【インタビュー】「陰陽座そのものと言えるものを作りたかった」──2年半ぶりオリジナルアルバム『吟澪御前』リリース

2025.08.07 12:00

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◾︎陰陽座ほどわかりやすいヘヴィメタルバンドはそうそういない

──「地獄」は曲名がどストレートですが、曲調はバラード調の作風で、そのギャップも面白かったです。

瞬火:この曲でいう地獄とは、生前に悪行を働いた人間が死後に落ちると言われている地獄ではなく、比喩で用いられる“この世の地獄”のことですね。死なないと見られませんから、生きている人間で本物の地獄を見た人はいません。けれど、この世に地獄があるとするならこういうことじゃないか……ということを描いています。本物の地獄は悪行を働いた人間が落ちるところですが、この世の地獄というのは大抵の場合、善良で無垢な人が落とされることが多いじゃないですか。

──正直者が馬鹿を見るじゃないけれど、現実にはそういう側面はありますよね。

瞬火:そういうことですよね。悪人が善人を陥れて生き地獄に落とす。落とした張本人はその後ものうのうと生きている。ニュースでも毎日のようにそういうことが報じられていると思います。この曲には実はモチーフにした事件があるんですが、それを思い浮かべる人もいるだろうし、そうじゃないこの世の地獄を思い浮かべる人もいると思う。そして過去にこの世の地獄を味わったことがあったり、今まさにそういう心境にいる人がこの曲を聴いて、“そういう目にあっている自分は悪くないんだ、そういうことをしている奴こそ地獄に堕ちればいいんだ”と思ってくれたらいいですね。

──瞬火さんもそういった経験があったり……。

瞬火:いや、僕はこんな楽しいことを仕事にしているんですから、地獄どころか極楽と言うべきでしょうね。ただ僕は想像力の生き物なので、どんな他人事でも自分事に置き換えて、血の涙を流せる厄介な性格をしているんです。世の中の事件を見て、これが自分や自分の家族に起きたらと想像するだけで、世界を破壊できるぐらいの怒りを覚えますね。

──そういう共感性もありつつ、「地獄」では黒猫さんの柔らかな歌声に救われる人も多いと思います。

瞬火:そうですね。黒猫も祈りを込めて歌ってますから。純粋に静かなバラードだと思って聴いてもらってもいいんですけど、黒猫の歌声に何かを感じたら、今言ったようなことを思い出してもらえたらと思います。

▲招鬼(G, Cho)

──陰陽座は昨年結成25周年を迎えましたが、「鈴鹿御前–鬼式」の中に「四半世紀の 正味を 己で 運ぶ」と歌詞にあります。これは自身の25周年と掛けたもの?

瞬火:これは完全に偶然ですね。鈴鹿御前も有名な鬼で、生まれてから25年しか生きられない宿命を背負った鬼の娘なんです。人間を滅ぼして日本を転覆させなさいと命令を受けつつも、それに抗って人間の味方をして鬼を倒すという。だから、最初は鬼として生まれているから鬼女なんですけど、人間の味方をするから神女と言われるようになる、不思議な存在なんです。鈴鹿御前を題材にするにあたって、25年という命数に関しては伝承の通り扱うと決めていたのですが、それと陰陽座の25年が重なったというだけの偶然です。

──その事実に瞬火さんも後で気づかれたんですか?

瞬火:後で気づいたというより、25周年を周年と捉えていなかったところがあって。10周年、20周年は強く意識しましたけど、25年ってキリがいいと思ってなくて、あまり意識してなかったんです。ただ、鈴鹿御前をアルバムの中で扱うことは決めていたので、それはお導きかもしれないですね。

──「鈴鹿御前–神式」は、「鈴鹿御前–鬼式」と対になる楽曲ですか?

瞬火:(曲順の流れとして)「鈴鹿御前–鬼式」と「鈴鹿御前–神式」の間に「大嶽丸」が挟まっていますけど、大嶽丸は鈴鹿御前の伝承を語る上で欠くことができない登場人物で、この3曲の流れで話が展開します。組曲という形にはしていませんが、組曲だと思って3曲続けて聴いてもらえたらいいなと。もちろん単独の楽曲としても成立しているので、バラで聴いてもらってもかまわないんですけどね。

──当初は組曲のつもりで作ったと?

