ。それ使えるな。今日から言っていきます。
──ぜひ(笑)。では、早速、アルバム『光学』について。待望のオリジナルアルバムを完成させた手応えから、まず聞かせていただけますか?
大木:はい。いつものことながら、人間とか、宇宙とか、生命とか。そういうテーマはもちろん、僕らがなぜ生まれて、そして生まれたことに、どんな意味があるのか悩みながら、結局死んでいく人生の中で、どんなふうに生きていくのか、という問い掛けがちゃんとできたと思うし、ちゃんと美しいアルバムになったと思っています。

──前作『INNOCENSE』同様、今回もまた4年ぶりのリリースになりましたが、アルバムを作るにあたっては、やはりそれぐらいの時間が必要ですか?
大木:そうですね。結果的に4年ぶりにはなったんですけど、ちょうどいいと思います。今回は合間に、映画『ゴールデンカムイ』主題歌というすごくデカいタイアップをいただいたので。あんなに大きなというか、いわゆるメジャー、いや、どメジャーの方々とご一緒するって、これまであまりなかったから、全力でやろうってことで、アルバム制作を一旦止めて、1年間ぐらい『ゴールデンカムイ』に取り組んでいたんです。それで、予定より時間が掛かってしまったんですけど、じっくりと曲を何度も練り直すこともできたので、かえって良かったのかなと思います。
──じゃあ、映画『ゴールデンカムイ』のタイアップ以前からアルバムを見据えて、制作は始めていたんですか?
大木:そうです。だから、『ゴールデンカムイ』から声を掛けていただく前は、「feel every love」を、シングル曲として出そうと思ってたんです。結果、「feel every love」は今回のアルバムのリード曲になりました。
──なるほど。映画『ゴールデンカムイ』に提供した主題歌「輝けるもの」のリリースタイミングで話を聞かせてもらったとき、「ピースフルな曲があって、映画の制作サイドから“激しい曲で”というリクエストがなければ、それを出そうと考えていた」と大木さんはおっしゃっていましたが、そのピースフルな曲というのは、「feel every love」のことだったんですか?
大木:あ、そんなことを言ってました? そうです。「feel every love」のことでした。
──そうだったんですか。「feel every love」は今回のアルバムの中でも特に重要な曲だと思うので、後ほど聞かせていただきますが、今回のアルバムは『光学』とタイトルで謳っているとおり、生命や宇宙の根源となる光がテーマになっているそうですね。もちろん、ACIDMANはこれまでも光をテーマに曲を作ってきましたけど、今回、改めて光を大きなテーマとして打ち出したのは、「輝けるもの」があったからこそなんじゃないかと想像したのですが。
大木:おっしゃるとおりです。ただ、『光学』というワードはずっと使いたいと思っていたんです。かのアイザック・ニュートンが1704年に『光学』というタイトルの本を出しているんです、実験レポートみたいな。それを昔、読んだことがあって。ただ、実験レポートだから、そこまでおもしろいものではないんですけど、『光学』っていう響きに惹かれて、いつか使いたいって10年ぐらい前から思っていたところに『ゴールデンカムイ』のお話をいただいたんです。
──なるほど。
大木:それで、金を巡る争奪戦のストーリーということで、僕ら人間は光り輝くものにずっと手を伸ばしていく、というところから「輝けるもの」を作って。そこから他の曲もできてきた中で、今回はけっこう光をテーマにしているなって自分でも気づいて。そこで、ずっと使いたかった『光学』というタイトルが今回ぴったりだと思ったんです。それは本当に『ゴールデンカムイ』のおかげでもあるというか、背中を押してもらいました。
──じゃあ、光を意識しながら曲を作っていったわけではなくて、気づいたら、多くの曲が光をテーマにしていたと?
