【インタビュー】多言語を操る声の旅人、サラ・オレインが語る『ISEKAI』と音楽の異世界

日本語、英語、イタリア語、ラテン語を使いこなす、オーストラリア/シドニー出身のアーティスト、サラ・オレインは、ヴォーカリスト、ヴァイオリニスト、作詞作曲家、コピーライター、翻訳家、テレビ・ラジオパーソナリティーなど、マルチな才能を持つ“表現者”として活躍している。
『ゼノブレイド』『約束のネバーランド』『モンスターハンターライズ:サンブレイク』『サガ エメラルドビヨンド』『百英雄伝』など、様々な人気ゲームやアニメの楽曲を歌唱するヴォーカリストとして、彼女の声を耳にしたことがある方は少なくないはずだ。
そんな彼女が、今年2025年6月11日、自身の15年の活動の集大成とも言えるアルバムを出した。その名も『ISEKAI – Anime & Video Game Muse』。今回はそのアルバムについて、そして彼女自身について、お話を伺っていく。

■アルバム『ISEKAI – Anime & Video Game Muse』への想い
──『ISEKAI – Anime & Video Game Muse』のリリースおめでとうございます。サラさんが歌ってこられたたくさんのゲームやアニメの楽曲たちをまとめて聴くことができる、とても贅沢なアルバムになりましたね。
サラ・オレイン:ありがとうございます。ずっとこのようなアルバムを出したかったので、リリースを迎えることができてとてもうれしいです。光栄なことに、今までたくさんの素晴らしい作品に携わらせていただいてきたので、それらの楽曲のセルフカバーをメインにしつつ、わたしの大好きな曲たちのカバーも盛り込み、自分の名刺のようなアルバムを作ることができました。デビューからこれまで、いろいろなゲームやアニメの楽曲を歌わせていただいてきたのですが、楽曲を知っていても、その曲を誰が歌っているのかまでご存じない方も多かったりするんですよね。海外で公演させていただいたときに特にそれを強く感じました。今回せっかくの活動15年という節目というのもあり、わたし自身をもっとみなさんに知っていただきたく、今までに至る“サラ・オレイン”を伝えられる、わかりやすい何かを作りたいと思ったのが今回のアルバムリリースを決めたきっかけです。

──ぼくもゲームやアニメが大好きで、今までたくさん触れたり携わってきたりしたのですが、「この曲もサラさんが歌っていたんだ!」って思う曲もあったりして。『ISEKAI – Anime & Video Game Muse』は、まさにサラさんをもっと深く知ることができるような、ご自身の活動の集大成となる1枚になりましたね。
サラ・オレイン:実は今回、初めてインディーズでのリリースに挑戦させていただいたんです。今までユニバーサルミュージックさんで活動していて、そこでしか体験できないことをたくさんさせていただいてきたのですが、今回はインディーズだからこそできる自由度の高さの中で、完全なるセルフプロデュースという形で制作させていただいて、今までとはまた違う貴重な体験ができた気がしています。収録曲の選曲からアートワーク、アレンジ、また、コンサートの企画も自分でやらせていただいて、このアルバムに関わる全ての分野において、自分自身の表現をギュッと詰め込むことができたと自負しています。もちろん、自由度高くやらせていただいたからこそ、大変なこともたくさんありました。楽曲を使用させていただくにあたり、各タイトルの担当の方や作曲家のみなさん一人一人に直接想いをお伝えしに伺ったり、原曲の良さを崩さないようなリアレンジに悩んだり…。でも、そのような全てのことが大切で、それらを乗り越えたと思えるからこその、渾身の1枚が仕上がったと思っています。

──選曲もとても興味深かったです。サラさんが携わっていらっしゃる楽曲は壮大な曲が多いのですが、それらの楽曲に加え、良いバランスで、軽快なカバー曲たちを織り交ぜていて、秀逸でしたね。
サラ・オレイン:そうなんです。選曲にはとても悩みました。ゲームのエンディング曲のような重厚な音楽を歌っているのもわたしだし、でも今回のコンセプトである「自分の名刺になるような1枚を…」ということを考えたときに、それだけじゃないポップなわたしも聴いてほしいなって思う部分もあって。本当にたくさんの候補曲を並べて、何日も考えたのを覚えています。CDに収録できる曲の数は限られているから、今回は悩みに悩んだ末この12曲にさせていただいたのですが、第2弾、第3弾…とリリースをしていくことができた暁には、まだまだ聴いていただきたい曲がたくさんあるので、楽しみにしていてください(笑)