瞬火:最初は組曲のつもりで作ろうとしたけど、「大嶽丸」という鬼の話を組曲の一節として片付けることが忍びなくて。どうしても単独の曲にしたかったんですよ。鬼としての鈴鹿御前と、神としての鈴鹿御前、その間に挟まる大嶽丸にもきちんとスポットを当てようと思い、この形になりました。

──「大嶽丸」は曲のキャラクターが立ってますね。瞬火さんのダンディな歌声も印象的です。

瞬火:ダンディですか(笑)。強い鬼ですけど、鈴鹿御前に恋心を利用されて殺されるという可哀想な最期なんです。それを憐れに思ったので、ただ殺される鬼ではなく、どういう気持ちで殺されていったのかを描きたいなと。

──なるほど。メタルバンドでも音源に本やコミックを付ける人たちもいますが、陰陽座もそうした付属物的な読み物があると、作品の世界観をより深く楽しめる気がします。

瞬火:ストーリーアルバム『鬼子母神』のときはオリジナル脚本を出したりしましたが、基本的には音楽だけで楽しめるほうがいい気がしています。むしろそこを読み解くためにこういった取材の場もあるわけで。でも、試みとして読み物を付加することは面白いかもしれませんね。

▲狩姦(G, Cho)

──今作のラストを飾る「三千世界の鴉を殺し」も個人的に好きな1曲です。歌声もリフもキャッチーで、歌詞もこの曲だけ肩の力が抜けてますよね。

瞬火:アルバムの最後を飾る曲はライブにおける本編のラストやアンコールの情景を想定して作ります。軽快なリズムに黒猫の元気のいい歌声が乗り、いままでありそうでなかった曲に仕上がっているので、僕も気に入ってます。

──「しょんないもん」など歌詞の中には随所に方言を挟んでますよね?

瞬火:そうですね。僕の出身地である愛媛県八幡浜市の方言です。毎回アルバムのどこかに自分の故郷の言葉を刻み込むことにしていて、今回はこの曲が相応しかったのでそうしました。

──「君と 欠伸を 一杯 しょうや」と口語調の歌詞も逆に映えますね。

瞬火:ええ、陰陽座は基本的に文語なので、たまに口語で言うと逆にハッとしますよね。

──歌詞がくだけているからか、黒猫さんの歌声も楽しそうで、聴いているこちらも楽しくなります。この曲は全体を通して、いい意味でツルッと聴ける内容になりましたね。

瞬火:わかりやすくて聴きやすいのはいいことですよね。特に僕たちのように特異な世界観でやっていると、聴いたことがない人は陰陽座の歌詞は呪文みたいだし、長い曲もあるし、食わず嫌いで肌に合わないと思っている方もいると思うんですよ。でも陰陽座ほどわかりやすいヘヴィメタルバンドはそうそういないと自分たちでは思っているんです。わかりやすさ、聴きやすさは常に意識しているので、そう思ってもらえると嬉しいですね。

──最後になりますが、今作のレコ発ツアーはどんな内容になりそうですか? ライブで映えそうな楽曲ばかりなので、そこも楽しみです。

瞬火:このアルバムを引っ提げたツアーなので、今作を余すところなく堪能していただけるライブになると思います。そこはいつも通りですね。僕らは作品を重ねても、アルバムを引っ提げたツアーでは新作をまるごとやるのを信条にしていますから。そのライブは自分たちでも今から楽しみですね。

取材・文◎荒金良介
写真◎野波 浩(STUDIO No・ah)

■アルバム『吟澪御前』
2025年8月6日(水)発売

◆収録楽曲
1.吟澪に死す
2.深紅の天穹
3.鬼神に横道なきものを
4.誰がために釡は鳴る
5.星熊童子
6.毛倡妓
7.紫苑忍法帖
8.地獄
9.鈴鹿御前 -鬼式
10.大嶽丸
11.鈴鹿御前 -神式
12.三千世界の鴉を殺し

全作詞・作曲:瞬火

初回限定特典:特製スリーブケース / カラー・フォトブックレット
定価¥3,500(税込)品番:KICS-4208

CD購入者特典情報:https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t16325/
楽曲配信:https://king-records.lnk.to/omz_ginreigozen

◾️『吟澪御前』発売記念POP展

展示期間:2025年8月5日(火)~8月17日(日)
https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t16398/

◾️『陰陽座 黒猫のねこまんまRADIO『吟澪御前』リリーススペシャル!』
放送局:TOKYO FM
放送日時:8月10日(日)19:00~19:55

▼メッセージは番組公式HPからお送りください
https://audee.jp/program/show/300009772

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