大木:中には敢えて作った楽曲もあるかな。後半の楽曲なんかは。「光の夜」は提供曲だから別なんですけど、「あらゆるもの」を作った頃にはアルバムタイトルも『光学』と決めていたので、ちょっとそこに寄せていきましたね。
──アルバムの最後を飾る「あらゆるもの」は、今回の収録曲の印象的な歌詞を繋ぎ合わせたブリッジがおもしろい。今回、歌詞には光というワードもいっぱい使われているし、「白と黒」とか「青い風」とか、色をタイトルにした曲もあって、その色も光が作り出すものですけど、今、光というテーマを前面に押し出すことには、どんな意味があると考えていらっしゃいますか?
大木:光が生命の根源であると同時に、あらゆる物質が光からできていて。それは科学的な事実であって、物質を分割していくと、分子になって、原子になって、原子はさらに素粒子になる。その素粒子はどのようにできているかっていうと、結局はエネルギーでできていて、そのエネルギーっていうのは何なのかっていうと、光。その光は何なのかというと、まだわかっていないんです。もっと言うと、“場の揺れ”なんじゃないかという説もあって、結局、僕らにはまだ理解できていない。つまり、僕らはそういう謎からできている。僕らだけじゃない。このペットボトルもテーブルも空気も謎の物質からできている。それだけは正しくて、そういうことを学びながら、僕はこれまで生きてきたので、音楽というエンターテインメントの力を借りて、そういうことを伝えることがとても好きなんです。そして、人の価値観が変わるというか、豊かになってほしい。ちっちゃなことにこだわることも大事なんだけど、もっと俯瞰した視点というか、宇宙レベルの世界で考えると、あなたが今悩んでることはたいしたことではない。もっと大きな悩みを、みんなで分かち合おうぜっていう。
──大きな悩みですか。
大木:そう。世界はいまだに戦争を繰り返している。それによって、命を落としている人もいれば、飢えている人も山ほどいる。そういうところにもっと目を向けて、自分がやれることをやる。そして、豊かになることを信じる。そういう未来を作ろう……音楽でやる必要はないかもしれないんだけど、曲を作っているとやらざるを得なくなってくるというか、そういう衝動が出てくるんです。
──もう性と言ってもいい。
大木:どうでもいい話を、どうでもいいメロディーに乗せて、どうでもいい人に伝えても、それはどうでもいい時間の過ごし方だから意味がないんです、僕の中では。やっぱりちゃんと意味のあるものにしたい。そもそも音楽っていうのは衝動的なものだから、楽しければいいとも思うんです。だけど、僕はそこにちょっと物足りなさを感じて、せっかくなら意味のあるものにしたいし、聴いていただける人の心を少しでも豊かにして、深い感動を得ていただきたいと思っているんです。今回は、特にそういうところにフォーカスできたので、『光学』というタイトルを付けたという感じですね。

──「輝けるもの」について話を聞かせてもらっとき、「ACIDMANは言っていることはひとつなんだけど、入口はいろいろな角度でいっぱいある」とおっしゃっていましたが、入口という意味で、音楽的、およびバンドサウンド的には今回、どんなテーマがありましたか?
大木:バンドサウンド的に特に何か新しいものを求めたということはなかったですけど、“響き”みたいなものはすごく大事にしたかもしれない。ギターの響き、ピアノの響き、ベースの響き、ドラムの響き、そういう根源的な音の響きの良さみたいなものは、これまで以上に意識したかもしれないです。
──音の響きというのはテクニカルなことですか?
大木:いえ、アンビエンスですね。空気感って言ったらいいかな。「龍」っていう曲のジャーンっていう一発目の音を決めるまでに、どれくらい掛かったかな。たぶん10年ぐらい掛かったんじゃないですか。
──10年ですか。
大木:あそこに辿り着くまでに、いろいろなアプローチを試し続けて。なかなか見つけられなかったんですけど、あのジャーンっていう一発目の音はとても良く録れたなと思ってます。
──曲として10年前から温めていたということですよね?
大木:そうです。ずっと温めていたんですけど、バンドでやろうかどうか、ちょっと悩んでいたんですよ。ちょっとマニアックすぎるかもしれないって。でも、ここに来て、エゴが非常に出てきて、やりたい曲をどんどんやっていこうと思って、今回、やっと形になりました。







