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「スタッフ・ベンダ・ビリリ」は、小児麻痺で下半身不随となった車椅子ミュージシャンによるバンドです。手動の三輪車型の車椅子に乗る4人のシンガー兼ギタリストたちを中心に、松葉杖のシンガー、メンバーに拾われたストリート・チルドレンなど、8人のミュージシャンから編成されています。"ベンダ・ビリリ”とは「外見を剥ぎとれ」という意味で、つまり「内面(の精神)を見よ」ということ。「外見は不自由でも精神は最大に自由なんだ」と語っているのです。こんな"哲学的"バンド名を自分たちで付けて、日々路上で演奏し、段ボールで生活をしていました。コンゴ民族音楽とキューバ音楽が混ぜ合わさったコンゴ大衆音楽「コンゴリーズ・ルンバ」がベースになっており、音楽的完成度が極めて高く、ベルギーのレコード会社「クラムドディスク」よりCDが世界中で発売されるや(日本でも2009年3月に発表)、世界中のワールド・ミュージック・シーンでダントツの話題となりました。ある日、別目的(コンゴのドキュメンタリー撮影)でコンゴに滞在していたフランスの映像監督2人が彼らの音楽を耳にしたことからストーリーが始まります。監督たちは道ばたで演奏する彼らの音楽に魅され、やがて知り合ううちにその逆境に負けない生き様に圧倒され、ドキュメンタリー映画を作ろうと決意。2004年からキンシャサに毎年滞在し、彼らの生き様を何年も追いかけてきました。(ドキュメンタリー映画は年内公開予定)スタッフ・ベンダ・ビリリの映像の一部を観た、ベルギーのレコード会社「クラムドディスク」のプロデューサーが、彼らの音楽を録音するために、単身コンゴに渡りました。スタジオも電気もない状況の中、長いケーブルを這わせ、マイク12本だけを立てて野外録音を行い、3~4年の年月を経て彼らのアルバムを完成させ、2009年2月に発売。こうして、CDの音を通して、彼らの存在は世界中で注目されるのでした。世界中で彼らが話題となり、多くの関係者の努力と熱意のもと、今年7月、遂に彼らにとって初めての海外遠征が実現、フランスで大舞台での公演が行われました。初めての飛行機の旅であり、コンゴから海外に出たのも、もちろんヨーロッパの地を踏んだのも初めて。メディアや関係者の大注目を浴び、デビュー・コンサートが果たされたのでした。それは鳴り止まない拍手と涙の抱擁に包まれた見事な公演で、前述のドキュメンタリー映画は彼らのここまでを追っています。彼らの楽器はほとんどが手作り。メンバー最年少の18歳のロジェが発明した、空き缶にギターの弦を1本張っただけの原始的な弦楽器「サトンゲ」、これが驚くほど華麗なメロディを奏でます。ドラムの代わりにみかん箱のような木箱を叩き、それにドラムのキックをつけ、と涙ぐましいおんぼろ手作り具合。コンゴには車いすも楽器もなく、ましてや、段ボール生活者にはそんな贅沢品が回ってくるわけもなく、彼らは廃品を集め、椅子の代わりに車世界一オンボロの手動三輪車を作り、それを乗り回す。そして、ガラクタから楽器を作りだし、路上バンドをやっていたのです。

不自由な体の障害を乗り越え、極貧にもめげず、しかも、とびきり愛くるしい明るい笑顔を絶やさず、車いすの上で体の中で動くところはすべて腕や頭をぐいぐいと振り、ありったけの喜びを表現する、その精神のたくましさに心が熱くなります。8人のうち、6人が歌い、ソロにユニゾンにコーラスに、胸に響く歌を聴かせます。昼間はキンシャサの動物園にいることが多く、何故動物園かというと、騒音でうるさい街中から離れ、自分たちの音楽の練習がゆっくりできるんだそうです。彼らの歌詞はキンシャサで起きている日々の生活を歌い、メッセージを歌います。《ポリオ》という歌では「子供たちの世話を放棄しないでくれ」と、子供たち全員がポリオの予防接種をできるよう、親たちに呼びかけ、《トンカラ》という歌では「オレはかつて段ボールで寝ていたが、ツキに恵まれマットレスを買えた。人間に“再起不能”なんてことは絶対ない、“遅すぎる”なんてこともない」と真の障害は肉体ではなく心の中にある、と人々に呼びかけるのです。