■音楽をはじめたきっかけ
■ヴォーカリストとして日本で活躍するまで
──様々な分野でマルチに活躍されているサラさんですが、音楽を始めるきっかけは何だったんですか?
サラ・オレイン:今はヴォーカリストとしてのお仕事をいただくことが多いのですが、最初に音楽に触れるきっかけとなったのは、歌ではなくヴァイオリンだったんです。母親が音楽家だったので自然な流れで5歳からヴァイオリンを習い始めました。もちろん歌も好きだったけれど、当時は「歌を歌って生きていきたい」という発想は全然なくて。ただ、実は学生のころ、一度だけ合唱の道を目指したことがありました。ヴァイオリンを続けるためにはオーケストラに入らないといけないと言われたことがあり、それがどうしても嫌で…っていう不純な動機からだったんですけど(笑)、でもその時になぜか突然声が出なくなってしまって。合唱の先生に「歌はやめた方がいいよ」と言われてしまい、そこで歌は挫折しているんですよね。結局ヴァイオリンの道に戻りました。
──そこから現在のサラさんの活動に至るまでの経緯が気になりますね。
サラ・オレイン:語学留学で日本に来たのがきっかけです。もともと語学や文学に興味があり、大学のころ、言語を勉強するための留学を考えていました。イタリア語の響きが好きで、勉強もしていたので、当初は日本ではなく、イタリアへの留学を希望していたんです(笑)。でも母親が「イタリアは危ないから日本にしなさい」って、どうしてもイタリア留学を許してくれなくて。母親は厳しい方でしたので、なかなか説得できず、日本に留学することになり、日本に興味がなかったわけではないのですが、それまでは、アニメを見るくらいしか日本の文化に触れて来ていなかったので、実際日本のことは全然知らなくて。留学が決まってから、本格的に日本語や日本の文化について勉強し始めました。その中でたまたま読んだ三島由紀夫さんの『金閣寺』が美しすぎて、当時はまだ英語でしか読めなかったのですが、それでも伝わってくる文学の素晴らしさを通じ、日本にとっても興味が沸きはじめ、最終的には日本がすごく好きになりました!
──そして語学留学で日本に来て、どのように音楽につながっていくのか、まだ想像ができないのですが(笑)。
サラ・オレイン:それも、本当にたまたまというか、出逢いというか…日本に留学して少し経ったころに、『ゼノブレイド』の楽曲を英語で歌える人を探しているというお話をお聞きして。当時は歌を歌っていたわけではないのですが、「英語はネイティブで話すことができる」って思って、軽い気持ちで応募してみたんです。そうしたら受かりまして。光田康典さんが作曲するエンディング楽曲「Beyond the Sky」を歌わせていただく機会をいただけたんです。
──ぼく自身が最初にサラさんの声を耳にしたのは、まさに「Beyond the Sky」でした。『ゼノブレイド』をプレイしていて、エンディングでこの曲が流れたときに、「なんだこの透明感のある声は」って衝撃を受けた記憶があります(笑)。

