【インタビュー】友成空、「鬼ノ宴」と湖池屋「ピュアポテト」がコラボ。いま思う自己表現

2025年も終盤に差し掛かろうとする10月現在、シンガーソングライター・友成空の周囲が非常に賑やかだ。まずひとつ目のトピックは、2024年1月にリリースされ大きなバズを引き起こした「鬼ノ宴」と湖池屋のポテトチップス「ピュアポテト」とのコラボレーションが実現したことである。「ピュアポテト 鬼ノ宴 鬼もハマる辛さ シラチャーソース」が10月6日(月)に全国のコンビニエンスストア先行、2025年10月13日(月)に全国のスーパーマーケット他一般チャネルで発売される。
ふたつ目はNHK総合のTVアニメ『キングダム』第6シリーズEDテーマ「咆哮」のリリースだ。激化する秦と趙の全面戦争を力強く彩る楽曲で、友成の新境地的アプローチが堪能できる。そしてこの先には1stフルアルバムの配信リリースと、初の東名阪ツアーも控えている。新たな展開へと動き出した彼は、現在どのような心境で音楽活動を行っているのだろうか。「鬼ノ宴」×ピュアポテトと、「咆哮」について掘り下げていくと、彼が貫きたい美学が浮かび上がってきた。
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◼︎名刺代わりの曲なので、ここを入り口に僕を知ってくださった方々をどういうふうに楽しませようか
──リリースから2年弱の時を経て、「鬼ノ宴」がまさか湖池屋のポテトチップス「ピュアポテト」とコラボレーションするとは。予想外でした。
友成空:僕もまずスタッフさんから“「鬼ノ宴」のポテトチップスが出ます”と聞いて、最初は理解が追いつきませんでした(笑)。CMソングではなく楽曲が商品になるというのは個人的に聞いたことがなくて、まさか自分の曲がそうなるなんて想像もしていなくて、いい意味で「本当どういうこと!?」って心境で。どうやら鬼が“辛味”というイメージと合っていたり、「鬼ノ宴」という曲が“中毒性”というワードとともに広まったこともあって、“辛くて病み付きになる”というシラチャーソース味のイメージが曲に合うという理由で決めていただいたみたいです。
──確かにポテトチップスという食べもの自体、一度手を付けたらなくなるまで止められないですものね。
友成空:そうなんですよね、気づいたらなくなってる。コラボレーションしていただいたシラチャーソース味のピュアポテトも、東南アジア料理が好きで辛いものが比較的不得意ではない僕にはすごく好きな味だったんです。ちょっと酸っぱ辛い感じというか。
──シラチャーソースは「まろやかな甘みとコクのある辛さ」と称されることが多いそうです。
友成空:まさにそれですね。食べながらどんどん手が進んで、この辛さが病みつきになるなと思いました。ピュアポテトは味もパッケージも全体的に高級感があって洗練されたイメージだったので、僕自身もよく食べていて。健康に気を付けている人も手に取りやすいのかなと思っています。

──「鬼ノ宴」を作り始めたとき、鬼や和の要素をモチーフにする予定ではなかったそうですね。
友成空:退廃的な世界を描いた楽曲にしたいなという漠然としたイメージを抱いていて、最初は生のベースラインにグルーヴィーなドラムをつけて、ブラックミュージック的なアプローチをしていました。でもその途中で、肉感をそぎ落としてソリッドな感じ、縦のリズムがぴったり揃うようなデジタル的な音作りをしてみようと方向転換してみたんです。そしたら「この感じなら意外と和風が合うんじゃないか?」「“和”で“退廃的”と言ったら……鬼かな?」と広がっていったんですよね。
──肉感があるものからデジタルへ。真逆にハンドルを切ったことでイメージが広がっていったと。
友成空:もともとあったベースラインは気に入っていたんですが、インパクトが少し弱いかも……と感じて、これを引き立てるもっと強い音をつけたくなったんです。その中でぴったりだったのが、イントロにも使っているピアノの重低音のラインなんですよね。音の余韻を切ってシンセサイザーみたいに加工して、今のかたちになりました。そこからデジタル方面に舵を切って、それが退廃的なムードとも合致したんですよね。
──サウンドから醸し出される退廃性に、欲求というエネルギッシュなテーマの歌詞が乗るのも興味深いです。
友成空:歌詞にはちょうどこの時期に自分自身で考えていたことがそのまま自然に出てきました。やっぱり曲を作るうえで一番大切なのは「自由であること」のはずなのに、人間誰しも生活するなかでそれを自ら制限しちゃう節があるかなと思っていて。特に「鬼ノ宴」を作っていた時期の僕はそういう傾向が強かった気がするんです。それでなぜ自分自身の自由を狭めてしまうのかを探った結果、この先まだまだ生きられると思い込んでいるからだという結論に至ったんですよね。
──「いまやらなくても明日やればいい」「無理をせず、何年後かにできるようになってからやればいい」などなど。
友成空:末永く生きていけると思い込んでいるから自由を後回しにしてしまうけど、「もし明日命を落としてしまうなら何をする?」と考えたら、絶対にすぐにでもやりたいことを我慢せずやると思うんです。それを自分自身に言いたくて書いた曲なのかなと、いまとなっては思いますね。
──そのメンタリティを“鬼”を主人公にした物語へと落とし込んだことは、シンガーソングライターとしてひとつ殻を破るきっかけになったのではないでしょうか。
友成空:本当にその通りですね。それ以前にリリースした楽曲は、等身大のものを等身大の表現で書き起こすような歌詞だった。でも「鬼ノ宴」を作る前からそれ以外の表現方法も模索していて、その経験が「鬼ノ宴」で発揮できたんです。初めてデモをSNSに投稿したときにいい反応をもらえたことはすごく意外だったし、自分が見せていなかったもうひとつの面を認めてもらえたうれしさがありました。僕はもともと食べるのが大好きなので、歌詞にも飲食の描写が多いんです。その最たる例が「鬼ノ宴」なので、どんなにファンタジックな内容でも、作り手の性質や人生、そのときに抱えていた気持ちは作品に影響を及ぼすんだな……と最近は強く感じています。
──ターニングポイントとなる楽曲を、ポテトチップスというまったく異なる角度から再度フォーカスできる機会が持てたことも、非常に有意義だと思います。
友成空:「鬼ノ宴」が注目されてからある程度の時差があってこういうお話をいただけたのはすごくうれしいし驚きだったし、リバイバルというほど時間が経っていない、冷めきっていないタイミングなのもありがたいです。カバーや「歌ってみた」を上げてくれる方が毎日いらっしゃって、その界隈のスタンダードナンバーとして定着してきた頃にポテトチップスというかたちで文字通り“お茶の間”にお邪魔させていただける。この時間経過にも意味を感じていますね。自分の名刺代わりの曲なので、ここを入り口に僕を知ってくださった方々をどういうふうに楽しませようか、という視点はいつも持っているので、自分も周りもピュアポテトきっかけで「鬼ノ宴」に触れてくださった方も常に裏切りながら、今後も自由に制作していきたいですね。