サラ・オレイン:うれしい。でも当時はまだ歌のお仕事をしたことはなかったので、もちろんレコーディングも初めて。全然上手に歌えなかったし、慣れていないから部分的にカットしながら歌わせていただいて、それらを貼り付けたりしながらレコーディングしていたんです。そのせいか、なんだかうまく流れが繋がらない気がして、違和感を感じながら歌っていました。ブースから見た光田さんも腑に落ちていない様に見えて。一通りレコーディングが完了して、でもどうしても自分の中で違和感がぬぐえず、「最後にもう一回歌わせてください」って申し出て、気持ちを切り替えて、最後、1曲を通して流れで歌わせていただいてレコーディングを終えたんです。少し経って届いた完成音源をいただいたら、そのラストテイクをほぼそのまま使っていただいていたんですね。あとから伺ったら、光田さんも最後の歌唱をとても気に入ってくださっていたみたいで。最終的にいいレコーディングができてよかったなと思っています。
──当時、1プレイヤーとしてゲームを遊んでいたぼくには、初めてのレコーディングだったとは思えない、すばらしい歌唱でした。
サラ・オレイン:わたしにとってもとてもいい経験となった作品です。ずっとヴァイオリンをやっていて、「ヴァイオリンは人の声に一番近い楽器」と言われたりすることもあるので、今思えば、ずっと、ヴァイオリンを通じて歌を歌っていた感覚を持っていた気がしていて、ラストテイクではその感覚をうまく発揮できたのかもしれません。
──そこからヴォーカリストとしての道が開けていくと。

サラ・オレイン:それがなかなか一筋縄ではいかないんです。わたし自身としては、このまま日本で音楽活動をしていけたらいいな、と思いはじめていたのですが、母親からは猛反対を受けまして。「音楽は続けてもいいけど、お仕事にする必要はない。趣味でいい」って。母親は音楽家として苦労もしてきた方なので、それを踏まえての反対だと思うと、わたしもなかなか反発できなかったんですね。でもどうしても音楽をお仕事としてやっていきたい気持ちもあった中で、母親と折り合いがついた条件が「1年以内に結果を出す」こと。そこからは必死に営業活動しました(笑)。デモテープを作って、いろんなところに送って、レコード会社に売り込みに回ったりして。そして1年のタイムリミットギリギリのタイミングで、ユニバーサル ミュージックさんにお声がけいただけたんです。
──それで日本での本格的な音楽活動が始まる、と。
サラ・オレイン:そこから15年、ありがたいことにたくさんの音楽のお仕事をさせていただいています。
■表現者として生きる
──今回のアルバムを聴かせていただいて、そして先日コンサートも観に行かせていただいて、サラさんには「天才」という言葉がぴったりだなとすごく感じました。たくさんの楽器を使いこなして、いろんな声や言語を操って表現する姿は圧巻でした。
サラ・オレイン:そう言っていただけるとうれしいです。いろんな楽曲に携わらせていただいて感じることは、作曲家さんたちは、私の歌や声を楽器のように使ってくださっているな、ということなんです。だからこそ、それぞれの作品に合った歌を歌っていきたいですし、わたしができる言語や知識も存分に活用していけたらいいなと思っています。
──サラさんは、歌や演奏を通じていろんなものを「演じている」のだなと思います。だからどの言語でもどのジャンルでも、サラさんらしさがありつつも、それぞれの作品の特色を感じられる。サラさんにとって日本語は母国語じゃないはずなのに、日本人であるぼくが聴いても日本語独特の「間」にきちんと想いがのっていて、ノスタルジーを感じることができたり。
サラ・オレイン:「言葉」が好きなんです。そして「言葉のパズル」が大好き。言語によって、自分自身の人格やキャラクターがちょっとずつ変わったりするのもおもしろいところだなって思っています。もちろん母国語である英語は一番自然に感情をのせられる感覚はあるし、イタリア語の発音は歌をきれいに響かせることができたり…と、それぞれのいい部分がある。それでいうと、日本語は、響かせることも、短いフレーズで気持ちを伝えることも、わたしにとって一番難しい言語なので、まだまだ勉強している最中です。なので、日本語が母国語の方に、日本語での歌唱を褒めていただけるのはとても自信になります。

──多言語を操りながら、表現に落とし込んでいく作業は、サラさんにしかできない才能だと思います。
サラ・オレイン:アイススケートの羽生結弦選手が、ゲームが好きで、10年ほど前、彼の好きな『タイムトラベラーズ』というゲームのエンディング楽曲「The Final Time Traveler」で滑りたいというお話があったんです。もともとこの楽曲の原曲は、このゲームのディレクターを務めたイシイジロウさんが日本語で作詞されて、わたしが歌唱で携わらせていただいたものだったのですが、アイススケートの音楽なら英語のみの方がいいかなと思いまして、わたしの方で全編英訳させていただき、その英語の歌詞の楽曲を使って日本のアイスショー「Fantasy On Ice 2014」でライブコラボレーションさせていただきました。その後、羽生選手がその英詞の楽曲を気に入ってくださり、海外のエキシビションでも使ってくださったのはとてもいい思い出で、わたし自身の勉強や経験を活かすことができた活動の一つだなと思っています。

■ゲームやアニメを通じて行ける「ISEKAI」
──今まで数多のゲームやアニメの楽曲に携わってこられていますが、ご自身はアニメを観たり、ゲームをプレイされたりするのですか?
サラ・オレイン:わたしには日本人の血が入っていることもあり、もともと日本に興味はあったので、オーストラリアにいるころから、日本語や日本の文化を勉強するために、アニメはよく見ていました。ただ、ゲームは『ドクターマリオ』のようなパズルゲームしかプレイしたことはなくて。わたしの歌を使ってくださるようなRPGのようなゲームは、当時はあまり日本語がわからなかったので、日本に来るまではあまり触れてはいなかったです。でも日本でこのようなお仕事をさせていただく中で、日本語や日本の文化に理解が深まり、RPGなどもプレイさせていただくようになって、今は楽しく遊ばせていただいています! ただ、わたしが歌う楽曲はエンディングで使っていただくことが多くて、なかなか流れる部分まで辿り着けないのが大変(笑)。
──そうですね(笑)でも、必死に辿り着いたエンディングでサラさんの歌が流れると、感動が増幅します。ぼくも、アニメもゲームも音楽も大好きなので、これからもサラさんの活動に注目していきたいです。

サラ・オレイン:ありがとうございます。アニメやゲームとかって、日々の疲れとか、つらいことなどから気持ちを開放し、異世界(ISEKAI)に連れて行ってくれるツールになりますよね。音楽もそのツールのひとつだと思います。みんな、日々生きているだけでがんばっています。だから「がんばれ」じゃなくて、「逃げることも大事」っていう意味を込めて、この『ISEKAI – Anime & Video Game Muse』というタイトルを付けました。また、ちょっとした洒落っ気も込めて「IISEKAI(いい世界)」ともかけてみたりとか、それからこれはあとから気付いたんですが、「ISEKAI」を並べ替えると「SEIKAI(正解)」になったり「IISAKE(いい酒)」になったりもするんですよね(笑)。みんな間違っていない。それぞれの正解を持っているし、たまにはお酒を飲んでISEKAIに行ってみるのもいいし。このアルバムを通して、がんばりすぎず、気持ちを軽くしていただけたらいいなって思っています。無理しないで、「ISEKAI」に逃げてね。
──才能の裏側に、白鳥が水面下で足をバタバタさせてるような確実な努力が垣間見える。そんなサラさんだからこそ伝えられる「ISEKAI」。ぜひ『ISEKAI – Anime & Video Game Muse』聴いてみてください。

取材◎島津 真太郎
文◎大木 由佳子
『ISEKAI – Anime & Video Game Muse』
2025年6月11日発売
限定盤CD+DVD ¥4,400
通常盤CD ¥3,300
1.Beyond the Sky -Bilingual Vers. [ゼノブレイド] (LIVE at Tokyo International Forum)
2.イザベラの唄[約束のネバーランド] (LIVE at Suntory Hall)
3.Flags of Brave -Sarah ÀlainnVersion [百英雄伝]
4.Eight Melodies -Sarah ÀlainnVersion [MOTHER]
5.水の星へ愛をこめて[機動戦士Ζガンダム]
6.Sunbreak -Trilingual Vers. [モンスターハンターライズ:サンブレイク] (LIVE at Tokyo International Forum)
7.アイドル[推しの子] (LIVE at Billboard Japan)
8.CRAZY FOR WHO? [サガエメラルドビヨンド]
9.Radical Dreamers -Bilingual Vers.[クロノクロス] (LIVE at Suntory Hall)
10.The Final Time Traveler -Sarah ÀlainnJazz Version [タイムトラベラーズ]
11.SAYONARA [さよなら銀河鉄道999 —アンドロメダ終着駅—]
12.Flags of Brave [百英雄伝]









